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== エンハンサーとは == | |||
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== 構造と機能 == | |||
[[wikipedia:ja:イントロン|イントロン]]などの[[wikipedia:ja:非翻訳領域|非翻訳領域]]に存在することが多い。通常、エンハンサーには[[転写活性化因子]]の結合する配列が複数存在し、転写活性化因子の多様性と組み合わせにより遺伝子の発現が多様に制御されると考えられる。 また、多くの遺伝子には複数のエンハンサーが存在し、細胞種に特異的なエンハンサーや時期特異的なエンハンサーなど遺伝子発現が別々のエンハンサーで制御されることも多い。 | |||
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== 作用機序 == | |||
< | 多くの場合、エンハンサーには複数個の転写活性化因子が結合する。プロモーターには[[基本転写因子]]([[TFIID]]など)が結合し、[[wikipedia:ja:RNAポリメラーゼII|RNAポリメラーゼII]]とともに転写開始複合体が形成される。エンハンサーとプロモーターが離れていても(3Mbpの場合もある)、転写活性化因子と転写開始複合体の両者に[[wikipedia:ja:コアクチベーター|コアクチベーター]]と呼ばれる因子が相互作用することにより、DNAはループを形成しエンハンサーとプロモーターが接近すると考えられる<ref><pubmed>22855826</pubmed></ref><ref><pubmed>22169023</pubmed></ref>。この時、転写活性化因子とコアクチベーターは次々に転写開始複合体の形成を促進することにより、転写が盛んに起きると考えられている。しかし、ループ構造と転写促進には不明な点も多い。[[wikipedia:ja:細胞核|細胞核]]の中では、転写が活発な領域が存在し、ループ構造が転写の活発な領域への移動に関与するという可能性も示唆されている。 | ||
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== 神経系におけるエンハンサー == | == 神経系におけるエンハンサー == | ||
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< | === 終脳で機能するエンハンサー === | ||
マウス胎児の[[終脳]]で発現する様々な遺伝子のエンハンサーが網羅的に調べられている<ref><pubmed>23375746</pubmed></ref>。p300の結合を指標にしたCHIP-Seq法により、4600箇所以上のDNA領域がエンハンサーの候補となり、145のエンハンサーが同定された。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
*[[プロモーター]] | |||
*[[転写制御因子]] | |||
== 参考文献 == | |||
<references /> |
2015年1月17日 (土) 08:13時点における版
佐藤 達也、斎藤 哲一郎
千葉大学 大学院 医学研究院
DOI:10.14931/bsd.2781 原稿受付日:2013年3月25日 原稿完成日:2015年1月15日
担当編集委員:上口 裕之(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:enhancer
エンハンサーとは、遺伝子の転写量を増加させる作用をもつDNA領域のことをいう。プロモーターからの距離や位置、方向に関係なく働く[1][2][3]。サイレンサー(遺伝子の転写を抑制するDNA領域)とともに、遺伝子の発現調節で重要な役割を果たす。
エンハンサーとは
1981年、アカゲザルのポリオーマウイルスSV40の初期遺伝子の上流に位置する72塩基の反復配列を欠失させると、初期遺伝子の転写量が著しく低下することが見出された。また、この配列を他の遺伝子と連結すると、その遺伝子の転写量が増加することも見出され、そのような機能をもつ配列をエンハンサーと呼ぶようになった[4][5]。
その後、1983年に、マウス免疫グロブリン遺伝子においてもエンハンサーが報告され[6][7]、様々なウイルスおよび真核生物の遺伝子でもエンハンサーが同定されている。
構造と機能
イントロンなどの非翻訳領域に存在することが多い。通常、エンハンサーには転写活性化因子の結合する配列が複数存在し、転写活性化因子の多様性と組み合わせにより遺伝子の発現が多様に制御されると考えられる。 また、多くの遺伝子には複数のエンハンサーが存在し、細胞種に特異的なエンハンサーや時期特異的なエンハンサーなど遺伝子発現が別々のエンハンサーで制御されることも多い。
クロマチン免疫沈降法(Chromatin Immuno-Precipitation, ChIP)とDNAチップによる検出を組み合わせた方法(ChIP-chip法)や、次世代シークエンサーを組み合わせた方法(ChIP-Seq法)などの技術革新により、網羅的なエンハンサー解析が進んでいる[1][2][3]。
作用機序
多くの場合、エンハンサーには複数個の転写活性化因子が結合する。プロモーターには基本転写因子(TFIIDなど)が結合し、RNAポリメラーゼIIとともに転写開始複合体が形成される。エンハンサーとプロモーターが離れていても(3Mbpの場合もある)、転写活性化因子と転写開始複合体の両者にコアクチベーターと呼ばれる因子が相互作用することにより、DNAはループを形成しエンハンサーとプロモーターが接近すると考えられる[8][9]。この時、転写活性化因子とコアクチベーターは次々に転写開始複合体の形成を促進することにより、転写が盛んに起きると考えられている。しかし、ループ構造と転写促進には不明な点も多い。細胞核の中では、転写が活発な領域が存在し、ループ構造が転写の活発な領域への移動に関与するという可能性も示唆されている。
エンハンサーに結合した多くの転写活性化因子から成る構造体を、enhanceosomeと呼ぶこともある[10]。
コアクチベーターには、CBPやp300といったヒストンアセチル基転移酵素(histone acetyltransferase; HAT)活性を持つものがあり、ヒストンをアセチル化する[11][12]。アセチル化されたヒストンでは、DNAとの間の結合が弱まり、転写因子がDNAに結合しやすくなると考えられる。また、クロマチン再構成複合体(chromatin remodeling complex)は転写活性化因子に結合し、ATP依存的にヌクレオソームの移動や解離を行う[13][14]。その結果、より多くの転写活性化因子がエンハンサーに結合することができるようになり、プロモーター上で転写開始複合体の形成が促進されると考えられる。
エンハンサー領域では、ヒストンの翻訳後修飾が他と異なり、ヒストンH3の4番目のリジンがモノメチル化またはジメチル化される(ヒストンH3の4番目のリジンがモノメチル化やジメチル化されたものを、それぞれH3K4me1やH3K4me2と記述する)[15]。また、エンハンサー領域のヌクレオソームは、ヒストンH3のバリアントであるH3.3やヒストンH2のバリアントであるH2A.Zを含む[16]。H3.3やH2A.Zを含むヌクレオソームは、通常のヌクレオソームより不安定なため、転写活性化因子がDNAと容易に相互作用できると考えられている。ヒストンH3.3やH2A.Zを含むヌクレオソームは、プロモーター領域にも存在するが、ヒストンH3の4番目のリジンはトリメチル化(H3K4me3)されている。さらに、エンハンサー領域におけるヒストンの修飾は、機能の有無で変化することも知られている。例えば、ヒトES細胞では、エンハンサーが働いている時はヒストンH3の27番目のリジンがアセチル化(H3K27ac)されるが、機能していない時はメチル化(H3K27me3)される[17]。
エンハンサーでは、enhancer RNA(eRNA)とよばれるRNAが双方向に転写されることもある[18]。eRNAはタンパク質をコードせず、ポリアデニル化されない。eRNA合成がエンハンサーの機能に必須な例として、転写活性化因子p53が結合するエンハンサーがある[19]。しかし、全てのエンハンサーでeRNA合成が必要なのかはまだ不明である。一方、100塩基以上の長さを持ちポリアデニル化されるノンコーディングRNA(lncRNA)が転写を活性化する場合もある[20]。ENCODEプロジェクトにより、ヒトでは9640種のlncRNAが転写されることが明らかとなった[21]。
神経系におけるエンハンサー
Nestin
中間径フィラメントの一つであるNestinは、神経幹細胞などで特異的に発現し、分化すると発現は消失する。Nestin遺伝子の第2イントロン内に神経幹細胞での発現を誘導するエンハンサーが存在する[22]。このエンハンサーにはPOUファミリーおよびSOXファミリーの転写制御因子の結合する配列が存在し[23][24]、神経幹細胞で発現するPOUファミリーのBrn2とSOXファミリーのSox2が、Nestinの発現を誘導すると考えられている[23]。また、Nestinの発現は細胞周期の進行に伴い変動し、G2期からM期ではBrn2がリン酸化されてエンハンサーに結合できなくなり、Nestinの発現が減少すると考えられている[25]。
Nestinは神経幹細胞のマーカーであり、蛍光タンパク質をNestinのエンハンサーで発現させるトランスジェニックマウスなどを用い、神経幹細胞を効率よく分離することに利用される[25][26][27]。
Barh1 (Mbh1)
哺乳類には、千種類以上の様々な個性を持つ神経細胞が存在する。プロニューラル因子と呼ばれる転写制御因子は神経細胞の分化を開始させるスイッチとして働くが[28]、直接に制御する遺伝子は長らく不明であった。プロニューラル因子のAtoh1(Math1, Mammalian atonal homolog 1)はBarh1(Mbh1, Mammalian Bar-class homeobox 1)を直接に活性化することが見出された[29]。Barh1(Mbh1)は脊髄交連神経細胞や小脳顆粒細胞の前駆細胞で発現し、その運命を制御する[30][31][32]。Barh1(Mbh1)のエンハンサーは翻訳領域の3’側に存在し、Atoh1タンパク質が結合するE-boxと呼ばれるDNA配列が必須である[29]。
終脳で機能するエンハンサー
マウス胎児の終脳で発現する様々な遺伝子のエンハンサーが網羅的に調べられている[33]。p300の結合を指標にしたCHIP-Seq法により、4600箇所以上のDNA領域がエンハンサーの候補となり、145のエンハンサーが同定された。
関連項目
参考文献
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