「前補足運動野」の版間の差分

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 習慣化・ルーチン化した動作は半ば[[無意識]]のうちに自動的に実行される。例えば年が明けて間もない頃、日付を書こうとして何気なく去年の年を書いてしまうといった経験は誰にでもあろう。それに対して、状況の変化に応じて適切な動作を選択・実行するためには、状況がどのように変化したかという[[認知]]、変化した状況においてどのような行動が適切かという判断、その結果選んだ行動の実行というより意識的な一連のプロセスを必要とする(例.海外で運転する際に右側通行に切り換えるなど)。 前補足運動野や[[吻側帯状皮質運動野]]はこうした柔軟な[[行動の切り替え]]に深く関わっており、これらの領域からは動物がルーチン化した運動を行っているときには活動せず、運動を切り替える時に限って活動するニューロンが発見されている<ref><pubmed>8899607</pubmed></ref><ref><pubmed>8710933</pubmed></ref><ref name="Nakamura1998"><pubmed>9819272</pubmed></ref><ref><pubmed>17237780</pubmed></ref>。一方こうしたニューロンは補足運動野、尾側帯状皮質運動野では乏しく一次運動野では見つかっていない。前述のように前補足運動野は前頭前野から豊富な入力を受け取っているが、前頭前野の破壊によって状況の変化に適応できない硬直した行動パターンが生じることが明らかにされており、適応行動にこれらの領域からなるネットワークが関与していると見られる<ref><pubmed>11976394</pubmed></ref>。  
 習慣化・ルーチン化した動作は半ば[[無意識]]のうちに自動的に実行される。例えば年が明けて間もない頃、日付を書こうとして何気なく去年の年を書いてしまうといった経験は誰にでもあろう。それに対して、状況の変化に応じて適切な動作を選択・実行するためには、状況がどのように変化したかという[[認知]]、変化した状況においてどのような行動が適切かという判断、その結果選んだ行動の実行というより意識的な一連のプロセスを必要とする(例.海外で運転する際に右側通行に切り換えるなど)。 前補足運動野や[[吻側帯状皮質運動野]]はこうした柔軟な[[行動の切り替え]]に深く関わっており、これらの領域からは動物がルーチン化した運動を行っているときには活動せず、運動を切り替える時に限って活動するニューロンが発見されている<ref><pubmed>8899607</pubmed></ref><ref><pubmed>8710933</pubmed></ref><ref name="Nakamura1998"><pubmed>9819272</pubmed></ref><ref><pubmed>17237780</pubmed></ref>。一方こうしたニューロンは補足運動野、尾側帯状皮質運動野では乏しく一次運動野では見つかっていない。前述のように前補足運動野は前頭前野から豊富な入力を受け取っているが、前頭前野の破壊によって状況の変化に適応できない硬直した行動パターンが生じることが明らかにされており、適応行動にこれらの領域からなるネットワークが関与していると見られる<ref><pubmed>11976394</pubmed></ref>。  


=== 手続き学習procedural learning ===
=== 手続き学習===
Procedural learning


 日常生活において我々は多数の動作からなる複雑な動作を、個々の要素的動作を特に意識することも無く半ば無意識のうちに実行している(例、書字、タイピング等)。多くの場合これらの複雑な連続動作は生得的に備わっているものではなく、繰り返し実行する事によって獲得したスキル、つまり[[手続き記憶]]の一種である。前補足運動野は[[手続き学習]]のうち、連続動作の新規学習に関わっていると考えられている。こうした見方を裏付ける根拠として連続動作の学習初期に前補足運動野の血流量が増大すること<ref><pubmed>8836248</pubmed></ref><ref><pubmed>9465007</pubmed></ref><ref><pubmed>10234047</pubmed></ref><ref><pubmed>15852385</pubmed></ref>、前補足運動野のニューロンは新しい運動シークエンスを与えられた時に活動が増強する一方、動物が動作の実行に習熟するに従って活動が減弱すること<ref name="Nakamura1998" />、および連続動作学習初期には[https://ja.wikipedia.org/wiki/ムッシモール ムシモール]([[GABA受容体|GABAa受容体]]作動薬)注入による前補足運動野の機能ブロックによって動作の順序を間違え易くなる一方、既に習熟した動作の実行には影響を及ぼさないこと<ref><pubmed>10444698</pubmed></ref>等が挙げられる。これらの所見は補足運動野には当てはまらず、両領野間の[[機能局在]]が見られる。
 日常生活において我々は多数の動作からなる複雑な動作を、個々の要素的動作を特に意識することも無く半ば無意識のうちに実行している(例、書字、タイピング等)。多くの場合これらの複雑な連続動作は生得的に備わっているものではなく、繰り返し実行する事によって獲得したスキル、つまり[[手続き記憶]]の一種である。前補足運動野は[[手続き学習]]のうち、連続動作の新規学習に関わっていると考えられている。こうした見方を裏付ける根拠として連続動作の学習初期に前補足運動野の血流量が増大すること<ref><pubmed>8836248</pubmed></ref><ref><pubmed>9465007</pubmed></ref><ref><pubmed>10234047</pubmed></ref><ref><pubmed>15852385</pubmed></ref>、前補足運動野のニューロンは新しい運動シークエンスを与えられた時に活動が増強する一方、動物が動作の実行に習熟するに従って活動が減弱すること<ref name="Nakamura1998" />、および連続動作学習初期には[[ムシモール]]([[GABA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]][[作動薬]])注入による前補足運動野の機能ブロックによって動作の順序を間違え易くなる一方、既に習熟した動作の実行には影響を及ぼさないこと<ref><pubmed>10444698</pubmed></ref>等が挙げられる。これらの所見は補足運動野には当てはまらず、両領野間の[[機能局在]]が見られる。


=== 動作の時間的順序のコントロール ===
=== 動作の時間的順序のコントロール ===

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