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これまで脂質系[[阻害剤]]と低分子性阻害剤がDHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素阻害剤としていくつか報告されている。脂質系阻害剤では2-ブロモパルミチン酸(2-bromopalmitate; 2-BP)、Cerulenin(2,3-epoxy-4-oxo-7,10-dodecadienoylamide)、[[wikipedia:ja:抗生物質|抗生物質]][[wikipedia:tunicamycin|ツニカマイシン]]が阻害能を示す。特に2-BPはS-パルミトイル化サイクルのターンオーバーの解析などに利用されている。しかし、これらはいずれもDHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素特異的ではなく、脂質代謝系酵素にも影響を及ぼす。近年、脂質ペプチドを用いた''S''-パルミトイルアシル転移酵素阻害剤のハイスループットスクリーニングの確立により、低分子性化合物が5つ報告された。そのうち4つがRasなどのプレニル化タンパク質のパルミトイル化をターゲットとしたもので、''in vivo''において抗腫瘍活性を示した。残りの1つはSrcファミリーなどの''N''-ミリストイル化タンパク質のパルミトイル化をターゲットとしている。詳細は<ref><pubmed>19152182</pubmed></ref>を参考されたい。''S''-パルミトイル化はさまざまな生理・病理現象に関与しているので、''S''-パルミトイル化修飾の阻害剤は次項で示すようなさまざまな疾患の治療薬としても期待できる。 | これまで脂質系[[阻害剤]]と低分子性阻害剤がDHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素阻害剤としていくつか報告されている。脂質系阻害剤では2-ブロモパルミチン酸(2-bromopalmitate; 2-BP)、Cerulenin(2,3-epoxy-4-oxo-7,10-dodecadienoylamide)、[[wikipedia:ja:抗生物質|抗生物質]][[wikipedia:tunicamycin|ツニカマイシン]]が阻害能を示す。特に2-BPはS-パルミトイル化サイクルのターンオーバーの解析などに利用されている。しかし、これらはいずれもDHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素特異的ではなく、脂質代謝系酵素にも影響を及ぼす。近年、脂質ペプチドを用いた''S''-パルミトイルアシル転移酵素阻害剤のハイスループットスクリーニングの確立により、低分子性化合物が5つ報告された。そのうち4つがRasなどのプレニル化タンパク質のパルミトイル化をターゲットとしたもので、''in vivo''において抗腫瘍活性を示した。残りの1つはSrcファミリーなどの''N''-ミリストイル化タンパク質のパルミトイル化をターゲットとしている。詳細は<ref><pubmed>19152182</pubmed></ref>を参考されたい。''S''-パルミトイル化はさまざまな生理・病理現象に関与しているので、''S''-パルミトイル化修飾の阻害剤は次項で示すようなさまざまな疾患の治療薬としても期待できる。 | ||
== | == DHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素と関連疾患 == | ||
表1に示したようにDHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素によりS-パルミトイル化されるタンパク質の機能は多岐にわたり、S-パルミトイル化は細胞の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]維持に欠かせないプロセスである。その一方で、パルミトイル化制御システムの破綻は疾患の引き金になり、その[[wikipedia:ja:表現型|表現型]]も多岐にわたっている。これまでに報告されているDHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素と関連疾患を表2に示す。 | |||
=== 精神神経疾患 === | === 精神神経疾患 === | ||
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==== ハンチントン病 ==== | ==== ハンチントン病 ==== | ||
[[ハンチントン病]](Huntington’s disease)は遺伝性精神神経疾患の一つであり、[[舞踏運動]]を中心とする[[不随意運動]]や[[認知症]]などの精神障害を特徴とする難病である。DHHC17はもともとハンチントン病の原因遺伝子である[[ハンチンティン]] | [[ハンチントン病]](Huntington’s disease)は遺伝性精神神経疾患の一つであり、[[舞踏運動]]を中心とする[[不随意運動]]や[[認知症]]などの精神障害を特徴とする難病である。DHHC17はもともとハンチントン病の原因遺伝子である[[ハンチンティン]]の結合タンパク質のひとつ(HIP14)として同定され、のちにDHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素として分類された。DHHC17/HIP14はHuntingtinをパルミトイル化し、ハンチンティンのパルミトイル化レベルの低下は[[神経毒性]]を誘発することが知られている<ref><pubmed>16699508</pubmed></ref>。 | ||
==== X連鎖精神発達遅滞 ==== | ==== X連鎖精神発達遅滞 ==== | ||
男性に発症する難病である[[X連鎖精神発達遅滞]](X-linked mental | 男性に発症する難病である[[X連鎖精神発達遅滞]](X-linked mental retardation)の関連遺伝子としてDHHC9およびDHHC15が同定されているが、これらDHHCファミリー''S''-パルミトイルアシル転移酵素の基質と病態の関連については、まだ明らかになっていない。 | ||
=== 癌 === | === 癌 === | ||
[[wikipedia:ja:癌遺伝子|癌遺伝子]]として知られるSrcキナーゼファミリーや低分子Gタンパク質Rasの機能は''S''-パルミトイル化により制御されている。そのためSrcファミリーやRasの過剰な''S''-パルミトイル化は[[wikipedia:ja:細胞増殖|細胞増殖]]や[[wikipedia:ja:細胞運動|細胞運動]]の秩序を破綻させうると考えられる。DHHC2、DHHC9、DHHC11、DHHC17がある種の癌と関連することが示されているが、その病態機構は明らかではない。 | [[wikipedia:ja:癌遺伝子|癌遺伝子]]として知られるSrcキナーゼファミリーや低分子Gタンパク質Rasの機能は''S''-パルミトイル化により制御されている。そのためSrcファミリーやRasの過剰な''S''-パルミトイル化は[[wikipedia:ja:細胞増殖|細胞増殖]]や[[wikipedia:ja:細胞運動|細胞運動]]の秩序を破綻させうると考えられる。DHHC2、DHHC9、DHHC11、DHHC17がある種の癌と関連することが示されているが、その病態機構は明らかではない。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |