「想起・誤想起(記憶)」の版間の差分

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 顕在記憶やエピソード記憶の想起過程を測定する方法として古くから用いられているのは、[[再生]](recall)と[[再認]](recognition)課題である。再生とは、保持されていた情報を、口頭や筆記、あるいは行為によって生成する課題であり、情報を自由に再生する場合を[[自由再生]](free recall)、何らかの手がかりを利用して再生する場合を[[手がかり再生]](cued recall)、一定の順序をもって再生する場合を[[系列再生]](serial recall)と呼ぶ。
 顕在記憶やエピソード記憶の想起過程を測定する方法として古くから用いられているのは、[[再生]](recall)と[[再認]](recognition)課題である。再生とは、保持されていた情報を、口頭や筆記、あるいは行為によって生成する課題であり、情報を自由に再生する場合を[[自由再生]](free recall)、何らかの手がかりを利用して再生する場合を[[手がかり再生]](cued recall)、一定の順序をもって再生する場合を[[系列再生]](serial recall)と呼ぶ。


 一方、再認とは、提示された情報が記憶として保持されているものかどうかを参照する課題であり,提示された1つの情報に対して判断する[[諾否判断型(yes-no/ old-new judgment)再認]]と、提示された複数の項目から記憶に保持されている情報を選択する[[強制選択型(forced choice)再認]]とがある。
 一方、再認とは、提示された情報が記憶として保持されているものかどうかを参照する課題であり,提示された1つの情報に対して判断する[[諾否判断型再認|諾否判断型(yes-no/ old-new judgment)再認]]と、提示された複数の項目から記憶に保持されている情報を選択する[[強制選択型再認|強制選択型(forced choice)再認]]とがある。


 具体的には、たとえば数十個の記憶項目(単語など)を記銘してもらい,それを再生してもらう課題を行う際に、順不同で自由に再生してもらう場合は「自由再生」、記銘した順番で再生してもらう場合は「系列再生」、(「あ」で始まる単語のように)語頭音などの手がかりを呈示して再生してもらう場合は「手がかり再生」に相当する、再認課題では、記銘したリストに含まれている項目と含まれていない項目をひとつずつランダムに提示して、それがリストに含まれていたかどうかを判断する場合は諾否判断型再認、リストに含まれていた項目と含まれていない項目とを混ぜて複数個を同時に提示し、そこからリストに含まれていた項目を選択する場合は強制選択型再認に相当する。また、再生や再認を行う場合に記憶項目リストの最初の部分の想起率が高くなることは[[初頭効果]](primacy effect)、リストの終末部分の想起率が高くなることは[[親近性効果]](recency effect)と呼ばれる。   
 具体的には、たとえば数十個の記憶項目(単語など)を記銘してもらい,それを再生してもらう課題を行う際に、順不同で自由に再生してもらう場合は「[[自由再生]]」、記銘した順番で再生してもらう場合は「[[系列再生]]」、(「あ」で始まる単語のように)語頭音などの手がかりを呈示して再生してもらう場合は「[[手がかり再生]]」に相当する、再認課題では、記銘したリストに含まれている項目と含まれていない項目をひとつずつランダムに提示して、それがリストに含まれていたかどうかを判断する場合は諾否判断型再認、リストに含まれていた項目と含まれていない項目とを混ぜて複数個を同時に提示し、そこからリストに含まれていた項目を選択する場合は強制選択型再認に相当する。また、再生や再認を行う場合に記憶項目リストの最初の部分の想起率が高くなることは[[初頭効果]](primacy effect)、リストの終末部分の想起率が高くなることは[[親近性効果]](recency effect)と呼ばれる。   


 エピソード記憶の想起過程は、主にrecollectionとfamiliarityの2つの過程に分類される。エピソード記憶には過去に体験した出来事の内容に加えて、その出来事を「いつ」(時間)「どこで」(場所)体験したのか、という文脈情報が含まれている。recollectionの過程では、この過去に体験した出来事の内容に加えて、その出来事の詳細(時間や場所などの文脈情報を含む)が想起される。一方、familiarityの過程は、体験した出来事の詳細は想起できないが、以前に体験したものであると感じる想起過程であると定義されている。これらの2つの過程は加齢によって異なる影響を受け、recollectionは若年成人と比較して高齢者で低下する一方、familiarityは加齢の影響をあまり受けないということが知られている<ref><pubmed>1610518</pubmed></ref>。   
 エピソード記憶の想起過程は、主に[[recollection]]と[[familiarity]]の2つの過程に分類される。エピソード記憶には過去に体験した出来事の内容に加えて、その出来事を「いつ」(時間)「どこで」(場所)体験したのか、という文脈情報が含まれている。Recollectionの過程では、この過去に体験した出来事の内容に加えて、その出来事の詳細(時間や場所などの文脈情報を含む)が想起される。一方、familiarityの過程は、体験した出来事の詳細は想起できないが、以前に体験したものであると感じる想起過程であると定義されている。これらの2つの過程は加齢によって異なる影響を受け、recollectionは若年成人と比較して高齢者で低下する一方、familiarityは加齢の影響をあまり受けないということが知られている<ref><pubmed>1610518</pubmed></ref>。   


 想起の過程で観察されるエラーのひとつとして誤想起がある。誤想起とは、実際には経験していない出来事を、あたかも経験したかのように誤って想起してしまうことを指す。たとえば、「ニンジン、ピーマン、ホウレンソウ、ダイコン」、「あじさい,チューリップ、ひまわり、あさがお」のようにいくつかの意味カテゴリーに属する単語を記銘すると、その後の想起では「ゴボウ」や「コスモス」のように実際にはリストに含まれていないが記銘リストの意味カテゴリーに属する単語を、高い確率で誤って想起してしまうことが見られる<ref><pubmed>16157490</pubmed></ref>。このような誤想起は、若年者と比較して高齢者でより高い確率で認められることも知られている<ref><pubmed>9640584</pubmed></ref>。  
 想起の過程で観察されるエラーのひとつとして誤想起がある。誤想起とは、実際には経験していない出来事を、あたかも経験したかのように誤って想起してしまうことを指す。たとえば、「ニンジン、ピーマン、ホウレンソウ、ダイコン」、「あじさい,チューリップ、ひまわり、あさがお」のようにいくつかの意味カテゴリーに属する単語を記銘すると、その後の想起では「ゴボウ」や「コスモス」のように実際にはリストに含まれていないが記銘リストの意味カテゴリーに属する単語を、高い確率で誤って想起してしまうことが見られる<ref><pubmed>16157490</pubmed></ref>。このような誤想起は、若年者と比較して高齢者でより高い確率で認められることも知られている<ref><pubmed>9640584</pubmed></ref>。


== 神経基盤  ==
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