「錐体細胞」の版間の差分

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[[Image:錐体細胞 図1.jpg|thumb|250px|<b>図1. 大脳皮質5層の錐体細胞(ラット)</b><br />5層に錐体の細胞体があり、1層に向けて尖端樹状突起を伸ばしている。尖端樹状突起の末端は房状突起となって終わる。細胞体の基部からは細い軸索と複数の基底樹状突起が伸びている。]]  
[[Image:錐体細胞 図1.jpg|thumb|250px|<b>図1. 大脳皮質5層の錐体細胞(ラット)</b><br />5層に錐体の細胞体があり、1層に向けて尖端樹状突起を伸ばしている。尖端樹状突起の末端は房状突起となって終わる。細胞体の基部からは細い軸索と複数の基底樹状突起が伸びている。]]  


 典型的な錐体細胞では、尖端樹状突起(apical dendrite)と呼ばれる一本の樹状突起が錐体形をした細胞体の頂点から生じ、斜め方向に分枝(oblique branch)を出しながら、数百μmに渡って一方向に直線的に伸びる (図1)。多くの場合、oblique branchはあまり分岐を繰り返さない。尖端樹状突起の末端は、[[房状分枝]](tuft)を形成して終わることが多い。また、数本の基底樹状突起(basal dendrite)が、細胞体の底辺部から伸び、細胞体周辺の比較的限局した領域で分枝を出し、全体として半球ないし球状(半径およそ300μm)に広がる。樹状突起は棘突起を豊富に持ち(錐体細胞1個当たりの棘突起数は海馬CA1で約30000個、大脳皮質[[視覚野]]で約15000個と推定されている<ref name="ref1">'''Fiala JC, Harris KM.'''<br> Dendrite structure. In: Dendrites <br>(Stuart G, Sprutson N, Hausser M eds), pp1-34. ''Oxford University press'', 2007.</ref>)、棘突起の形状や大きさ、安定性は学習の影響を受けることが知られている<ref name="ref2"><pubmed>15190253</pubmed></ref>。興奮性入力の多くは、他の錐体細胞や視床から受けており、それらの興奮性シナプスは主に棘突起上に形成される。他方、抑制性入力は細胞体や樹状突起の幹に入力する割合が高い。以下、脳内の各部位における錐体細胞について述べる。
 典型的な錐体細胞では、尖端樹状突起(apical dendrite)と呼ばれる一本の樹状突起が錐体形をした細胞体の頂点から生じ、斜め方向に分枝(oblique branch)を出しながら、数百μmに渡って一方向に直線的に伸びる (図1)。多くの場合、oblique branchはあまり分岐を繰り返さない。尖端樹状突起の末端は、[[房状分枝]](tuft)を形成して終わることが多い。また、数本の基底樹状突起(basal dendrite)が、細胞体の底辺部から伸び、細胞体周辺の比較的限局した領域で分枝を出し、全体として半球ないし球状(半径およそ300μm)に広がる。樹状突起は棘突起を豊富に持ち(錐体細胞1個当たりの棘突起数は海馬CA1で約30000個、大脳皮質[[視覚野]]で約15000個と推定されている<ref name="ref1">'''Fiala JC, Harris KM.'''<br> Dendrite structure. In: Dendrites <br>(Stuart G, Sprutson N, Hausser M eds), pp1-34. ''Oxford University press'', 2007.</ref>)、棘突起の形状や大きさ、安定性は学習の影響を受けることが知られている<ref name="ref2"><pubmed>15190253</pubmed></ref>。興奮性入力の多くは、他の錐体細胞や視床に由来し、シナプスは主に棘突起上に形成される。他方、抑制性入力は細胞体や樹状突起の幹に入力する割合が高い。以下、脳内の各部位における錐体細胞について述べる。


=== 扁桃体  ===
=== 扁桃体  ===
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=== 大脳新皮質  ===
=== 大脳新皮質  ===


 6層構造の新皮質では、1層を除いて、各層ごとに特徴的な形態を持つ錐体細胞が存在する<ref name="ref5">'''Jones EG'''<br>Laminar distribution of output cells. In: Cerebral cortex, Vol 1, Cellular components of the cerebral cortex<br>(Peters A, Jones EG, eds), pp 521–553. New York: Plenum, 1984</ref>。軸索は[[ミエリン]]化しており、白質方向へ延びていきながら局所的な分枝を伸ばし、これにより近隣の細胞群と局所回路を形成する。この局所的な結合は、層構造に関連があることが知られている(表)。また、白質へ入った主軸索の投射先も、その細胞体のある層によって異なる(表)。
 6層構造の新皮質では、1層を除いて、各層ごとに特徴的な形態を持つ錐体細胞が存在する<ref name="ref5">'''Jones EG'''<br>Laminar distribution of output cells. In: Cerebral cortex, Vol 1, Cellular components of the cerebral cortex<br>(Peters A, Jones EG, eds), pp 521–553. New York: Plenum, 1984</ref>。軸索は[[ミエリン]]化しており、白質方向へ延びていきながら局所的な分枝を出し、これにより近隣の細胞群と局所回路を形成する。このような局所的な結合や皮質下への軸索投射は、層構造に関連があることが知られている(表)
 


'''表'''  
'''表'''  
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 また、5層深部と6層にはmodified pyramidal cellと呼ばれる非典型的な形態の錐体細胞が比較的多く観察され、その尖端樹状突起が伸びる方向は細胞によって様々である。しかし、棘突起の存在や興奮性のシナプス結合など、多くの特徴を錐体細胞と共有している<ref name="ref7"><pubmed>19052106</pubmed></ref>。
 また、5層深部と6層にはmodified pyramidal cellと呼ばれる非典型的な形態の錐体細胞が比較的多く観察され、その尖端樹状突起が伸びる方向は細胞によって様々である。しかし、棘突起の存在や興奮性のシナプス結合など、多くの特徴を錐体細胞と共有している<ref name="ref7"><pubmed>19052106</pubmed></ref>。
== 皮質錐体細胞間の結合 ==
[[Image:錐体細胞 図2-1.jpg|thumb|250px|'''図2.霊長類の領野間結合における出力細胞と投射線維の層分布'''<br>階層性結合パターンによってFF (feedforward)・FB(feedback)・lateral connection に分けられ、それぞれに特徴的な層分布が見られる。三角形は出力細胞の分布を示し、投射繊維の密度は黒白の濃淡で示した。]]
 錐体細胞間の興奮性結合は、機能性カラム内や単一の領野内での局所的な結合(local/ intrinsic connection)と、機能性カラム間・領野間・大脳半球間などの長距離の結合(long range/ extrinsic/ inter-areal connection)とに分けることができる。
局所的結合については、層間の結合様式[8] - [10](表)に加え、細胞レベルでの詳細な結合パターンが明らかにされてきている。同じ投射先を持つ錐体細胞同士や、感覚入力に対する応答性を共有する錐体細胞同士では局所結合の確率が高い[11] - [14]。視覚野では、同じ刺激反応特性を示す互いに離れた(0.5-数mm)機能性カラム同士が、錐体細胞の軸索によって相互に結合している[15] - [17]。
 皮質領野には機能的な階層性があり、感覚野を例に取ると、感覚刺激に対する応答が最初に現れる一次領野から高次領野に情報が運ばれていくに従い、刺激応答性が特異化すると考えられている [18] [19]。機能的階層性の観点から、領野間の結合様式は、低次から高次の階層へのfeedforward(FF)connection、高次から低次の階層へのfeedback(FB) connection、似たような階層間のlateral connectionに分けることができる[20]。
 霊長類の視覚野では、FF投射は主に2/3層の錐体細胞から起こり、標的領野の4層にクラスター状の終末を形成する[21]。これに対し、FB投射は4層以外の錐体細胞から起こり、標的領野では4層以外の層へ拡散した終末を形成する[21]。出力細胞・入力線維の層分布は領野間結合ごとに固有のパターンがあり、多様なタイプの錐体細胞が関わることが示唆されている[22] - [28]。FF投射・FB投射のどちらにおいても、複数の領野へ投射する錐体細胞は少なく[29] - [31]、加えて、一つの錐体細胞がFF投射とFB投射の両方に関わることはほとんどないことが報告されている[32]。また半球間結合や高次脳領野間結合では、結合線維はlateral connectionに特徴的な皮質全層にまたがるカラム様の終末を作る[20](図2)。
 上述のような階層的領野間結合は他の感覚領野や動物種でも見られるが、層選択性などについては差異がある[32] - [35]。新しい細胞ラベル法やOptogeneticsの応用により、感覚野-運動野間のような機能的に異なる領野にまたがる投射も含め、長距離結合に関する知見はさらに深められつつある[36]。


== 電気生理的特性 (大脳皮質錐体細胞について)  ==
== 電気生理的特性 (大脳皮質錐体細胞について)  ==


[[image:錐体細胞_図2.jpg|thumb|250px|'''図2. In vivo条件で記録したregular-spiking (RS), fast-rhythmic bursting(FRB), intrinsically bursting (IB)細胞の通電(0.8nA, 0.2s)に対する応答'''<br>(Steriade et al., 2004<ref name=ref27><pubmed>14735115</pubmed></ref>より許可を得て転載)]]
[[image:錐体細胞_図2.jpg|thumb|250px|'''図3. In vivo条件で記録したregular-spiking (RS), fast-rhythmic bursting(FRB), intrinsically bursting (IB)細胞の通電(0.8nA, 0.2s)に対する応答'''<br>(Steriade et al., 2004<ref name=ref27><pubmed>14735115</pubmed></ref>より許可を得て転載)]]


 大脳皮質の錐体細胞は、脳スライス標本(in vitro)やin vivo条件の電気生理記録から得られた発火パターンから、いくつかのサブタイプに分けられてきた<ref name="ref8"><pubmed>6296328</pubmed></ref> <ref name="ref9"><pubmed>2999347</pubmed></ref> <ref name="ref10"><pubmed>1729440</pubmed></ref> (図2)。  
 大脳皮質の錐体細胞は、脳スライス標本(in vitro)やin vivo条件の電気生理記録から得られた発火パターンから、いくつかのサブタイプに分けられてきた<ref name="ref8"><pubmed>6296328</pubmed></ref> <ref name="ref9"><pubmed>2999347</pubmed></ref> <ref name="ref10"><pubmed>1729440</pubmed></ref> (図3)。  


 最も多く見られるのは、脱分極パルスに対して等間隔で規則的に発火するregular spiking(RS) 細胞であり、[[wikipedia:Vernon Benjamin Mountcastle|Mountcastle]]によって名づけられた<ref name="ref11"><pubmed>4977839</pubmed></ref>。RS細胞は、閾値以上の電流注入に対して持続的な反復発火で応答し、その注入電流と発火頻度は線形に相関していることから<ref name="ref12"><pubmed>6087761</pubmed></ref> <ref name="ref13"><pubmed>6481432</pubmed></ref>、細胞への入力の時間情報などを運ぶのに適すると考えられる。持続通電中に発火頻度が徐々に落ちる適応(accommodation)の程度によってさらにサブグループに分けられることもある<ref name="ref10"><pubmed>1729440</pubmed></ref><ref name="ref14"><pubmed>12626627</pubmed></ref><ref name="ref15"><pubmed>8395586</pubmed></ref>。  
 最も多く見られるのは、脱分極パルスに対して等間隔で規則的に発火するregular spiking(RS) 細胞であり、[[wikipedia:Vernon Benjamin Mountcastle|Mountcastle]]によって名づけられた<ref name="ref11"><pubmed>4977839</pubmed></ref>。RS細胞は、閾値以上の電流注入に対して持続的な反復発火で応答し、その注入電流と発火頻度は線形に相関していることから<ref name="ref12"><pubmed>6087761</pubmed></ref> <ref name="ref13"><pubmed>6481432</pubmed></ref>、細胞への入力の時間情報などを運ぶのに適すると考えられる。持続通電中に発火頻度が徐々に落ちる適応(accommodation)の程度によってさらにサブグループに分けられることもある<ref name="ref10"><pubmed>1729440</pubmed></ref><ref name="ref14"><pubmed>12626627</pubmed></ref><ref name="ref15"><pubmed>8395586</pubmed></ref>。  

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