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<font size="+1">[http://researchmap.jp/N-Hayashi55 林 直樹]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/N-Hayashi55 林 直樹]</font><br> | ||
''帝京大学医学部精神神経科学教室''<br> | ''帝京大学医学部精神神経科学教室''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年6月20日 原稿完成日:2016年8月3日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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==はじめに== | ==はじめに== | ||
パーソナリティ障害概念の起源は、19世紀初頭から提唱されてきた、明らかな[[幻覚]][[妄想]]や[[気分障害]]の症状がないにもかかわらず、顕著な[[認知]]・[[行動障害|行動]]の障害を示す一群の人々を捉える[[精神医学]]的概念に求めることができる。 | |||
現在でも、それは、[[非行]]や[[自傷行為]]・[[自殺未遂]]などの問題行動やひきこもりを理解する上で欠かすことができない概念であり、さらに[[物質使用障害|物質関連障害]]や気分障害などの他の精神障害の成因・病態や治療を考える際にも考慮に加えられるべきものである。 | |||
しかし他の主要な[[精神障害]]に比較すると、特異的な症状に乏しく、治療反応性が高くないと考えられていたために、急ピッチで病態論や治療法の研究が進められるようになったのは、ようやく近年になってからであった。最近では、診断、病態についての新知見が続々と明らかにされており、その概念を巡る議論も活発になっている。この流れの中でパーソナリティ障害の概念は、ここ数年で、大きく変化してきており、今後も変貌することが見込まれている。 | |||
それゆえ、本項目では、まず、その概念の歴史を概説した後に、その概念の現状を示し、次いでパーソナリティ障害の定義や診断、基本的特徴、病因論や病態論、治療の現状について記すこととする。 | |||
==概念についての歴史的概観== | ==概念についての歴史的概観== | ||
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この'''表4'''に見られるように、例えば、反社会性パーソナリティ障害は対立と脱抑制というように、パーソナリティ障害タイプのそれぞれは、5種の病的パーソナリティ特性の高低によって特徴づけられる。 | |||
==疫学== | ==疫学== | ||
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===生育環境・社会文化的要因=== | ===生育環境・社会文化的要因=== | ||
パーソナリティ障害の成り立ちにおいては、発達過程や生育環境も重視されなければならない。例えば、境界性、反社会性パーソナリティ障害では、劣悪な養育環境(発達期の虐待、貧困や施設での生育など)が発生要因として関与していると考えられている。1990年代には、境界性パーソナリティ障害の生育史(虐待、親子関係)についての[[後方視的研究]]が行われ、養育環境要因の確認が進められた<ref name=ref10>''' | パーソナリティ障害の成り立ちにおいては、発達過程や生育環境も重視されなければならない。例えば、境界性、反社会性パーソナリティ障害では、劣悪な養育環境(発達期の虐待、貧困や施設での生育など)が発生要因として関与していると考えられている。1990年代には、境界性パーソナリティ障害の生育史(虐待、親子関係)についての[[後方視的研究]]が行われ、養育環境要因の確認が進められた<ref name=ref10>'''Gunderson JG.'''<br>Borderline personality disorder: A clinical guide. <br>''Washington、 D. C.: American Psychiatric Publishing''; 2001. <br>黒田章史訳 <br>境界性パーソナリティ障害 クリニカル・ガイド<br>''金剛出版、東京''、2006</ref>。 | ||
パーソナリティ障害は、特に社会文化的要因の影響を受けやすいと考えられている。例えば、境界性パーソナリティ障害の増加は繰り返し指摘されてきたが、その原因は社会文化的な影響によるものと考えられている。 | パーソナリティ障害は、特に社会文化的要因の影響を受けやすいと考えられている。例えば、境界性パーソナリティ障害の増加は繰り返し指摘されてきたが、その原因は社会文化的な影響によるものと考えられている。 | ||
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次に効果が実証されたのは、英国のBateman, A. & Fonagy, P.が開発した[[メンタライゼーション療法]] (Mentalisation-based treatment (MBT))<ref name=ref12>'''Bateman A、 Fonagy P.''' <br>Psychotherapy for borderline personality disorder: Mentalization-based treatment. <br>''New York: Oxford University Press USA''; 2004. <br>狩野力八郎、白波瀬丈一郎訳 <br>メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害―MBTが拓く精神分析的精神療法の新たな展開<br>''岩崎学術出版社、東京''、2008</ref>である。その治療の目標は、メンタライゼーション(自分やまわりの人の行動がその考えや気持ちといった心理的過程から起こることを理解する能力)を高めることである。MBTでは、さまざまな対人関係や出来事の体験から自分自身の心理状態を理解し、自分や他者の行動についての学びを深める訓練が行われる。 | 次に効果が実証されたのは、英国のBateman, A. & Fonagy, P.が開発した[[メンタライゼーション療法]] (Mentalisation-based treatment (MBT))<ref name=ref12>'''Bateman A、 Fonagy P.''' <br>Psychotherapy for borderline personality disorder: Mentalization-based treatment. <br>''New York: Oxford University Press USA''; 2004. <br>狩野力八郎、白波瀬丈一郎訳 <br>メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害―MBTが拓く精神分析的精神療法の新たな展開<br>''岩崎学術出版社、東京''、2008</ref>である。その治療の目標は、メンタライゼーション(自分やまわりの人の行動がその考えや気持ちといった心理的過程から起こることを理解する能力)を高めることである。MBTでは、さまざまな対人関係や出来事の体験から自分自身の心理状態を理解し、自分や他者の行動についての学びを深める訓練が行われる。 | ||
その後、2000年代には、Young, J.の[[スキーマ療法]]、Clarkin, J.らの[[転移]] | その後、2000年代には、Young, J.の[[スキーマ療法]]、Clarkin, J.らの[[転移]]に焦点づけられた精神分析的治療などのプログラムの効果研究が実施され、十分な効果があることが実証されている<ref>'''Paris J.'''<br>Treatment of borderline personality disorder: A guide to evidence-based practice. <br>''New York: The Guilford Press''; 2008. <br>黒田章史訳 <br>境界性パーソナリティ障害の治療-エピデンスに基づく治療方針<br>''金剛出版、東京''、2014</ref>。これらの治療では、自傷行為や自殺未遂といった境界性パーソナリティ障害の症状を大幅に軽減させることが確認されている。 | ||
====地域における対応、治療==== | ====地域における対応、治療==== |