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英語名:personality disorder 独:Persönlichkeitsstörung 仏:trouble de la personnalité | 英語名:personality disorder 独:Persönlichkeitsstörung 仏:trouble de la personnalité | ||
{{box|text= | {{box|text= パーソナリティ障害は、広い範囲の(特定の要素に限定されない)精神機能の障害であり、社会適応の困難や主観的苦痛を伴う認知・行動のパターンを示す精神障害である。基本特性としては、その認知・行動の特徴に一般人口との間に連続性があること、他の精神障害との診断合併が多いこと、比較的持続的であるけれども、変化(改善)可能性が十分あることなどが挙げられる。この精神障害については近年、生物学的研究が広い範囲で行われており、多くの新しい知見がもたらされている。また、治療でも認知行動療法を中心として多くの治療法が開発されている。今後、パーソナリティ障害についての研究や治療の活動をわが国で定着させる努力が必要である。}} | ||
==はじめに== | ==はじめに== | ||
パーソナリティ障害概念の起源は、19世紀初頭から提唱されてきた、明らかな幻覚妄想や気分障害の症状がないにもかかわらず、顕著な認知・行動の障害を示す一群の人々を捉える精神医学的概念に求めることができる。現在でも、それは、非行や自傷行為・自殺未遂などの問題行動やひきこもりを理解する上で欠かすことができない概念であり、さらに物質関連障害や気分障害などの他の精神障害の成因・病態や治療を考える際にも考慮に加えられるべきものである。しかし他の主要な精神障害に比較すると、特異的な症状に乏しく、治療反応性が高くないと考えられていたために、急ピッチで病態論や治療法の研究が進められるようになったのは、ようやく近年になってからであった。しかし最近では、診断、病態についての新知見が続々と明らかにされており、その概念を巡る議論も活発になっている。この流れの中でパーソナリティ障害の概念は、ここ数年で、大きく変化してきており、今後も変貌することが見込まれている。それゆえ、本項目では、まず、その概念の歴史を概説した後に、その概念の現状を示し、次いでパーソナリティ障害の定義や診断、基本的特徴、病因論や病態論、治療の現状について記すこととする。 | |||
==概念についての歴史的概観== | ==概念についての歴史的概観== | ||
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===DSM-III以前=== | ===DSM-III以前=== | ||
<ref | Millon, T.<ref>M'''illon T.''' <br>Disorders of Personality: Introducing a DSM/ICD Spectrum from Normal to Abnormal. 3rd ed. <br>New York: ''Wiley & Sons''; 2011.</ref>の著作によると、現代的なパーソナリティ障害に該当すると考えられる精神医学的概念が提唱されるようになったのは19世紀初頭であった。もっとも初期のものの代表は、Pinel、 P.による激しい怒りの発作などの病的行動の背後に幻覚・妄想や気分症状がないことを特徴とする症例の記述であった。その後も、伝統的な精神障害が背景にないにもかかわらず、顕著な認知・行動の異常を示すさまざまなタイプの症例の記述が蓄積されていった。 | ||
パーソナリティ障害の病態を初めて独自の精神病理として積極的に(~ではないという否定文によってでなく)定義したのは[[wj:クルト・シュナイダー|Schneider, K.]]であった<ref name=ref2>'''Schneider K.'''<br>Die Psychopathischen Persönlichkeiten.<br>''Wien: Franz Deuticke''; 1923<br>'''懸田克躬他訳'''<br>精神病質人格<br>''みすず書房''、 東京、 1954</ref>。彼はまず、その上位概念となる異常パーソナリティ(abnorme Persönlichkeit)を平均的なパーソナリティからの変異として規定し、さらに精神病質パーソナリティを異常パーソナリティの一部として「そのパーソナリティの異常さのゆえに自らが悩む(leiden)か、または、社会が苦しむ(を苦しませる(stören))異常」であると定義した。 | |||
パーソナリティ障害はその後、[[wj:世界保健機構|世界保健機構]](World Health Organization (WHO))の国際疾病分類第6版(The international classification of diseases, 6th revision (ICD-6))(1948)や、APAのDSM-I (1952)以降、当時広く使われていたパーソナリティ障害のタイプを包括する診断として取り上げられるようになった。 | パーソナリティ障害はその後、[[wj:世界保健機構|世界保健機構]](World Health Organization (WHO))の国際疾病分類第6版(The international classification of diseases, 6th revision (ICD-6))(1948)や、APAのDSM-I (1952)以降、当時広く使われていたパーソナリティ障害のタイプを包括する診断として取り上げられるようになった。 |