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レビー小体は形態上、脳幹型と皮質型に区別できる。[[脳幹型レビー小体]]は[[黒質]]や[[青斑核]]、[[迷走神経]][[背側核]]などの脳幹諸核、[[視床下部]]、[[ | レビー小体は形態上、脳幹型と皮質型に区別できる。[[脳幹型レビー小体]]は[[黒質]]や[[青斑核]]、[[迷走神経]][[背側核]]などの脳幹諸核、[[視床下部]]、[[Mynert基底核]]などの[[間脳]]諸核に好発し、ハローを有しエオジン好性の明瞭な球形の核を持つ('''図1''')。[[皮質型レビー小体]]は脳幹型に比べると不正円形で小さくハローも不明瞭なため、α‐シヌクレイン免疫染色で初めて明瞭になることが多く、[[大脳辺縁系]]([[側頭葉]]内側部、[[帯状回]]、[[島回]]、[[扁桃核]]など)に好発する。レビー小体の形成は[[神経細胞体]]のみならず[[軸索]]や[[樹状突起]]などの[[神経突起]]にも及び、[[レビー神経突起]](Lewy neurite)と呼ばれる。 | ||
レビー小体型認知症をレビー関連病理の出現部位によって分類すると、[[脳幹型]]、[[辺縁型]](移行型)、[[びまん性新皮質型]]に分けられる<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref>。またレビー小体型認知症では多くの症例で様々な程度の[[アルツハイマー病]]病理を伴う。ただし典型的な[[老人班]]と[[神経原線維]]変化がみられるとは限らず、新皮質に[[アミロイド]]沈着は認めるが神経原線維変化を欠く症例もみられる。 | レビー小体型認知症をレビー関連病理の出現部位によって分類すると、[[脳幹型]]、[[辺縁型]](移行型)、[[びまん性新皮質型]]に分けられる<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref>。またレビー小体型認知症では多くの症例で様々な程度の[[アルツハイマー病]]病理を伴う。ただし典型的な[[老人班]]と[[神経原線維]]変化がみられるとは限らず、新皮質に[[アミロイド]]沈着は認めるが神経原線維変化を欠く症例もみられる。 | ||
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<sup>123</sup>I-ioflupaneなどを用いてSPECTで大脳基底核のドパミントランスポーターを評価すると、レビー小体型認知症では取り込みの低下がみられる。全ての症例で低下する訳ではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度78%、特異度90%程度である<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref>。 | <sup>123</sup>I-ioflupaneなどを用いてSPECTで大脳基底核のドパミントランスポーターを評価すると、レビー小体型認知症では取り込みの低下がみられる。全ての症例で低下する訳ではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度78%、特異度90%程度である<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref>。 | ||
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[[ファイル:Nagahama Dementia with Lewie Bodies Fig2.jpg|サムネイル|'''図2. レビー小体型認知症でみられるMIBG心筋シンチグラフィー取り込み低下''']] | [[ファイル:Nagahama Dementia with Lewie Bodies Fig2.jpg|サムネイル|'''図2. レビー小体型認知症でみられるMIBG心筋シンチグラフィー取り込み低下''']] | ||
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側頭葉内側の萎縮はアルツハイマー病に比べると軽い傾向がみられる。しかし個々の症例では側頭葉内側萎縮が明らかな例もあるのでアルツハイマー病との鑑別には有用とはいえない。 | 側頭葉内側の萎縮はアルツハイマー病に比べると軽い傾向がみられる。しかし個々の症例では側頭葉内側萎縮が明らかな例もあるのでアルツハイマー病との鑑別には有用とはいえない。 | ||
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[[FDG-PET|<sup>18</sup>F-fluorodeoxyglucose (FDG) PET]]では頭頂葉、側頭葉、後頭葉皮質での糖代謝が低下し、特に[[一次視覚野]]を含む後頭葉での低下はレビー小体型認知症に特徴的でアルツハイマー病との鑑別に有用である。前頭葉から後頭葉まで皮質代謝がびまん性に低下する症例も多く、その場合には基底核や視床の代謝が相対的に高くみえる。相対的に後部帯状回付近の代謝が高く見える帯状回島徴候(cingulate island sign)がみられることもある <ref name=McKeith2017><pubmed>28592453</pubmed></ref> | [[FDG-PET|<sup>18</sup>F-fluorodeoxyglucose (FDG) PET]]では頭頂葉、側頭葉、後頭葉皮質での糖代謝が低下し、特に[[一次視覚野]]を含む後頭葉での低下はレビー小体型認知症に特徴的でアルツハイマー病との鑑別に有用である。前頭葉から後頭葉まで皮質代謝がびまん性に低下する症例も多く、その場合には基底核や視床の代謝が相対的に高くみえる。相対的に後部帯状回付近の代謝が高く見える帯状回島徴候(cingulate island sign)がみられることもある <ref name=McKeith2017><pubmed>28592453</pubmed></ref>。SPECTによる脳血流検査でもPETと同様の所見が得られるが、PETに比べると感度は劣る。 | ||
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2020年11月13日 (金) 21:44時点における版
長濱 康弘
医療法人花咲会かわさき記念病院
DOI:10.14931/bsd.9477 原稿受付日:2020年11月10日 原稿完成日:2020年11月13日
担当編集委員:漆谷 真(滋賀医科大学 脳神経内科)
英語名:Dementia with Lewy bodies 独:Lewy-Körperchen-Demenz 仏:démence à corps de Lewy
レビー小体型認知症は初老期・老年期に発症する認知症疾患で、主要な臨床症状は認知機能低下、覚醒度変動、パーキンソニズム、精神症状(幻覚、誤認、妄想)、抑うつ、自律神経症状、REM睡眠行動異常症などである。病理学的にはα‐シヌクレインで構成されるレビー小体の出現を特徴とする。初期症状、前駆症状としてREM睡眠行動異常症、抑うつ、精神症状などが記憶障害の発症に先行する場合がある。認知障害、精神症状、身体症状に対する薬物治療は有効であるが、レビー小体型認知症では薬剤に対する過敏性があり副作用を生じやすい。予後はアルツハイマー病に比べると短い傾向がある。
歴史的背景
レビー小体型認知症の概念はKosakaら[1]によるびまん性レビー小体病の臨床・病理学的報告に端を発しており、1995年の国際ワークショップで疾患概念とともに臨床・病理診断基準が作成されて以降認知度が高まった。第3回のワークショップ[2]で診断基準が改訂され、長期にわたりそれが使用されたが、診断基準の特異度は高いが感度が低い点などが問題であった。2017年に12年ぶりに第4回レビー小体型認知症コンソーシアムの臨床診断基準が公表された[3]。
病理
大脳と脳幹を含む中枢神経系に神経脱落とレビー小体の出現をみる。レビー小体は脳・脊髄ばかりでなく、心臓、消化管、膀胱、皮膚などの末梢自律神経節後線維にも認められる。レビー小体の主要構成蛋白はα‐シヌクレインであり、主にグリア内にα‐シヌクレインが蓄積する多系統萎縮症とともにα‐シヌクレイノパチー(α-synucleinopathy)と称される。
レビー小体は形態上、脳幹型と皮質型に区別できる。脳幹型レビー小体は黒質や青斑核、迷走神経背側核などの脳幹諸核、視床下部、Mynert基底核などの間脳諸核に好発し、ハローを有しエオジン好性の明瞭な球形の核を持つ(図1)。皮質型レビー小体は脳幹型に比べると不正円形で小さくハローも不明瞭なため、α‐シヌクレイン免疫染色で初めて明瞭になることが多く、大脳辺縁系(側頭葉内側部、帯状回、島回、扁桃核など)に好発する。レビー小体の形成は神経細胞体のみならず軸索や樹状突起などの神経突起にも及び、レビー神経突起(Lewy neurite)と呼ばれる。
レビー小体型認知症をレビー関連病理の出現部位によって分類すると、脳幹型、辺縁型(移行型)、びまん性新皮質型に分けられる[2]。またレビー小体型認知症では多くの症例で様々な程度のアルツハイマー病病理を伴う。ただし典型的な老人班と神経原線維変化がみられるとは限らず、新皮質にアミロイド沈着は認めるが神経原線維変化を欠く症例もみられる。
臨床診断基準
第4回コンソーシアムによるレビー小体型認知症の臨床診断基準[3]を表1に示す。進行性の認知機能低下に加え、中核的臨床特徴のうち2つ、あるいは中核的臨床特徴1つと指標的バイオマーカー1つ以上が確認されればprobable レビー小体型認知症と診断される。中核的臨床特徴1つのみ、あるいは指標的バイオマーカー1つ以上のみ(中核的臨床特徴なし)の場合はpossible レビー小体型認知症と診断する。
診断基準ではレビー小体型認知症は認知機能障害がパーキンソニズムより先行ないしほぼ同時に出現するものとされ、明らかなパーキンソン病発症から12ヶ月以降に認知症が出現した場合はパーキンソン病の認知症(Parkinson’s disease dementia, PDD)と診断される。しかしレビー小体型認知症とパーキンソン病の認知症は臨床・病理学的に連続したスペクトラムに属するため、両者を包括してレビー小体病(Lewy body disease)と呼ぶことが認められている。
中核的臨床特徴と指標的バイオマーカー |
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必須症状:認知症(進行性の認知機能低下) 中核的臨床特徴: 指標的バイオマーカー:
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支持的臨床特徴とバイオマーカー |
支持的臨床特徴
支持的バイオマーカー |
Probable レビー小体型認知症の診断
- a. 中核的臨床特徴 2項目以上を満たす
- b. 中核的臨床特徴 1項目、かつ指標的バイオマーカー 1項目以上を満たす
Possible レビー小体型認知症の診断
- a. 中核的臨床特徴 1項目を満たすが、指標的バイオマーカーの証明がない
- b. 指標的バイオマーカーの1項目以上を満たすが、中核的臨床特徴を認めない
レビー小体型認知症の可能性が低いケース
- a. 臨床像の一部あるいは全体を説明しうる他の身体疾患や脳疾患(脳血管障害など)の存在(ただし、混合病理を伴うレビー小体型認知症の可能性は残る)
- b. 中核的特徴がパーキンソニズムのみで、高度認知症の時期になってから出現した場合
レビー小体型認知症とパーキンソン病の認知症
- パーキンソニズムがある場合、認知症がパーキンソニズム発症前からあるか、あるいはほぼ同時に発症していればレビー小体型認知症と診断する。認知症を伴うパーキンソン病という用語は確固たるパーキンソン病の経過中に認知症を生じた場合に使用する。現実的には臨床状態を最も適切に表現する用語を用いるべきであり、レビー小体病(Lewy body disease)といった包括的用語がしばしば有用である。レビー小体型認知症とパーキンソン病の認知症を区別する必要がある研究では、認知症の発症がパーキンソニズム発症後の1年以内である場合をレビー小体型認知症とする“1年ルール”を引き続き用いるよう推奨する。
鑑別診断
アルツハイマー病との鑑別では、幻視、パーキンソニズム、REM睡眠行動異常症、認知機能の変動のうち1つが明らかな場合、指標的バイオマーカーの検査を計画すると良い。特に認知症が軽症の時期から幻視が明らか、あるいはREM睡眠行動異常症がみられればレビー小体型認知症である可能性は高い。幻視の類縁症状である実体意識性、通過幻視などは本人に質問して初めて判明することも多い。幻視がなくても認知症が軽症のうちから人物誤認などの誤認症状がみられる場合、レビー小体型認知症を疑う根拠になるのでバイオマーカーによる鑑別を検討する。ただし中等度以上に認知症が進行するとアルツハイマー病でも誤認症状はみられるようになるので慎重な鑑別が必要になる。一方で妄想、興奮、意欲低下はアルツハイマー病, レビー小体型認知症いずれでも初期からみられ、非特異的な症状である。また幻聴は幻視に比べるとレビー小体型認知症への特異性は低く、初期アルツハイマー病でも高齢女性では幻聴、特に幻音楽は時々経験する。
幻視はないが筋強剛、寡動が主体の非定型パーキンソニズムと認知症がみられる場合、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核症候群、多系統萎縮症などの鑑別が必要である。これらの疾患との鑑別にはMIBG心筋シンチグラフィーが有用である。筋強剛はないがすり足歩行、小股歩行がみられ認知症を呈する場合には正常圧水頭症、皮質下型血管性認知症が鑑別に挙がる。これらの疾患との鑑別には頭部MRI、脳血流SPECTが有用である。
臨床症状と病態生理
認知機能障害の特徴
典型的なレビー小体型認知症ではアルツハイマー病と比較して、病初期~中期まではエピソード記憶障害が軽く、遅延再生や見当識の成績が良い[2][3]。特に初期には明らかな記憶障害がみられないこともあるので診断する際に注意が必要である。一方レビー小体型認知症では記憶障害に比べて構成障害および視知覚機能障害が目立つ傾向がある[2][3]。またレビー小体型認知症では注意障害、遂行機能障害もアルツハイマー病より目立つ。
中核的臨床特徴
認知機能の変動
レビー小体型認知症でみられる認知機能の変動(cognitive fluctuation)は一過性、周期性に生じる覚醒度や注意力の低下を伴い、問診では、日中の眠気、2時間以上の昼寝、長時間ボーッとする、一過性の混乱した会話などがポイントとなる[4]。日中の眠気・過眠は診断基準の示唆的特徴にも挙げられている[3]。またレビー小体型認知症ではアルツハイマー病に比べてせん妄の既往が多いだけでなく、経過中でもせん妄を生じやすく。しばしば認知機能変動との区別が難しいことがある。
繰り返す幻視
レビー小体型認知症で最も多い精神症状は有形幻視である。人物幻視が最も多く、次いで小動物や虫の幻視が多い。非生物の幻視は火や水に関連した幻視が多くみられる。
REM睡眠行動異常症
REM睡眠行動異常症(Rapid Eye Movement sleep behavior disorder, RBD)は、骨格筋緊張の抑制を欠く異常なREM睡眠(REM sleep without atonia, RWA)を生じるため夢の精神活動が行動に表出され、大声での寝言、叫び、手足の激しい動きなどの異常行動がみられる[5]。認知症症状や運動障害に年単位で先行することも多く、時には10数年も先行することがある。
特発性パーキンソニズム
パーキンソニズムはレビー小体型認知症に必須ではなく、ほとんどみられない場合もある。レビー小体型認知症のパーキンソニズムはパーキンソン病に比べると筋強剛と寡動、歩行障害が主体で振戦は少なく、左右差も少ない。またアルツハイマー病に比べるとレビー小体型認知症患者は有意に転倒し易い。レビー小体型認知症の易転倒性は診断の一助としての有用性のみならず、大腿骨骨折や脊椎圧迫骨折を生じて寝たきりになり易い、という危険があるため家族指導及びケア・マネジメントにおいても極めて重要な特徴である。
その他の症状
レビー小体型認知症では起立性低血圧、尿失禁、便秘、発汗異常など自律神経症状が高率に認められる。嗅覚障害も比較的多く、記憶障害より先行してみられることもあるため、示唆的特徴に挙げられている。ただし嗅覚障害はアルツハイマー病でも早期からみられることから、レビー小体型認知症とアルツハイマー病の鑑別における意義よりも、早期診断マーカーとしての意義が強調されている。また抗精神病薬に対する過敏性は新診断基準[3]では中核的特徴から示唆的特徴に格下げされたが、治療時に注意が必要な点は変わりない。
画像診断などのバイオマーカー
指標的バイオマーカー
ドパミントランスポーター画像
123I-ioflupaneなどを用いてSPECTで大脳基底核のドパミントランスポーターを評価すると、レビー小体型認知症では取り込みの低下がみられる。全ての症例で低下する訳ではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度78%、特異度90%程度である[2]。
123I-meta-iodobenzylguanidine 心筋シンチグラフィー
123I-meta-iodobenzylguanidine (MIBG)心筋シンチグラフィーは心臓交感神経機能評価の指標であるが、レビー小体型認知症およびパーキンソン病で高率に取り込み低下がみられるので、アルツハイマー病や他のパーキンソン関連疾患との鑑別を目的に用いられる(図2)。ただし全例で低下するわけではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度69%、特異度87%である[6]。MIBGの心筋への取り込みは虚血性心疾患や慢性心不全の合併、糖尿病、薬剤(三環系抗うつ薬など)の影響などでも低下するので注意を要する。
睡眠ポリグラフ
睡眠ポリグラフ(polysomnography)における骨格筋緊張の抑制を欠く異常なREM睡眠 (RWA)の存在は、高確率でシヌクレイノパチーを示唆するとされる。大声の寝言などREM睡眠行動異常症を示唆する症状があっても、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などREM睡眠行動異常症類似の症状を呈する状態との鑑別が必要になることがあり、その場合睡眠ポリグラフによる確認が望ましい。
示唆的バイオマーカー
CT/MRI
側頭葉内側の萎縮はアルツハイマー病に比べると軽い傾向がみられる。しかし個々の症例では側頭葉内側萎縮が明らかな例もあるのでアルツハイマー病との鑑別には有用とはいえない。
PET/SPECT
18F-fluorodeoxyglucose (FDG) PETでは頭頂葉、側頭葉、後頭葉皮質での糖代謝が低下し、特に一次視覚野を含む後頭葉での低下はレビー小体型認知症に特徴的でアルツハイマー病との鑑別に有用である。前頭葉から後頭葉まで皮質代謝がびまん性に低下する症例も多く、その場合には基底核や視床の代謝が相対的に高くみえる。相対的に後部帯状回付近の代謝が高く見える帯状回島徴候(cingulate island sign)がみられることもある [3]。SPECTによる脳血流検査でもPETと同様の所見が得られるが、PETに比べると感度は劣る。
脳波
レビー小体型認知症では頭頂後頭葉領域での徐波が増えることが報告されており、主にpre-α~θ帯域の周期的徐波がみられることがある。
その他のバイオマーカー
レビー小体型認知症でもアルツハイマー病病理を合併する例があるため、アミロイドPETでは50~80%の症例で大脳皮質におけるアミロイドβ(Aβ)結合能が高値を示す[7]。
髄液や血液の生化学マーカーでレビー小体型認知症に特異的といえるものは現時点ではない。髄液中のα-シヌクレイン濃度については報告によりばらつきが大きく診断的意義は低い。髄液Aβ1-42タンパク質の低下はレビー小体型認知症でも認められ、アルツハイマー病病理合併を示すとされる。
まれな家族性レビー小体型認知症においてα-シヌクレイン遺伝子の異常(点変異、3重化)が報告されている。アルツハイマー病の危険因子として知られるアポリポタンパク質Eε4アリルは、レビー小体型認知症でも正常対照よりも高率に認められる。
精神症状・感情障害
レビー小体型認知症では多彩な精神症状がみられる(表2) [8] [9]。幻視が最も多いが、幻視以外の精神症状として、実体意識性、人物誤認、被害妄想、場所誤認、幻の同居人などがしばしばみられる。Capgras症状や重複記憶錯誤など、いわゆる妄想性誤認症候群もみられることがある。“いない身内が居る”症状も時々みられるが、これは記憶錯誤の一種と考えられ幻視や幻の同居人とは異なる症状である。錯視も比較的よくみられ、レビー小体型認知症では精神症状と視覚認知障害の中間に位置する症状である。錯視を誘発する検査(パレイドリア・テスト)[10]ではアルツハイマー病に比べてレビー小体型認知症で有意に多くの錯視反応がみられることが報告されており、レビー小体型認知症を診断する一助になる。
病態生理学的にはレビー小体型認知症の幻視は、頭頂葉・腹側後頭葉などの視覚連合野の機能低下との関連[9]や、視床-皮質律動異常 (thalamocortical dysrhythmia; TCD)による背側/腹側注意ネットワーク (dorsal/ventral attention networkあるいはfrontal-parietal control network)とデフォルトモードネットワーク (default mode network; DMN)のデカップリングとの関連[11]などが示唆されている。
病理では辺縁系のレビー病理が幻視の早期出現に関連すると報告されている[12]。人物誤認は海馬、島皮質、前頭弁蓋部、扁桃体、側坐核などの大脳辺縁・傍辺縁系の機能低下による自伝的記憶障害やサリエンス・ネットワーク障害との関連が示唆されている[9]。病理では人物誤認、錯視は大脳皮質のレビー小体および神経原線維変化に関連すると報告されている[12]。被害妄想は前頭葉吻内側部など社会脳(social brain)の機能障害との関連が示されている[9]。
またレビー小体型認知症ではアルツハイマー病よりも抑うつの合併が多く、他の症状に先行することも珍しくないため、中高年の抑うつはレビー小体型認知症など認知症の前駆症状である可能性を考えて慎重に経過をみる必要がある。
幻覚 | 誤認 | 妄想 |
---|---|---|
・有形幻視 ‐人物幻視 ‐動物 ‐虫の幻視 -非生物幻視 ・要素性幻視 ・実体意識性 ・通過幻視 ・幻聴 ・幻臭 ・体感幻覚 ・錯視 |
・単純人物幻視 ・幻の同居人 ・妄想性誤認症候群 ‐Capgras症状 ‐Fregoli症状 ‐重複記憶錯誤 ・いない身内がいる、生きている ・場所誤認 ・TV徴候 ・鏡現象 ・その他の誤認関連症状 |
・物盗られ妄想 ・被害妄想 ・迫害妄想 ・嫉妬妄想 ・心気妄想 ・微小妄想 ・妊娠妄想 ・恋愛妄想 |
治療とケア
認知機能障害
認知障害に対してはコリンエステラーゼ阻害剤(cholinesterase inhibitors, ChEIs)が有効である[2][3][13][14]。リバスチグミンおよびドネペジルはレビー小体型認知症の認知機能に改善効果がみられることが示されている[14]。ガランタミンについては、オープンラベル試験においてレビー小体型認知症の認知機能の動揺改善が報告されている[15]。メマンチンはレビー小体型認知症の全般的臨床転帰を改善する可能性があるが、認知機能について明らかな改善は確認されていない[14]。
行動・心理症状に対する治療
レビー小体型認知症の行動・心理症状に対する対応としては、薬物治療を開始する前に、行動・心理症状を悪化させている身体的要因、他の薬剤の影響、非薬物的介入の対象となる心理社会的要因などについて検討する。レビー小体型認知症では抗コリン作用を有する薬剤(総合感冒薬、尿失禁治療薬、三環系抗うつ薬など)や抗不安薬、H2阻害剤、疼痛治療薬(トラマドール塩酸塩、プレガバリン)などによって容易にせん妄が誘発されるので注意が必要である。
レビー小体型認知症の幻覚、妄想、アパシーなどの精神症状に対してはリバスチグミン、塩酸ドネペジルの有効性が示されている[14]。ガランタミンについてはオープン試験において行動・心理症状の有意な改善が報告されている[15]。メマンチンについてはレビー小体型認知症の行動・心理症状に対する効果は一定しておらず、メタアナリシスでも行動・心理症状に対する有効性は確認されていない。
抑肝散や抑肝散加陳皮半夏が認知症の行動・心理症状を軽減する効果があると報告されており、低カリウム血症や浮腫のほかに大きな副作用を生じにくいことから、レビー小体型認知症の行動・心理症状にも使用される。
顕著な興奮や易怒性を緊急に治療する必要がある場合に非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾールなど)を考慮する。行動・心理症状に対する抗精神病薬の使用は適応外使用であり、また死亡リスクを高めるなどの危険があることについて使用時には患者と家族に対して説明のうえ同意を得る必要がある。レビー小体型認知症では抗精神病薬に対する過敏性を示すことがあるので、使用する場合でも最小限の用量にとどめる。定型抗精神病薬(ハロペリドールなど)は基本的に使用は避けるべきである。ガイドラインでは、パーキンソニズムを悪化させにくいことから糖尿病がなければクエチアピンの使用が推奨されている[2][3]。リスペリドン、ブロナンセリンなどのセトロニン・ドパミン拮抗薬は抗精神病作用は優れているが、パーキンソン症状の悪化など副作用を生じやすいので、やむを得ない場合に限りごく少量から慎重に使用する。
抑うつ症状については選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)の使用が推奨されているがレビー小体型認知症における有効性については証明されていない。不眠を伴う場合少量のミルタザピンの眠前投与が有効な場合がある。
REM睡眠行動異常症についてはクロナゼパムの眠前使用が有効な場合があるが、ふらつき、転倒のリスクが高まるため、ごく少量から慎重に使用する。その他、ラメルテオンやメマンチンがREM睡眠行動異常症や夜間せん妄に有効な場合がある。
身体症状に対する治療
パーキンソニズムに対してはL-DOPAの使用が第1選択となるが、パーキンソン病に比べると治療反応性は劣る。L-DOPA単独で効果が不十分な場合にはドパミン受容体アゴニスト、ゾニサミドなどの追加を考慮するが、精神症状を悪化させる可能性があるので慎重に使用する。トリヘキシフェニジルなどの抗コリン剤は認知症を悪化させるので避けるべきである。
レビー小体型認知症の自律神経症状に対する治療について明確なエビデンスはないが、起立性低血圧には弾性ストッキングの使用、水分・塩分摂取のほか、薬物治療としてミドドリン、メチル硫酸アメジニウム、ドロキシドパなどが用いられる。便秘については水分摂取や食事指導のほか、緩下剤、クエン酸モサプリド、漢方薬(大黄を含む製剤や大健中湯)が用いられる。
経過・予後
レビー小体型認知症の初発症状は記憶障害、幻覚、妄想、抑うつ、パーキンソニズム、REM睡眠行動異常症などさまざまである。中でもREM睡眠行動異常症は他の症状に数年~10数年先行することがあり、前駆症状として注目されている。難治性うつ病患者の中にレビー小体型認知症の前駆状態が含まれていることが指摘されており、臨床診断・治療をする上で注意を要する。
アルツハイマー病に比べるとレビー小体型認知症の進行は速い傾向があり、診断から死亡までの期間もアルツハイマー病より短い[16]。発症から1、2年で急速に症状が悪化する症例もある。
疫学
欧米では男性に多いとされるが、本邦では性差は明らかではない。本邦における有病率は明らかでない。レビー小体型認知症は剖検で確定診断された老年期認知症の15~20%を占めるとされているが、臨床診断では全認知症の4~5%との報告がある。
関連項目
参考文献
- ↑
Kosaka, K., Yoshimura, M., Ikeda, K., & Budka, H. (1984).
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