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 しかし、組織内で形成される濃度勾配は静的ではなく(つまり発生過程のある時期に突然形成され、それが永久に保存されるものではなく)、器官発生の進行と連動して経時的に変化し、維持されるものであるから、各細胞が暴露される濃度も時々刻々と変化し、それにつれて細胞の分化状態も変化しながら徐々にパターン形成が確立されて行く('''図1B''')。
 しかし、組織内で形成される濃度勾配は静的ではなく(つまり発生過程のある時期に突然形成され、それが永久に保存されるものではなく)、器官発生の進行と連動して経時的に変化し、維持されるものであるから、各細胞が暴露される濃度も時々刻々と変化し、それにつれて細胞の分化状態も変化しながら徐々にパターン形成が確立されて行く('''図1B''')。


== 神経管の背腹軸に沿った領域の細分化とそれを制御するモルフォゲン ==
 以下、濃度勾配の形成と細胞の分化状態の変化の関係を記述する。
=== 神経管背腹軸 ===
[[Image:ichijoho2.png|thumb|right|350px|'''図2. 脊髄神経管の背腹軸に沿った神経前駆領域・神経領域のパターン形成と、その形成に至る動的なメカニズム''' <br />
[[Image:ichijoho2.png|thumb|right|350px|'''図2. 脊髄神経管の背腹軸に沿った神経前駆領域・神経領域のパターン形成と、その形成に至る動的なメカニズム''' <br />
'''A.''' 脊髄レベルにおける神経管断面の模式図。神経管の中で、内側にはdP0-dP6, p0, p1, p2, pMN, p3の各領域が存在し、これらは[[神経前駆細胞]]である(つまり神経としての性質は持たず、増殖する)。領域名についているpはprogenitor(前駆細胞)の意味。一方外側の領域には神経(つまり機能性の神経細胞)領域dP0-dP6, V0, V1, V2, MN, V3が存在する。MNは[[運動神経]](motor neuron)で、そのほかは[[介在神経]]の性質を持つ(各神経の性質については13を参照)。原則として、各領域は対応する前駆領域から分化する(例えば、dI1細胞はdp1細胞から、V1細胞はp1細胞から分化する)。この模式図はマウス10.5-11.5日胚、ニワトリの4-5日胚で見られるものであり、この後分化が進めば前駆領域は徐々に小さくなり、生まれる(孵化する)頃にはほとんどなくなってしまう。<br />
'''A.''' 脊髄レベルにおける神経管断面の模式図。神経管の中で、内側にはdP0-dP6, p0, p1, p2, pMN, p3の各領域が存在し、これらは[[神経前駆細胞]]である(つまり神経としての性質は持たず、増殖する)。領域名についているpはprogenitor(前駆細胞)の意味。一方外側の領域には神経(つまり機能性の神経細胞)領域dP0-dP6, V0, V1, V2, MN, V3が存在する。MNは[[運動神経]](motor neuron)で、そのほかは[[介在神経]]の性質を持つ(各神経の性質については13を参照)。原則として、各領域は対応する前駆領域から分化する(例えば、dI1細胞はdp1細胞から、V1細胞はp1細胞から分化する)。この模式図はマウス10.5-11.5日胚、ニワトリの4-5日胚で見られるものであり、この後分化が進めば前駆領域は徐々に小さくなり、生まれる(孵化する)頃にはほとんどなくなってしまう。<br />
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'''C.''' モルフォゲン(Shh)の濃度が徐々に上昇していきながらパターンが形成されていく様子。<br>
'''C.''' モルフォゲン(Shh)の濃度が徐々に上昇していきながらパターンが形成されていく様子。<br>
(A)は<ref name=Ribes2009 /><ref name=Alaynick2011 />11、13を、(B,C)は<ref name =Balaskas2012 />18を元に作成した。]]
(A)は<ref name=Ribes2009 /><ref name=Alaynick2011 />11、13を、(B,C)は<ref name =Balaskas2012 />18を元に作成した。]]
 モルフォゲンの動的な濃度勾配の変化がよく解析されているのは、[[脊髄神経管]]の断面([[背腹軸]])における[[シグナル分子]]と領域決定の関係についてである。[[胚]]発生期の神経管には背腹軸に沿って多数の[[神経前駆領域]]、[[神経領域]]が出現する<ref name=Ribes2009><pubmed>20066087</pubmed></ref><ref><pubmed> 22821665</pubmed></ref>11,12 。('''図2A''')はその様子を模式的に表したもので、マウス10.5-11.5日胚、ニワトリ4-5日胚の脊髄レベルの神経管の断面を作成するとほぼ同様の様子が観察される。図中のdP1-dP6、p0-p3、pMNの各領域にはそれぞれ特有の性質を持つ神経前駆細胞が配置される。各前駆領域の細胞はさらに分化して、それぞれの前駆領域に対応する機能性の[[神経細胞]](ニューロン)を産出する(dI1-dI6、V0-V3、MN:各神経細胞がもつ性質については13<ref name=Alaynick2011><pubmed>21729788</pubmed></ref>を参照)。


 
 個々の領域を分子レベルで特徴付けることができるのは、領域特異的に発現する[[ホメオボックス]]型または[[bHLH型転写因子]]が同定されているためである(同定されている転写因子の一部を'''図2A'''に掲載した:詳細については13<ref name=Alaynick2011 />を参照)。
 モルフォゲンの動的な濃度勾配の変化がよく解析されているのは、[[脊髄神経管]]の断面([[背腹軸]])における[[シグナル分子]]と領域決定の関係についてである。[[胚]]発生期の神経管には背腹軸に沿って多数の[[神経前駆領域]]、[[神経領域]]が出現する<ref name=Ribes2009><pubmed>20066087</pubmed></ref><ref><pubmed> 22821665</pubmed></ref>11,12 。('''図2A''')はその様子を模式的に表したもので、マウス10.5-11.5日胚、ニワトリ4-5日胚の脊髄レベルの神経管の断面を作成するとほぼ同様の様子が観察される。図中のdP1-dP6、p0-p3、pMNの各領域にはそれぞれ特有の性質を持つ神経前駆細胞が配置される。各前駆領域の細胞はさらに分化して、それぞれの前駆領域に対応する機能性の[[神経細胞]](ニューロン)を産出する(dI1-dI6、V0-V3、MN:各神経細胞がもつ性質については13<ref name=Alaynick2011><pubmed>21729788</pubmed></ref>を参照)。
これらの領域はどの個体でも配置が変わることがないため、「パターン」と呼ばれており、そのパターン決定は、[[蓋板]](RP)や[[底板]](FP)からそれぞれ分泌される[[骨形成因子]]([[BMP]])、Wnt、ソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog; Shh)といったモルフォゲンの濃度勾配によっている。つまり、これら各領域の細胞の分化方向はモルフォゲンの種類と濃度という位置情報によって決定されるのであり、その意味で神経管の背腹軸は位置情報を解析する上で良いモデル系である。
個々の領域を分子レベルで特徴付けることができるのは、領域特異的に発現する[[ホメオボックス]]型または[[bHLH]]型[[転写因子]]が同定されているためである(同定されている転写因子の一部を'''図2A'''に掲載した:詳細については13<ref name=Alaynick2011 />を参照)。
これらの領域はどの個体でも配置が変わることがないため、「パターン」と呼ばれており、そのパターン決定は、[[蓋板]](RP)や[[底板]](FP)からそれぞれ分泌される[[BMP]]、Wnt、[[ソニック・ヘッジホッグ]](Sonic Hedgehog; Shh)といったモルフォゲンの濃度勾配によっている。つまり、これら各領域の細胞の分化方向はモルフォゲンの種類と濃度という位置情報によって決定されるのであり、その意味で神経管の背腹軸は位置情報を解析する上で良いモデル系である。


== ソニック・ヘッジホッグの動的な濃度勾配の変化と、細胞の分化方向の決定 ==
== ソニック・ヘッジホッグの動的な濃度勾配の変化と、細胞の分化方向の決定 ==

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