「外傷後ストレス障害」の版間の差分

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==  PTSDとは   ==
==  PTSDとは   ==
<pre>==PTSDとは==</pre>  
<pre>==PTSDとは==</pre>  
  外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)とは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を強い恐怖、無力感、戦慄と共に経験もしくは目撃すること(トラウマ体験)が契機となり起きる障害である。 PTSDは殺人、暴行、傷害、レイプなどの犯罪被害、交通事故、地震、津波などの自然災害、戦争やテロ、虐待、ドメスティックバイオレンスなど様々な原因で起こることが知られている。診断にはにアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)の精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision DSM‐Ⅳ‐TR)と世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(International Statistical Classification of Disease: ICD-10)があるが、研究では前者が用いられることが多い(下記参照)。&nbsp;<br>  
  外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)とは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を強い恐怖、無力感、戦慄と共に経験したり、目撃したり、直面したりすること(トラウマ体験)が契機となり起きる障害である。 PTSDは殺人、暴行、傷害、レイプなどの犯罪被害、交通事故、地震、津波などの自然災害、戦争やテロ、虐待、ドメスティックバイオレンスなど様々な原因で起こることが知られている。診断にはにアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)の精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision DSM‐Ⅳ‐TR)と世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(International Statistical Classification of Disease: ICD-10)があるが、研究では前者が用いられることが多い(下記参照)。&nbsp;<br>  


 症状は再体験、回避・精神麻痺、過覚醒の3つの症状クラスターに大別される。再体験にはフラッシュバック、悪夢、想起刺激による身体生理反応など、回避・精神麻痺には記憶を想起させる場所、物事、状況への回避、感情麻痺など、過覚醒には睡眠障害、集中困難、物音などへの過敏反応などが含まれる。DSM‐Ⅳ‐TRに示される再体験症状1項目以上、回避・精神麻痺症状3項目以上、過覚醒症状2項目以上が1ヶ月以上持続し、強い苦痛ないし生活上の機能障害を伴うとPTSDと診断される。  
 症状は再体験、回避・精神麻痺、過覚醒の3つの症状クラスターに大別される。再体験にはフラッシュバック、悪夢、想起刺激による身体生理反応など、回避・精神麻痺には記憶を想起させる場所、物事、状況への回避、感情麻痺など、過覚醒には睡眠障害、集中困難、物音などへの過敏反応などが含まれる。DSM‐Ⅳ‐TRに示される再体験症状1項目以上、回避・精神麻痺症状3項目以上、過覚醒症状2項目以上が1ヶ月以上持続し、強い苦痛ないし生活上の機能障害を伴うとPTSDと診断される。  
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=== &nbsp;症状評価方法  ===
=== &nbsp;症状評価方法  ===
<pre>===症状評価方法===</pre>  
<pre>===症状評価方法===</pre>  
&nbsp;&nbsp; 症状評価方法は自記式質問紙法と構造化面接法に大別される。一般に質問紙法は簡便であるが診断精度は構造化面接に劣るとされる。一方で、構造化面接はより精度の高い評価が可能であるが、1人の評価に時間を要すること、被面接者の負担が大きいなどの問題がある。このため、目的に応じた使用が求められる。<br>  
&nbsp;&nbsp; 症状評価方法は自記式質問紙法と構造化面接法に大別される。一般に自記式質問紙法は簡便であるが診断精度は構造化面接に劣るとされる。一方で、構造化面接はより精度の高い評価が可能であるが、1人の評価に時間を要すること、被面接者の負担が大きいなどの問題がある。このため、目的に応じた使用が求められる。<br>  


==== 自記式質問紙法  ====
==== 自記式質問紙法  ====
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==== トラウマ焦点化認知行動療法  ====
==== トラウマ焦点化認知行動療法  ====
<pre>====トラウマ焦点化認知行動療法====</pre>  
<pre>====トラウマ焦点化認知行動療法====</pre>  
トラウマ焦点化認知行動療法にはPE療法(長時間曝露療法ないし持続エクスポージャー療法と訳されている:prolonged exposure therapy)、認知処理療法(cognitive processing therapy:CPT)、認知療法(cognitive therapy:CT)、子供へのトラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBTと呼称している)などが含まれている。これら代表的なトラウマ焦点化認知行動療法について以下に解説する。  
トラウマ焦点化認知行動療法にはPE療法(長時間曝露療法ないし持続エクスポージャー療法と訳されている:prolonged exposure therapy)、認知処理療法(cognitive processing therapy:CPT)、認知療法(cognitive therapy:CT)、子供へのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBTと呼称している)などが含まれている。これら代表的なトラウマ焦点化認知行動療法について以下に解説する。  


===== PE療法  =====
===== PE療法  =====
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Resikらによって考案されたPTSDに特化した治療で、認知療法の技法に加えて、筆記と朗読による暴露が特徴とされる。レイプ被害者のPTSDを中心にエビデンスが蓄積され、現在はアメリカの復員軍人局でPE療法と共に推奨される治療法となっている。ランダム化比較試験でPE療法と比較して同等の治療効果が確認されている<ref><pubmed>12182270</ref>。  
Resikらによって考案されたPTSDに特化した治療で、認知療法の技法に加えて、筆記と朗読による暴露が特徴とされる。レイプ被害者のPTSDを中心にエビデンスが蓄積され、現在はアメリカの復員軍人局でPE療法と共に推奨される治療法となっている。ランダム化比較試験でPE療法と比較して同等の治療効果が確認されている<ref><pubmed>12182270</ref>。  


===== &nbsp;CT =====
===== &nbsp; 認知療法 =====
<pre>=====CT=====
<pre>=====認知療法=====
</pre>  
</pre>  
Ehlersらが考案した治療法である。週1回90分のセッションを12回実施する方法が標準とされるが、1週間連日集中的に行う方法もある。トラウマ体験の物語作りと想像での再体験を通じて、体験に対して現在では脅威にならない意味づけを与えるなど認知の再構成を重視した治療法である。<br>  
Ehlersらが考案した治療法である。週1回90分のセッションを12回実施する方法が標準とされるが、1週間連日集中的に行う方法もある。トラウマ体験の物語作りと想像での再体験を通じて、体験に対して現在では脅威にならない意味づけを与えるなど認知の再構成を重視した治療法である。<br>  


===== 子供へのトラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)  =====
===== 子供へのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)  =====
<pre>=====子供へのトラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)=====
<pre>=====子供へのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)=====
</pre>  
</pre>  
子供のPTSDに対してエビデンスが最も蓄積されているのがTF-CBTである。これは曝露や対話を通じて記憶や状況などのトラウマ想起刺激に安全下に直面することを促し、また、PTSDの背景に存在している非機能的認知の修正を目指す治療である。心理教育、リラクゼーション、感情の同定と表出、トラウマナラティブ、非機能的認知の修正、親子セッションなどを行う。PE療法と比べてトラウマ記憶への曝露はゆるやかに行うことが特徴とされる。<br>  
子供のPTSDに対してエビデンスが最も蓄積されているのがTF-CBTである。心理教育、リラクゼーション、感情の同定と表出、トラウマナラティブ、非機能的認知の修正、親子セッションなどを行う。PE療法と比べてトラウマ記憶への曝露はゆるやかに行うことが特徴とされる。<br>  


==== EMDR  ====
==== EMDR  ====
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 恐怖条件づけの消去現象とNMDA受容体、GABA受容体、BDNFなど分子レベルの因子と関連があることが知られており、さらにそれらの因子と関連する遺伝子レベルの研究も行われている。しかし、現時点でPTSDに決定的な影響を与える遺伝子は同定されていない。遺伝子研究については[[wikipedia:gene by environment interaction|gene-by-environment interaction]] の観点からも研究がおこなわれており、糖質コルチコイド受容体の関連遺伝子であるFKBP5の4つの多形のうち1つが幼少期の被虐待歴のある者でPTSDのリスクを上昇させるという報告がある<ref><pubmed>18349090</ref>。  
 恐怖条件づけの消去現象とNMDA受容体、GABA受容体、BDNFなど分子レベルの因子と関連があることが知られており、さらにそれらの因子と関連する遺伝子レベルの研究も行われている。しかし、現時点でPTSDに決定的な影響を与える遺伝子は同定されていない。遺伝子研究については[[wikipedia:gene by environment interaction|gene-by-environment interaction]] の観点からも研究がおこなわれており、糖質コルチコイド受容体の関連遺伝子であるFKBP5の4つの多形のうち1つが幼少期の被虐待歴のある者でPTSDのリスクを上昇させるという報告がある<ref><pubmed>18349090</ref>。  
<pre>==関連項目==</pre>  
<pre>==関連項目==</pre>  
&nbsp; 解離性障害、恐怖条件付け
&nbsp; 解離性障害
 
 恐怖条件付け
<pre>==参考文献==</pre>  
<pre>==参考文献==</pre>  
&nbsp; <references />  
&nbsp; <references />  
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