「パニック症」の版間の差分

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=== 診断基準と鑑別診断  ===
=== 診断基準と鑑別診断  ===


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| 診断基準:パニック障害(DSM-IV-TR)
| 診断基準:パニック障害(DSM-IV-TR)
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A. (1)と(2)の両方を満たす  
A. (1)と(2)の両方を満たす  
(1)予期しないパニック発作(表2、参照)が繰り返し起こる  
(1)予期しないパニック発作(表2、参照)が繰り返し起こる  
(2)少なくとも1回の発作の後、1ヶ月間(またはそれ以上)以下のうち1つ(またはそれ以上)が続いていたこと:  
(2)少なくとも1回の発作の後、1ヶ月間(またはそれ以上)以下のうち1つ(またはそれ以上)が続いていたこと:  
 (a)もっと発作が起こるのではないかという心配の継続<br> (b)発作またはその結果が持つ意味(例:コントロールを失う、心臓発作を起こす、“気が狂う”)についての心配  
 (a)もっと発作が起こるのではないかという心配の継続<br> (b)発作またはその結果が持つ意味(例:コントロールを失う、心臓発作を起こす、“気が狂う”)についての心配  
 
 (c)発作と関連した行動の大きな変化  
 (c)発作と関連した行動の大きな変化    
B. 広場恐怖が存在する(→300.21 広場恐怖を伴うパニック障害)
 
&nbsp;&nbsp;&nbsp; 広場恐怖が存在しない(→300.01 広場恐怖を伴わないパニック障害)
B. 広場恐怖が存在する(→300.21 広場恐怖を伴うパニック障害) 
C. パニック発作は物質(例:乱用薬物、投薬)、または一般身体疾患(例:甲状腺機能亢進症)の直接的な生理学作用に<br>  
 
&nbsp;&nbsp;&nbsp; 広場恐怖が存在しない(→300.01 広場恐怖を伴わないパニック障害) 
 
C. パニック発作は物質(例:乱用薬物、投薬)、または一般身体疾患(例:甲状腺機能亢進症)の直接的な生理学作用に<br>
 
  ようるものではない   
  ようるものではない   
 
D. パニック発作は、以下のような精神疾患では説明されない(例:社会不安障害、特定の恐怖症、強迫性障害、<br>  
D. パニック発作は、以下のような精神疾患では説明されない(例:社会不安障害、特定の恐怖症、強迫性障害、<br>
  心的外傷後ストレス障害、分離不安障害など)
 
  心的外傷後ストレス障害、分離不安障害など)  
 
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'''表1.DSM-IV-TRによるパニック障害の診断基準'''<br>  
'''表1.DSM-IV-TRによるパニック障害の診断基準'''<br>  


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| 診断基準:パニック発作(DSM-IV-TR)
| 診断基準:パニック発作(DSM-IV-TR)
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強い恐怖または不快を感じる、はっきり他と区別できる期間で、そのとき、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が突然に発現し、10分以内にその頂点に達する。<br>
強い恐怖または不快を感じる、はっきり他と区別できる期間で、そのとき、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が突然に発現し、10分以内にその頂点に達する。<br>  
 
(1)動悸、心悸亢進、または心拍数の増加<br>  
(1)動悸、心悸亢進、または心拍数の増加<br>
(2)発汗<br>  
 
(3)身震いまたは震え<br>  
(2)発汗<br>
(4)息切れ感または息苦しさ<br>  
 
(5)窒息感<br>  
(3)身震いまたは震え<br>
(6)胸痛または胸部の不快感<br>  
 
(7)嘔気または腹部の不快感<br>  
(4)息切れ感または息苦しさ<br>
(8)めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ<br>  
 
(9)現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分自身から離れている)<br>  
(5)窒息感<br>
(10)コントロールを失うことになる、または気が狂うことに対する恐怖<br>  
 
(11)死ぬことに対する恐怖<br>  
(6)胸痛または胸部の不快感<br>
(12)異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)<br>  
 
(13)冷感または熱感  
(7)嘔気または腹部の不快感<br>
 
(8)めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ<br>
 
(9)現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分自身から離れている)<br>
 
(10)コントロールを失うことになる、または気が狂うことに対する恐怖<br>
 
(11)死ぬことに対する恐怖<br>
 
(12)異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)<br>
 
(13)冷感または熱感
 
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'''表1.DSM-IV-TRによるパニック発作の診断基準'''<br> <br> [[Image:表1:DSM-Ⅳ-TRによるパニック障害の診断基準.png|thumb|300px|<b>表1.DSM-Ⅳ-TRによるパニック障害の診断基準</b>]] [[Image:表2:DSM-Ⅳ-TRによるパニック発作の診断基準.png|thumb|300px|<b>表2.DSM-Ⅳ-TRによるパニック発作の診断基準</b>]]
'''表1.DSM-IV-TRによるパニック発作の診断基準'''<br>  


 表1と2に、現在、最も国際的な使用頻度の高い診断基準である[[DSM-Ⅳ-TR]]<ref name="ref12">American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Forth Edition, Text Revision, American Psychiatric Association, Washington D.C., 2002. <br>(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳.DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版,医学書院,2004)</ref>のPDとPAに関する診断基準を示した。表1からもわかるように、PDは“広場恐怖“の有無によって、「300.21 広場恐怖を伴うパニック障害」と「300.01 広場恐怖を伴わないパニック障害」の2つにさらに分けられるが、2013年5月に出版予定の次期[[DSM-5]]ではこの区別はなくなっている。また、PDとの鑑別診断としては、表1にも記載があるように、同じく不安障害の範疇では、[[社会不安障害]](Social anxiety disorder:SAD)、特定の[[恐怖症]]、[[強迫性障害]](obsessive-compulsive disorder:OCD)、[[心的外傷後ストレス障害]](Posttraumatic stress disorder:PTSD)、[[分離不安障害]]等がある。鑑別診断のコツとしては、PAの種類を明確にすることである。つまり、PAには、①予期しないPA、②状況依存性PA、そして③状況準備性PAの3つがある。もちろんPDは①の予期しないPAが2回以上出現することが診断に必要とされるが、これは、前述したように、全くの突然に、自然に起こるPAである。一方、②状況依存性PAは、SADや特定の恐怖症、あるいはPTSDやOCDでよく生じるもので、状況や誘発因子に暴露した直後に起こるPAである。これはPDでは少ない。最後の③状況準備性PAは、①と③の中間に位置するもので、特定の状況で起こり易いが必ず起こるものではないPAである。実は③はPDに多いとされている<ref name="ref12">American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Forth Edition, Text Revision, American Psychiatric Association, Washington D.C., 2002. <br>(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳.DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版,医学書院,2004)</ref>。例えば、PD患者に①の予期しないPAが通勤電車の中で起こった場合、患者は電車に乗ることを恐れ、「あの発作がまた起こったらどうしよう」と著しい予期不安に苛まれる。そのため、電車の中ではPAが起こりやすい状況となっており、心配のあまり逆にPAを呈してしまう場合と、何とか発作まではいかなくて済んだ場合とが出てくるのである。PD患者では、少なくとも2回以上の①予期しないPAの後には③状況準備性PAが頻発すると言われているので、注意が必要である。
 表1と2に、現在、最も国際的な使用頻度の高い診断基準である[[DSM-Ⅳ-TR]]<ref name="ref12">American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Forth Edition, Text Revision, American Psychiatric Association, Washington D.C., 2002. <br>(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳.DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版,医学書院,2004)</ref>のPDとPAに関する診断基準を示した。表1からもわかるように、PDは“広場恐怖“の有無によって、「300.21 広場恐怖を伴うパニック障害」と「300.01 広場恐怖を伴わないパニック障害」の2つにさらに分けられるが、2013年5月に出版予定の次期[[DSM-5]]ではこの区別はなくなっている。また、PDとの鑑別診断としては、表1にも記載があるように、同じく不安障害の範疇では、[[社会不安障害]](Social anxiety disorder:SAD)、特定の[[恐怖症]]、[[強迫性障害]](obsessive-compulsive disorder:OCD)、[[心的外傷後ストレス障害]](Posttraumatic stress disorder:PTSD)、[[分離不安障害]]等がある。鑑別診断のコツとしては、PAの種類を明確にすることである。つまり、PAには、①予期しないPA、②状況依存性PA、そして③状況準備性PAの3つがある。もちろんPDは①の予期しないPAが2回以上出現することが診断に必要とされるが、これは、前述したように、全くの突然に、自然に起こるPAである。一方、②状況依存性PAは、SADや特定の恐怖症、あるいはPTSDやOCDでよく生じるもので、状況や誘発因子に暴露した直後に起こるPAである。これはPDでは少ない。最後の③状況準備性PAは、①と③の中間に位置するもので、特定の状況で起こり易いが必ず起こるものではないPAである。実は③はPDに多いとされている<ref name="ref12">American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Forth Edition, Text Revision, American Psychiatric Association, Washington D.C., 2002. <br>(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳.DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版,医学書院,2004)</ref>。例えば、PD患者に①の予期しないPAが通勤電車の中で起こった場合、患者は電車に乗ることを恐れ、「あの発作がまた起こったらどうしよう」と著しい予期不安に苛まれる。そのため、電車の中ではPAが起こりやすい状況となっており、心配のあまり逆にPAを呈してしまう場合と、何とか発作まではいかなくて済んだ場合とが出てくるのである。PD患者では、少なくとも2回以上の①予期しないPAの後には③状況準備性PAが頻発すると言われているので、注意が必要である。

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