「語彙」の版間の差分

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==音声的な語彙の処理==
==音声的な語彙の処理==
 左上側頭回の中部から後部にかける領域は[[ウェルニッケ野]]と呼ばれるが、この領域を含む部位の損傷はウェルニッケ失語を引き起こす。ウェルニッケ失語では音声言語の理解が大きく損なわれ、また聴覚提示された単語の復唱も困難となる。発話は流暢で文法的だが、しばしば単語の使用に誤りが見られる。
 左上側頭回の中部から後部にかける領域は[[ウェルニッケ野]]と呼ばれるが、この領域を含む脳の損傷はウェルニッケ失語を引き起こす。ウェルニッケ失語では音声言語の理解が大きく損なわれ、また聴覚提示された単語の復唱も困難となる。発話は流暢で文法的だが、しばしば単語の使用に誤りが見られる。


 一方、筆談によるコミュニケーションや発話には問題がないにも関わらず、単語が聴覚提示されると全く分からない、という障害もある。これは純粋語聾(pure word deafness)と呼ばれる。純粋語聾は音声による単語認識ができなくなるが、文字や口の動きをもとに意味を理解することはできる。つまり純粋語聾では単語の聴覚的表象だけが選択的に損なわれるのだと考えられる。純粋語聾は[[ウェルニッケ野]]、もしくは一次[[聴覚野]]からウェルニッケ野への入力が損傷されることで引き起こされる<ref><pubmed> 16209426 </pubmed></ref>ことから、単語の聴覚的表象はウェルニッケ野に保持されていると考えられる。ウェルニッケ野周縁領域の損傷患者は超皮質性感覚失語(transcortical sensory aphasia)を示すこともある。超皮質性感覚失語では、絵に描かれた対象を呼称したり、書かれた単語を音読したり、聴覚提示された単語を復唱したりすることはできるが、耳で聞いた単語の意味を理解することができない<ref><pubmed> 10908193 </pubmed></ref>。従って超皮質性感覚失語では聴覚的見出し語そのものは損なわれておらず、音声に基づく語彙アクセスの能力が障害されるのだといえる。
 一方、筆談によるコミュニケーションや発話には問題がないにも関わらず、単語が聴覚提示されると全く分からず復唱もできない、という障害もある。これは純粋語聾(pure word deafness)と呼ばれる。純粋語聾は音声による単語認識ができなくなるが、文字や口の動きをもとに意味を理解することはできる。つまり純粋語聾では単語の聴覚的表象だけが選択的に損なわれるのだと考えられる。純粋語聾は[[ウェルニッケ野]][[聴覚野]]からウェルニッケ野への入力が損傷されることで起こる<ref> '''D Poepple''' <br>Pure word deafness and the bilateral processing of the speech code. <br> ''Cogn Sci'':2001, 25();679-693 </ref>ことから、単語の聴覚的表象はウェルニッケ野に保持されていると考えられる。ウェルニッケ野周縁領域の損傷患者は超皮質性感覚失語(transcortical sensory aphasia)を示すこともある。超皮質性感覚失語では、絵に描かれた対象を呼称したり、書かれた単語を音読したり、聴覚提示された単語を復唱したりすることはできるが、耳で聞いた単語の意味を理解することができない<ref><pubmed> 10908193 </pubmed></ref>。従って超皮質性感覚失語では聴覚的見出し語そのものは損なわれておらず、音声に基づく語彙アクセスの能力が障害されるのだといえる。


 一方、左[[側頭葉]]の損傷では物体や人名の呼称ができなくなるケースもあるが、この場合には損傷される部位によって障害される[[カテゴリー]]が異なるということが知られている。絵に描かれた対象を患者に呼称させる実験から、人名は左[[側頭極]]の、動物名は左下側頭回の、道具名は左後部下側頭回および[[後頭頭頂側頭接合部]]の障害により、最も成績が低下していることが明らかとなった<ref><pubmed> 8606767 </pubmed></ref>。ただし、これらの患者では単語の持つ意味や概念自体は保持されていたと考えられる。というのも、たとえば彼らはスカンクの絵を見て「近づくとひどい臭いを出す動物で、白黒で…」といった内容を答えることはできたからである。つまりこれらの障害においては、単語の意味を適切な音韻表現に変換する機能が損なわれていたのではないかと考えられる。ちなみに、動詞の生成は側頭葉でなく、ブローカ野を含む周辺の左[[前頭葉]]損傷により障害される<ref><pubmed> 8506341 </pubmed></ref>。ただしこうした関連領野の違いが名詞と動詞という文法的な区別を反映しているかどうかは慎重に検討する必要がある。
 一方、左[[側頭葉]]の損傷では物体や人名の呼称ができなくなるケースもあるが、この場合には損傷される部位によって障害される[[カテゴリー]]が異なるということが知られている。絵に描かれた対象を患者に呼称させる実験から、人名は左[[側頭極]]の、動物名は左下側頭回の、道具名は左後部下側頭回および[[後頭頭頂側頭接合部]]の障害により、最も成績が低下していることが明らかとなった<ref><pubmed> 8606767 </pubmed></ref>。ただし、これらの患者では単語の持つ意味や概念自体は保持されていたと考えられる。というのも、たとえば彼らはスカンクの絵を見て「近づくとひどい臭いを出す動物で、白黒で…」といった内容を答えることはできたからである。つまりこれらの障害においては、単語の意味を適切な音韻表現に変換する機能が損なわれていたのではないかと考えられる。ちなみに、動詞の生成は側頭葉でなく、ブローカ野を含む周辺の左[[前頭葉]]損傷により障害される<ref><pubmed> 8506341 </pubmed></ref>。ただしこうした関連領野の違いが名詞と動詞という文法的な区別を反映しているかどうかは慎重に検討する必要がある。
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