Parkin

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今居 譲
順天堂大学医学研究科 パーキンソン病病態解明研究講座
DOI:10.14931/bsd.9464 原稿受付日:2020年9月28日 原稿完成日:2020年11月5日
担当編集委員:山中 宏二(名古屋大学 環境医学研究所 病態神経科学) 外部査読者:松田憲之(東京都医学研)

英語名:parkin

 Parkin(パーキン)遺伝子は、常染色体性潜性(劣性)若年性パーキンソニズム(autosomal recessive-juvenile Parkinsonism: AR-JP) の原因遺伝子である。Parkin遺伝子の正式名称はPRKNであり、PARK2とも表記される。遺伝子産物Parkinはユビキチン転移酵素(ユビキチンリガーゼ)であり、損傷したミトコンドリアを排除するミトコンドリアの品質管理に関与すると考えられている。一方、がん抑制遺伝子、らい菌の感受性遺伝子としても報告され、未解明の生理的機能も示唆される。

背景、歴史的推移

図1. PINK1-Parkinを介したマイトファジー
膜電位(∆Ψm)が低下したミトコンドリアは、断片化し切り離される。
膜電位低下したミトコンドリア外膜にPINK1が蓄積、キナーゼが活性化する。
PINK1が活性したミトコンドリアに、Parkinがリクルートされる。'
断片化したミトコンドリアは、健常なミトコンドリアと再融合しない。
オートファジーで除去される。Ub, ユビキチン。図は文献[1]より改変。

 パーキンソン病振戦無動寡動筋固縮姿勢保持障害などの運動機能障害を特徴とする神経変性疾患である。運動症状は中脳黒質ドーパミン神経の選択的変性脱落に起因する。高齢になるほど発病率が増加し、60歳以上では約1%が罹患する。パーキンソン病の一部に、40歳以下で発症する若年性パーキンソン病と呼ばれる群があり、そのうち家族性(遺伝性)のものがいくつかみつかっている。

 1998年、若年性パーキンソン病の一つである常染色体性潜性(劣性)若年性パーキンソニズム(autosomal recessive-juvenile Parkinsonism: AR-JP)の原因遺伝子としてParkin (PRKN, PARK2)が同定された[2] 。パーキンソン病原因遺伝子としては、αシヌクレインα-Synuclein; SNCA; PARK1/PARK4)に次いで、2番目に同定された遺伝子である。Parkinは、6番染色体(6q26)にある1.38 Mbの巨大な遺伝子で、欠失変異フレームシフト変異ミスセンス変異が、遺伝子全体にわたって見つかっている。Parkin変異は人種を越えてみられ、遺伝性若年性パーキンソン病の約50%を占めると報告されている[3][4]

 Parkinタンパク質は基質タンパク質にユビキチンを転移するユビキチンリガーゼで、多くの病因変異でその活性が損なわれている[5][6][7] 。これまでにユビキチン化基質候補として数多くのタンパク質が報告されている[8]

 2004年、PINK1(PTEN induced kinase 1; PARK6)が、常染色体性潜性若年性パーキンソン病原因遺伝子として同定された[9] 。遺伝性若年性パーキンソン病のうち、PINK1変異はParkinに次いで頻度が高く、Parkinと臨床像は類似している[10]ショウジョウバエを用いた遺伝学的研究から、常染色体性潜性(劣性)若年性パーキンソン病原因遺伝子PINK1がParkinの上流因子であり、PINK1とParkinがミトコンドリアの機能維持に関与することが明らかとなった[11][12][13] 。その後、ヒト培養細胞を用いた研究から、PINK1がParkinをリン酸化し[14][15][16]、協働して膜電位の低下したミトコンドリアを除去するマイトファジー(ミトコンドリアを対象とするオートファジー)に関与することが明らかになった(図1[17][18][19][20]

図2. Parkinタンパク質のドメイン構造
ドメインの説明は本文を参照。REP(Repressor Element of Parkin)の役割は図3を参照。図は文献[1]より改変。
図3. Parkinの活性化と構造変換
(左端)不活性型のParkin。ユビキチンリガーゼ活性中心(RING2の緑色の星印)はRING0でマスクされている。
PINK1が活性化し、ミトコンドリア外膜タンパク質のポリユビキチン(Ub)鎖のSer65がリン酸化(P)される。次に、リン酸化ユビキチンにParkinが結合する。
リン酸化ユビキチンの結合により、UblドメインのSer65が露出する。
Ubl Ser65がPINK1によってリン酸化される。
リン酸化されたUblがParkin本体から遊離するとともに、REPがRING1から外れ、RING2がRING0から遊離する。その結果、RING2の活性中心が露出する。
リン酸化UblがRING0に結合し、安定的な活性化構造となる。RING1に結合したユビキチン結合酵素(E2)と協働して、基質(S)にユビキチンを転移する。

構造

 ヒトParkinタンパク質は465 アミノ酸残基からなり、N末端のユビキチン様ドメイン(Ubl)、C末端に2つのRING fingerモチーフ(RING1, RING2)とIn-Between-RINGs (IBR)という構造をもつ(図2)。その後、UblとRNIG1-IBR-RING2の間に、RING様構造が見つかり、RING0(またはUPD; unique parkin domain)と呼ばれる[21]図2)。Parkinは、RING-IBR-RINGドメインを有するRBR型ユビキチンリガーゼに分類され、同様の構造をもヒトユビキチンリガーゼに、HOIL-1, HHARI, DORFINがある。タンパク質の全体構造は2013-2015年に解かれ、コンパクトに折り畳まれた状態であることが明らかとなった[22][23]図3)。

活性化機構

 コンパクトに折り畳まれたParkinは、活性中心がマスクされ不活性型である。Parkinの活性化は2つのステップで起こる。1段階目として、PINK1によってSer65がリン酸化されたユビキチン[24][25][26] がParkinのリン酸基結合ポケットに結合し、ユビキチン様ドメインのリン酸化サイト(Ser65)が露出する。2段階目に、露出したユビキチン様ドメインのSer65がPINK1によりリン酸化され、リン酸化ユビキチン様ドメインがRING0/UPDに結合することで、RING2にある活性中心とRING1にあるユビキチン結合酵素(E2)結合部位が安定的に露出する[23]図3)。

図4. PINK1によるParkinのミトコンドリアへの集積メカニズム
細胞質で不活性状態のParkin。ミトコンドリア外膜タンパク質(S)は、ミトコンドリア局在ユビキチンリガーゼにより、生理的にポリユビキチン化修飾を受けている。
ミトコンドリア膜電位が低下し活性化したPINK1によるポリユビキチン鎖のリン酸化(P)。
Parkinのリン酸化ポリユビキチン(Ub)鎖への結合。
Parkin UblドメインのPINK1によるリン酸化。
Parkinの活性化、ミトコンドリア上での新規ポリユビキチン鎖(緑色)の形成。
PINK1による新規ポリユビキチン鎖のリン酸化。
残りのParkinのリン酸化ポリユビキチン鎖への結合(以降の繰り返し)。
図は文献[16])より改変。

発現

 ヒトParkin mRNAはユビキタスに発現しているが、組織、腎臓で比較的高発現をしている[2][27] 。哺乳類ゲノムにおいて、PRKNはPACRG (Parkin co-regulated gene)と双方向プロモーターを共有する[28] 。Parkinの発現を制御する転写因子として、N-myc [29] , p53 [30] , ATF4 [31] が報告されている。小胞体ストレスミトコンドリアストレス [6][31][32]成長因子・栄養制限 [33] などの環境要因でも発現上昇が見られる。

 哺乳類細胞内では主に細胞質に局在するが、PINK1の活性化に伴って、ミトコンドリアへの集積が見られる[18][19] 。PINK1によるParkinのミトコンドリアへの集積の分子メカニズムは、2014-2015年に明らかされた(図4[34][35][36]

機能

図5. PINK1の活性化メカニズム
(上, 健康なミトコンドリア) 新規に作られたPINK1は、膜電位依存的輸送経路によりミトコンドリア内膜まで輸送される。内膜上でMPPとPARLにより切断をうけ、未解明の機構で細胞質へと放出される。その後、ユビキチン-プロテアソーム経路で分解される。
(下, 膜電位が低下したミトコンドリア) PINK1は外膜に集積し、自己会合・自己リン酸化により活性化する。
図は文献[1]より引用。

不良(不要)ミトコンドリアのマイトファジー

 細胞での機能として、PINK1と協働してマイトファジーに関与することが、培養細胞で明らかにされている。

 ミトコンドリア局在性キナーゼPINK1は、ミトコンドリア膜電位依存的に健常なミトコンドリアの内膜まで輸送され、ミトコンドリア内プロテアーゼMPP(mitochondrial processing peptidase)[37] とPARL [38][39] によって2段階の切断を受け、その後、細胞質にてユビキチン-プロテアソーム経路で分解されると考えられている[40] 。ミトコンドリア膜電位が低下すると、膜電位依存的な輸送効率が低下し、ミトコンドリア外膜に蓄積、自己会合および自己リン酸化により、キナーゼが活性化する[36][41][42]図5)。以上から、PINK1は膜電位が低下した(機能低下した)ミトコンドリアを検出するセンサーとして働くと考えられる。

 活性化したPINK1は、近傍のポリユビキチン化修飾を受けたタンパク質(主にミトコンドリア外膜のタンパク質)をリン酸化する(リン酸化ポリユビキチン鎖の種の形成)。Parkinはリン酸化ポリユビキチンへの親和性が高く、細胞質からミトコンドリア上のリン酸化ポリユビキチンへ繋留され活性化する。活性化されたParkinは、近傍のミトコンドリアタンパク質をユビキチン化する。さらに、PINK1がParkinによるポリユビキチン鎖をリン酸化し、新たなリン酸化ポリユビキチン鎖をミトコンドリア外膜上に形成する(リン酸化ポリユビキチン鎖の増幅)。増幅されたリン酸化ポリユビキチン鎖に、細胞質に残っている不活性型Parkinが繋留され活性化し、PINK1と協働して、さらにリン酸化ポリユビキチン鎖を形成する(リン酸化ポリユビキチン鎖の再増幅)。PINK1とParkinの役割は、上述のようなフィードフォワードループを形成して、不良ミトコンドリアをリン酸化ポリユビキチン鎖にて速やかにマーキングすることだと考えられる(図4[34][35]

 マイトファジー時のParkinのユビキチン化基質は数多く報告され、ミトコンドリア外膜・内膜・マトリクスタンパク質のほか、細胞質や核のタンパク質も含まれる[43] 。そのうち、Dynamin-like GTPase, Mitofusin(哺乳類ではMitofusin 1Mitofusin 2がある)は、Parkinによって早期にユビキチン化とその後のプロテアソーム経路での分解を受けるミトコンドリア外膜分子として知られる。Mitofusinの分解により、ミトコンドリアが断片化する[44][45][46][47][48] 。ミトコンドリアの断片化は、隔離膜形成とオートファジーによる除去を容易にすると考えられる[47] 。実際、ミトコンドリア断片化に働くDynamin-like GTPase, Drp1の過剰発現は、ParkinやPINK1ノックアウトハエのミトコンドリア変性を緩和する[49][50] 。このDrp1の効果は、Parkin非介在マイトファジーによる補完を促進するからと考えられる。

 生理的なミトコンドリア排除へのParkinの関与も報告されている。寒冷暴露に応じて発達するベージュ脂肪細胞は、熱産生のためにミトコンドリアが豊富である。しかし寒冷ストレスがなくなると、脂肪滴貯蔵のためミトコンドリアが少ない白色脂肪細胞へと変化する。ベージュ脂肪細胞の白色脂肪細胞化の際に不要となったミトコンドリアがParkinによって除去される[51]

図6. PINK1によるParkinのミトコンドリアへの集積メカニズム
健康なミトコンドリアは、Miro-Milton-KIF5により、微小管に沿って順行輸送される。
膜電位が低下したミトコンドリア上では、PINK1-Parkinが活性化しMiroを分解する。その結果、順行輸送が停止する。 図は文献[1]より改変。

ミトコンドリア輸送制御

 ミトコンドリア外膜Rho-GTPase, Miro (哺乳類ではMiro 1Miro 2がある)は、キネシンタンパク質KIF5と協働して、微小管を介したミトコンドリアの順行輸送に関与する[52][53] 。神経細胞においては、神経軸索前シナプスへのミトコンドリア供給機構として重要である。MiroがPINK1-Parkinによりユビキチン化、プロテアソーム経路での分解を受けることにより、ミトコンドリア輸送が停止する[52][53] 。その生理的意義として、不良ミトコンドリアを神経終末へ輸送しないミトコンドリア品質管理と考えられる(図6)。

ゼノファジー

 ParkinはPACRG (Parkin co-regulated gene)とともにサルモネラ菌らい菌感染の感受性遺伝子座に位置する[54][55] 。実験的にParkinが結核菌ゼノファジー(異物排除のためのオートファジー)に関与することが示されたが、Parkinが活性化するメカニズムは不明である[56]

個体レベルでの機能

 ミトコンドリアゲノム変異[57] ・異常タンパク質のミトコンドリアへの蓄積引用エラー: 無効な <ref> タグです。数が多すぎるなどの理由で名前が無効です を示す動物モデルで、Parkinが不良ミトコンドリアの除去に関与することが示されている。しかし、マイトファジーを可視化できるmito-QCマウスの中脳黒質ドーパミン神経では、Parkinを介したマイトファジーは検出されていない[58] 。一方、マイトファジーを可視化するmt-Keimaを用いたマウスでは、PINK1の欠失によって、強負荷運動後の心筋におけるマイトファジーが減少することが報告されている[59]

 ショウジョウバエでは、加齢依存的な中枢ドーパミン神経のマイトファジーにParkinが関与するという報告[60] 、しないという報告[61][62] がある。ただし文献[62] では、非神経組織において、低酸素処理によるマイトファジーや、ミトコンドリアから活性酸素種を発生させるロテノン処理で誘導されるマイトファジーにPINK1、Parkinが関与すると報告している。ショウジョウバエモデルにおいて、PINK1やParkinが中枢ドーパミン神経のマイトファジーに関与するという文献[60] ではmt-Keimaを、関与しないという文献[61] ではmt-Keimaとmito-QCを、非神経組織でのPINK1-Parkin依存的なマイトファジーをみた文献[62] ではmt-Keimaを、マイトファジーのレポーターとして用いている。今後、新たなマイトファジー解析手法が待たれる状況である。

 ショウジョウバエでは、ParkinやPINK1変異でミトコンドリア呼吸鎖複合体サブユニット群の半減期が長くなっており、マイトファジー以外の選択的なミトコンドリアタンパク質分解機構も提唱されている[63][64]

 常染色体性潜性若年性パーキンソニズム脳アストロサイトの形態的異常や患者iPS細胞で作製した中脳オルガノイドでのアストロサイトの分化能低下[65] 、Parkinノックアウトマウスにおいてアストロサイトのミトコンドリア損傷の報告[66] がある。

 免疫・炎症へのParkinの関与が示唆されている。PINK1とParkinは、ミトコンドリアの抗原提示経路に関わる分子Sorting nexin-9を分解し、T細胞への抗原提示を阻害する。Parkinのこの機能が過剰な免疫反応を抑制している可能性が報告された[67] . PINK1, Parkinノックアウトマウスでは、ミトコンドリアへの強い負荷(激しい運動やミトコンドリアDNAへの構成的な変異の蓄積)により、STING経路を介した炎症性サイトカインの上昇がみられる [59] 。STINGは血清中に遊離した損傷ミトコンドリアのDNAを認識し、自然免疫を活性化する。ミトコンドリアストレスで生した損傷ミトコンドリアのPINK1-Parkin経路を介したマイトファジーでの除去が、炎症の沈静化に寄与していることが示唆されている。

疾患との関わり

 PRKNのホモ接合性変異、複合ヘテロ接合性変異で、若年発症のパーキンソン病を発症する。ヘテロ接合性変異により、パーキンソン病を晩発で発症する例も見られる[68] 。PRKNの病因変異やレアバリアントの報告は、世界中で多数あり、以下のデータベースで検索できる。

 バリアントデータベースとして以下も利用できる。

 PRKNミスセンス病因変異・レアバリアントとタンパク質の安定性・マイトファジーとの相関を培養細胞で調べた研究がある[69] 。病態が比較的重篤なミスセンス病因変異は、すべてマイトファジー活性が50%以下(対野生型比)に低下していた。しかし、病態が軽度・病態への意義が不明なミスセンス病因変異・レアバリアントでは、マイトファジーへの影響がほとんどなく、まれに亢進しているものも観察された。ユビキチンリガーゼ活性やタンパク質の安定性に影響しない病因変異については、不活性状態を解くアミノ酸への置換(REPを不安定化させるF146AやW403A、図3参照)の導入により、マイトファジー活性が戻ることが示された。この観察は、Parkinの不活性状態を解く化合物がパーキンソン病の疾患修飾薬となる可能性を示唆している。

 Parkin変異によるパーキンソン病の典型的な臨床像として、40歳未満での発症、緩慢な病態進行、正常な認知機能、下肢ジストニア、良好なL-ドーパへの反応性、が挙げられる [70] 。神経病理学的特徴として、黒質および青斑核に限局した神経細胞減少を示し、グリオーシスは通常見られない。孤発性パーキンソン病の特徴的病理所見であるレビー小体は通常みられない[70] 。10歳未満での発症の報告もあり、Parkinはドーパミン神経発生の段階で機能していることが推察される[71][72]

 Parkin変異患者由来のiPS細胞から作製したドーパミン神経では、リン酸化ユビキチンのシグナルが低下し、不良ミトコンドリアの神経軸索輸送停止が障害されている[73] 。 その他、がん抑制遺伝子として、いくつか報告がある[74][75][76][77][78]

関連項目

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