「座標系」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/k-maeda 前田 和孝]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/k-maeda 前田 和孝]</font><br>
''近畿大学大学院医学研究科生理学''<br>
''近畿大学大学院医学部システム脳科学''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/viola_body 村田 哲]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/viola_body 村田 哲]</font><br>
''近畿大学医学部生理学''<br>
''近畿大学医学部生理学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年8月7日 原稿完成日:2015年1月27日 一部改訂:2021年9月22日<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年8月7日 原稿完成日:2013年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語名: coordinate system, frame of reference
英語名: coordinate system, frame of reference


{{box|text= 空間は脳内では、空間内や身体上に原点をもつ2次元ないし3次元の空間座標系として表現される。この座標系は、原点によって異なるものが複数存在し、網膜座標系(中心窩が原点)、眼球中心座標系(眼球位置が原点)、頭部中心座標系、身体中心座標系、身体部位中心座標系、物体中心座標系が考えられ、並列的あるいは階層的に処理される。身体の外部に基準をもつ場合には外部座標系、身体上に基準を持つ場合には内部座標系とも呼ばれる。こうした空間座標は、単に知覚だけでなく、効果器の異なる運動に対して、固有の適切な座標系が用いられる。一方、運動の生成には空間座標系から筋骨格系への座標変換が必要となる。手先位置と関節角の関係、あるいは手先の力と関節に発生するトルクの関係を記述するのが関節座標系である。また、関節角と筋肉の長さの関係、あるいは関節に発生するトルクと筋張力の関係を記述するのが筋座標系となる。ここでの次元数は関節や筋の数である。}}
{{box|text=
 脳は、外部環境または対象物を認知し、適応的行動・運動を生成する。このためには、脳内には外部空間と身体との関係や身体の動きとトルク、力の関係が座標系として表現されている。外部空間が脳内に表象され、最終的に運動へ変換される各過程で、複数の座標系が並列的に階層的に処理される。これらの座標系は、おおきくわけて対象の空間位置情報を規定する空間座標系と身体の関節や筋肉の自由度を規定する関節・筋座標系の2つに分けることができる。また、身体の外部に基準をもつ場合には外部座標系、身体上に基準を持つ場合には内部座標系とも呼ばれる。
}}


== 空間座標系と関節・筋座標系 ==
== 空間座標系と関節・筋座標系 ==
 脳は、複数の[[感覚器官]]からの情報を統合することによって、外部環境を空間として知覚([[空間知覚]])している。特に[[wj:霊長類|霊長類]]においては、視覚による空間知覚が発達しているが、単に認知的側面だけでなく、生体の運動や[[空間記憶]]、ナビゲーションなどの適応的行動に直接的に使われるものである。脳内の空間表現は、外部空間や身体上のどこかを原点として、身体や外部環境との関係を記述した空間座標系としてとらえることができる。しかし、その座標系は単一ではなく、原点の異なる空間座標系が、並列的・階層的に処理される。


 こうした、空間座標系は,知覚や認知にとどまらず、運動の表出にとっても必要である。生体においてさまざまな運動効果器が存在し、異なる運動が遂行されるが、複数の空間座標系はそれぞれの運動に対して適切なものが必要である。例えば、腕の到達運動の際、まず[[網膜]][[中心窩]]を中心とした網膜座標系に対象物の位置が表現されるが、これだけでは視線が変化した場合に不都合で、[[wj:眼球|眼球]]位置を中心にした[[眼球中心座標系]]、頭部や身体軸を中心とした[[頭部中心座標系]]<ref name=ref1><pubmed>12094211</pubmed></ref>[[身体中心座標系]]が必要となる('''図1''')。
 生体の運動や空間記憶、ナビゲーションなどの適応的行動ために、複数の感覚器官からの情報を統合することによって、外部環境が脳内に表現されている。しかし、決して単一の外部世界が脳内にあるわけではなく、複数の空間表現、すなわち空間座標系が並列的・階層的に処理される。霊長類においては、特に視覚による[[空間知覚]]が発達しているが、それぞれの必要に応じてその複数の空間座標系を使い分ける。例えば、腕の到達運動の際、まず網膜中心窩を中心とした網膜座標系に対象物の位置が表現されるが、これだけでは視点が変化した場合に不都合で、眼球位置を中心にした眼球中心座標系、頭部や身体軸を中心とした頭部中心座標系<ref name=ref1><pubmed>12094211</pubmed></ref>、身体中心座標系が必要となる。腕を伸ばす際には肩や腕、手といった身体部位中心座標系<ref name=ref2><pubmed>9163357</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>8836215</pubmed></ref>において対象物との関係性が表現される。更に、空間座標系は自己を中心とした空間だけでなく、他者や物体<ref name=ref4><pubmed>19199418</pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed>21415848</pubmed></ref>、外界空間<ref name=ref6><pubmed>17068129</pubmed></ref>にも拡大されることが知られる。また空間座標が、安定して表現されるためには、運動の結果得られるフィードバックの信号や、運動をおこすための信号のコピー([[遠心性コピー]]・随伴発射)によって更新が行われる必要がある。


 一方、運動の生成には、空間座標系においてプランされた軌道を、関節の動きや筋肉の収縮に変換されなくてはならない。このために、身体の関節や筋肉の自由度を[[関節座標系|関節]]・[[筋座標系]]としてそれぞれ規定する。手先の位置と関節角との関係や手先の力と[[wj:関節|関節]]に発生するトルクとの関係を関節座標系という。さらに、関節の角度とそれにつく[[wj:|筋肉]]の長さや関節に発生するトルクと筋の力などの関係を筋座標系という。ここでの次元数は関節や筋の数である。<ref name=ref7>'''伊藤 宏司'''<br>身体知システム論 ― ヒューマンロボティクスによる運動の学習と制御<br>''共立出版'' 2005</ref>。
 一方で、身体の関節や筋肉の自由度を規定するのが関節・筋座標系である。脳は空間座標系によって対象物を規定し、身体を介してそれに働きかける軌道を決定し、運動指令を生成する。運動指令を生成するためには空間座標系にプランされた軌道から運動への変換をする過程で、関節座標系、筋座標系が必要となる<ref name=ref7>'''伊藤 宏司'''<br>身体知システム論 ― ヒューマンロボティクスによる運動の学習と制御<br>''共立出版'' 2005</ref>。  


== 空間座標系 ==
== 空間座標系 ==
[[image:座標系1.jpg|thumb|350px|'''図1.眼球中心、頭部中心、身体中心、身体部位(手)中心座標系で表現される対象物'''<br>
[[image:座標系1.jpg|thumb|350px|'''図1.眼球中心、頭部中心、身体中心、外界中心座標系で表現される対象物'''<br>
上からみた模式図。眼球(青)、頭部(ピンク)、身体(茶)対象物(黄色)。眼球中心座標系(eye-centered corrdinate)で表現される対象物は、眼球の回転に伴って表現される。頭部中心座標系(head-centered corrdinate)で表現される対象物は、頭部の回転に伴って表現される。身体中心座標系(body-centered corrdinate)で表現される対象物は、身体の回転に伴って表現される。身体部位(手)中心座標系(hand-centered corrdinate)で表現される対象物は、手の位置に伴って表現される。]]
a. 上からみた模式図。眼球(青)、頭部(ピンク)、身体(茶)対象物(黒)。<br>
b. 眼球だけを回転させる。眼球中心座標系で表現される対象物(青丸)は、眼球の回転に伴って表現される。<br>
c. 眼球と頭部を回転させる。頭部中心座標系で表現される対象物(赤丸)は、頭部の回転にのみ伴って表現される。<br>
d. 眼球、頭部、身体を回転させる。身体中心座標系で表現される対象物(茶丸)は、身体の回転にのみ伴って表現される。外界中心座標系で表現される対象物(黒丸)は,眼球、頭部、身体の動きに対して不変である。]]


===網膜座標系・網膜中心座標系===
===網膜座標系・網膜中心座標系===
[[網膜部位局在]]・[[網膜部位対応]]・[[視野地図]]<br>
[[網膜部位局在]]・[[網膜部位対応]]<br>
retinotopic coordinate・ retinotopy
retinotopic coordinate・ retinotopy


 眼球内に入ってきた光は、網膜上に像を結ぶ。[[中心窩]](fovea)を原点に、網膜の何処に像を結ぶかによって表現される座標系のことである。この座標系は眼球が固定されている条件の下では不変であるが、眼球が動いてしまうと再構成される必要がある。脳内の視覚領野には、網膜の部位がその領野内の位置と点対点の対応関係にある領野が存在する。特にこれを[[視野地図]]ないしは[[網膜部位局在性]]というが、結果として[[網膜座標系]]としての情報表現が見られる。
 中心窩(fovea)を中心にした網膜上の位置に依って表現される座標系。脳内の視覚領野には、網膜の部位がその領野内の位置と点対点の対応関係にある領野が存在する。これを網膜部位局在というが、結果として網膜座標系としての情報表現が見られる。外側膝状体から、V1、V2、V3、V5、V4、V6<ref name=ref8><pubmed>12917375</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>11058227</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>14517595</pubmed></ref>、あるいは上丘などにこのようなマップが見られる。また、LIP<ref name=ref11><pubmed>12612015</pubmed></ref>、VIP<ref name=ref12><pubmed>15951810</pubmed></ref>、PRR(parietal reach region)<ref name=ref1 />、運動前野<ref name=ref13><pubmed>9242308</pubmed></ref>などの到達運動に関わる領域や眼球運動に関連したFEF<ref name=ref14><pubmed>7288464</pubmed></ref>などの領域でも、網膜部位局在的なマップは明確ではないが、網膜座標系としての性質を持つニューロン活動が見つかっている。
 
 [[外側膝状体]]から[[V1]]では、きれいな網膜部位局在性がみとめられる。それ以外にも[[V2]]、[[V3]]、[[V5]]、[[V4]]、[[V6]]<ref name=ref8><pubmed>12917375</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>11058227</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>14517595</pubmed></ref>、あるいは[[上丘]]などでこのような網膜部位局在性が見られる。また、[[頭頂葉]]にある[[LIP野]](lateral intraparietal area)<ref name=ref11><pubmed>12612015</pubmed></ref>、[[VIP野]](ventral intraparietal area)<ref name=ref12><pubmed>15951810</pubmed></ref>、[[MIP野]](medial intraparietal area)ないし[[parietal reach region]] ([[PRR]])<ref name=ref1 />、さらに[[前頭葉]]の[[運動前野]]<ref name=ref13><pubmed>9242308</pubmed></ref>[[前頭眼野]] ([[frontal eye field]], [[FEF]])<ref name=ref14><pubmed>7288464</pubmed></ref>などの到達運動や眼球運動に関連した領域でも、網膜部位局在的なマップは明確ではないが、網膜座標系としての性質を持つニューロン活動が見つかっている。


===眼球中心座標系===
===眼球中心座標系===
eye-centerred corrdinate
eye-centerred corrdinate


 眼窩の中において、目の位置(向き)を原点にした空間ベクトルで表現される空間座標。現在の眼球の向きに関する情報が必要となる。眼球が動いたとしても、眼球の位置とターゲットのずれを基にして、ターゲットの位置ベクトルが表現される。網膜中心座標系とは、以下に述べるように区別されなければならない。
 眼窩の中において、目の位置(向き)を中心にした空間座標。現在の眼球の位置情報を元にした眼球を中心とした不変な空間ベクトルで表現される(図1b、c、d青丸)。Angle –Gaze effect<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>は、網膜上同じ位置に視覚刺激を出しても眼球位置により、その視覚反応が異なるニューロン応答のことで、網膜座標系での視覚刺激の位置情報と眼球の位置情報の統合し、網膜座標系から頭部中心座標系への変換過程にあると考えられる。[[頭頂連合野]]のLIP、7a、PRR、VIP<ref name=ref1 /> <ref name=ref12 />V3A<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref>にそうした座標表現に関わるニューロン活動が認められる。
 
 [[頭頂連合野]]のLIP、[[7a]]、PRR、VIP<ref name=ref1 /><ref name=ref12 />、[[V3A]]<ref name=ref16><pubmed>2703870</pubmed></ref>にそうした座標表現に関わるニューロン活動が認められる。
 
===網膜座標系と眼球中心座標系の違い===
[[image:座標系2.jpg|thumb|350px|'''図2.ダブルステップサッケード課題の例'''<br>
上段:眼球中心座標系(eye-centered corrdinate)で表現される対象物<br>
下段:網膜中心座標系(retinotopic coordinate)で表現される対象物<br>]]


 両者とも注視点が変化すると、見かけ上の空間表現が変化するため、時として混同されるが同じではない。網膜座標系は外界像を中心窩を原点として2次元座標系として記述する。網膜座標系で[[符号化]]された位置は、網膜上の位置が問題であり、眼球の位置が変化しても、網膜上の同じ位置に視覚刺激が像を結べば座標は同じになる。もし、眼球が動いてしまった場合、空間内の物体の位置は、中心窩からの網膜像のずれによって再構成しなければならない。一方、眼球中心座標系は現在の眼球の位置情報を使い、眼球の位置(向き)と対象物までの変位ベクトルで表現される。[[輻輳角]]も考えれば、3次元座標系での対象の位置の表現も可能となる<ref name=ref7 />。眼球中心座標系での符号化は、たとえ視覚刺激が網膜上同じ位置にあっても眼の位置によって異なる<ref name=ref1 />。これをAngle-Gaze effect<ref name=ref15><pubmed>6827308</pubmed></ref>と呼ぶが、網膜座標系での視覚刺激の位置情報と眼球の位置情報を統合する必要がある。 
===網膜座標系と眼球中心座標系===
 網膜座標系は外界像を2次元座標系として記述する。網膜座標系を[[符号化]]する神経活動は、網膜上の刺激に依存するため、眼球の位置に関わらず網膜上の同じ位置に視覚刺激が像を結べば、同様の応答を示す。一方、眼球中心座標系は現在の眼球の位置情報を使い、注視点から対象物までの変位ベクトルを表現する。輻輳角も考えれば、3次元座標系での対象の位置の表現も可能となる<ref name=ref7 />。眼球中心座標系を符号化する神経活動は、眼の位置によって、たとえ視覚刺激が網膜上同じ位置にあっても、異なる応答をしめす<ref name=ref1 />。したがって、両者とも注視点が変化すると、見かけ上空間表現が変化するため、網膜座標系と眼球中心座標系は時として混同されるが、同じではない。


 この二つの座標系の違いを明らかにする例として、ダブルステップサッケード課題を考える('''図2''')。ある点を注視する被験者に二つの[[サッケード]]のターゲットA、Bを短時間順番に提示し(例:ターゲットA→B)、ターゲットを消した後に、それらの提示の順番に続けてサッケードを行わせる。まず最初に、網膜座標系にターゲットAとBの位置が表現される。その情報に従って1つ目のターゲット(A)に[[サッケード]]は可能である。しかし、Bへの[[サッケード]]は眼球運動する前の網膜座標系に表現された情報だけでは不可能である。眼球位置が変化しているので、最初にマップされた中心窩からターゲットBへのベクトルではターゲットに到達しない。これを成功させるためには、ターゲットAにおける眼球位置を元にした補正したターゲットBへのベクトルを表現(眼球中心座標系)しなければならない。HallettとLightstoneはこうした課題を用いることで、運動制御や空間認知には網膜座標系だけではなく、ターゲットの空間位置を修正するための他の座標系システムが必要であることを体系的に示した<ref name=ref17><pubmed>1258395</pubmed></ref>[[後頭頂葉]]が損傷された患者では、ダブルステップサッケード課題ができない症状が知られている<ref name=ref18><pubmed>1553535</pubmed></ref>。これは網膜座標系を使ってサッケードはできるが、眼球中心座標系でのターゲットの位置を計算できないことを示している<ref name=ref19>'''Powell, K.D., et al.'''<br>Space and saliance in parietal cortex, in Current Oculomotor Research: Physiological and Psychological Aspects.<br>W. Becker and H. Deubel, Editors.<br>''Plenum Press'': New York. 1999</ref>。
 この二つの座標系の違いを明らかにする例として、ダブルステップサッケード課題を考える。ある点を注視する被験者に二つのサッケードのターゲットA、Bを短時間順番に提示し(例:ターゲットA→B)、ターゲットを消した後に、それらの提示の順番に続けてサッケードを行わせる。まず、最初に網膜座標系にターゲットAとBの位置が表現される。その情報に従って1つ目のターゲット(A)にサッケードを行うことは可能である。しかし、Bへのサッケードは最初の網膜座標系に表現された情報だけでは不可能である。眼球位置が変化しているので、中心窩からターゲットBへのベクトルではターゲットに到達しない。これを成功させるためには、ターゲットAにおける眼球位置を元にしたターゲットBへのベクトルを表現(眼球中心座標系)しなければならない。HallettとLightstoneはこうした課題を用いることで、運動制御や空間認知には網膜座標系だけではなく、ターゲットの空間位置を修正するための他の座標系システムが必要であることを体系的に示した<ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。実際、後[[頭頂葉]]の患者では、ダブルステップサッケード課題で最初のターゲットにはうまくサッケードできるが、二番目のサッケードができない症状が知られている<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>。これは網膜座標系を使ってサッケードはできるが、目の位置に対するターゲットの位置を計算ができないことを示している<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>。


===頭部中心座標系・身体中心座標系===
===頭部中心座標系・身体中心座標系===
head centered/body centered coordinate
head centered/body centered coordinate


 頭部ないしは身体軸を中心にした座標系。頭部中心座標系は眼球位置に影響を受けず、身体中心座標系は頭や眼球の向きに影響を受けない。このような座標系は、到達運動のような上肢運動に必要であるが、その他に全身の運動や移動にも必要である。時として絶対位置(absolute position)とも呼ばれる。
 眼球の位置によらず頭部ないしは身体軸を中心にした座標系(図1c、d)。LIP<ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>、V6A<ref name=ref10 />、VIP<ref name=ref12 /> <ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>などの領域において、眼球位置に依存しない空間位置表現が認められる。たとえば、V6Aのニューロン<ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref>は、注視点の位置をいろいろに変えて、網膜中心座標系での同じ位置に視覚刺激を出してやると、視線がある方向にあるときにだけ反応した。一見、眼球中心座標系の表現に見えるが、実はこのニューロンは、視線の向きに関わらず、視覚刺激が頭部から見てある特定の位置にあるときにだけ反応するニューロンであった。つまり、頭部中心座標系での空間表現をしているといえる。また、VIPやPRR、聴覚関連領域では、聴覚のモダリティによる頭部中心座標系の表現が認められる<ref name=ref1 />。
 
 [[V6A]]のニューロン<ref name=ref22><pubmed>8270019</pubmed></ref>は、注視点の位置をいろいろに変えて、網膜中心座標系での同じ位置に視覚刺激を出してやると、視線がある方向に向いているときにだけ反応した。一見、眼球中心座標系の表現に見えるが、実はこのニューロンは、視線の向きに関わらず、視覚刺激が頭部から見てある特定の位置にあるときにだけ反応するニューロンであった。つまり、頭部中心座標系での空間表現をしているといえる。その他、LIP<ref name=ref20><pubmed>9732870</pubmed></ref>、V6A<ref name=ref10 />、VIP<ref name=ref12 /> <ref name=ref21><pubmed>15207243</pubmed></ref>などの領域においても、頭部中心座標系の位置を表現するニューロン活動が認められる。また、VIPやPRR、[[聴覚]]関連領域では、聴覚のモダリティによる頭部中心座標系の表現が認められる<ref name=ref1 />。


===身体部位中心座標系===
===身体部位中心座標系===
body parts centered coordinate
body parts centered coordinate
 
 
 身体の各部位を中心とした座標系。このような空間表現は、身体にいろいろある効果器を原点にしており、それぞれの運動のプランニングに無くてはならない。たとえ、物体の身体中心座標系での位置が明らかになっても、四肢先端は身体に対して、いつも同じ位置にあるとは限らない。例えば到達運動では手先を原点として、ターゲット位置を表現される必要がある。この座標系はまた、運動と共に原点が移動するので、常に手先とターゲットの関係が更新されて記述されうる。また、ごく身体に近い手の届く範囲の[[空間知覚|身体周辺空間]]も記述できる。この座標系における原点は、必ずしも身体部位上にあるわけではなく、例えば道具を使用している場合には、道具の先端に原点が移る。この場合に、手の周りにあった身体周辺空間は、道具全体あるいは道具先端部分へ移動する。
 身体の部位を中心とした座標系。主に[[体性感覚]]や視覚を統合した多種感覚ニューロンによって表現される。体性感覚[[受容野]]の存在する皮膚部位(手、腕、肩、顔の一部など)を中心として、その周辺の一定の空間内に視覚刺激が入ると反応する。身体部位が動いても受容野はその部位と共に動く。こういった神経活動は被殻<ref name=ref23><pubmed></pubmed></ref>、 VIP<ref name=ref24><pubmed></pubmed></ref>、腹側運動前野のF4<ref name=ref3 />などに存在する。これらは、眼球や頭部の動きとは無関係で、ある身体部位を中心とした身体部位中心座標系で対象物を符号化していると考えられる<ref name=ref2 />。また、視覚のみならず、聴覚のモダリティでも表現される。視覚の反応は、自己の身体の周辺の空間に限られ、身体周辺空間(ペリパーソナルスペース)と呼ばれる自己の身体の一体となった空間表現の神経基盤となっている。また、こうした身体周辺空間に関わるニューロンの視覚受容野が、道具を使った時に道具先端にまで拡大する現象が知られている<ref name=ref25><pubmed></pubmed></ref>。これは、道具の使用による身体イメージの拡張に関わると考えられている。
 
 こうした座標系は、主に[[体性感覚]]や視覚を統合した[[多種感覚ニューロン]]によって表現される。体性感覚[[受容野]]の存在する皮膚部位(手、腕、肩、顔の一部など)を中心として、その周辺の一定の空間内に視覚刺激が提示されると反応する。身体部位が動いても受容野はその部位と共に動く。こういった神経活動は[[被殻]]<ref name=ref23><pubmed>8131835</pubmed></ref>、 VIP<ref name=ref24><pubmed>9425183</pubmed></ref>、[[腹側運動前野]]の[[F4]]<ref name=ref3><pubmed>8836215</pubmed></ref>などに存在する。これらは、眼球や頭部の向きには影響を受けない。また、視覚のみならず、聴覚のモダリティでも表現される。視覚の反応は、自己の身体の周辺の空間に限られ、身体周辺空間(ペリパーソナルスペース)と呼ばれる自己の身体の一体となった空間表現の神経基盤となっている。また、こうした身体周辺空間に関わるニューロンの視覚受容野が、道具を使った時に道具先端にまで拡大する現象が知られている<ref name=ref25><pubmed>8951846</pubmed></ref>。これは、道具の使用による身体イメージの拡張に関わると考えられている。


===物体中心座標系===
===物体中心座標系===
object-centered coordinates
object-centered coordinates


 物体の中での目標の相対的位置。目標とする物体の中での位置(前後左右上下)を表現する。前述の座標系は、原点が身体のどこかに存在するが、この場合には原点は環境の中に存在する。3次元的に複雑な構造を認知する場合にも、こうした相対的位置の記述が必要である。また、そのような3次元的形状をした物体のある部分に働きかけるためには、物体を中心としてその位置がどこにあるのかを表現しておく必要がある。自己の身体を中心とした座標系のみでは、自分が動いたときにその都度、表現モデルを変更しなければならないが、物体を中心とした座標系で対象物を記述しておけば、身体中心座標系の原点が移動しても、あるいは座標軸が傾いてしまっても影響されない内部表現を得ることができる<ref name=ref7 />。例えば、キーボードを操作する場合にもキーそのものの身体中心座標系の位置よりも、キーボードの全体の中でのキーの配置が重要である。ターゲットの周囲に枠などの空間情報があるかないかによって、到達運動の精度があがることも知られている。
 物体の中での目標の相対的位置。目標とする物体の中での位置(前後左右上下)を表現する。複雑な形状をした物体のある部分に働きかけるためには、物体を中心としてその位置がどこにあるのかを表現しておく必要がある。さらに、自己の身体を中心とした座標系のみでは、自分が動いたときにその都度、表現モデルを変更しなければならないが、物体を中心とした座標系で対象物を記述しておけば、自己の動きに不変な内部表現を得ることができる<ref name=ref7 />。このような空間表現は物体中心座標系で規定されると考えられており、サルの7a野やAIPでは物体内での相対的位置や物体中心座標系に関わると考えられる神経活動がみつかっている<ref name=ref26><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref>。またこうした座標系は物体の構造の記述にも必要であり、把持運動に関わるAIPやF5では、把持運動の対象となる三次元的物体を表現している<ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref>が、これらの領域のニューロンが両眼視差に応答することが明らかになっている<ref name=ref30><pubmed></pubmed></ref>。
 
 サルの[[7a野]]や[[前側頭頂間野]] (AIP)では物体内での相対的位置や物体中心座標系に関わると考えられる神経活動がみつかっている<ref name=ref26><pubmed>17389630</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>15635058</pubmed></ref> <ref name=ref28>'''WinNyiShein, et al.'''<br>サル頭頂葉の手操作目標の相対的位置の選択性<br>''日大医誌''、1999. 58: p. 558-569.</ref>。またこうした座標系は物体の構造の記述にも必要であり、把持運動に関わるAIPや[[F5]]では、把持運動の対象となる三次元的物体を表現している<ref name=ref29><pubmed>10805659</pubmed></ref>が、これらの領域のニューロンが[[両眼視差]]に応答することが明らかになっている<ref name=ref30><pubmed>21456959</pubmed></ref>。


===外界中心座標系・環境中心座標系===
===外界中心座標系・環境中心座標系===
world-centered coordinates
world-centered coordinates


 外界あるいは環境の中での自己の位置。自己が環境の中でどのにいるか、どのような体位でいるかを脳内では表現される必要がある。この場合にも、環境の中で何らかの目印が原点となる。上述の物体中心座標系も環境中心座標系の一つではあるが、ここではより広い身体とは離れた空間を考える。場合によってはみえない空間、遠隔地でも対象となる。移動などの全身運動に必要となる。重力も手がかりとなる。脳の中の地図である認知地図も、環境中心座標系に基づいて構成される。Allocentric reference frameとも呼ばれる。これに対応する自己の位置を中心した座標系をEgocentric reference frameという。
 外界あるいは環境の中での自己の位置。移動においては、自己が環境の中でどの位置にいるかを脳内では表現される必要がある。Allocentric reference frameとも呼ばれる。これに対応する自己の位置を中心した座標系をEgocentric reference frameという。齧歯類の[[海馬]]では、ある特定の場所に動物が来たときに反応する[[場所細胞]](place neuron)が知られている。サルでは7a野のニューロンは、自己の身体の向きに依存しない空間内の位置を表現するニューロン活動が知られている<ref name=ref20 />。また、この領域と結合のある内側頭頂葉、後部帯状回皮質や脳梁[[膨大部]]後部領域、海馬を含む内側側頭葉で環境内のある特定の場所に選択的に反応するニューロンや、環境中心座標系における空間表現が知られている<ref name=ref5 /> <ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref>。これらの領域は、ナビゲーションや認知地図に関わると考えられている<ref name=ref5 />。
 
 
 [[wj:齧歯類|齧歯類]]の[[海馬]]では、ある特定の場所に動物が来たときに反応する[[場所細胞]](place neuron)が知られている。サルでは7a野のニューロンは、自己の身体の向きに依存しない空間内の位置を表現するニューロン活動が知られている<ref name=ref20 />。また、この領域と結合のある[[内側頭頂葉]]、[[後部帯状回皮質]]や[[脳梁膨大部後部領域]]、海馬を含む[[内側側頭葉]]で環境内のある特定の場所に選択的に反応するニューロンや、環境中心座標系における空間表現が知られている<ref name=ref5><pubmed>21415848</pubmed></ref> <ref name=ref31><pubmed>19620622</pubmed></ref>。これらの領域は、ナビゲーションや認知地図に関わると考えられている<ref name=ref5 />。
 
== 運動と空間座標 ==
== 運動と空間座標 ==


 空間座標は主に、視覚の[[空間知覚|背側経路]]にて表現され、特に頭頂連合野には複数の座標表現が存在する。このような脳内の空間座標は、運動や空間記憶、[[行動決定]]などの行動に使われる。脳内のある特定の運動を制御する領域に、その運動が必要とする座標表現を見いだすことができる。例えば、網膜中心座標系や眼球中心座標系は、眼球運動に使われるが、これらは眼球運動の制御に関わる上丘、LIP等で表現されている。眼球中心座標系や頭部中心座標系や身体中心座標系、あるいは身体部位中心座標系は到達運動に取って必要であるが、これらは到達運動に関わるPRRやMIP、VIP、V6A等で表現されている。また、物体中心座標系に関わる神経活動は、把持運動に関わるAIPで見つかる。また、移動に関しては、外界中心座標系(環境中心座標系)がもちいられるが、場所の記憶やナビゲーションに関わる内側[[頭頂葉]]、後部帯状回皮質や脳梁[[膨大部]]後部領域、内側側頭皮質などが、このような空間表現を持っている。以上を以下の表にまとめる。
 空間座標は主に、視覚の背側経路にて表現され、特に頭頂連合野には複数の座標表現が存在する。このような脳内の空間座標は、運動や空間記憶、行動決定などの行動に使われる。特に運動にとっては、欠くことができない。使われる空間座標は、運動の効果器によって異なるのは当然であり、脳内のある特定の運動を制御する領域に、その運動が必要とする座標表現が存在する。例えば、網膜中心座標系や眼球中心座標系は、眼球運動に使われるが、これらは眼球運動の制御に関わる上丘、LIP等で表現される。眼球中心座標系や頭部中心座標系や身体中心座標系、あるいは身体部位中心座標系は到達運動に取って必要であるが、これらは到達運動に関わるPRRやMIP、VIP、V6A等で表現されている。また、物体中心座標系に関わる神経活動は、把持運動に関わるAIPで見つかる。また、移動に関しては、外界中心座標系(環境中心座標系)がもちいられるが、場所の記憶やナビゲーションに関わる内側頭頂葉、後部帯状回皮質や脳梁膨大部後部領域、内側側頭皮質などが、このような空間表現を持っている。以上を以下の表にまとめる。
  
  
{| class="wikitable"
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|+ '''表 空間座標系と脳領域との関係'''
|+ ''''''
|-
! 座標系|| 脳領域|| 参考文献
|-
| 網膜中心座標系|| 外側膝状体、上丘、[[視床枕]]、V1、V2、V3、V4、LIP、FEF|| <ref name=ref1 /> <ref name=ref8 /> <ref name=ref9 /> <ref name=ref10 /> <ref name=ref11 /> <ref name=ref12 /> <ref name=ref13 /> <ref name=ref14 />
|-
| 眼球中心座標系|| MIP、PRR、LIP、V3A|| <ref name=ref1 /> <ref name=ref12 /> <ref name=ref15 /> <ref name=ref16 />
|-
| 頭部/身体中心座標系|| VIP、V6A、LIP|| <ref name=ref12 /> <ref name=ref20 /> <ref name=ref21 /> <ref name=ref22 />
|-  
|-  
| 身体部位中心座標系|| VIP、[[被殻]]、[[F4]]|| <ref name=ref3 /> <ref name=ref23 /> <ref name=ref24 />
| '''座標系'''
| 網膜中心座標系
| 網膜中心座標系
| 頭部/身体中心座標系
| 身体部位中心座標系
| 物体中心座標系
| 外界中心座標系
|-  
|-  
| 物体中心座標系|| 7a、AIP、[[F5]]|| <ref name=ref26 /> <ref name=ref27 /> <ref name=ref28 />
| '''脳領域'''
| 外側膝状体、上丘、視床枕、V1、V2、V3、V4、LIP、FEF
| MIP、PRR、LIP、V3A
| VIP、V6A、LIP
| VIP、被殻、F4
| 7a、AIP、F5
| LIP、内側頭頂葉、後部帯状回皮質や脳梁膨大部後部領域、海馬
|-  
|-  
| 外界中心座標系|| LIP、内側頭頂葉、後部帯状回皮質や[[脳梁膨大部後部領域]]、海馬|| <ref name=ref20 /> <ref name=ref5 />
| '''参考文献'''
| <ref name=ref1 /> <ref name=ref8 /> <ref name=ref9 /> <ref name=ref10 /> <ref name=ref11 /> <ref name=ref12 /> <ref name=ref13 /> <ref name=ref14 />
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|}
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== 関節・筋座標系 ==
== 関節・筋座標系 ==


 これまで述べてきた座標系は、空間知覚レベルの座標系であり、その次元は最大でも3次元である。しかし、身体が運動を実行する場合には、身体の位置や姿勢、あるいは力やモーメントのベクトルへと変換される必要がある。このような変換に際して、システム科学では以下のような座標を定義する。
 運動の実行に際しては、空間座標を関節や筋の座標に変換する必要がある。到達運動を考えるとき、空間内の目標がきまると、身体中心座標系において物体と現在の手先の位置をマップする。これを作業空間ともいう<ref name=ref7 />。また、身体部位中心座標系(手先座標系)において、手先を中心にした物体の位置も記述される。このときの姿勢(関節角)は、筋や関節などからの固有感覚や皮膚からの[[触覚]]によって、[[体性感覚野]]あるいは運動野にマップされる<ref name=ref32><pubmed></pubmed></ref>。この情報は視覚や前庭覚などの情報と共に統合されて身体の表現として頭頂連合野にも表現されている。このような、脳内の身体表現は[[身体図式]](Body schema)ないしは身体イメージ(body image)と呼ばれる。古典的には身体図式は、体性感覚入力を主に念頭に置き、[[無意識]]下の表現であると考えられている。一方、視覚が関わり意識に上る場合には身体イメージと呼んで区別されている<ref name=ref33><pubmed></pubmed></ref>。いずれにしろ身体の表現は、動きとともに常に変化するため、感覚フィードバックや遠心性コピーにより常にアップデートされる必要がある。
 
 身体部位の位置や姿勢あるいは、運動の対象となる物体は、作業空間と呼ばれる空間にプロットされる<ref name=ref7 />。例えば、運動のプランニングに際しては、始点(現在の手先の位置)や終点(ターゲットの位置)は身体中心座標系の作業空間において記述される。また、手先を中心にした物体の位置も記述される。これを手先座標系という。空間内では位置だけでなく、手の姿勢(回転)も定義される必要もある。また、この作業空間の中で手先の軌道や力、モーメントのベクトルが決められる。
 
 この運動を実現するためには、[[wj:関節|関節]][[wj:筋肉|筋肉]]の動きの運動学的パラメーターとそこに発生する力の向きや大きさなどの動力学的パラメーターの両方を決める必要がある。関節では、運動学的には手先につながる複数の関節の角度と手先の位置との関係がプロットされる。また、動力学的には、関節のトルクベクトルと手先の力ベクトルの関係がプロットされる。これが関節座標系である。
 
 また筋肉では、運動学的に筋長(短縮方向が正)と関節角との関係、動力学的に筋力(短縮方向が正)と関節トルクとの関係がプロットされる。これが筋座標系である。これらの座標系の次元数は、関節と筋肉の数に相当し、自由度が非常に大きく、冗長なシステムとなる。このため、関節・筋座標系における冗長な自由度をへらす目的で、適切な拘束条件をみいだし筋や関節レベルのインピーダンス調整が行われている<ref name=ref7>'''伊藤 宏司'''<br>身体知システム論 ― ヒューマンロボティクスによる運動の学習と制御<br>''共立出版'' 2005</ref>


 脳内で空間座標から関節座標、筋座標への変換過程をしめす神経活動が、[[上頭頂葉]]、[[腹側運動前野]]、[[一次運動野]]などの領域で知られている。例えば、手首の屈曲伸展運動を考える場合に、手掌が上向きあるいは下向きの姿勢によって、外部空間内での手首の動きの向きと、関節や筋肉が表現するベクトルを区別することができる。このとき、サルの頭頂連合野のニューロンは、関節の屈曲か伸展かを表現するニューロンが存在する。これは[[固有感覚]]の入力によるものであるが、関節座標系の動きである。一方、手のひらの向きに関わらず、(暗闇の中で)空間内の手のうごきの方向を表現するニューロンが見つかっており、これは外部座標系での動きを表現する<ref name=ref34>'''Tanaka, M., et al.'''<br>Monkey postcentral joint neurons responding to visual stimuli.<br>in Annual meeting of the Japan neuroscience society. 1999. Osaka: Elsevier.</ref>。また、腹側運動前野でも、関節の屈曲・伸展に関わらず手の動きを外部座標系の動きで表現するニューロンが多い。一次運動野では、空間内の向きとともに筋座標系で表現するニューロンがあることがわかっている<ref name=ref35><pubmed>    10497133</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>11547338</pubmed></ref>。
 運動の計画においては、作業空間内に手先の軌道がマップされる必要がある。目標の運動を実行するにあたっては、どの身体部位をどのような順序で動かすかの運動という運動の系列がプレランされ、それをどのように動かすか運動のパターン、手先の軌道が決められる<ref name=ref7 />。


==関連項目==
 軌道を実現するためには、関節座標へ、さらに筋座標への変換が行われる、計算論においては、手先位置と関節角あるいは関節トルクとの関係を、関節座標系と呼ぶ。さらに、筋の長さ・張力と関節角・トルクとの関係を筋座標系という。手先の軌道を実現するために、手先の位置から関節角度、関節トルクへの変換が起こり、さらに個々の筋活動への変換を経て適切な運動が実行される。この際、関節・筋座標系における冗長な自由度をへらすために、適切な拘束条件をみいだし筋や関節レベルのインピーダンス調整が行われている<ref name=ref7 />。


*[[空間知覚]]
 脳内でのこのような、空間座標、関節座標、筋座標への変換過程しめす神経活動が、上頭頂葉、腹側運動前野、一次運動野などの領域で知られている。例えば、手首の屈曲伸展運動を考える場合に、手掌が上向きか下向きの姿勢によって、外部空間内での手首の動きの向きと、関節や筋肉が表現するベクトルを区別することができる。このとき、サルの頭頂連合野のニューロンは、関節の屈曲か伸展か表現するニューロンとともに、手のひらの向きに関わらず、(暗闇の中で)空間内の手のうごきの方向を表現するニューロンが見つかっている<ref name=ref34><pubmed></pubmed></ref>。また、腹側運動前野では、関節の屈曲・伸展に関わらず手の動きを外部空間内の向きで表現するニューロンが多く、一次運動野では、空間内の向きとともに筋のベクトルで表現するニューロンがあることがわかっている<ref name=ref35><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed></pubmed></ref>。
*[[頭頂葉]]
*[[眼球運動]]
*[[到達運動]]
*[[手操作運動]]
*[[ナビゲーション]]
*[[運動学]]
*[[動力学]]
*[[リンク]]


==参考文献 ==
==参考文献 ==
<references />
<references />

2013年8月7日 (水) 16:37時点における版

前田 和孝
近畿大学大学院医学部システム脳科学
村田 哲
近畿大学医学部生理学
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年8月7日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:入來 篤史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名: coordinate system, frame of reference

 脳は、外部環境または対象物を認知し、適応的行動・運動を生成する。このためには、脳内には外部空間と身体との関係や身体の動きとトルク、力の関係が座標系として表現されている。外部空間が脳内に表象され、最終的に運動へ変換される各過程で、複数の座標系が並列的に階層的に処理される。これらの座標系は、おおきくわけて対象の空間位置情報を規定する空間座標系と身体の関節や筋肉の自由度を規定する関節・筋座標系の2つに分けることができる。また、身体の外部に基準をもつ場合には外部座標系、身体上に基準を持つ場合には内部座標系とも呼ばれる。

空間座標系と関節・筋座標系

 生体の運動や空間記憶、ナビゲーションなどの適応的行動ために、複数の感覚器官からの情報を統合することによって、外部環境が脳内に表現されている。しかし、決して単一の外部世界が脳内にあるわけではなく、複数の空間表現、すなわち空間座標系が並列的・階層的に処理される。霊長類においては、特に視覚による空間知覚が発達しているが、それぞれの必要に応じてその複数の空間座標系を使い分ける。例えば、腕の到達運動の際、まず網膜中心窩を中心とした網膜座標系に対象物の位置が表現されるが、これだけでは視点が変化した場合に不都合で、眼球位置を中心にした眼球中心座標系、頭部や身体軸を中心とした頭部中心座標系[1]、身体中心座標系が必要となる。腕を伸ばす際には肩や腕、手といった身体部位中心座標系[2] [3]において対象物との関係性が表現される。更に、空間座標系は自己を中心とした空間だけでなく、他者や物体[4] [5]、外界空間[6]にも拡大されることが知られる。また空間座標が、安定して表現されるためには、運動の結果得られるフィードバックの信号や、運動をおこすための信号のコピー(遠心性コピー・随伴発射)によって更新が行われる必要がある。

 一方で、身体の関節や筋肉の自由度を規定するのが関節・筋座標系である。脳は空間座標系によって対象物を規定し、身体を介してそれに働きかける軌道を決定し、運動指令を生成する。運動指令を生成するためには空間座標系にプランされた軌道から運動への変換をする過程で、関節座標系、筋座標系が必要となる[7]

空間座標系

図1.眼球中心、頭部中心、身体中心、外界中心座標系で表現される対象物
a. 上からみた模式図。眼球(青)、頭部(ピンク)、身体(茶)対象物(黒)。
b. 眼球だけを回転させる。眼球中心座標系で表現される対象物(青丸)は、眼球の回転に伴って表現される。
c. 眼球と頭部を回転させる。頭部中心座標系で表現される対象物(赤丸)は、頭部の回転にのみ伴って表現される。
d. 眼球、頭部、身体を回転させる。身体中心座標系で表現される対象物(茶丸)は、身体の回転にのみ伴って表現される。外界中心座標系で表現される対象物(黒丸)は,眼球、頭部、身体の動きに対して不変である。

網膜座標系・網膜中心座標系

網膜部位局在網膜部位対応
retinotopic coordinate・ retinotopy

 中心窩(fovea)を中心にした網膜上の位置に依って表現される座標系。脳内の視覚領野には、網膜の部位がその領野内の位置と点対点の対応関係にある領野が存在する。これを網膜部位局在というが、結果として網膜座標系としての情報表現が見られる。外側膝状体から、V1、V2、V3、V5、V4、V6[8] [9] [10]、あるいは上丘などにこのようなマップが見られる。また、LIP[11]、VIP[12]、PRR(parietal reach region)[1]、運動前野[13]などの到達運動に関わる領域や眼球運動に関連したFEF[14]などの領域でも、網膜部位局在的なマップは明確ではないが、網膜座標系としての性質を持つニューロン活動が見つかっている。

眼球中心座標系

eye-centerred corrdinate

 眼窩の中において、目の位置(向き)を中心にした空間座標。現在の眼球の位置情報を元にした眼球を中心とした不変な空間ベクトルで表現される(図1b、c、d青丸)。Angle –Gaze effect[15]は、網膜上同じ位置に視覚刺激を出しても眼球位置により、その視覚反応が異なるニューロン応答のことで、網膜座標系での視覚刺激の位置情報と眼球の位置情報の統合し、網膜座標系から頭部中心座標系への変換過程にあると考えられる。頭頂連合野のLIP、7a、PRR、VIP[1] [12]V3A[16]にそうした座標表現に関わるニューロン活動が認められる。

網膜座標系と眼球中心座標系

 網膜座標系は外界像を2次元座標系として記述する。網膜座標系を符号化する神経活動は、網膜上の刺激に依存するため、眼球の位置に関わらず網膜上の同じ位置に視覚刺激が像を結べば、同様の応答を示す。一方、眼球中心座標系は現在の眼球の位置情報を使い、注視点から対象物までの変位ベクトルを表現する。輻輳角も考えれば、3次元座標系での対象の位置の表現も可能となる[7]。眼球中心座標系を符号化する神経活動は、眼の位置によって、たとえ視覚刺激が網膜上同じ位置にあっても、異なる応答をしめす[1]。したがって、両者とも注視点が変化すると、見かけ上空間表現が変化するため、網膜座標系と眼球中心座標系は時として混同されるが、同じではない。

 この二つの座標系の違いを明らかにする例として、ダブルステップサッケード課題を考える。ある点を注視する被験者に二つのサッケードのターゲットA、Bを短時間順番に提示し(例:ターゲットA→B)、ターゲットを消した後に、それらの提示の順番に続けてサッケードを行わせる。まず、最初に網膜座標系にターゲットAとBの位置が表現される。その情報に従って1つ目のターゲット(A)にサッケードを行うことは可能である。しかし、Bへのサッケードは最初の網膜座標系に表現された情報だけでは不可能である。眼球位置が変化しているので、中心窩からターゲットBへのベクトルではターゲットに到達しない。これを成功させるためには、ターゲットAにおける眼球位置を元にしたターゲットBへのベクトルを表現(眼球中心座標系)しなければならない。HallettとLightstoneはこうした課題を用いることで、運動制御や空間認知には網膜座標系だけではなく、ターゲットの空間位置を修正するための他の座標系システムが必要であることを体系的に示した[17]。実際、後頭頂葉の患者では、ダブルステップサッケード課題で最初のターゲットにはうまくサッケードできるが、二番目のサッケードができない症状が知られている[18]。これは網膜座標系を使ってサッケードはできるが、目の位置に対するターゲットの位置を計算ができないことを示している[19]

頭部中心座標系・身体中心座標系

head centered/body centered coordinate

 眼球の位置によらず頭部ないしは身体軸を中心にした座標系(図1c、d)。LIP[20]、V6A[10]、VIP[12] [21]などの領域において、眼球位置に依存しない空間位置表現が認められる。たとえば、V6Aのニューロン[22]は、注視点の位置をいろいろに変えて、網膜中心座標系での同じ位置に視覚刺激を出してやると、視線がある方向にあるときにだけ反応した。一見、眼球中心座標系の表現に見えるが、実はこのニューロンは、視線の向きに関わらず、視覚刺激が頭部から見てある特定の位置にあるときにだけ反応するニューロンであった。つまり、頭部中心座標系での空間表現をしているといえる。また、VIPやPRR、聴覚関連領域では、聴覚のモダリティによる頭部中心座標系の表現が認められる[1]

身体部位中心座標系

body parts centered coordinate    身体の部位を中心とした座標系。主に体性感覚や視覚を統合した多種感覚ニューロンによって表現される。体性感覚受容野の存在する皮膚部位(手、腕、肩、顔の一部など)を中心として、その周辺の一定の空間内に視覚刺激が入ると反応する。身体部位が動いても受容野はその部位と共に動く。こういった神経活動は被殻[23]、 VIP[24]、腹側運動前野のF4[3]などに存在する。これらは、眼球や頭部の動きとは無関係で、ある身体部位を中心とした身体部位中心座標系で対象物を符号化していると考えられる[2]。また、視覚のみならず、聴覚のモダリティでも表現される。視覚の反応は、自己の身体の周辺の空間に限られ、身体周辺空間(ペリパーソナルスペース)と呼ばれる自己の身体の一体となった空間表現の神経基盤となっている。また、こうした身体周辺空間に関わるニューロンの視覚受容野が、道具を使った時に道具先端にまで拡大する現象が知られている[25]。これは、道具の使用による身体イメージの拡張に関わると考えられている。

物体中心座標系

object-centered coordinates

 物体の中での目標の相対的位置。目標とする物体の中での位置(前後左右上下)を表現する。複雑な形状をした物体のある部分に働きかけるためには、物体を中心としてその位置がどこにあるのかを表現しておく必要がある。さらに、自己の身体を中心とした座標系のみでは、自分が動いたときにその都度、表現モデルを変更しなければならないが、物体を中心とした座標系で対象物を記述しておけば、自己の動きに不変な内部表現を得ることができる[7]。このような空間表現は物体中心座標系で規定されると考えられており、サルの7a野やAIPでは物体内での相対的位置や物体中心座標系に関わると考えられる神経活動がみつかっている[26] [27] [28]。またこうした座標系は物体の構造の記述にも必要であり、把持運動に関わるAIPやF5では、把持運動の対象となる三次元的物体を表現している[29]が、これらの領域のニューロンが両眼視差に応答することが明らかになっている[30]

外界中心座標系・環境中心座標系

world-centered coordinates

 外界あるいは環境の中での自己の位置。移動においては、自己が環境の中でどの位置にいるかを脳内では表現される必要がある。Allocentric reference frameとも呼ばれる。これに対応する自己の位置を中心した座標系をEgocentric reference frameという。齧歯類の海馬では、ある特定の場所に動物が来たときに反応する場所細胞(place neuron)が知られている。サルでは7a野のニューロンは、自己の身体の向きに依存しない空間内の位置を表現するニューロン活動が知られている[20]。また、この領域と結合のある内側頭頂葉、後部帯状回皮質や脳梁膨大部後部領域、海馬を含む内側側頭葉で環境内のある特定の場所に選択的に反応するニューロンや、環境中心座標系における空間表現が知られている[5] [31]。これらの領域は、ナビゲーションや認知地図に関わると考えられている[5]

運動と空間座標

 空間座標は主に、視覚の背側経路にて表現され、特に頭頂連合野には複数の座標表現が存在する。このような脳内の空間座標は、運動や空間記憶、行動決定などの行動に使われる。特に運動にとっては、欠くことができない。使われる空間座標は、運動の効果器によって異なるのは当然であり、脳内のある特定の運動を制御する領域に、その運動が必要とする座標表現が存在する。例えば、網膜中心座標系や眼球中心座標系は、眼球運動に使われるが、これらは眼球運動の制御に関わる上丘、LIP等で表現される。眼球中心座標系や頭部中心座標系や身体中心座標系、あるいは身体部位中心座標系は到達運動に取って必要であるが、これらは到達運動に関わるPRRやMIP、VIP、V6A等で表現されている。また、物体中心座標系に関わる神経活動は、把持運動に関わるAIPで見つかる。また、移動に関しては、外界中心座標系(環境中心座標系)がもちいられるが、場所の記憶やナビゲーションに関わる内側頭頂葉、後部帯状回皮質や脳梁膨大部後部領域、内側側頭皮質などが、このような空間表現を持っている。以上を以下の表にまとめる。   

座標系 網膜中心座標系 網膜中心座標系 頭部/身体中心座標系 身体部位中心座標系 物体中心座標系 外界中心座標系
脳領域 外側膝状体、上丘、視床枕、V1、V2、V3、V4、LIP、FEF MIP、PRR、LIP、V3A VIP、V6A、LIP VIP、被殻、F4 7a、AIP、F5 LIP、内側頭頂葉、後部帯状回皮質や脳梁膨大部後部領域、海馬
参考文献 [1] [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14] [1] [12] [15] [16] [12] [20] [21] [22] [3] [23] [24] [26] [27] [28] [5] [20]

関節・筋座標系

 運動の実行に際しては、空間座標を関節や筋の座標に変換する必要がある。到達運動を考えるとき、空間内の目標がきまると、身体中心座標系において物体と現在の手先の位置をマップする。これを作業空間ともいう[7]。また、身体部位中心座標系(手先座標系)において、手先を中心にした物体の位置も記述される。このときの姿勢(関節角)は、筋や関節などからの固有感覚や皮膚からの触覚によって、体性感覚野あるいは運動野にマップされる[32]。この情報は視覚や前庭覚などの情報と共に統合されて身体の表現として頭頂連合野にも表現されている。このような、脳内の身体表現は身体図式(Body schema)ないしは身体イメージ(body image)と呼ばれる。古典的には身体図式は、体性感覚入力を主に念頭に置き、無意識下の表現であると考えられている。一方、視覚が関わり意識に上る場合には身体イメージと呼んで区別されている[33]。いずれにしろ身体の表現は、動きとともに常に変化するため、感覚フィードバックや遠心性コピーにより常にアップデートされる必要がある。

 運動の計画においては、作業空間内に手先の軌道がマップされる必要がある。目標の運動を実行するにあたっては、どの身体部位をどのような順序で動かすかの運動という運動の系列がプレランされ、それをどのように動かすか運動のパターン、手先の軌道が決められる[7]

 軌道を実現するためには、関節座標へ、さらに筋座標への変換が行われる、計算論においては、手先位置と関節角あるいは関節トルクとの関係を、関節座標系と呼ぶ。さらに、筋の長さ・張力と関節角・トルクとの関係を筋座標系という。手先の軌道を実現するために、手先の位置から関節角度、関節トルクへの変換が起こり、さらに個々の筋活動への変換を経て適切な運動が実行される。この際、関節・筋座標系における冗長な自由度をへらすために、適切な拘束条件をみいだし筋や関節レベルのインピーダンス調整が行われている[7]

 脳内でのこのような、空間座標、関節座標、筋座標への変換過程しめす神経活動が、上頭頂葉、腹側運動前野、一次運動野などの領域で知られている。例えば、手首の屈曲伸展運動を考える場合に、手掌が上向きか下向きの姿勢によって、外部空間内での手首の動きの向きと、関節や筋肉が表現するベクトルを区別することができる。このとき、サルの頭頂連合野のニューロンは、関節の屈曲か伸展か表現するニューロンとともに、手のひらの向きに関わらず、(暗闇の中で)空間内の手のうごきの方向を表現するニューロンが見つかっている[34]。また、腹側運動前野では、関節の屈曲・伸展に関わらず手の動きを外部空間内の向きで表現するニューロンが多く、一次運動野では、空間内の向きとともに筋のベクトルで表現するニューロンがあることがわかっている[35] [36]

参考文献

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 Cohen, Y.E., & Andersen, R.A. (2002).
    A common reference frame for movement plans in the posterior parietal cortex. Nature reviews. Neuroscience, 3(7), 553-62. [PubMed:12094211] [WorldCat] [DOI]
  2. 2.0 2.1 Graziano, M.S., Hu, X.T., & Gross, C.G. (1997).
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