「視覚前野」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
77行目: 77行目:
 ドットパターンの運動方向や奥行きの知覚 各点がランダムに動くドットパターンの中で一定の割合の点が同じ方向に運動する時、その割合(コヒーレンス)が高い程、それらの点が示す運動方向が知覚されやすくなる。刺激のコヒーレンスが高いほど運動方向を識別する課題の正答率が高くなることから、正答率により運動の見えを評価できる。記録中のV5/MTニューロンの最適な運動方向あるいはその反対方向へ動く点を含むドット刺激を用い、サルに強制選択課題で2方向から選択させたところ、①刺激のコヒーレンスの度合いによりニューロンの反応強度が変化した、②ニューロンの反応強度から運動方向の見えを確率的に推測できた、③V5/MTを局所的に破壊、麻痺、電気刺激してサルの正答率を操作できた、④曖昧な刺激(コヒーレンスなし)に対する知覚判断の試行ごとの変動がニューロンの反応の変動と相関していた(choice-probability)、⑤これらの対応や変調が知覚判断の表示法(視線の移動、手によるレバー押し)によらなかった。これらの結果から、比較的少数のV5/MTニューロンの活動が運動方向の知覚判断を左右することが示された<ref><pubmed>1464765</pubmed></ref><ref><pubmed>1607944</pubmed></ref><ref><pubmed>3385495</pubmed></ref>。
 ドットパターンの運動方向や奥行きの知覚 各点がランダムに動くドットパターンの中で一定の割合の点が同じ方向に運動する時、その割合(コヒーレンス)が高い程、それらの点が示す運動方向が知覚されやすくなる。刺激のコヒーレンスが高いほど運動方向を識別する課題の正答率が高くなることから、正答率により運動の見えを評価できる。記録中のV5/MTニューロンの最適な運動方向あるいはその反対方向へ動く点を含むドット刺激を用い、サルに強制選択課題で2方向から選択させたところ、①刺激のコヒーレンスの度合いによりニューロンの反応強度が変化した、②ニューロンの反応強度から運動方向の見えを確率的に推測できた、③V5/MTを局所的に破壊、麻痺、電気刺激してサルの正答率を操作できた、④曖昧な刺激(コヒーレンスなし)に対する知覚判断の試行ごとの変動がニューロンの反応の変動と相関していた(choice-probability)、⑤これらの対応や変調が知覚判断の表示法(視線の移動、手によるレバー押し)によらなかった。これらの結果から、比較的少数のV5/MTニューロンの活動が運動方向の知覚判断を左右することが示された<ref><pubmed>1464765</pubmed></ref><ref><pubmed>1607944</pubmed></ref><ref><pubmed>3385495</pubmed></ref>。


==視覚情報処理のメカニズム== 
==視覚情報処理のメカニズム==


 視覚前野における視覚情報処理のプロセスや仕組みを解明するには、ニューロンや機能的領野の結合関係や反応特性、知覚判断との因果関係に加えて、計算理論の理解が必要である([[Marrの計算論]]を参照)。計算機技術の進歩に伴い、大規模なモデルのフィッティングや学習によるパラメータの最適化と統計学的な解析が可能になってきた。最適化されたモデルはニューロンが示す刺激選択性が形成される過程を定量的に説明し、モデルのパラメータは個々のニューロンの特性を説明する(詳細は[[wikipedia:ja:計算論的神経科学|計算論的神経科学]]を参照)。近年は階層構造、スパース符号化(sparse coding)、[[wikipedia:ja: ニューラルネットワーク|ニューラルネットワーク]]、[[wikipedia:ja:深層学習|深層学習]]を基調とするモデルが多数提案されている。
 視覚前野における視覚情報処理のプロセスや仕組みを解明するには、ニューロンや機能的領野の結合関係や反応特性、知覚判断との因果関係に加えて、計算理論の理解が必要である([[Marrの計算論]]を参照)。計算機技術の進歩に伴い、大規模なモデルのフィッティングや学習によるパラメータの最適化と統計学的な解析が可能になってきた。最適化されたモデルはニューロンが示す刺激選択性が形成される過程を定量的に説明し、モデルのパラメータは個々のニューロンの特性を説明する(詳細は[[wikipedia:ja:計算論的神経科学|計算論的神経科学]]を参照)。近年は階層構造、スパース符号化(sparse coding)、[[wikipedia:ja: ニューラルネットワーク|ニューラルネットワーク]]、[[wikipedia:ja:深層学習|深層学習]]を基調とするモデルが多数提案されている。
109行目: 109行目:
 1970年代には、色に選択的なニューロンが多く、その一部が色恒常性を示すことから、V4が色表現の中枢であるとする説が提案された<ref name=ref7 /><ref><pubmed>4196224</pubmed></ref>。しかし、1980年代になると輪郭線の傾きに選択性を示すニューロンも多数あることが明らかにされた<ref><pubmed>418173</pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed>3803497</pubmed></ref>。近年、色と形のサブ領域(グロブ)に分かれることが示されている<ref><pubmed>21076422</pubmed></ref><ref><pubmed>17988638</pubmed></ref>。曲線の曲率と傾きの組み合わせ<ref><pubmed>10561421</pubmed></ref><ref name=ref2 />、縞模様の空間周波数成分と傾きの組み合わせ、輪郭線の形状に複雑な応答特性を示すニューロンもある。3次元方向の線の傾き<ref><pubmed>15987762</pubmed></ref>、受容野内外の相対的な奥行き(relative disparity)<ref><pubmed>3559704</pubmed></ref>、ドットパターンの印影方向、自然画像に含まれる高次の統計量成分に選択的に反応するニューロンもある。大局的な選択性(色恒常性、逆相関ステレオグラム)を示すニューロンもある。注意により強い修飾作用を受ける。
 1970年代には、色に選択的なニューロンが多く、その一部が色恒常性を示すことから、V4が色表現の中枢であるとする説が提案された<ref name=ref7 /><ref><pubmed>4196224</pubmed></ref>。しかし、1980年代になると輪郭線の傾きに選択性を示すニューロンも多数あることが明らかにされた<ref><pubmed>418173</pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed>3803497</pubmed></ref>。近年、色と形のサブ領域(グロブ)に分かれることが示されている<ref><pubmed>21076422</pubmed></ref><ref><pubmed>17988638</pubmed></ref>。曲線の曲率と傾きの組み合わせ<ref><pubmed>10561421</pubmed></ref><ref name=ref2 />、縞模様の空間周波数成分と傾きの組み合わせ、輪郭線の形状に複雑な応答特性を示すニューロンもある。3次元方向の線の傾き<ref><pubmed>15987762</pubmed></ref>、受容野内外の相対的な奥行き(relative disparity)<ref><pubmed>3559704</pubmed></ref>、ドットパターンの印影方向、自然画像に含まれる高次の統計量成分に選択的に反応するニューロンもある。大局的な選択性(色恒常性、逆相関ステレオグラム)を示すニューロンもある。注意により強い修飾作用を受ける。


  サルのV4を破壊すると、①大きさの変化、遮蔽、色恒常性、主観的輪郭線に対応できなくなる、②混在している複数の刺激を区別することができなくなる、③同一物体の持つ奥行き,明暗,色,位置などの情報を同一物体のものとして関連付けることができなくなる<ref><pubmed>8466667</pubmed></ref><ref><pubmed>8338809</pubmed></ref><ref><pubmed>8782380</pubmed></ref><ref><pubmed>10412066</pubmed></ref>などの影響が生じる。
 サルのV4を破壊すると、①大きさの変化、遮蔽、色恒常性、主観的輪郭線に対応できなくなる、②混在している複数の刺激を区別することができなくなる、③同一物体の持つ奥行き,明暗,色,位置などの情報を同一物体のものとして関連付けることができなくなる<ref><pubmed>8466667</pubmed></ref><ref><pubmed>8338809</pubmed></ref><ref><pubmed>8782380</pubmed></ref><ref><pubmed>10412066</pubmed></ref>などの影響が生じる。
 
 
 fMRIによるヒトV4の研究では背側部に相当する領域が同定されず、以下の諸説がある<ref><pubmed>17978030</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>12217168</pubmed></ref>。①V4には下視野をあらわす領域(背側部)が存在しない。V3dに隣接する領域(LO1,LO2)はそれぞれ全視野を表す別の領域である。②背側部は存在しない。腹側のV8がV4の一部で下視野を表し、合わせて全視野を表す一つの領域である。③背側部は存在する。fMRIの空間分解能を上げると、腹側部よりも面積が小さく、主に下視野の中心視野部分を表す領域が同定されるので、これを背側部とする。下視野の周辺視野を含む残りの視野は腹側部で表される。ヒトのV8については、V8が損傷を受けると色覚だけが失われることからV4の一部とする説と、サルのTEOに相当する別の領域とする説がある<ref><pubmed>312619</pubmed></ref><ref><pubmed>10195149</pubmed></ref><ref><pubmed>11278193</pubmed></ref><ref name =ref3 />。
 fMRIによるヒトV4の研究では背側部に相当する領域が同定されず、以下の諸説がある<ref><pubmed>17978030</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>12217168</pubmed></ref>。①V4には下視野をあらわす領域(背側部)が存在しない。V3dに隣接する領域(LO1,LO2)はそれぞれ全視野を表す別の領域である。②背側部は存在しない。腹側のV8がV4の一部で下視野を表し、合わせて全視野を表す一つの領域である。③背側部は存在する。fMRIの空間分解能を上げると、腹側部よりも面積が小さく、主に下視野の中心視野部分を表す領域が同定されるので、これを背側部とする。下視野の周辺視野を含む残りの視野は腹側部で表される。ヒトのV8については、V8が損傷を受けると色覚だけが失われることからV4の一部とする説と、サルのTEOに相当する別の領域とする説がある<ref><pubmed>312619</pubmed></ref><ref><pubmed>10195149</pubmed></ref><ref><pubmed>11278193</pubmed></ref><ref name =ref3 />。
 
 
77

回編集

案内メニュー