「空間記憶」の版間の差分

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英語名:spatial memory 独:räumliches Gedächtnis 仏:mémoire spatiale
英語名:spatial memory 独:räumliches Gedächtnis 仏:mémoire spatiale


{{box|text= 空間記憶は、目的のものを探す、目的地へ向かう、家に戻るなど、我々の日常生活の至る場面で駆動する記憶である。実験動物として用いられるラットやマウスは優れた空間記憶をもつことから、動物実験において空間記憶は頻繁に取り上げられ、その神経基盤が明らかになってきた。医学、電気生理学、心理学、薬理学など様々なアプローチから、海馬が空間記憶の中枢であるという仮説が実証された。近年の神経科学的手法の進歩により、空間記憶の分類や記憶過程に対応した海馬内領域の機能分化を示す実験的証拠が得られている。}}
{{box|text= 空間記憶は、目的のものを探す、目的地へ向かう、家に戻るなど、我々の日常生活の至る場面で駆動する記憶である。神経科学アプローチからの空間研究は、Tolmanによる認知地図理論をベースに進展し、海馬が空間記憶の中枢であるという仮説が実証された。近年の神経科学的手法の進歩により、空間記憶の分類や記憶過程に対応した海馬内領域の機能分化を示す実験的証拠が得られている。}}


==空間記憶とは==
==空間記憶とは==
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 例えば、8走路のうちの特定の4走路に[[報酬]]を置き、これらを選択させる課題の訓練をする時、動物が報酬のない走路を選択せず、報酬のある走路のみに一度だけ訪れれば、この課題を最も効率よく解決したといえる。そのためには、動物はその試行で既に訪れた走路はどこであるかを記憶する必要があり、これが[[空間作業記憶]]である。ここでいう作業記憶は、[[ヒト]]や[[霊長類]]における[[中央実行系]]や複数のモダリティの情報貯蔵を想定した作業記憶ではなく、特定の課題を完遂するまでの一時的な情報貯蔵を意味する。
 例えば、8走路のうちの特定の4走路に[[報酬]]を置き、これらを選択させる課題の訓練をする時、動物が報酬のない走路を選択せず、報酬のある走路のみに一度だけ訪れれば、この課題を最も効率よく解決したといえる。そのためには、動物はその試行で既に訪れた走路はどこであるかを記憶する必要があり、これが[[空間作業記憶]]である。ここでいう作業記憶は、[[ヒト]]や[[霊長類]]における[[中央実行系]]や複数のモダリティの情報貯蔵を想定した作業記憶ではなく、特定の課題を完遂するまでの一時的な情報貯蔵を意味する。
 また、報酬が置かれる走路、または決して置かれることない走路はどこであるかを記憶する必要があり、これが[[空間参照記憶]]である。この空間参照記憶は訓練期間中、全試行にわたって有効な記憶であり、1試行にのみ有効で次の試行においてキャンセルされる空間作業記憶と区別される。
 また、報酬が置かれる走路、または決して置かれることない走路はどこであるかを記憶する必要があり、これが[[空間参照記憶]]である。この空間参照記憶は訓練期間中、全試行にわたって有効な記憶であり、1試行にのみ有効で次の試行においてキャンセルされる空間作業記憶と区別される。
 これらの二つの空間記憶を要する課題の遂行に及ぼす[[海馬]]損傷の効果が検討された結果、海馬は空間作業記憶と空間参照記憶の両機能を有していると考えられた<ref><pubmed>2623016 </pubmed></ref>。
 これらの二つの空間記憶を要する課題の遂行に及ぼす[[海馬]]損傷の効果が検討された結果、海馬は空間作業記憶と空間参照記憶の両機能を有していると考えられた<ref><pubmed>2623016 </pubmed></ref>。


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