「マーの小脳理論」の版間の差分

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 それではコドン仮説は、理論的にも全く無意味なのだろうか。一概にそうとも言い切れない。上記の実験データは、前庭系や皮膚感覚などの一種類のモダリティだけを直接受ける系統発生的に古い小脳部位か、もしくは除脳標本を用いて得られている。石川太郎らは、単一の顆粒細胞に体性感覚、聴覚、視覚の異なるモダリティを伝える、大脳皮質由来と思われる苔状線維入力が収束している例を発見し、組み合わせ刺激の場合の発火頻度が非線形性を示すことを明らかにした[21]。苔状線維の起始細胞からプルキンエ細胞までの前向きの神経回路は浅い3層神経回路となっている。舟橋賢一は、中間層、つまり顆粒細胞の数が十分大きく、シナプスの加重を自由に取れるなら任意の関数を近似できることを数学的に証明した[22]。例えば非線形特性を持つ運動制御対象の逆モデルや順モデルを獲得するために必要となる計算能力である。顆粒細胞のシナプス可塑性に制限があるなら、この近似能力をあげるためには、複数の入力の組み合わせからなる様々な非線形関数が顆粒細胞で用意されている必要がある。0−1表現ではなく瞬時発火頻度表現で、分類ではなく回帰、連想記憶の容量ではなく内部モデルの精度の違いはあるとはいえ、理論の本質的な精神は生き残っていると言えるのかもしれない。
 それではコドン仮説は、理論的にも全く無意味なのだろうか。一概にそうとも言い切れない。上記の実験データは、前庭系や皮膚感覚などの一種類のモダリティだけを直接受ける系統発生的に古い小脳部位か、もしくは除脳標本を用いて得られている。石川太郎らは、単一の顆粒細胞に体性感覚、聴覚、視覚の異なるモダリティを伝える、大脳皮質由来と思われる苔状線維入力が収束している例を発見し、組み合わせ刺激の場合の発火頻度が非線形性を示すことを明らかにした[21]。苔状線維の起始細胞からプルキンエ細胞までの前向きの神経回路は浅い3層神経回路となっている。舟橋賢一は、中間層、つまり顆粒細胞の数が十分大きく、シナプスの加重を自由に取れるなら任意の関数を近似できることを数学的に証明した[22]。例えば非線形特性を持つ運動制御対象の逆モデルや順モデルを獲得するために必要となる計算能力である。顆粒細胞のシナプス可塑性に制限があるなら、この近似能力をあげるためには、複数の入力の組み合わせからなる様々な非線形関数が顆粒細胞で用意されている必要がある。0−1表現ではなく瞬時発火頻度表現で、分類ではなく回帰、連想記憶の容量ではなく内部モデルの精度の違いはあるとはいえ、理論の本質的な精神は生き残っていると言えるのかもしれない。


小脳研究に与えたインパクト
==== 小脳研究に与えたインパクト ====


小脳研究に与えたインパクトは、理論に対しても実験に対しても大きかったが、David Marrが視覚の計算理論の研究に転じ、夭折したことから、支持する側からも、反対する側からもその予測が皮相的に取り扱われる嫌いがあったことは否めない。コドン仮説などはその典型である。理論のいくつかの要素を現在の実験データと理論に照らし合わせて、丁寧に再評価する時期に来ていると思われる。
小脳研究に与えたインパクトは、理論に対しても実験に対しても大きかったが、David Marrが視覚の計算理論の研究に転じ、夭折したことから、支持する側からも、反対する側からもその予測が皮相的に取り扱われる嫌いがあったことは否めない。コドン仮説などはその典型である。理論のいくつかの要素を現在の実験データと理論に照らし合わせて、丁寧に再評価する時期に来ていると思われる。
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