「塩素チャネル」の版間の差分

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== 細胞容積感受性塩素チャネル  ==
== 細胞容積感受性塩素チャネル  ==


 典型的には細胞容積の増大に伴い開口する塩素チャネルである。神経系の細胞を含む、あらゆる細胞種で容積増大により最も多く活性化されるのが、細胞容積感受性外向整流性アニオンチャネル(volume-sensitive outwardly rectifying anion channel; VSOR)と呼ばれるものであるが、その分子実体はまだ解明されていない<ref name="ref5"><pubmed>19171657</pubmed></ref>。
 典型的には細胞容積の増大に伴い開口する塩素チャネルである。神経系の細胞を含む、あらゆる細胞種で容積増大により最も多く活性化されるのが、細胞容積感受性外向整流性アニオンチャネル(volume-sensitive outwardly rectifying anion channel; VSOR)と呼ばれるものである。その分子実体は長らく解明されていなかったが<ref name="ref5"><pubmed>19171657</pubmed></ref>、近年ロイシンリッチリピート配列を持つLRRC8Aが不可欠な分子要素であることが報告された<ref><pubmed> 24725410 </pubmed></ref><ref><pubmed> 24790029 </pubmed></ref>。但し、LRRC8Aがポア構造を持つチャネル本体なのか、あるいはそれに付随する制御蛋白なのか否かについては、まだ解明されていない<ref name="refTO"><pubmed> 24937753 </pubmed></ref>。


 その他、マキシアニオンチャネル(maxi-anion channel)<ref name="ref6"><pubmed>19340557</pubmed></ref>と呼ばれるものや、上述のClC-2、Best1も容積感受性があることが知られている。  
 その他、マキシアニオンチャネル(maxi-anion channel)<ref name="ref6"><pubmed>19340557</pubmed></ref>と呼ばれるものや、上述のClC-2、Best1も容積感受性があることが知られている。  
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=== 構造 ===
=== 構造 ===


 細胞容積感受性塩素チャネルとして代表的なVSORやマキシアニオンチャネルの分子実体は未だ明らかになっていないが、様々な大きさの[[ポリエチレングリコール]]によるチャネル電流の抑制程度の検討から、それぞれのポアの内径が約0.6 nm、1.3 nmと推定されている<ref name="ref6" /><ref name="ref9"><pubmed>15498575</pubmed></ref>。このことはVSORがグルタミン酸(分子径~0.35 nm)透過性を持つこと、マキシアニオンチャネルが[[ATP]](~0.65 nm)透過性を持つことと合致する。  
 細胞容積感受性塩素チャネル(VRAC)として代表的なVSORやマキシアニオンチャネルの分子実体は未だ明らかになっていないが、様々な大きさの[[ポリエチレングリコール]]によるチャネル電流の抑制程度の検討から、それぞれのポアの内径が約0.6 nm、1.3 nmと推定されている<ref name="ref6" /><ref name="ref9"><pubmed>15498575</pubmed></ref>。このことはVSORがグルタミン酸(分子径~0.35 nm)透過性を持つこと、マキシアニオンチャネルが[[ATP]](~0.65 nm)透過性を持つことと合致する。  


=== 発現 ===
=== 発現 ===


 責任分子が未同定であるVSORやマキシアニオンチャネルについて、その発現をmRNAやタンパク質の検出により確認することは現時点では不能だが、機能的には細胞に低浸透圧負荷を与えて膨張させることにより、少なくともVSORについては、その活性は神経、グリア双方で確実に観測される<ref name="ref5" />。マキシアニオンチャネルについても、神経、グリア双方でその活性は報告されているが、低浸透圧負荷の場合はVSOR活性の方が圧倒的に優勢なため、明瞭な観測には予めVSOR活性化を阻害剤で抑制しておく必要がある<ref name="ref6" />。  
 近年不可欠な分子要素が同定されたばかりのVSORや、まだ責任分子が同定されていないマキシアニオンチャネルについて、それらのmRNA及びタンパク質の神経系での発現分布はまだ確認されていないが、機能的には細胞に低浸透圧負荷を与えて膨張させることにより、少なくともVSORについては、その活性は神経、グリア双方で確実に観測される<ref name="ref5" /><ref name="refTO" />。マキシアニオンチャネルについても、神経、グリア双方でその活性は報告されているが、低浸透圧負荷の場合はVSOR活性の方が圧倒的に優勢なため、明瞭な観測には予めVSOR活性化を阻害剤で抑制しておく必要がある<ref name="ref6" />。  


=== 機能 ===
=== 機能 ===


 細胞膨張時の細胞容積感受性塩素チャネル活性化の主たる役割は、細胞内Cl<sup>–</sup>の流出を促して細胞内浸透圧を減少させることにより、細胞容積を元の大きさに戻すこと(調節性容積減少; regulatory volume decrease; RVD)である。但し、その達成にはK<sup>+</sup>流出も同時に起こって電気的中性が保たれることで、持続的な正味の溶質(KCl)の流出が起こる必要がある。生理的範囲の神経活動においても、高頻度神経発火中は神経細胞内に向かって正味NaClの流入が起こり、また活動電位の再分極中に神経から放出されたK<sup>+</sup>がCl<sup>–</sup>とともに隣接するアストログリアに流入することで、双方の細胞とも膨張しうるが、細胞容積感受性塩素チャネルはそれらの膨張の緩和及び容積の復旧に関わると考えられる。
 細胞膨張時の細胞容積感受性塩素チャネル活性化の主たる役割は、細胞内Cl<sup>–</sup>の流出を促して細胞内浸透圧を減少させることにより、細胞容積を元の大きさに戻すこと(調節性容積減少; regulatory volume decrease; RVD)である。但し、その達成にはK<sup>+</sup>流出も同時に起こって電気的中性が保たれることで、持続的な正味の溶質(KCl)の流出が起こる必要がある。生理的範囲の神経活動においても、高頻度神経発火中は神経細胞内に向かって正味NaClの流入が起こり、また活動電位の再分極中に神経から放出されたK<sup>+</sup>がCl<sup>–</sup>とともに隣接するアストログリアに流入することで、双方の細胞とも膨張しうるが、細胞容積感受性塩素チャネルはそれらの膨張の緩和及び容積の復旧に関わると考えられる<ref name="refTO" />。


 VSORは細胞膨張時のみならず、種々の[[受容体]]刺激を通じて細胞膨張を伴わずに活性化されうることが知られている。その場合は同様に細胞内溶質が流出することにより、細胞容積の縮小が誘起される。この機序はアポトーシスの必要条件となっていることが知られている<ref name="ref5" />。また、近年この受容体刺激を介するVSOR活性化は、1細胞上で局所的に誘導されうることが判明し<ref name="ref18"><pubmed>21690189</pubmed></ref>、VSOR活性化が局所的な容積調節を伴う細胞の形態変化や移動を駆動する役割を持つことも示唆されている。
 VSORは細胞膨張時のみならず、種々の[[受容体]]刺激を通じて細胞膨張を伴わずに活性化されうることが知られている。その場合は同様に細胞内溶質が流出することにより、細胞容積の縮小が誘起される。この機序はアポトーシスの必要条件となっていることが知られている<ref name="ref5" />。また、近年この受容体刺激を介するVSOR活性化は、1細胞上で局所的に誘導されうることが判明し<ref name="ref18"><pubmed>21690189</pubmed></ref>、VSOR活性化が局所的な容積調節を伴う細胞の形態変化や移動を駆動する役割を持つことも示唆されている<ref name="refTO" />。


 また、VSORはグルタミン酸、マキシアニオンチャネルはグルタミン酸及びATPに対する透過性を持つことから、これらは細胞間情報伝達にも寄与しうることが知られている<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。  
 また、VSORはグルタミン酸、マキシアニオンチャネルはグルタミン酸及びATPに対する透過性を持つことから、これらは細胞間情報伝達にも寄与しうることが知られている<ref name="ref5" /><ref name="refTO" /><ref name="ref6" />。  


===疾患との関連===
===疾患との関連===


 虚血性脳血管障害における過興奮性毒性(excitotoxicity)をもたらすグルタミン酸の大部分は、アストログリアからのVSORを介する放出によるものであることが知られている<ref name="ref5" />。従って、脳浮腫軽減のための高浸透圧負荷は、VSOR活性化の抑制を通じて過興奮性毒性を軽減する意義もある。また、同障害時の細胞間ATPシグナリングにおいて、マキシアニオンチャネルはそのATPの放出経路の一端を担うことが示されている<ref name="ref6" />。<br>
 虚血性脳血管障害における過興奮性毒性(excitotoxicity)をもたらすグルタミン酸の大部分は、アストログリアからのVSORを介する放出によるものであることが知られている<ref name="ref5" /><ref name="refTO" />。従って、脳浮腫軽減のための高浸透圧負荷は、VSOR活性化の抑制を通じて過興奮性毒性を軽減する意義もある。また、同障害時の細胞間ATPシグナリングにおいて、マキシアニオンチャネルはそのATPの放出経路の一端を担うことが示されている<ref name="ref6" />。<br>
 また、悪性腫瘍細胞は、その組織への浸潤の際に細胞容積がダイナミックに変化しており、VSORを始めとする細胞容積感受性塩素チャネルの活性化がその容積変化を駆動していることが、例えばグリオーマ細胞で示されている<ref name="ref19"><pubmed>11567057</pubmed></ref><ref name="ref20"><pubmed>22114291</pubmed></ref>。
 また、悪性腫瘍細胞は、その組織への浸潤の際に細胞容積がダイナミックに変化しており、VSORを始めとする細胞容積感受性塩素チャネルの活性化がその容積変化を駆動していることが、例えばグリオーマ細胞で示されている<ref name="ref19"><pubmed>11567057</pubmed></ref><ref name="ref20"><pubmed>22114291</pubmed></ref>。


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