「空間記憶」の版間の差分

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<u>(編集部コメント:「〜を解説する」という表現は避け、具体的な抄録をお願いします。)</u>
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==空間記憶とは==
==空間記憶とは==
 空間記憶は、目的のものを探す、目的地へ向かう、家に戻るなど、我々の日常生活の至る場面で駆動する記憶である。我々は通常は特別な努力なく空間的な定位や移動を行っているが、広く動物にとって空間記憶は水や餌の場所、危険な場所の情報を得て生命活動を維持するために必要不可欠な機能である。空間とは何かについての哲学的論争において、カントは「空間」は生得的に人間の感性にそなわった主観的な形式であると主張した。一方、デカルトは「空間」とは物体が存在する場所そのものであるから、物体がなくなれば空間が消失する。心理学者Tolmanの「空間」の位置づけは、経験主義という点においてこれらと対立するものであったが、空間についての高次の知識である物体の配置に関する知識は主観的に認知された空間レイアウトであり、物体と物体の地理的な相対関係を想定している点において両者と相反するものではない。空間記憶研究は、空間が絶対的なものであるか相対的なものであるかについての哲学的議論を離れ、主にTolmanによる空間レイアウトの考えの発展形である認知地図理論をベースとして、その神経基盤の解明が進んできた。


<u>(編集部コメント:イントロですので、認知地図ではなく、空間記憶についてのご解説をお願いします。空間記憶の概念の形成に至るまでの研究の歴史や、重要性などについてお願いいたします。)</u>
==認知地図==
Tolman<ref><pubmed>18870876</pubmed></ref>は、動物の空間行動を「認知地図」という概念によって説明した。これは、動物が空間内を移動するとき、その空間の地図のイメージを描いて、[[餌探し行動]]や[[危険回避行動]]をするという考えである。[[認知地図]]に基づく行動は、環境内にある複数の刺激の空間的関係性と、複数の刺激と出来事との関係性の構築によって実行される。


 認知地図以前の単純な[[S-R理論]]では、刺激を与えられても行動が実行されない場合や行動しても刺激が与えられない場合には学習が生じないと考えられてきた。しかし、台車に載せての受動的な移動<ref><pubmed>13376757</pubmed></ref>や、ゴール地点において[[報酬]]を与えられない移動<ref>'''Tolman,E.C. & Honzik, C. H.'''<br>Introduction and removal of reward, and maze performance in rats<br>''University of California Publications in Psychology.'':1930,4;257–275</ref>によっても潜在的な学習が生じているという実験的証拠が得られ、それまでの単純なS-R理論で説明することができなかった空間行動は認知地図の概念によって説明された。後の[[場所細胞]]の発見は、脳内に認知地図が存在することを示す有力な実験的証拠となった。Wilson & McNaughton<ref name=ref01><pubmed>8351520 </pubmed></ref>の研究は、環境内に明確なゴール地点が設定されていないフィールドを[[ラット]]に探索させた時にも、場所に対応した神経発火が5分程度で形成されることを報告している。したがって、認知地図は報酬と行動との関係とは別に、動物が環境内を探索するときに急速に形成され、保持される性質のものであるといえる。


== 分類  ==
== 分類  ==
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 ラットでは経路統合に海馬や[[嗅内皮質]]が関与しているいわれるが、[[ヒト]]を対象とした研究では、海馬や嗅内皮質損傷患者も統制群の参加者とで[[ポインティング課題]](目隠しをして角度変更をともなう移動した後、スタート地点を指さす)の成績に差がなかったことが報告され、経路統合には海馬や嗅内皮質ではなく、[[頭頂皮質]]が関与している可能性が指摘されている<ref><pubmed>18687893 </pubmed></ref>。
 ラットでは経路統合に海馬や[[嗅内皮質]]が関与しているいわれるが、[[ヒト]]を対象とした研究では、海馬や嗅内皮質損傷患者も統制群の参加者とで[[ポインティング課題]](目隠しをして角度変更をともなう移動した後、スタート地点を指さす)の成績に差がなかったことが報告され、経路統合には海馬や嗅内皮質ではなく、[[頭頂皮質]]が関与している可能性が指摘されている<ref><pubmed>18687893 </pubmed></ref>。


==認知地図==
Tolman<ref><pubmed>18870876</pubmed></ref>は、動物の空間行動を「認知地図」という概念によって説明した。これは、動物が空間内を移動するとき、その空間の地図のイメージを描いて、[[餌探し行動]]や[[危険回避行動]]をするという考えである。[[認知地図]]に基づく行動は、環境内にある複数の刺激の空間的関係性と、複数の刺激と出来事との関係性の構築によって実行される。
 認知地図以前の単純な[[S-R理論]]では、刺激を与えられても行動が実行されない場合や行動しても刺激が与えられない場合には学習が生じないと考えられてきた。しかし、台車に載せての受動的な移動<ref><pubmed>13376757</pubmed></ref>や、ゴール地点において[[報酬]]を与えられない移動<ref>'''Tolman,E.C. & Honzik, C. H.'''<br>Introduction and removal of reward, and maze performance in rats<br>''University of California Publications in Psychology.'':1930,4;257–275</ref>によっても潜在的な学習が生じているという実験的証拠が得られ、それまでの単純なS-R理論で説明することができなかった空間行動は認知地図の概念によって説明された。後の[[場所細胞]]の発見は、脳内に認知地図が存在することを示す有力な実験的証拠となった。Wilson & McNaughton<ref name=ref01><pubmed>8351520 </pubmed></ref>の研究は、環境内に明確なゴール地点が設定されていないフィールドを[[ラット]]に探索させた時にも、場所に対応した神経発火が5分程度で形成されることを報告している。したがって、認知地図は報酬と行動との関係とは別に、動物が環境内を探索するときに急速に形成され、保持される性質のものであるといえる。
==神経基盤  ==
==神経基盤  ==
=== 空間記憶と海馬  ===
=== 空間記憶と海馬  ===
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