「液-液相分離」の版間の差分

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 シナプスタンパク質による液-液相分離は、[[長期増強]]現象のメカニズムとして近年注目されている<ref name=Hayashi2021><pubmed>33472825</pubmed></ref><ref name=林2021>林 康紀,細川 智永,劉 品吾,實吉 岳郎. (2021).<br> CaMKII の新しいシナプス可塑性機構. 生化学 第93 巻第2 号,pp. 191-202</ref>[27, 28]。[[Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII|Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII]]([[CaMKII]])は、[[記憶]]現象に必須の働きを持つキナーゼである。CaMKIIは神経細胞内に多量に発現しており、[[シナプス後膜肥厚]]では全タンパク質の10%から20%を占めるほどになる。このキナーゼがなぜこれほど多量に存在する必要があるのかは、長年の謎として残されていた。林康紀らの研究チームは、CaMKIIが[[NMDA型グルタミン酸受容体]]と液滴を形成することで、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]を[[活性帯]]の直下に集合させ、シナプス応答を活性化する新しいメカニズムを提唱している<ref name=Hosokawa2021><pubmed>33927400</pubmed></ref>[29]。
 シナプスタンパク質による液-液相分離は、[[長期増強]]現象のメカニズムとして近年注目されている<ref name=Hayashi2021><pubmed>33472825</pubmed></ref><ref name=林2021>林 康紀,細川 智永,劉 品吾,實吉 岳郎. (2021).<br> CaMKII の新しいシナプス可塑性機構. 生化学 第93 巻第2 号,pp. 191-202</ref>[27, 28]。[[Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII|Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII]]([[CaMKII]])は、[[記憶]]現象に必須の働きを持つキナーゼである。CaMKIIは神経細胞内に多量に発現しており、[[シナプス後膜肥厚]]では全タンパク質の10%から20%を占めるほどになる。このキナーゼがなぜこれほど多量に存在する必要があるのかは、長年の謎として残されていた。林康紀らの研究チームは、CaMKIIが[[NMDA型グルタミン酸受容体]]と液滴を形成することで、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]を[[活性帯]]の直下に集合させ、シナプス応答を活性化する新しいメカニズムを提唱している<ref name=Hosokawa2021><pubmed>33927400</pubmed></ref>[29]。


 [[低分子量Gタンパク質]][[Ras]]の不活性化因子である[[SynGAPは]]、CaMKIIに次いでシナプス後膜肥厚に多く含まれるタンパク質である。SynGAPは、[[シナプス足場タンパク質]]である[[PSD-95]]と多価相互作用によって結合し、液-液相分離を引き起こすことが[[w:Zhang Mingjie|Mingjie Zhang]]らの研究チームによって報告されている<ref name=Zeng2016><pubmed>27565345</pubmed></ref>[30]。この液-液相分離の仕組みが、シナプス後膜肥厚からの活動依存的なSynGAPの分散のメカニズムとなっている可能性がある。
 [[低分子量Gタンパク質]][[Ras]]の不活性化因子である[[SynGAP]]は、CaMKIIに次いでシナプス後膜肥厚に多く含まれるタンパク質である。SynGAPは、[[シナプス足場タンパク質]]である[[PSD-95]]と多価相互作用によって結合し、液-液相分離を引き起こすことが[[w:Zhang Mingjie|Mingjie Zhang]]らの研究チームによって報告されている<ref name=Zeng2016><pubmed>27565345</pubmed></ref>[30]。この液-液相分離の仕組みが、シナプス後膜肥厚からの活動依存的なSynGAPの分散のメカニズムとなっている可能性がある。


== 残された課題 ==
== 残された課題 ==