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<div align="right"> 
転写制御因子
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0193859 室山 優子]、[http://researchmap.jp/tetsuichirosaito 斎藤 哲一郎]</font><br>
''千葉大学大学院 医学研究院''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年11月8日 原稿完成日:2014年1月20日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター [[脳神経]]科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
</div>


英:transcription factor, transcriptional regulator, transcription regulatory factor 独:Transkriptionsfaktor 仏:facteur de transcription
英:transcriptional regulator


同義語:転写調節因子、転写因子
同義語:転写調節因子


{{box|text= 転写制御因子は、[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]] [[wikipedia:ja:DNA|DNA]]上の特定の塩基配列に結合し、[[wikipedia:ja:RNAポリメラーゼ|RNAポリメラーゼ]]による[[wikipedia:ja:転写|転写]]を促進あるいは抑制するタンパク質の一群である<ref name=ref1> Tetsuichiro Saito<br>Transcription factor. Encyclopedia of Neuroscience<br> Springer-Verlag Gmbh Berlin Heidelberg: 2009</ref>。DNAに結合するドメインと他のタンパク質などと相互作用し転写制御に関わるドメインを有する。構造上の特徴により、いくつかのファミリーに分類される<ref name=ref1 />。転写制御因子は[[リン酸化]]などの様々な調節を受け、個体発生から脳高次機能までの多くの過程を制御する<ref name=ref2><pubmed>11823631</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>23498934</pubmed></ref>。転写制御因子をコードすると推測される遺伝子は、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]ゲノムにおいて約2000個存在する<ref><pubmed>15193307</pubmed></ref><ref><pubmed>19274049</pubmed></ref>。}}
転写制御因子は、ゲノムDNA上の特定の塩基配列に結合し、RNAポリメラーゼによる転写を促進あるいは抑制するタンパク質の一群である。DNAに結合するドメインと転写制御に関わるドメインを有する。DNA結合ドメインなどの構造上の特徴により、いくつかのファミリーに分類される。転写制御因子の活性はリン酸化などの様々な制御を受け、神経発生から脳高次機能までの多くの過程に関わる。転写制御因子をコードすると推測される遺伝子は、ヒトゲノムにおいておよそ2000個程度存在する<ref><pubmed>15193307</pubmed></ref><ref><pubmed>19274049</pubmed></ref>。


==転写制御因子とは==
==転写制御因子とは==
 遺伝子の転写は、[[wikipedia:ja:RNA|RNA]]ポリメラーゼがDNAを鋳型として相補的な[[wikipedia:ja: RNA|RNA]]を5’から3’の方向へ合成する反応である。転写においてRNAポリメラーゼの他に必要とされるタンパク質を[[転写因子]] (transcription factor) という。その中で、転写制御因子はDNAに結合し、転写を調節するタンパク質であり、転写を促進するものを転写活性化因子、抑えるものを転写抑制因子という<ref name=ref1 />。一方、DNAに直接結合せず、転写制御因子とRNAポリメラーゼなどとの仲介役として転写を調節するタンパク質複合体は[[メディエーター]]である。メディエーターの機能は多岐に渡り、転写を活性化する[[コアクチベーター]]や、転写を抑制する[[コリプレッサー]]として働く<ref name=ref4><pubmed>15680973</pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed>20940737</pubmed></ref>。メディエーター以外にも、コアクチベーターやコリプレッサーと呼ばれる因子があり、[[ヒストン]][[アセチル化]]や[[メチル化]]などを介して、[[クロマチン]]の状態を制御する<ref name=ref5 /><ref name=ref8><pubmed>21321607</pubmed></ref>。DNA上で転写の活性化に働く領域は[[エンハンサー]]、転写を抑制する領域が[[サイレンサー]]であり、それぞれ複数の転写制御因子が結合することが多い<ref name=ref15><pubmed>12853946</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed>21358745</pubmed></ref><ref name=ref7><pubmed>22868264</pubmed></ref>。
遺伝子の転写は、RNAポリメラーゼがDNAを鋳型として相補的なRNAを5’から3’の方向へ合成する反応である。転写制御因子は、DNA上の転写制御配列に直接結合し、転写を促進あるいは抑制する。転写の効率を上げるものを転写活性化因子、下げるものを転写抑制因子という。一方、DNAに直接結合せず、転写制御因子とRNAポリメラーゼの仲介役として転写を調節するタンパク質複合体はメディエーターと呼ばれる。メディエーターの機能は多岐に渡り、転写を活性化するコアクチベーターや、転写を抑制するコリプレッサーとして働く。コアクチベーターには[[ヒストン]][[アセチル化]]するCBPなど、クロマチンを制御するものもある。転写制御因子が認識し、結合する配列は転写制御配列といい、転写の活性化に働く配列を[[エンハンサー]]、抑制するものはサイレンサーと呼ばれる。


==転写制御機構==
==転写制御機構==
 In vitroの解析により、転写は[[wikipedia:ja:TATAボックス| TATAボックス]]などの[[wikipedia:ja:コアプロモーター|コアプロモーター]]上で[[TATA結合タンパク質]] (TATA-binding protein; TBP) や[[TBP-associated factors]]([[TAFs]])などの[[基本転写因子]]がRNAポリメラーゼと[[wikipedia:ja:転写開始前複合体|転写開始前複合体]]を形成することにより開始されることが示されている<ref name=ref4 /><ref name=ref15 /><ref name=ref16><pubmed>20628347</pubmed></ref>。これらの因子のみによる転写は基本転写と呼ばれる。生体内では、様々な転写制御因子が働き、その組み合わせにより遺伝子の転写量が組織や発生の時期で異なる<ref name=ref2 /><ref name=ref3 /><ref name=ref7 />。
in vitroの解析により、転写は、TATAボックスなどのコアプロモーター上でTBP(TATA-binding protein)やTAFs (TBP-associated factors)などの基本転写因子がRNAポリメラーゼと転写開始前複合体を形成することにより開始されることが示されている<ref><pubmed>12853946</pubmed></ref><ref>’’’Tetsuichiro Saito’’’ <br>Transcription factor. Encyclopedia of Neuroscience<br> ‘’Springer-Verlag Gmbh Berlin Heidelberg’’:2009</ref><ref name=ref4><pubmed>20940737</pubmed></ref>。この転写は基本転写と呼ばれる。生体内では、様々な転写制御因子が働き、その組み合わせにより遺伝子の転写量は組織や発生の時期で異なる<ref name=ref10><pubmed>23498934</pubmed></ref>。


  [[ファイル:TF0730.jpg|frame|right|'''図1 転写活性化機構''' <br>
  [[ファイル:TF0730.jpg|frame|right|図1. 転写活性化機構. 転写活性化因子(TF)はエンハンサーに結合し、メディエーターを介してプロモーターにおける転写開始前複合体の形成を促進する]]  
転写活性化因子(TF)はエンハンサーに結合し、メディエーターを介してプロモーターにおける転写開始前複合体の形成を促進する。]]  


===転写活性化の機構===
===転写活性化の機構===
 転写の活性化は、転写の開始と伸長で起こる。活性化の例として、エンハンサーに結合した転写活性化因子が基本転写因子と相互作用し、プロモーターにおける転写開始前複合体の形成を促進することが知られている<ref name=ref1 /><ref name=ref15 /><ref name=ref16 />。一方、メディエーターは、転写制御因子の転写活性化ドメインとRNAポリメラーゼの双方に結合し、転写開始前複合体の形成を促し、コアクチベーターとして働く<ref name=ref4 /><ref name=ref5 /><ref name=ref17><pubmed>20299225</pubmed></ref> (図1)。
転写の活性化とは、転写の効率が高まることを言い、転写開始と伸長のそれぞれの段階で起こりうる。よく知られている活性化のモデルは、転写活性化因子がエンハンサーなどに結合し、基本転写因子と相互作用してプロモーター領域における転写開始前複合体の形成を安定化することである<ref name=ref2 />
 
一方、多くの転写活性化因子の作用にはメディエーターの働きが必要であると考えられている(図1) <ref name=ref2><pubmed>20940737</pubmed></ref>。転写活性化においてメディエーターは、転写制御因子の転写活性化ドメインやRNAポリメラーゼに直接結合し、タンパク質間相互作用を介して転写開始前複合体の形成を促進することにより、転写の開始を促進し、コアクチベーターとして機能する<ref name=ref2 />。真核細胞のDNAはヒストンに巻きついてヌクレオソームを形成し、それがさらに高次のクロマチン構造を取っていることから、ヌクレオソーム構造を弛緩させる作用を持つ因子がコアクチベーターとして重要な役割を果たす。CBPなどのヒストンアセチル基転移活性を持つコアクチベーターは、ヒストンをアセチル化することによりヒストンとDNA間の親和性を弱めて転写制御因子をアクセスしやすくしていると考えられている<ref name=ref3><pubmed>21321607</pubmed></ref>。一方、SWI/SNFファミリーに代表されるATP依存性クロマチン再構成複合体もコアクチベーターとして重要であり、ATPの加水分解で生じるエネルギーを用いて直接ヌクレオソーム構造を変化させることにより、転写制御因子やRNAポリメラーゼの接近を促し転写の活性化に寄与する<ref><pubmed>21358755</pubmed></ref>。
 [[wikipedia:ja:真核細胞|真核細胞]]のDNAはヒストンに巻きつき、[[wikipedia:ja: ヌクレオソーム|ヌクレオソーム]]を形成する。ヌクレオソーム構造を弛緩させ、転写制御因子などをDNAに作用しやすくし、転写を活性化する因子もコアクチベーターと呼ばれる。コアクチベーターの[[CREB-binding protein]]([[CBP]])は、ヒストンをアセチル化し、ヒストンとDNA間の親和性を弱める<ref name=ref8 />。[[ヒストンリモデリング因子]]の[[switch/sucrose nonfermentable]]([[SWI/SNF]])は、[[wikipedia:ja:ATP|ATP]]の[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]で生じるエネルギーを用いてクロマチン構造を変化させる<ref><pubmed>21358755</pubmed></ref>
 
 RNAポリメラーゼは数十塩基程度の短いRNAを転写後、[[DRB-sensitivity inducing factor]]([[DSIF]])や[[negative elongation factor]]([[NELF]])などの伸長阻害因子の働きにより転写を休止する<ref name=ref9><pubmed>22986266</pubmed></ref>。Mycなどの転写制御因子は、[[プロテインキナーゼ]][[positive transcription elongation factor b]]([[P-TEFb]])の作用を介して転写の休止を解除し、RNA伸長を再開させることが知られている<ref name=ref9 />。


===転写抑制の機構===
===転写抑制の機構===
 転写抑制では、サイレンサーに結合した転写抑制因子が[[transducin-like Enhancer of split]]/[[groucho-related gene]]([[TLE]]/[[Grg]])や[[nuclear receptor corepressor]]/[[silencing mediator for retinoic and thyroid receptors]]([[NcoR]]/[[SMRT]])などのコリプレッサーを介して[[ヒストン脱アセチル化酵素]]を引き寄せ、ヒストンの[[アセチル基]]を除去することによりヌクレオソームを安定化させ遺伝子を不活化する<ref><pubmed>18721877</pubmed></ref><ref><pubmed>21049000</pubmed></ref>。また、[[ヒストンメチル基転移酵素]]を引き寄せ、ヒストンの特定の部位を[[メチル化]]し、転写が起きないクロマチン状態を維持することにより抑制する場合もある<ref name=ref5 /><ref name=ref8 />。
転写抑制因子の多くはクロマチンの構造を変化させるコリプレッサーの作用を介して転写を抑制する。転写抑制因子がサイレンサーなどの転写抑制配列に結合すると、Grg/TLEやNcoR/SMRTなどのコリプレッサーは[[ヒストン脱アセチル化酵素]]をリクルートしてヒストンのアセチル基を除去し、ヌクレオソームを安定化させることにより遺伝子を不活性化する<ref name=ref3 /><ref><pubmed>18721877</pubmed></ref><ref><pubmed>21049000</pubmed></ref>。ヒストンメチル基転移酵素を引き寄せることにより、ヒストンの特定部位をメチル化し、転写が休止した状態のクロマチンを維持することにより転写を抑制する場合もある。転写抑制因子NRSF/RESTはneural restrictive silencer elementに結合し、メディエーターを介してヒストン脱アセチル化酵素やヒストンメチル基転移酵素と相互作用し、神経系特異的遺伝子の発現を抑制する<ref name=ref2> <pubmed>16150588</pubmed></ref>。また、メディエーターのなかでもキナーゼドメインを有するものは転写制御因子をリン酸化して分解を促進したり、基本転写因子をリン酸化して転写開始前複合体の形成を阻害するなど、コリプレッサーとして働くことが明らかとなっている<ref><pubmed>21854863</pubmed></ref>。
 
 転写抑制因子の[[neuron-restrictive silencer factor]]/[[RE1-silencing transcription factor]]([[NRSF]]/[[REST]])は、サイレンサー中の塩基配列[[neural restrictive silencer element]]/[[repressor element 1]]([[NRSE]]/[[RE1]])に結合し、コリプレッサーを介したヒストン脱アセチル化酵素やヒストンメチル基転移酵素の作用により、神経細胞で働く''[[superior cervical ganglia 10]]([[SCG10]])'' などの遺伝子の転写を非神経細胞で抑える<ref><pubmed>16150588</pubmed></ref>。
 
 [[サイクリン依存性タンパク質キナーゼ8]] [[Cyclin dependent kinase 8]]([[CDK8]])などのコリプレッサーは、転写制御因子をリン酸化し分解を促進したり、基本転写因子をリン酸化し転写開始前複合体の形成を阻害する<ref name=ref5 /><ref name=ref17 />。
 
==転写制御配列==
 転写制御因子のDNA結合ドメインは、多くの場合、4から10塩基の特定の配列(コンセンサス配列)に結合する。エンハンサーやサイレンサーには、通常、転写制御因子の結合する場所(転写制御因子結合部位)がいくつかあり、複数種の転写制御因子で転写が調節される<ref name=ref6/><ref name=ref7 />。 遺伝子の転写が複数のエンハンサーで調節されることも多く、発生段階に特異的なエンハンサーと組織特異的なエンハンサーなどに分離できることもある。
 
 DNA配列における転写制御因子結合部位は、[http://www.genomatix.de/index.html MatInspector]や、[http://www.pazar.info/ PAZAR]などで予測できる。
 
 ENCODEプロジェクトなどにより、ゲノムのかなりの領域が転写されることが明らかとなった<ref><pubmed>22955616</pubmed></ref>。エンハンサー部位で合成される[[enhancer RNA]]([[eRNA]])などの[[非翻訳RNA]]が転写に関わることが示唆されている<ref><pubmed>23273978</pubmed></ref><ref><pubmed>20887892</pubmed></ref>。


{{Infobox protein family
==転写制御因子結合領域(エンハンサーやサイレンサー)==
| Symbol = Homeobox
| Name = Homeobox domain
| image =1AHD.pdb
| width = 250
| caption = [[DNA]]に結合に結合したホメオドメイン型転写因子[[ショウジョウバエ]]''[[Antennapedia]]'' 。{{PDB2|1ahd}}による<ref name="pmid7903398"><pubmed>7903398</pubmed></ref>。
| Pfam = PF00046
| Pfam_clan = CL0123
| InterPro = IPR001356
| SMART = SM00389
| PROSITE = PS50071
| SCOP = 1ahd
| TCDB =
| OPM family =
| OPM protein =
| PDB = {{PDB2|1ahd}}, {{PDB2|1akh}}, {{PDB2|1apl}}, {{PDB2|1au7}}, {{PDB2|1b72}}, {{PDB2|1b8i}}, {{PDB2|1bw5}}, {{PDB2|1cqt}}, {{PDB2|1du0}}, {{PDB2|1du6}}, {{PDB2|1e3o}}, {{PDB2|1enh}}, {{PDB2|1f43}}, {{PDB2|1fjl}}, {{PDB2|1ftt}}, {{PDB2|1ftz}}, {{PDB2|1gt0}}, {{PDB2|1hdd}}, {{PDB2|1hdp}}, {{PDB2|1hf0}}, {{PDB2|1hom}}, {{PDB2|1ic8}}, {{PDB2|1ig7}}, {{PDB2|1jgg}}, {{PDB2|1k61}}, {{PDB2|1kz2}}, {{PDB2|1le8}}, {{PDB2|1lfb}}, {{PDB2|1lfu}}, {{PDB2|1mh3}}, {{PDB2|1mh4}}, {{PDB2|1mnm}}, {{PDB2|1nk2}}, {{PDB2|1nk3}}, {{PDB2|1o4x}}, {{PDB2|1ocp}}, {{PDB2|1oct}}, {{PDB2|1p7i}}, {{PDB2|1p7j}}, {{PDB2|1pog}}, {{PDB2|1puf}}, {{PDB2|1qry}}, {{PDB2|1s7e}}, {{PDB2|1san}}, {{PDB2|1uhs}}, {{PDB2|1vnd}}, {{PDB2|1wi3}}, {{PDB2|1x2m}}, {{PDB2|1x2n}}, {{PDB2|1yrn}}, {{PDB2|1yz8}}, {{PDB2|1zq3}}, {{PDB2|1ztr}}, {{PDB2|2cqx}}, {{PDB2|2cra}}, {{PDB2|2cue}}, {{PDB2|2cuf}}, {{PDB2|2dmq}}, {{PDB2|2e1o}}, {{PDB2|2ecb}}, {{PDB2|2ecc}}, {{PDB2|2h8r}}, {{PDB2|2hdd}}, {{PDB2|2hi3}}, {{PDB2|2hoa}}, {{PDB2|2jwt}}, {{PDB2|2lfb}}, {{PDB2|2p81}}, {{PDB2|2r5y}}, {{PDB2|2r5z}}, {{PDB2|3hdd}}, {{PDB2|9ant}}
}}
{{Infobox protein family
| Symbol = zf-C2H2
| Name = Zinc finger, C2H2 type
| image = 1ZAA.pdb
| width = 250
| caption =  DNA結合に結合したZinc finger型転写因子[[ZIF268]]。{{PDB2|1zaa}}による<ref><pubmed>2028256</pubmed></ref>。
| Pfam = PF00096
| Pfam_clan = CL0361
| InterPro = IPR007087
| SMART =
| PROSITE = PS00028
| MEROPS =
| SCOP =
| TCDB =
| OPM family =
| OPM protein =
}}
{{Pfam_box
| Symbol = bHLH
| Name = basic helix-loop-helix DNA-binding domain
| image = 1MDY.pdb
| width = 250
| caption = DNAに結合したbHLH型転写因子MyoD。{{PDB2|1mdy}}による<ref><pubmed> 8181063 </pubmed></ref>。
| Pfam = PF00010
| InterPro = IPR001092
| SMART= SM00353
| PROSITE = PDOC00038
| SCOP = 1mdy
| TCDB =
| OPM family =
| OPM protein =
| PDB = {{PDB2|1a0a}}, {{PDB2|1am9}}, {{PDB2|1an2}}, {{PDB2|1an4}}, {{PDB2|1hlo}}, {{PDB2|1mdy}}, {{PDB2|1nkp}}, {{PDB2|1nlw}}, {{PDB2|1r05}}, {{PDB2|1ukl}}, {{PDB2|2ql2}}
}}
{{Pfam_box
| Symbol = bZIP_1
| Name = bZIP transcription factor
| image = 1DH3.pdb
| width =250
| caption =DNAに結合したbasic-Leucin Zipper型転写因子[[CREB]]。{{PDB2|1DH3}}による<ref><pubmed>10952992</pubmed></ref>。
| Pfam= PF00170
| InterPro= IPR011616
| SMART=
| PROSITE=PDOC00036
| SCOP = 1ysa
| TCDB =
| OPM family=
| OPM protein=
| PDB=
{{PDB3|1dh3}}A:285-339  {{PDB3|1t2k}}D:336-395  {{PDB3|1s9k}}E:257-308
{{PDB3|1jun}}B:276-313  {{PDB3|1jnm}}A:254-313  {{PDB3|1a02}}J:257-308
{{PDB3|1swi}}B:249-278  {{PDB3|1ce9}}A:251-279  {{PDB3|1uo0}}A:249-279
{{PDB3|1rb5}}B:249-279  {{PDB3|1unw}}B:249-279  {{PDB3|1vzl}}B:249-279
{{PDB3|1unt}}A:249-279  {{PDB3|1zim}}C:249-279  {{PDB3|1w5j}}D:249-279
{{PDB3|1zij}}A:249-279  {{PDB3|1rb6}}A:249-279  {{PDB3|2zta}}A:249-279
{{PDB3|1uo5}}B:249-279  {{PDB3|1rb1}}C:249-279  {{PDB3|1gcl}}C:249-279
{{PDB3|1w5g}}B:249-279  {{PDB3|1w5i}}A:249-279  {{PDB3|1uo1}}A:249-279
{{PDB3|1unu}}B:249-279  {{PDB3|1gcm}}A:249-279  {{PDB3|1rb4}}C:249-279
{{PDB3|1uo2}}B:249-279  {{PDB3|1ysa}}D:226-279  {{PDB3|1unz}}B:249-279
{{PDB3|1w5k}}D:249-279  {{PDB3|1ij1}}A:249-279  {{PDB3|1zta}} :247-279
{{PDB3|1ij0}}A:249-279  {{PDB3|1uo3}}A:249-279  {{PDB3|1w5h}}A:249-279
{{PDB3|1ij2}}A:249-279  {{PDB3|1dgc}}A:227-279  {{PDB3|1w5l}}B:249-279
{{PDB3|1uny}}A:249-279  {{PDB3|2b1f}}B:251-279  {{PDB3|2bni}}B:249-279
{{PDB3|1zil}}A:249-278  {{PDB3|1zii}}A:249-279  {{PDB3|1unv}}B:249-279
{{PDB3|1zik}}B:249-278  {{PDB3|1unx}}A:249-279  {{PDB3|1ij3}}B:249-279
{{PDB3|1uo4}}A:249-279  {{PDB3|1kql}}B:255-279  {{PDB3|2dgc}}A:229-277
{{PDB3|1piq}}A:249-279  {{PDB3|2b22}}A:251-279  {{PDB3|1lvx}}A:265-294
{{PDB3|1gd2}}H:74-137    {{PDB3|1ci6}}A:280-339
}}
{{Pfam_box
| Symbol = PF00505
| Name = HMG (high mobility group) box
| image = 2LEF.pdb
| width = 250
| caption = DNAに結合したHMGボックスドメインタンパク質[[Lymphoid enhancer-binding factor 1|LEF1]]。{{PDB2|2LEF}}による<ref><pubmed>7651541</pubmed></ref>。
| Pfam = PF00505
| InterPro = IPR009071
| SMART=
| PROSITE=
| SCOP = 1hsm
| TCDB =
| OPM family =
| OPM protein =
| PDB = {{PDB2|1aab}}, {{PDB2|1cg7}}, {{PDB2|1ckt}}, {{PDB2|1e7j}}, {{PDB2|1gt0}}, {{PDB2|1hme}}, {{PDB2|1hmf}}, {{PDB2|1hry}}, {{PDB2|1hrz}}, {{PDB2|1hsm}}, {{PDB2|1hsn}}, {{PDB2|1i11}}, {{PDB2|1j3x}}, {{PDB2|1j46}}, {{PDB2|1j47}}, {{PDB2|1j5n}}, {{PDB2|1k99}}, {{PDB2|1lwm}}, {{PDB2|1nhm}}, {{PDB2|1nhn}}, {{PDB2|1o4x}}, {{PDB2|1qrv}}, {{PDB2|1s9m}}, {{PDB2|1sx9}}, {{PDB2|1v64}}, {{PDB2|1wgf}}, {{PDB2|1wxl}}, {{PDB2|2crj}}, {{PDB2|2cs1}}, {{PDB2|2lef}}
}}


転写制御因子が認識・結合する標的となる転写調節領域(エンハンサーやサイレンサー)は、それぞれ特有のヌクレオチド配列から成っているが、多くの転写制御因子では、その認識ヌクレオチド配列は長いもので10ヌクレオチド程度、短いもので4ヌクレオチド程度が固定されているだけで、その他のヌクレオチドはかなり変動する。転写活性化因子が特異的に結合し、転写活性化に働く領域をエンハンサーといい、転写抑制に働く領域はサイレンサーと呼ばれる。転写開始部位の上流であることも下流であることもある。遺伝子発現は多くの場合、複数のエンハンサーやサイレンサーによって制御され、その領域に結合する転写制御因子の組み合わせによりどの遺伝子が発現するかが決まる<ref><pubmed>21358745</pubmed></ref>。あるDNA配列における転写制御因子の予想結合部位はMatInspector software (http://www.genomatix.de/index.html) を使って調べることができる。
==構造==  
==構造==  
 転写活性化因子の転写活性化ドメインは、コアクチベーターなどのタンパク質と結合し、[[酸性アミノ酸]]、もしくは[[グルタミン酸]]、[[プロリン]]のいずれかに富む領域などに分類される。転写抑制因子の転写抑制ドメインには、[[トリプトファン]]、[[アルギニン]]、プロリンからなる[[WRPWドメイン]]や、[[芳香族アミノ酸]]と[[疎水性アミノ酸]]からなる[[engrailed homology 1]]([[EH1]])ドメインなどがあり、コリプレッサーとの結合に必須である<ref><pubmed>18254933</pubmed></ref><ref><pubmed>16309560</pubmed></ref>。[[ジンクフィンガー]]型因子などは、リガンドと結合するドメインも有する。
転写制御因子は、DNA結合ドメインとタンパク質間相互作用を介して転写制御に必須な機能を持ったドメインを有する。各機能領域の配列や数は転写制御因子によって異なる。DNA結合ドメインは転写制御配列に結合する領域で、転写調節作用に必須である。転写活性化ドメイン(transactivation domain)は他のタンパク質(コアクチベーターなど)と結合するための領域でそのアミノ酸配列の特徴から、酸性アミノ酸領域、[[グルタミン酸]]に富む領域、プロリンに富む領域などに分類されている。シグナル検知領域またはリガンド結合領域と呼ばれる領域は、外部からのシグナル因子による制御を受け、転写制御因子の活性変化をもたらす。
 
 転写制御因子の構造については、[http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do Protein Data Bank]や[http://pfam.sanger.ac.uk/ Pfam]などのデータベースで[[検索]]できる。
 
===DNA結合ドメインによる分類===
===DNA結合ドメインによる分類===
 転写制御因子は、DNA結合ドメインの構造モチーフに基づき、[[ホメオドメイン]]、ジンクフィンガー、[[塩基性へリックス・ループ・へリックス]]などのファミリーに分けられる。
====ホメオドメイン====
[[homeodomain]]
 [[ホメオボックス]]がコードする約60個のアミノ酸配列である。[[ショウジョウバエ]]の[[体節]]形成の研究で発見され、[[ヒト]]を含む高等動物までホモログ間でよく保存されている<ref><pubmed>11470884</pubmed></ref>。[[へリックス・ターン・へリックス構造]]をとり、2番目のヘリックスがDNAの主溝に入り込んで結合する。アミノ酸配列の類似性やホメオドメインの外のモチーフから、さらにサブファミリーに分けられる。ホメオドメインが結合するコンセンサス配列の代表としてATTAが知られ、サブファミリーにより認識配列が異なる<ref><pubmed>18585359</pubmed></ref>。
====ジンクフィンガー====
zinc finger
 [[GATAファミリー]]の因子などに見られる構造で、[[wikipedia:ja:亜鉛|亜鉛]]イオンに2個の[[システイン]]と2個のヒスチジンが配位結合するC2H2タイプや、4個のシステインが配位結合するC4タイプなどがある<ref><pubmed>18253864</pubmed></ref>。亜鉛に配位した[[システイン]]あるいは[[ヒスチジン]]残基に挟まれたアミノ酸領域が指状のループをつくる。[[ステロイドホルモン]]受容体などの[[核内受容体]]は、リガンドと直接結合すると核内に入り転写制御能を発揮するようになる<ref><pubmed>20813267</pubmed></ref><ref><pubmed>20850017</pubmed></ref>。コンセンサス配列にはGATAファミリーの因子が結合するGATAなどがある。
====塩基性へリックス・ループ・へリックス====
basic helix-loop-helix、bHLH
 [[mammalian achaete-scute homolog 1|Mammalian achaete-scute homolog 1]]/[[achaete-scute complex homolog 1]]([[Mash1]]/[[Ascl1]])や[[mammalian atonal homolog 1]]/[[atonal homolog 1]]([[Math1]]/[[Atoh1]])などの神経[[分化]]を開始させるプロニューラル因子などに見られる<ref name=ref10><pubmed>12094208</pubmed></ref>。[[transcription factor 3]]([[E12]]/[[Tcf3]])タンパク質などのへリックス・ループ・へリックスドメインとヘテロ[[wikipedia:ja:二量体|二量体]]を形成し、DNAに結合する。コンセンサス配列として、プロニューラル因子などの転写活性化因子が結合する[[E box]] (CANNTG) と、[[hairy, Enhancer of split 1]]([[Hes1]])などの転写抑制因子が結合する[[N box]] ([[CACNAG]]) などが知られている<ref name=ref11><pubmed>17329370</pubmed></ref>。
====ロイシンジッパー====
leucine zipper


 c-FosやMycなどに見られ、7アミノ酸ごとに[[ロイシン]]が配置された[[コイルドコイル]]と呼ばれる構造を取る。同様の構造を持つ因子とコイルドコイル間でヘテロ二量体を形成し、コイルドコイルのN端側に存在する塩基性アミノ酸に富む領域でDNAに結合する。コンセンサス配列には[[サイクリックAMP応答配列結合タンパク質]] [[cAMP-responsive element-binding protein]]([[CREB]])が結合する[[サイクリックAMP応答配列]](TGACGTCA)などがある<ref name=ref18><pubmed>20223527</pubmed></ref>。
転写制御因子は、DNA結合ドメインの構造的なモチーフから、下の表のようにHomeodomain、basic Helix-Loop-Helix ([[bHLH]])、Zinc finger、Leucine zipperなどいくつかのファミリーに分けられる。転写制御因子のリストはTRANSFACデータベース(http://www.gene-regulation.com)から入手可能である。


====HMG(high mobility group)ボックス ====
====Homeodomain====
 クロマチンから0.35 M[[wikipedia:ja:塩化ナトリウム|塩化ナトリウム]]によって抽出され、[[wikipedia:ja:電気泳動|電気泳動]]で高い移動度を示すタンパク質のDNA結合領域で見つかった。約80アミノ酸からなり、三つの&alpha;へリックスを形成する<ref><pubmed>23153957</pubmed></ref>。特に、[[wikipedia:ja:性決定遺伝子|性決定遺伝子]]''[[wikipedia:ja:Sry|Sry]] ''がコードするタンパク質と高い相同性を持つ因子は[[Soxファミリー]]と呼ばれる。コンセンサス配列にはSoxファミリーの結合するT(A/T)(A/T)CAAGなどがある。
[[ホメオボックス]]がコードするタンパク質ドメインで、60アミノ酸からなる。[[ショウジョウバエ]]の体軸に沿ったパターン形成に関与する転写制御因子から見出されたモチーフで、ヒトを含む高等動物でもよく保存されている。Helix-turn-helix構造を持ち、2番目のヘリックスがDNAを認識する。アミノ酸配列の類似性やタンパク質間相互作用に必要なモチーフの有無からさらにサブファミリーに分けられる。
====Zinc finger====
GATAファミリー因子などに見られる構造で、2個のヒスチジンと2個のシステインが亜鉛イオンに配位結合することで、DNAと結合する部分のαヘリックス構造が安定化され、DNAに結合する。共通するアミノ酸配列に基づいて、C2H2タイプ、C4タイプなどに分類されている。[[ステロイドホルモン]]受容体などの[[核内受容体]]は、各種ホルモンなどのリガンドと直接結合することにより制御される転写制御因子で、DNAに結合するZinc finger領域とリガンド結合領域を有する<ref><pubmed>20813267</pubmed></ref><ref><pubmed>20850017</pubmed></ref>。
====basic Helix-Loop-Helix (bHLH) ====
HLHはプロニューラル因子に代表される神経[[細胞分化]]に必須な転写制御因子に見られ、転写制御因子間の結合に重要な構造である。二量体を形成した転写制御因子の2つの塩基性領域がDNAを認識する。
====Leucine zipper ====
アミノ酸7つごとにロイシンあるいはイソロイシンが配置された特徴的なαヘリックス構造を持ち、転写制御因子の二量体形成に関わる。形成された二量体の塩基性領域がDNAを認識する。


{| class="wikitable" style="text-align:center"
{| class="wikitable" style="text-align:center"
179行目: 44行目:
! DNA結合ドメイン|| ファミリー || 例
! DNA結合ドメイン|| ファミリー || 例
|-
|-
| rowspan="9" | [[ホメオドメイン]]
| rowspan="8" | [[Homeodomain]]
| [[Hox]]
| Hox
| [[HoxA1]], [[HoxC8]]
| HoxA1,HoxC8
|-
|-
| [[Pax]]
| [[PAX|Pax]]
| [[Pax2]], [[Pax6]]
| [[PAX2|Pax2]],[[PAX6|Pax6]]
|-
|-
| [[Dlx]]
| Emx
| [[Dlx1]], [[Dlx2]]
| Emx2
|-
|-
| [[Emx]]
| Nkx
| [[Emx2]]
| Nkx2.2,Nkx6.1
|-
|-
| [[Nkx]]
| En
| [[Nkx2.2]], [[Nkx6.1]]
| En1
|-
|-
| [[En]]
|Bar
| [[En1]]
| Barhl1,Barhl2
|-
|-
| [[Bar]]
|Paired-like
| [[Barh1]], [[Barh2]]
|Phox2a,DRG11
|-
|-
| [[paired-like]]
|POU
| [[Phox2a]], [[DRG11]]
|Brn3a
|-
|-
| [[POU]]
| [[Winged helix/forkhead]]  
| [[Brn3a]]
|Fox
| FoxG1(Bf1),FoxO,FoxP2
|-
|-
|rowspan="4" | [[ジンクフィンガー]]
|rowspan="2" | [[Basic helix-loop-helix]]
| [[C2H2]]
|bHLH
| [[Gli1]], [[NRSF]]/[[REST]], [[Zif268]], [[Krox20]], [[Fezl]]
| Mash1,Neurogenin2, Math1,NeuroD,Ptf1a,[[Hes1]],Hey1,Olig2,Tal1
|-
|-
| [[krüppel-like]]
|bHLH-PAS
| [[Klf4]]
|Per1,Clk
|-
|-
| [[Gata]]
| [[T-box]]
| [[Gata2]], [[Gata3]]
|
|Tbr1,Tbx21(T-bet)
|-
|-
| [[核内受容体]]
|rowspan="4" | [[HMG-box]]
| [[RAR&alpha;1]], [[RXR]]
|Sox
|Sox2,Sox9,Sox10
|-
|-
|rowspan="3" | [[塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス]]
|
| [[bHLH]]
|Hmga2
| [[Mash1]]/[[Ascl1]], [[Math1]]/[[Atoh1]], [[Neurogenin1]], [[NeuroD]], [[Ptf1a]], [[Hes1]], [[Olig2]], [[Scl]]/[[Tal1]], [[E12]]/[[Tcf3]]
|-
|-
| [[bHLH-PAS]]
|Tcf/LEF
| [[Per1]], [[Clk]]
|Tcf3,Tcf4
|-
|-
| [[bHLH-ロイシンジッパー]]
|ETS
| [[Myc]], [[MycN]]/[[N-Myc]]
|Pea3,Er81
|-
|-
| [[ロイシンジッパー]]
|rowspan="4" | [[Zinc finger]]
|
|C2H2型
| [[c-Fos]], [[CREB]]
|Gli1,Nrsf/REST,Zif268,Krox20,Fezl
|-
|-
|rowspan="2" | [[HMG box]]
|Kruppel-like
| [[Sox]]
|Klf4
| [[Sox2]], [[Sox9]], [[Sox10]]
|-
|-
| [[Tcf]]/[[Lef]]
|Gata
| [[Tcf1]]/[[Lef1]]
|Gata2,Gata3
|-
|-
| [[Ets]]
|Nuclear hormone receptor
|
|RAR&alpha;1, RXR
| [[Pea3]], [[Er81]]
|-
|-
| [[T box]]
| [[Rel homology domain]]
|
|
| [[Tbr1]]
|Rbpj&kappa;/CBF1,NF-&kappa;B, NFAT
|-
|-
| [[forkhead]]  
| [[MH1 domain]]
| [[Fox]]
|Smad
| [[FoxG1]]/[[Bf1]], [[FoxO]], [[FoxP2]]
|Smad2, Smad4
|-
|-
| [[Rel homology]]
| [[Leucine zipper]]
|
|
| [[Rbpj]]/[[CBF1]], [[NF-κB]]
|C-Fos,[[CREB]]
|-
| [[MH1]]
| [[Smad]]
| [[Smad2]], [[Smad4]]
|-
|-
| [[SH2]]
|[[novel]]
| [[STAT]]
| CaRF
| [[STAT3]]
|CaRF
|}
|}
==転写制御因子の活性制御==
==転写制御因子の活性制御==


 転写制御因子の活性は、細胞の分化段階や細胞外からの刺激などにより制御され、リン酸化やリガンド結合、[[ユビキチン化]]などの影響を受ける<ref name=ref2 />。また、転写制御因子には、構造的に類似した因子同士で二量体を形成し機能するものも多い。へリックス・ループ・へリックス因子の一つである[[Id]]ファミリーは塩基性領域を欠き、塩基性へリックス・ループ・へリックス因子の[[E12]]/[[Tcf3]]などとへテロ二量体を形成し、E12/Tcf3がDNAに結合することを阻害する<ref><pubmed>11807807</pubmed></ref>。
転写制御因子は外界からの刺激や細胞の[[分化]]段階によって動的に制御されている。転写制御因子をコードする遺伝子の発現制御は主要な制御点となる。転写制御因子は自身の転写を制御することも知られ、細胞内での転写制御因子の発現レベルを低く維持するメカニズムの一つとなっている。


 [[transforming growth factor-&beta;]]([[TGF-&beta;]])ファミリーの[[分泌]]タンパク質が膜[[受容体]]に結合すると、[[Mad homology 1]]([[MH1]])ドメイン型因子の[[Smad2]]と[[Smad3]]はリン酸化され、[[Smad4]]とヘテロ二量体を形成後、核に移行して転写を制御する<ref><pubmed>21565618</pubmed></ref>。
一方、迅速な活性調節には翻訳後の制御が重要である。細胞内に不活性化型で存在する転写制御因子はリン酸化やユビキチン化、リガンドとの直接の結合、転写阻害因子の解離、プロテアーゼによる分解などにより活性が制御される<ref><pubmed>18430159</pubmed></ref>。転写制御因子のリン酸化・脱リン酸化は[[細胞膜]]や細胞質で相互作用している分子との解離、さらに核内への移行を引き起こすこともあり、転写制御因子の活性状態(DNAやコアクチベーターと結合し得るか否か)に影響を与える。シグナル経路の仲介因子であるSmadやCBF-1は、リガンドと受容体の結合によって活性が制御され、[[STAT]]蛋白はリン酸化を受けることでDNAに結合できるようになる<ref name=ref4><pubmed>11823631</pubmed></ref>。核内受容体はステロイドホルモンなどのリガンドが結合すると、核内に移行してDNAに直接結合し転写を制御する転写制御因子として機能する<ref name=ref4 />。


 [[wikipedia:ja:インターフェロン|インターフェロン]]などの[[wikipedia:ja:サイトカイン|サイトカイン]]や[[wikipedia:ja:ホルモン|ホルモン]]が受容体に結合すると、[[Janus kinase]]([[Jak]])によって[[Src homology 2]]([[SH2]])ドメイン型因子の[[シグナル伝達兼転写活性化因子]] ([[signal transducers and activator of transcription]]; [[STAT]]) がリン酸化される。リン酸化されたSTATはSH2ドメインを介して二量体を形成し、核に移行する<ref><pubmed>24058789</pubmed></ref>。
転写の開始には転写制御因子のみならず基本転写因子やメディエーターとの結合が必要であり、転写活性化因子が転写を開始するためには、これらの必要なタンパク質が全て存在し、結合可能な状態である必要がある。また、転写制御因子の多くは単独で機能せず、DNA上の制御領域において他の構造的に類似した因子と二量体を形成し、機能を発揮する。bHLH型のタンパク質は、E2aなどの遍在するbHLH型のタンパク質とヘテロダイマーを形成してDNAに結合する一方で、異なるコアクチベーターやコリプレッサーと相互作用することにより状況に応じて特定の遺伝子の発現を制御する<ref><pubmed>18722526</pubmed></ref>。


 [[Hedgehog]]が膜上の受容体[[Patched]]に結合すると、膜タンパク質[[Smoothend]]を介してジンクフィンガー型因子の[[Gli]]が活性化される。活性化したGliは核に移行し、標的遺伝子の転写を制御する<ref><pubmed>18621990</pubmed></ref>。
DNAのメチル化状態も転写制御因子の作用に影響する。転写されている遺伝子のプロモーター領域は低メチル化状態にあり、不活性な遺伝子は高度にメチル化されている。メチル化されたDNAを特異的に認識して結合する蛋[[白質]]が存在し、このメチル化DNA結合蛋白質とヒストン修飾を介して転写が阻害される。


 [[Delta]]や[[Jagged]]が受容体[[Notch]]に結合すると、[[&gamma;セクレターゼ]]の作用により[[Notch受容体]]の細胞内ドメインが切り出される。Notchの細胞内ドメインは核内に移行し、[[Rel homology型因子]]の[[recombination signal sequence-binding protein J]]/[[C promoter-binding factor 1]]([[Rbpj]]/[[CBF-1]])やコアクチベーター[[Mastermind-like 1]]([[Maml1]])と複合体を形成し''Hes1''などの転写を活性化する<ref><pubmed>21505516</pubmed></ref>。
==生体内での役割==
 
 [[Wnt]]が膜受容体[[Frizzled]]と結合すると[[&beta;-catenin]]が遊離され、この&beta;-cateninはHMGボックス型因子の[[T-cell factor 1]]/[[lymphoid enhancer binding factor 1]]([[Tcf1]]/[[Lef1]])とヘテロ二量体を形成後、核内に移行し転写を制御する<ref><pubmed>23772206</pubmed></ref><ref><pubmed>18083108</pubmed></ref>。


 [[ロイシンジッパー]]型因子のCREBは、[[サイクリックAMP]]濃度の上昇などの様々な刺激により[[サイクリックAMP依存性プロテインキナーゼ]]や[[カルシウムカルモジュリン依存性プロテインキナーゼ]]などによるリン酸化を受け、活性化する<ref name=ref18 /><ref name=ref12><pubmed>19126756</pubmed></ref>
===細胞間シグナル伝達への応答===
細胞間の情報伝達は、ある細胞が放出した分子が、別の細胞内にシグナル伝達の連鎖反応(カスケード)を引き起こすことによって行われ、多くの場合、カスケードの下流に転写制御因子が働き、細胞応答に必須な遺伝子の活性化や不活性化を制御する<ref name=ref4 />。Transforming Growth Factor beta (TGF-&beta;)はTGF-&beta;受容体に結合し、Smad2とSmad3をリン酸化する。リン酸化されたSmadタンパク質はSmad4とヘテロダイマーを形成し、核に移行する<ref><pubmed>21565618</pubmed></ref>。同様に、Statタンパク質の二量体化や核移行は膜受容体に結合するJAKキナーゼによって制御される。CREBは、様々なシグナル刺激によりcAMP依存性タンパク質リン酸化酵素やCa2+カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素などのリン酸化酵素によりリン酸化されて活性化状態になる<ref><pubmed>18805099</pubmed></ref>。CaRFはカルシウムの流入によって特異的に活性化される。Wntタンパク質が受容体Frizzledと結合すると、細胞内で&beta;-cateninは遊離し、HMG型タンパク質TCF/Lef1とヘテロダイマーを形成して核内に移行し、転写制御因子として機能する<ref><pubmed>18083108</pubmed></ref>。Gliタンパク質はHedgehogタンパク質に結合するPatched膜受容体の下流エフェクター因子である。RBP-J/CBF1はNotch受容体がリガンドとの結合後に放出される細胞内領域と相互作用することによって活性化される。


 [[paired box 6]][[Pax6]])や[[MycN]]/[[N-myc]]などの転写制御因子はユビキチン化され、ユビキチン・[[wikipedia:ja:プロテアソーム|プロテアソーム]]系によって分解されることが明らかとなっている<ref><pubmed>18430159</pubmed></ref>。
神経発生の過程において細胞間シグナル伝達は多種類の細胞型が生み出されるメカニズムの一つとして重要である。シグナル分子の濃度勾配によって転写制御因子の濃度や活性の勾配が形成され、細胞型に応じて異なる遺伝子の転写が制御される。[[脊髄の発生]]過程においては、底板から[[分泌]]されるShhの濃度勾配が下流の転写制御因子Gliの濃度勾配を形成し、背腹軸に沿って領域特異的に標的遺伝子群を活性化することにより、複数の異なる神経細胞が生み出される<ref><pubmed>18621990</pubmed></ref>。


==生体内での役割==
===発生・細胞分化===
===発生・細胞分化===
 発生過程では、多数の転写制御因子が働く。神経発生の初期においては、[[PAX6|Pax6]]や[[empty spiracles homeobox 2]]([[Emx2]])、[[NK6 homeobox 6.1]]([[Nkx6.1]])などのホメオドメイン型因子が[[神経管]]の[[前後軸]]や[[背腹軸]]に沿って特異的に発現し、[[終脳]]形成を制御する<ref><pubmed>19143049</pubmed></ref>。Hoxファミリーのタンパク質は、[[後脳]]と[[脊髄]]の前後軸沿いの特定の領域の個性に関わり、[[運動神経]]細胞などの分化を正常に進めるために必須である<ref name=ref13><pubmed>18524570</pubmed></ref>。
多細胞生物の発生は多数の転写制御因子によって制御される。神経発生初期においては、[[Pax6]]やEmx2、Nkxファミリーといった複数のタイプのHomeodomainタンパク質が[[神経管]]の[[前後軸]]や背腹軸に沿って特異的に発現し、[[終脳]]の領域化を制御する<ref><pubmed>19143049</pubmed></ref>。さらにForkhead ファミリーに属するBf1は終脳の特異化を制御する一方で、大[[脳神経]]細胞が正常に分化する上で必須である。Hoxのサブファミリーのタンパク質は後脳や脊髄の前後軸に沿った領域の特異性を決定し、運動神経細胞の正常な発達に必須である<ref><pubmed>18524570</pubmed></ref>。


 Mash1/Ascl1 やMath1/Atoh1 などの[[プロニューラル因子]][[神経分化]]の開始を司り、神経細胞の分化や個性を制御する遺伝子の転写を活性化する<ref name=ref10 />。[[神経幹細胞]]や[[神経前駆細胞]]ではNotchがHes1やHes5を活性化し、Hes1やHes5タンパク質がプロニューラル遺伝子の上流などに結合し、転写を抑える<ref name=ref11 />。
Mash1やMath1などのbHLH型タンパク質[[bHLH因子]]はプロニューラル因子と呼ばれ、NeuroDなどの神経分化を制御するbHLH型因子の発現を活性化して神経分化を促進するとともに、領域特異性や神経伝達物質の種類などの神経細胞の個性を決定する<ref><pubmed>12094208</pubmed></ref>。一方、Hes1やHes5などのbHLH型タンパク質はプロニューラル因子の発現を抑制したり、プロニューラル因子のDNAへの結合を妨げることにより、神経分化を抑制する<ref><pubmed>17329370</pubmed></ref>。プロニューラル因子Math1は、Bar型のHomeodomainタンパク質をコードする遺伝子Mbh1を直接活性化し、交連神経細胞の個性を決定する<ref><pubmed>15788459</pubmed></ref>。小脳においてMath1はグルタミン作動性の顆粒細胞の分化を制御し、GABA作動性神経細胞産生に必須なPtf1aと拮抗する<ref><pubmed>18723012</pubmed></ref>。bHLH型タンパク質Olig2は脊髄運動神経細胞の分化を制御するとともに、[[オリゴデンドロサイト]]の生成にも必須である<ref name=ref14><pubmed>21068830</pubmed></ref>。同じくbHLH型タンパク質SCL/Tal1は脊髄においてOlig2の発現領域に隣接して発現し、Olig2と拮抗して介在神経細胞やアストロサイトの領域特異的な分化に作用する<ref name=ref14 />。DlxやPOU型のHomeodomainタンパク質は特定の神経細胞の正常な分化や細胞移動に必須である<ref><pubmed>19428236</pubmed></ref>。


 Math1はBar型ホメオボックス遺伝子''[[Bar-class homeobox 1]]([[Barh1]])'' と''[[Barh2]]'' を直接活性化し、Barh1とBarh2タンパク質が脊髄の[[交連神経]]細胞の個性を決定する<ref><pubmed>15788459</pubmed></ref><ref name=ref14><pubmed>20599893</pubmed></ref>。[[小脳]]ではMath1/Atoh1は、[[グルタミン酸]]作動性の[[顆粒細胞]]の分化を促進する一方、[[&gamma;-aminobutyric acid]]([[GABA]])作動性神経細胞産生に必須な''[[pancreas transcription factor 1a]]([[Ptf1a]])'' の発現を抑える<ref><pubmed>18723012</pubmed></ref>
Sox2やSox10などのHMG boxタンパク質はプロニューラル因子の活性を阻害し、神経分化を抑制することにより、[[神経幹細胞]]を維持する<ref><pubmed>19733254</pubmed></ref>。   


 脊髄において、塩基性へリックス・ループ・へリックス型因子の[[Olig2]]は運動神経細胞の分化と[[オリゴデンドロサイト]]の産生に必須な一方、[[Scl]]/[[Tal1]]は[[介在神経細胞]]の分化と[[アストロサイト]]の産生を制御する<ref><pubmed>21068830</pubmed></ref>。
転写制御因子のなかで最も大きいファミリーを構成するC2H2型のZinc fingerタンパク質は、発生にとどまらず多様な現象に関わる。多くは特定の組織や神経細胞の分化に必須の働きをする一方で、Neural restrictive silencer factor(Nrsf/Rest)は非神経細胞において[[イオンチャンネル]]や神経伝達物質などの神経細胞特異的な遺伝子の発現を抑制する<ref><pubmed>16150588</pubmed></ref>。


 ホメオボックス遺伝子の''[[distal-less homeobox 1]]([[Dlx1]])'' と''[[Dlx2]]'' は、[[大脳基底核原基]]由来の細胞で発現し、大脳の[[GABA作動性]]神経細胞の産生に必須である<ref><pubmed>19428236</pubmed></ref>。
 HMGボックス型因子のSox2は、プロニューラル因子と拮抗的に働き、神経分化を抑制する<ref name=ref152><pubmed>16139372</pubmed></ref>。また、Sox9やSox10はオリゴデンドロサイトの前駆細胞で発現し、オリゴデンドロサイトの分化を促進するとともに、[[ミエリン塩基性タンパク質]]などの遺伝子の転写を活性化する<ref name=ref152 />。
   
===軸索伸長、細胞極性===
===軸索伸長、細胞極性===
 プロニューラル因子のNeurogenin2は、[[神経細胞の移動]]や[[軸索投射]]にも関与する<ref><pubmed>16202708</pubmed></ref><ref><pubmed>21864333</pubmed></ref>
多くの転写制御因子は発生過程の異なる時期において発現し、多様な機能を示す。プロニューラル因子Ngn2は神経分化を制御する一方で細胞移動や軸索投射を制御する機能を持つ<ref><pubmed>18690213</pubmed></ref><ref><pubmed>21864333</pubmed></ref>。軸索投射はLIM型 やBar型のHomeodomainタンパク質によっても制御される。Mbh1はLIM型Homeodomainタンパク質Lhx2の発現制御を介して、交連神経細胞に必須な軸索受容体の発現を制御する<ref><pubmed>20599893</pubmed></ref>。運動神経や感覚神経の軸索が標的筋肉の近傍に到着すると、表皮からのシグナルによってPea3やEr81などのETSタンパク質の発現が誘導され、軸索の枝分かれが制御される<ref><pubmed>18524570</pubmed></ref>。Zinc finger型のKlfファミリー因子は網膜神経細胞において時期特異的に発現し、軸索伸長を正や負に制御するとともに、損傷した網膜において再生軸索の伸長を制御する活性を持つ<ref><pubmed>21635952</pubmed></ref>。
 
 脊髄交連神経の軸索投射は、Bar型やLIM型 のホメオドメイン型因子によって制御される。Barh1 とBarh2の下流では、''[[LIM homeobox 2]]([[Lhx2]])'' を介した''[[Rb-inhibiting gene 1]]/[[roundabout homolog 3]]([[Rig1]]/[[Robo3]])''の転写調節とともに、''Lhx2''を介さない''Neuropilin2''の転写調節が行われる<ref name=ref14 />。


 運動神経や感覚神経では、軸索が標的筋肉の近傍に到着すると、''[[polyomavirus enhancer activator 3]]([[Pea3]])'' や''[[ets-related protein 81]]([[Er81]])'' などの[[Etsファミリー遺伝子]]の転写が誘導され、軸索の枝分かれが制御される<ref name=ref13/>。また、[[フォークヘッド型因子]]の[[forkhead box O]]([[FoxO]])は、''[[p21 protein-activated kinase 1]]([[Pak1]])'' などの細胞極性を制御する遺伝子の転写を調節し、神経細胞の形態制御に関わる<ref><pubmed>21982366</pubmed></ref>。
軸索や樹状突起などで構成される神経細胞の特徴的な形態は、細胞の極性に由来する。Winged helixファミリーのFoxOは細胞極性を制御する因子の発現を調節し、神経細胞の極性を制御する<ref><pubmed>21982366</pubmed></ref>。


===高次機能===
===高次機能===
 CREBは、神経活動で活性化され[[シナプス]]の構造を制御する遺伝子の転写を調節し、[[長期記憶]]の形成に関与する<ref name=ref18 /><ref name=ref12 />
C-FosやCREBなどのLeucine zipperタンパク質は、様々な細胞外からのシグナルの仲介物質として機能する一方で、神経活動による制御を受け、学習や記憶、耽溺に関わる<ref name=ref5><pubmed>19126756</pubmed></ref><ref><pubmed>21989194</pubmed></ref>。NF-&kappa;Bは発生過程においては神経軸索の伸長や投射、樹状突起の形態を制御し、神経突起の正常な発達に必須の役割を担い、成体においては樹状突起のスパインの数を変化させ、学習や記憶に関わる<ref name=ref5 />。Zif268は様々な刺激によって誘導され、学習や記憶に関わることが示唆されている。FoxP2は発声や言語発達に重要な役割を果たし、ヒトにおけるその異常は言語障害に関わることが示唆されている<ref name=ref6><pubmed>21663442</pubmed></ref>。
 
 Rel homology型因子のNF-&kappa;B (nuclear factor-&kappa;B) は、発生過程において神経軸索の伸長や[[樹状突起]]の枝分かれなど神経突起の発達に重要な役割を果たす一方、成体では[[樹状突起]]の[[スパイン]]数や[[シナプス形成]]などを介して[[学習]]や[[記憶]]に関わることが示唆されている<ref name= ref12 /><ref><pubmed>21459462</pubmed></ref>
 
 ロイシンジッパー型因子の[[c-Fos]]やジンクフィンガー型因子の[[Zif268]]は、神経活動などの刺激により一過的に誘導される[[最初期遺伝子]]であり、神経回路の可塑的変化への関与が示唆されている<ref name= ref12 />
 
 フォークヘッド型因子のforkhead box P2([[FoxP2]])は、[[発声]]や言語発達に関わることが示唆されている<ref><pubmed>21663442</pubmed></ref>。


===環境への応答===
===環境への応答===
 [[低酸素]]状態では、塩基性へリックス・ループ・へリックス型因子の[[hypoxia inducible factor 1 &alpha;]]([[HIF-1&alpha;]])が安定化され、HIF-1&beta;とヘテロ二量体を形成して[[血管新生]]や[[解糖系]]に関わる遺伝子群の転写を活性化する<ref><pubmed>14643885</pubmed></ref>。
環境刺激に対しても転写制御因子の作用が関わっている。低酸素状態ではbHLH/PAS型因子のHIF-1&alpha;、HIF-2&alpha;などが誘導される。概日リズムを司る遺伝子群として、period (per), Clock (Clk)などがあり、恒常的な光刺激などで発現が変化する<ref><pubmed>14643885</pubmed></ref>。


 [[時計遺伝子]]''[[Period]]''は塩基性へリックス・ループ・へリックス型因子をコードし、光刺激により誘導される。''Period''の転写は他の塩基性へリックス・ループ・へリックス型因子の[[Clock]]と[[brain and muscle Arnt-like 1]]([[Bmal1]])により調節されており、これらの因子がネガティブフィードバックループを形成し、約24時間周期で発現が変動する<ref><pubmed>22483041</pubmed></ref>。
===細胞周期調節===
多くの転写制御因子が[[細胞周期]]の調節に関与する。細胞周期調節は特にがん遺伝子やがん抑制遺伝子によって誘導される転写制御因子の働きが重要である。細胞周期のG1チェックポイントにおいて、癌抑制遺伝子RbはCyclin dependent kinase inhibitorであるp21Cip1の作用を受けて活性化され、転写制御因子E2Fと結合して、Cyclinなどの転写を制御する。HMG型因子Hmga2は[[胎生期]]に多く発現し、癌抑制遺伝子p16Ink4aやp19Arfの発現を制御して神経幹細胞の維持を制御する。


==病理==
==病理==
 ヒトの疾患の原因となる転写制御因子の変異は[http://www.biobase-international.com/gene-regulation TRANSFAC]や[http://www.omim.org/search/advanced/geneMap OMIM Morbid Map]などのデータベースなどで調べられる。


==転写制御因子データベース ==
転写制御因子は生物の発生や細胞間シグナル伝達、細胞周期制御などで重要な役割を果たすため、その変異はヒトの疾患の原因となることがある(TRANSFACデータベース参照)。MECP2の変異による神経発達疾患である[[レット症候群]]や、FOXP2の変異との相関があると考えられている発達性言語協調障害などの例がある<ref name=ref6 />。
 転写制御因子のリストはTRANSFACデータベースから入手可能である。また、転写制御因子についてのレビューもデータベース化されている  [http://www.cisreg.ca/cgi-bin/tfe/home.pl Transcription Factor Encyclopedia] <ref><pubmed>22458515</pubmed></ref>。


== 関連項目  ==
<references/>
*[[プロモーター]]
*[[エンハンサー]]


== 参考文献 ==
(執筆担当者: 室山優子、斎藤哲一郎 担当編集委員: 大隅典子)
<references/>

2013年9月19日 (木) 18:05時点における版

転写制御因子

英:transcriptional regulator

同義語:転写調節因子

転写制御因子は、ゲノムDNA上の特定の塩基配列に結合し、RNAポリメラーゼによる転写を促進あるいは抑制するタンパク質の一群である。DNAに結合するドメインと転写制御に関わるドメインを有する。DNA結合ドメインなどの構造上の特徴により、いくつかのファミリーに分類される。転写制御因子の活性はリン酸化などの様々な制御を受け、神経発生から脳高次機能までの多くの過程に関わる。転写制御因子をコードすると推測される遺伝子は、ヒトゲノムにおいておよそ2000個程度存在する[1][2]

転写制御因子とは

遺伝子の転写は、RNAポリメラーゼがDNAを鋳型として相補的なRNAを5’から3’の方向へ合成する反応である。転写制御因子は、DNA上の転写制御配列に直接結合し、転写を促進あるいは抑制する。転写の効率を上げるものを転写活性化因子、下げるものを転写抑制因子という。一方、DNAに直接結合せず、転写制御因子とRNAポリメラーゼの仲介役として転写を調節するタンパク質複合体はメディエーターと呼ばれる。メディエーターの機能は多岐に渡り、転写を活性化するコアクチベーターや、転写を抑制するコリプレッサーとして働く。コアクチベーターにはヒストンアセチル化するCBPなど、クロマチンを制御するものもある。転写制御因子が認識し、結合する配列は転写制御配列といい、転写の活性化に働く配列をエンハンサー、抑制するものはサイレンサーと呼ばれる。

転写制御機構

in vitroの解析により、転写は、TATAボックスなどのコアプロモーター上でTBP(TATA-binding protein)やTAFs (TBP-associated factors)などの基本転写因子がRNAポリメラーゼと転写開始前複合体を形成することにより開始されることが示されている[3][4][5]。この転写は基本転写と呼ばれる。生体内では、様々な転写制御因子が働き、その組み合わせにより遺伝子の転写量は組織や発生の時期で異なる[6]

図1. 転写活性化機構. 転写活性化因子(TF)はエンハンサーに結合し、メディエーターを介してプロモーターにおける転写開始前複合体の形成を促進する

転写活性化の機構

転写の活性化とは、転写の効率が高まることを言い、転写開始と伸長のそれぞれの段階で起こりうる。よく知られている活性化のモデルは、転写活性化因子がエンハンサーなどに結合し、基本転写因子と相互作用してプロモーター領域における転写開始前複合体の形成を安定化することである[7]。 一方、多くの転写活性化因子の作用にはメディエーターの働きが必要であると考えられている(図1) [7]。転写活性化においてメディエーターは、転写制御因子の転写活性化ドメインやRNAポリメラーゼに直接結合し、タンパク質間相互作用を介して転写開始前複合体の形成を促進することにより、転写の開始を促進し、コアクチベーターとして機能する[7]。真核細胞のDNAはヒストンに巻きついてヌクレオソームを形成し、それがさらに高次のクロマチン構造を取っていることから、ヌクレオソーム構造を弛緩させる作用を持つ因子がコアクチベーターとして重要な役割を果たす。CBPなどのヒストンアセチル基転移活性を持つコアクチベーターは、ヒストンをアセチル化することによりヒストンとDNA間の親和性を弱めて転写制御因子をアクセスしやすくしていると考えられている[8]。一方、SWI/SNFファミリーに代表されるATP依存性クロマチン再構成複合体もコアクチベーターとして重要であり、ATPの加水分解で生じるエネルギーを用いて直接ヌクレオソーム構造を変化させることにより、転写制御因子やRNAポリメラーゼの接近を促し転写の活性化に寄与する[9]

転写抑制の機構

転写抑制因子の多くはクロマチンの構造を変化させるコリプレッサーの作用を介して転写を抑制する。転写抑制因子がサイレンサーなどの転写抑制配列に結合すると、Grg/TLEやNcoR/SMRTなどのコリプレッサーはヒストン脱アセチル化酵素をリクルートしてヒストンのアセチル基を除去し、ヌクレオソームを安定化させることにより遺伝子を不活性化する[8][10][11]。ヒストンメチル基転移酵素を引き寄せることにより、ヒストンの特定部位をメチル化し、転写が休止した状態のクロマチンを維持することにより転写を抑制する場合もある。転写抑制因子NRSF/RESTはneural restrictive silencer elementに結合し、メディエーターを介してヒストン脱アセチル化酵素やヒストンメチル基転移酵素と相互作用し、神経系特異的遺伝子の発現を抑制する[7]。また、メディエーターのなかでもキナーゼドメインを有するものは転写制御因子をリン酸化して分解を促進したり、基本転写因子をリン酸化して転写開始前複合体の形成を阻害するなど、コリプレッサーとして働くことが明らかとなっている[12]

転写制御因子結合領域(エンハンサーやサイレンサー)

転写制御因子が認識・結合する標的となる転写調節領域(エンハンサーやサイレンサー)は、それぞれ特有のヌクレオチド配列から成っているが、多くの転写制御因子では、その認識ヌクレオチド配列は長いもので10ヌクレオチド程度、短いもので4ヌクレオチド程度が固定されているだけで、その他のヌクレオチドはかなり変動する。転写活性化因子が特異的に結合し、転写活性化に働く領域をエンハンサーといい、転写抑制に働く領域はサイレンサーと呼ばれる。転写開始部位の上流であることも下流であることもある。遺伝子発現は多くの場合、複数のエンハンサーやサイレンサーによって制御され、その領域に結合する転写制御因子の組み合わせによりどの遺伝子が発現するかが決まる[13]。あるDNA配列における転写制御因子の予想結合部位はMatInspector software (http://www.genomatix.de/index.html) を使って調べることができる。

構造

転写制御因子は、DNA結合ドメインとタンパク質間相互作用を介して転写制御に必須な機能を持ったドメインを有する。各機能領域の配列や数は転写制御因子によって異なる。DNA結合ドメインは転写制御配列に結合する領域で、転写調節作用に必須である。転写活性化ドメイン(transactivation domain)は他のタンパク質(コアクチベーターなど)と結合するための領域でそのアミノ酸配列の特徴から、酸性アミノ酸領域、グルタミン酸に富む領域、プロリンに富む領域などに分類されている。シグナル検知領域またはリガンド結合領域と呼ばれる領域は、外部からのシグナル因子による制御を受け、転写制御因子の活性変化をもたらす。

DNA結合ドメインによる分類

転写制御因子は、DNA結合ドメインの構造的なモチーフから、下の表のようにHomeodomain、basic Helix-Loop-Helix (bHLH)、Zinc finger、Leucine zipperなどいくつかのファミリーに分けられる。転写制御因子のリストはTRANSFACデータベース(http://www.gene-regulation.com)から入手可能である。

Homeodomain

ホメオボックスがコードするタンパク質ドメインで、60アミノ酸からなる。ショウジョウバエの体軸に沿ったパターン形成に関与する転写制御因子から見出されたモチーフで、ヒトを含む高等動物でもよく保存されている。Helix-turn-helix構造を持ち、2番目のヘリックスがDNAを認識する。アミノ酸配列の類似性やタンパク質間相互作用に必要なモチーフの有無からさらにサブファミリーに分けられる。

Zinc finger

GATAファミリー因子などに見られる構造で、2個のヒスチジンと2個のシステインが亜鉛イオンに配位結合することで、DNAと結合する部分のαヘリックス構造が安定化され、DNAに結合する。共通するアミノ酸配列に基づいて、C2H2タイプ、C4タイプなどに分類されている。ステロイドホルモン受容体などの核内受容体は、各種ホルモンなどのリガンドと直接結合することにより制御される転写制御因子で、DNAに結合するZinc finger領域とリガンド結合領域を有する[14][15]

basic Helix-Loop-Helix (bHLH)

HLHはプロニューラル因子に代表される神経細胞分化に必須な転写制御因子に見られ、転写制御因子間の結合に重要な構造である。二量体を形成した転写制御因子の2つの塩基性領域がDNAを認識する。

Leucine zipper

アミノ酸7つごとにロイシンあるいはイソロイシンが配置された特徴的なαヘリックス構造を持ち、転写制御因子の二量体形成に関わる。形成された二量体の塩基性領域がDNAを認識する。

DNA結合ドメイン ファミリー
Homeodomain Hox HoxA1,HoxC8
Pax Pax2,Pax6
Emx Emx2
Nkx Nkx2.2,Nkx6.1
En En1
Bar Barhl1,Barhl2
Paired-like Phox2a,DRG11
POU Brn3a
Winged helix/forkhead Fox FoxG1(Bf1),FoxO,FoxP2
Basic helix-loop-helix bHLH Mash1,Neurogenin2, Math1,NeuroD,Ptf1a,Hes1,Hey1,Olig2,Tal1
bHLH-PAS Per1,Clk
T-box Tbr1,Tbx21(T-bet)
HMG-box Sox Sox2,Sox9,Sox10
Hmga2
Tcf/LEF Tcf3,Tcf4
ETS Pea3,Er81
Zinc finger C2H2型 Gli1,Nrsf/REST,Zif268,Krox20,Fezl
Kruppel-like Klf4
Gata Gata2,Gata3
Nuclear hormone receptor RARα1, RXR
Rel homology domain Rbpjκ/CBF1,NF-κB, NFAT
MH1 domain Smad Smad2, Smad4
Leucine zipper C-Fos,CREB
novel CaRF CaRF

転写制御因子の活性制御

転写制御因子は外界からの刺激や細胞の分化段階によって動的に制御されている。転写制御因子をコードする遺伝子の発現制御は主要な制御点となる。転写制御因子は自身の転写を制御することも知られ、細胞内での転写制御因子の発現レベルを低く維持するメカニズムの一つとなっている。

一方、迅速な活性調節には翻訳後の制御が重要である。細胞内に不活性化型で存在する転写制御因子はリン酸化やユビキチン化、リガンドとの直接の結合、転写阻害因子の解離、プロテアーゼによる分解などにより活性が制御される[16]。転写制御因子のリン酸化・脱リン酸化は細胞膜や細胞質で相互作用している分子との解離、さらに核内への移行を引き起こすこともあり、転写制御因子の活性状態(DNAやコアクチベーターと結合し得るか否か)に影響を与える。シグナル経路の仲介因子であるSmadやCBF-1は、リガンドと受容体の結合によって活性が制御され、STAT蛋白はリン酸化を受けることでDNAに結合できるようになる[5]。核内受容体はステロイドホルモンなどのリガンドが結合すると、核内に移行してDNAに直接結合し転写を制御する転写制御因子として機能する[5]

転写の開始には転写制御因子のみならず基本転写因子やメディエーターとの結合が必要であり、転写活性化因子が転写を開始するためには、これらの必要なタンパク質が全て存在し、結合可能な状態である必要がある。また、転写制御因子の多くは単独で機能せず、DNA上の制御領域において他の構造的に類似した因子と二量体を形成し、機能を発揮する。bHLH型のタンパク質は、E2aなどの遍在するbHLH型のタンパク質とヘテロダイマーを形成してDNAに結合する一方で、異なるコアクチベーターやコリプレッサーと相互作用することにより状況に応じて特定の遺伝子の発現を制御する[17]

DNAのメチル化状態も転写制御因子の作用に影響する。転写されている遺伝子のプロモーター領域は低メチル化状態にあり、不活性な遺伝子は高度にメチル化されている。メチル化されたDNAを特異的に認識して結合する蛋白質が存在し、このメチル化DNA結合蛋白質とヒストン修飾を介して転写が阻害される。

生体内での役割

細胞間シグナル伝達への応答

細胞間の情報伝達は、ある細胞が放出した分子が、別の細胞内にシグナル伝達の連鎖反応(カスケード)を引き起こすことによって行われ、多くの場合、カスケードの下流に転写制御因子が働き、細胞応答に必須な遺伝子の活性化や不活性化を制御する[5]。Transforming Growth Factor beta (TGF-β)はTGF-β受容体に結合し、Smad2とSmad3をリン酸化する。リン酸化されたSmadタンパク質はSmad4とヘテロダイマーを形成し、核に移行する[18]。同様に、Statタンパク質の二量体化や核移行は膜受容体に結合するJAKキナーゼによって制御される。CREBは、様々なシグナル刺激によりcAMP依存性タンパク質リン酸化酵素やCa2+カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素などのリン酸化酵素によりリン酸化されて活性化状態になる[19]。CaRFはカルシウムの流入によって特異的に活性化される。Wntタンパク質が受容体Frizzledと結合すると、細胞内でβ-cateninは遊離し、HMG型タンパク質TCF/Lef1とヘテロダイマーを形成して核内に移行し、転写制御因子として機能する[20]。Gliタンパク質はHedgehogタンパク質に結合するPatched膜受容体の下流エフェクター因子である。RBP-J/CBF1はNotch受容体がリガンドとの結合後に放出される細胞内領域と相互作用することによって活性化される。

神経発生の過程において細胞間シグナル伝達は多種類の細胞型が生み出されるメカニズムの一つとして重要である。シグナル分子の濃度勾配によって転写制御因子の濃度や活性の勾配が形成され、細胞型に応じて異なる遺伝子の転写が制御される。脊髄の発生過程においては、底板から分泌されるShhの濃度勾配が下流の転写制御因子Gliの濃度勾配を形成し、背腹軸に沿って領域特異的に標的遺伝子群を活性化することにより、複数の異なる神経細胞が生み出される[21]

発生・細胞分化

多細胞生物の発生は多数の転写制御因子によって制御される。神経発生初期においては、Pax6やEmx2、Nkxファミリーといった複数のタイプのHomeodomainタンパク質が神経管前後軸や背腹軸に沿って特異的に発現し、終脳の領域化を制御する[22]。さらにForkhead ファミリーに属するBf1は終脳の特異化を制御する一方で、大脳神経細胞が正常に分化する上で必須である。Hoxのサブファミリーのタンパク質は後脳や脊髄の前後軸に沿った領域の特異性を決定し、運動神経細胞の正常な発達に必須である[23]

Mash1やMath1などのbHLH型タンパク質bHLH因子はプロニューラル因子と呼ばれ、NeuroDなどの神経分化を制御するbHLH型因子の発現を活性化して神経分化を促進するとともに、領域特異性や神経伝達物質の種類などの神経細胞の個性を決定する[24]。一方、Hes1やHes5などのbHLH型タンパク質はプロニューラル因子の発現を抑制したり、プロニューラル因子のDNAへの結合を妨げることにより、神経分化を抑制する[25]。プロニューラル因子Math1は、Bar型のHomeodomainタンパク質をコードする遺伝子Mbh1を直接活性化し、交連神経細胞の個性を決定する[26]。小脳においてMath1はグルタミン作動性の顆粒細胞の分化を制御し、GABA作動性神経細胞産生に必須なPtf1aと拮抗する[27]。bHLH型タンパク質Olig2は脊髄運動神経細胞の分化を制御するとともに、オリゴデンドロサイトの生成にも必須である[28]。同じくbHLH型タンパク質SCL/Tal1は脊髄においてOlig2の発現領域に隣接して発現し、Olig2と拮抗して介在神経細胞やアストロサイトの領域特異的な分化に作用する[28]。DlxやPOU型のHomeodomainタンパク質は特定の神経細胞の正常な分化や細胞移動に必須である[29]

Sox2やSox10などのHMG boxタンパク質はプロニューラル因子の活性を阻害し、神経分化を抑制することにより、神経幹細胞を維持する[30]。   

転写制御因子のなかで最も大きいファミリーを構成するC2H2型のZinc fingerタンパク質は、発生にとどまらず多様な現象に関わる。多くは特定の組織や神経細胞の分化に必須の働きをする一方で、Neural restrictive silencer factor(Nrsf/Rest)は非神経細胞においてイオンチャンネルや神経伝達物質などの神経細胞特異的な遺伝子の発現を抑制する[31]

軸索伸長、細胞極性

多くの転写制御因子は発生過程の異なる時期において発現し、多様な機能を示す。プロニューラル因子Ngn2は神経分化を制御する一方で細胞移動や軸索投射を制御する機能を持つ[32][33]。軸索投射はLIM型 やBar型のHomeodomainタンパク質によっても制御される。Mbh1はLIM型Homeodomainタンパク質Lhx2の発現制御を介して、交連神経細胞に必須な軸索受容体の発現を制御する[34]。運動神経や感覚神経の軸索が標的筋肉の近傍に到着すると、表皮からのシグナルによってPea3やEr81などのETSタンパク質の発現が誘導され、軸索の枝分かれが制御される[35]。Zinc finger型のKlfファミリー因子は網膜神経細胞において時期特異的に発現し、軸索伸長を正や負に制御するとともに、損傷した網膜において再生軸索の伸長を制御する活性を持つ[36]

軸索や樹状突起などで構成される神経細胞の特徴的な形態は、細胞の極性に由来する。Winged helixファミリーのFoxOは細胞極性を制御する因子の発現を調節し、神経細胞の極性を制御する[37]

高次機能

C-FosやCREBなどのLeucine zipperタンパク質は、様々な細胞外からのシグナルの仲介物質として機能する一方で、神経活動による制御を受け、学習や記憶、耽溺に関わる[38][39]。NF-κBは発生過程においては神経軸索の伸長や投射、樹状突起の形態を制御し、神経突起の正常な発達に必須の役割を担い、成体においては樹状突起のスパインの数を変化させ、学習や記憶に関わる[38]。Zif268は様々な刺激によって誘導され、学習や記憶に関わることが示唆されている。FoxP2は発声や言語発達に重要な役割を果たし、ヒトにおけるその異常は言語障害に関わることが示唆されている[40]

環境への応答

環境刺激に対しても転写制御因子の作用が関わっている。低酸素状態ではbHLH/PAS型因子のHIF-1α、HIF-2αなどが誘導される。概日リズムを司る遺伝子群として、period (per), Clock (Clk)などがあり、恒常的な光刺激などで発現が変化する[41]

細胞周期調節

多くの転写制御因子が細胞周期の調節に関与する。細胞周期調節は特にがん遺伝子やがん抑制遺伝子によって誘導される転写制御因子の働きが重要である。細胞周期のG1チェックポイントにおいて、癌抑制遺伝子RbはCyclin dependent kinase inhibitorであるp21Cip1の作用を受けて活性化され、転写制御因子E2Fと結合して、Cyclinなどの転写を制御する。HMG型因子Hmga2は胎生期に多く発現し、癌抑制遺伝子p16Ink4aやp19Arfの発現を制御して神経幹細胞の維持を制御する。

病理

転写制御因子は生物の発生や細胞間シグナル伝達、細胞周期制御などで重要な役割を果たすため、その変異はヒトの疾患の原因となることがある(TRANSFACデータベース参照)。MECP2の変異による神経発達疾患であるレット症候群や、FOXP2の変異との相関があると考えられている発達性言語協調障害などの例がある[40]

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(執筆担当者: 室山優子、斎藤哲一郎 担当編集委員: 大隅典子)