「共同注意」の版間の差分

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==共同注意の種類==
==共同注意の種類==
 共同注意は、その行為の受け手と出し手の観点から、共同注意への応答 (Responding to Joint Attention; RJA)と共同注意の開始(Initiating Joint Attention; IJA)に分けられる<ref><pubmed>19343102</pubmed></ref>。共同注意への応答は、受け手の行動、つまり、対象となるものを共有するために他者の視線やジェスチャーの方向を追従する能力を指し、共同注意の開始は、出し手の行動、つまり、他者の注意を物体・出来事・出し手本人へ注意を向けるためのジェスチャーやアイコンタクトの使用を指す。
 共同注意は、その行為の受け手と出し手の観点から、共同注意への応答 (Responding to Joint Attention; RJA)と共同注意の開始(Initiating Joint Attention; IJA)に分けられる<ref><pubmed>19343102</pubmed></ref>。共同注意への応答は、受け手の行動、つまり、対象となるものを共有するために他者の視線やジェスチャーの方向を追従する能力を指し、共同注意の開始は、出し手の行動、つまり、他者の注意を物体・出来事・出し手本人へ注意を向けるためのジェスチャーやアイコンタクトの使用を指す。
 また、共同注意は、その行動の動機づけに基づき、命令的共同注意(imperative joint attention)と叙述的共同注意(declarative joint attention)に分けられる<ref>'''E Bates, L Camaioni, V Volterra'''<br>The acquisition of performatives prior to speech.<br>''Merrill-Palmer Quart.'':1975, 21;205–226</ref>。命令的共同注意は、自分が欲しいものを他者に伝えようとする要求の指差しなどの行動である(例:手の届かない食べ物を指差す)。叙述的共同注意は、自分が他者に見てもらいたいものを他者に伝えようとする叙述の指差しなどの行動である(例:遠くを飛んでいる飛行機を指差す)。Mundyら<ref name=ref2>'''P Mundy, M Sigman, C Kasari'''<br> The theory of mind and joint-attention deficits in autism.<br>In S Baron-Cohen, H Tager-Flusberg, DJ Cohen (Eds.), Understanding other minds: Perspectives from Autism.<br>''Oxford: Oxford University Press'':1993, pp.181–203</ref>によれば、叙述的共同注意は命令的共同注意に比べ、相手の心的状態の推測をより必要とすることから高度な社会的認知能力が関わると考えられている。それに関連して、乳児を対象とした実証研究では、社会的認知能力と叙述の指差しの行動頻度が関連するものの要求の指差しには関連が見られないということが報告されている<ref>'''L Camaioni, P Perucchini, F Bellagamba, C Colonnesi'''<br>The role of declarative pointing in developing a theory of mind.<br>''Infancy'':2004, 5;291–308</ref>。最近では、同様の意味で、より分かりやすく、命令的に代わり要求(requestive)、叙述的に代わり共有(sharing)という用語も使われている<ref><pubmed>21159088</pubmed></ref>。
 また、共同注意は、その行動の動機づけに基づき、命令的共同注意(imperative joint attention)と叙述的共同注意(declarative joint attention)に分けられる<ref>'''E Bates, L Camaioni, V Volterra'''<br>The acquisition of performatives prior to speech.<br>''Merrill-Palmer Quart.'':1975, 21;205–226</ref>。命令的共同注意は、自分が欲しいものを他者に伝えようとする要求の指差しなどの行動である(例:手の届かない食べ物を指差す)。叙述的共同注意は、自分が他者に見てもらいたいものを他者に伝えようとする叙述の指差しなどの行動である(例:遠くを飛んでいる飛行機を指差す)。Mundyら<ref name=ref2>'''P Mundy, M Sigman, C Kasari'''<br> The theory of mind and joint-attention deficits in autism.<br>In S Baron-Cohen, H Tager-Flusberg, DJ Cohen (Eds.), Understanding other minds: Perspectives from Autism.<br>''Oxford: Oxford University Press'':1993, pp.181–203</ref>によれば、叙述的共同注意は命令的共同注意に比べ、相手の心的状態の推測をより必要とすることから高度な社会的認知能力が関わると考えられている。それに関連して、乳児を対象とした実証研究では、社会的認知能力と叙述の指差しの行動頻度が関連するものの要求の指差しには関連が見られないということが報告されている<ref>'''L Camaioni, P Perucchini, F Bellagamba, C Colonnesi'''<br>The role of declarative pointing in developing a theory of mind.<br>''Infancy'':2004, 5;291–308</ref>。最近では、同様の意味で、より分かりやすく、命令的に代わり要求(requestive)、叙述的に代わり共有(sharing)という用語も使われている<ref><pubmed>21159088</pubmed></ref>。


==共同注意の障害==
==共同注意の障害==
 社会性・コミュニケーションに困難を抱える[[自閉症スペクトラム障害]]を持つ者では、共同注意にも困難を抱えることが示されており、特に、命令的共同注意ではなく、叙述的共同注意の出現が遅れる、または、見られないということが報告されている<ref><pubmed>690064</pubmed></ref><ref name=ref2 />。また、最近では、共同注意の開始は[[自閉症]]の障害特性として明確に見られるものの、共同注意への応答の障害は自閉症特異的か自閉症全般に見られるかについて議論がある<ref>'''P Mundy'''<br> The Social behavior of autism: A parallel and distributed information processing perspective.<br>In DG Amaral, G Dawson, DH Geschwind (Eds.), [[Autism Spectrum Disorders|Autism spectrum disorders]].<br>''Oxford: Oxford University Press'':2011, pp.149–171</ref>。
 社会性・コミュニケーションに困難を抱える[[自閉症スペクトラム障害]]を持つ者では、共同注意にも困難を抱えることが示されており、特に、命令的共同注意ではなく、叙述的共同注意の出現が遅れる、または、見られないということが報告されている<ref><pubmed>690064</pubmed></ref><ref name=ref2 />。また、最近では、共同注意の開始は[[自閉症スペクトラム障害]]の障害特性として明確に見られるものの、共同注意への応答の障害は自閉症スペクトラム障害特異的か全般に見られるかについて議論がある<ref>'''P Mundy'''<br> The Social behavior of autism: A parallel and distributed information processing perspective.<br>In DG Amaral, G Dawson, DH Geschwind (Eds.), [[Autism Spectrum Disorders|Autism spectrum disorders]].<br>''Oxford: Oxford University Press'':2011, pp.149–171</ref>。


==共同注意の神経基盤==
==共同注意の神経基盤==
RedcayとSaxe<ref name=ref1>によると、共同注意には以下のような脳部位が関与するとされている。背内側[[前頭前野]]は共同注意の相手の存在の知覚、右後部上側頭溝は他者の注意の移動の検出、右下前頭回・右中前頭回・側頭頭頂接合部の一領域を含む腹側前頭頭頂ネットワークは自身の反射的な注意の移動、前頭眼野と頭頂間溝を含む背外側前頭頭頂ネットワークは自身の随意的な注意の移動を担うとされる。特に、内側前頭前野と後部上側頭溝は、人が実際に他者とあるものに対して注意を共有している時に働くとされ、共同注意を担う中心領域であるとされている。
RedcayとSaxe<ref name=ref1 />によると、共同注意には以下のような脳部位が関与するとされている。背内側[[前頭前野]]は共同注意の相手の存在の知覚、右後部上側頭溝は他者の注意の移動の検出、右下前頭回・右中前頭回・側頭頭頂接合部の一領域を含む腹側前頭頭頂ネットワークは自身の反射的な注意の移動、前頭眼野と頭頂間溝を含む背外側前頭頭頂ネットワークは自身の随意的な注意の移動を担うとされる。特に、内側前頭前野と後部上側頭溝は、人が実際に他者とあるものに対して注意を共有している時に働くとされ、共同注意を担う中心領域であるとされている。
神経基盤に関する研究では、現段階では、圧倒的に大人を対象としたものが多く、発達段階の乳児を対象としたものは少ない。今後、更なる実証研究とモデルの検証が求められる。
 
 


<references/>
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