「エンドカンナビノイド」の版間の差分

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エンドカンナビノイド(内因性カンナビノイド)とは生体内で作られるカンナビノイド受容体のリガンドの総称である。大麻草(学名:Cannabis sativa)に含まれる生理活性成分の総称名カンナビノイドに対して内因性のカンナビノイドであることから名付けられた。いわゆる脳内マリファナ類似物質である。主要なものとしてアナンダミドと2—アラキドノイルグリセロール(2-AG)があり、どちらもアラキドン酸を含む脂質性の物質である(図1)。
<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/phsyiol2 橋本谷 祐輝]</font><br>
''Albert Einstein College of Medicine, Department of Neuroscience''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/masanobukano 狩野 方伸]</font><br>
''東京大学 大学院医学系研究科 医学部''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年7月16日 原稿完成日:2013年8月12日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>


種類
{{chembox
初めに発見されたエンドカンナビノイドはアナンダミド(またはN-アラキドノイルエタノールアミド)で1992年にブタの脳から抽出・同定された(Devane et al., 1992)。アナンダミド(anandamide)という名はサンスクリット語で「至福」を意味するanandaから取られた。2番目のエンドカンナビノイドとして1995年にイヌの腸およびラットの脳から2-AGが同定された(Mechoulam et al., 1995; Sugiura et al., 1995)。この他にも、ノラジンエーテル、N-アラキドノイルドーパミンなど数種類がエンドカンナビノイドとして報告されているが生理的に機能しているかどうか明らかでない。現在のところアナンダミドと2-AGが生理的に主要なエンドカンナビノイドと考えられている。脳内の含有量は2-AGがアナンダミドに対しておよそ数十から数百倍多い。アナンダミドはカンナビノイド受容体以外にもバニロイド受容体のアゴニストとしても働くため、エンドバニロイドとしても知られる。
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生合成と分解
{{chembox
アナンダミドと2-AGの生合成には複数の経路が知られている。ここでは最も主要であると考えられている経路を示す(Piomelli, 2003; Sugiura et al., 2006)。アナンダミドと2-AGはどちらも膜のリン脂質から2つの酵素反応によって生成される。アナンダミドはN-アシル転移酵素とホスホリパーゼD、2-AGはホスホリパーゼC(PLC)とジアシルグリセロールリパーゼ(DGL)によって生成される(図2)。中枢神経系においてエンドカンナビノイドはもっぱらニューロンで作られる。しかしグリア細胞も作ることができるとの報告がある(Walter et al., 2004)。どちらのエンドカンナビノイドも加水分解によって代謝される。アナンダミドは脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)、2-AGはモノアシルグリセロールリパーゼ(MGL)によって分解される(図2)。これら主要経路以外にもシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)による酸化によってもアナンダミド、2-AGともに代謝される。また最近2-AGを選択的に分解する新たな酵素としてABHD6とABHD12が同定された(Blankman et al., 2007)。
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カンナビノイド受容体
カンナビノイド受容体は7回膜貫通型のGi/oタンパク質共役型受容体でCB1とCB2の2種類がある。CB1は中枢神経系に、CB2は免疫系に多く発現している。CB1受容体は脳内に広く分布しており、特に大脳皮質、海馬、扁桃体、大脳基底核、視床、小脳などに多い。興奮性、抑制性のどちらのニューロンにもCB1受容体は発現するが、その発現パターンは脳部位によって異なる。例えば海馬では、一部の抑制性ニューロンに強く発現しており、これに比べて興奮性ニューロンには一様に低く発現している。海馬の抑制性ニューロンのうちでも、パルブアルブミン陽性バスケット細胞にはCB1受容体が存在せず、コレシストキニン陽性バスケット細胞に強く発現するといった、極めて選択的な発現パターンを示す。ニューロン内では、神経終末及び軸索に豊富に局在し、細胞体や樹状突起の発現は極めて低い。


脂質メディエーター
英語名: endocannabinoid
エンドカンナビノイドは脂質メディエーターとして中枢神経系においてさまざまな神経伝達調節を行っている(Kano et al., 2009)。主にCB1受容体の活性化を介してその効果を発揮する。CB1受容体は中枢神経系においてGタンパク質共役型受容体の中でも最も発現量の多い受容体として知られており、その発現領域も脳全体にわたっている。そのためエンドカンナビノイドの生理的作用は、記憶・認知、運動制御、鎮痛、食欲調節、報酬系の制御など多岐にわたる(Kano et al., 2009)。エンドカンナビノイドは病理的な条件下でも重要な役割を担っており、海馬でてんかん発作時に神経保護的役割を果たすことが知られている(Marsicano et al., 2003; Monory et al., 2006)。以下にシナプス伝達におけるエンドカンナビノイドの役割に限定して述べる。


1. 逆行性シナプス伝達抑制
同義語:内因性カンナビノイド
エンドカンナビノイドの脂質メディエーターとしての働きで最も詳しく調べられているのは逆行性伝達物質としての役割である(Kreitzer and Regehr, 2001; Ohno-Shosaku et al., 2001; Wilson and Nicoll, 2001)。2-AGはシナプス後部から産生・放出されて逆行性にシナプス前終末に局在するCB1受容体を活性化する。活性化したCB1受容体は共役するGi/oタンパク質を介してシナプス前終末の電位依存性カルシウムチャネルの開口を抑制し、神経伝達物質の放出を抑制する。2-AGはシナプス後部のニューロンの脱分極によるカルシウムイオン流入、あるいはGq/11タンパク質共役型受容体の活性化によって産生される。シナプス後ニューロンで強い脱分極が起きると電位依存性カルシウムチャネルが開いてカルシウムが流入する。細胞内カルシウム濃度がマイクロモーラー以上に達すると、2-AGが産生される。また、グループI代謝型グルタミン酸受容体やM1/M3ムスカリン受容体といったGq/11タンパク質共役型受容体の活性化によってPLCβを介する経路で2-AG産生が引き起こされる。この場合、細胞内カルシウム上昇は必要ない(Maejima et al., 2001)。上記受容体以外にもオレキシン受容体、セロトニン受容体、オキシトシン受容体、プロテアーゼ活性化受容体1型、エンドセリン受容体などによってもエンドカンナビノイド産生が引き起こされる。さらに、こういった受容体の活性化と脱分極による細胞内へのカルシウム流入が同時におこると、2-AG産生が相乗的に促進される。これは、PLCβがカルシウム感受性を持つため、受容体活性化と同時に細胞内カルシウム濃度が高まると、PLCβ活性が増強するためである(Hashimotodani et al., 2005; Maejima et al., 2005)。エンドカンナビノイドは脂質であるため細胞外へ放出される際、受動的に細胞膜を通り抜けると考えられる。しかしトランスポーターを介する可能性も否定できない。最近アナンダミドのトランスポーターの候補と考えられるFLATという分子が同定された(Fu et al., 2012) 。2-AGに関してはトランスポーターの存在は現在報告されていない。2-AGによる逆行性シナプス伝達抑制はこれまでに海馬、小脳、大脳基底核、大脳皮質、扁桃体、視床下部、脳幹などの様々な脳部位で報告されており普遍的な現象であることがわかる(Kano et al., 2009)。一方、アナンダミドに関してはごく一部のシナプスでのみ逆行性伝達物質として働く(Lourenco et al., 2011; Caiati et al., 2012; Lerner and Kreitzer, 2012)。
  2-AGによる逆行性シナプス伝達抑制は短期あるいは長期にシナプス伝達を抑制する。短期のシナプス伝達抑制としてdepolarization-induced suppression of inhibition/excitation (DSI/DSE)がよく知られている。2-AGによる長期のシナプス伝達抑制に関しては、多くのシナプスで長期抑圧(long-term depression: LTD)の誘導にCB1受容体の活性化が必須であることが明らかになっている(Heifets and Castillo, 2009)。多くの場合、LTD誘導刺激によって2-AGが逆行性シグナルとして働く。このようなLTDは海馬、小脳、線条体、大脳皮質などで詳しく調べられており、エンドカンナビノイドが記憶・学習、運動学習や運動制御、認知機能に重要な役割を果たしていることが示唆される(Heifets and Castillo, 2009)。


2. 自己抑制
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大脳皮質体性感覚野5層の低頻度発火型の抑制性ニューロンではエンドカンナビノイドが自己分泌によって作用する(Bacci et al., 2004)。抑制性ニューロンに繰り返しの脱分極パルスを与えると、長時間に渡ってその細胞の膜電位が過分極する自己抑制が起こる。脱分極によって放出された2-AGが自身の細胞体のCB1受容体を活性化し、最終的に内向き整流性カリウムチャネルが活性化されることで引き起こされると考えられている。
 エンドカンナビノイドとは生体内で作られる[[カンナビノイド受容体]]のリガンドの総称である。[[wikipedia:ja:大麻|大麻]]草(学名:''Cannabis sativa'')に含まれる生理活性成分の総称名[[カンナビノイド]]に対して内因性のカンナビノイドであることから名付けられた。いわゆる脳内[[マリファナ]]類似物質である。主要なものとして[[アナンダミド]]と[[2-アラキドノイルグリセロール]](2-AG)があり、どちらも[[アラキドン酸]]を含む脂質性の物質である。
}}


3. アストロサイトを介した経路
== 種類  ==
ニューロンから放出されたエンドカンナビノイドは直接ニューロンのCB1受容体に作用するだけでなくアストロサイトのCB1受容体にも作用し、シナプス伝達を調節することが最近明らかになってきた。アストロサイトのCB1受容体の活性化によってアストロサイトからグルタミン酸が放出されシナプス前終末、あるいはシナプス後部のグルタミン酸受容体(NMDA受容体または代謝型グルタミン酸受容体)を活性化しシナプス可塑性を引き起こすことが海馬や大脳皮質で報告されている(Navarrete and Araque, 2010; Han et al., 2012; Min and Nevian, 2012)。


4. TRPV1依存性LTD
 初めに発見されたエンドカンナビノイドはアナンダミド(またはN-アラキドノイルエタノールアミド)で1992年に[[wikipedia:ja:ブタ|ブタ]]の脳から抽出・同定された<ref><pubmed>1470919</pubmed></ref>。アナンダミド(anandamide)という名は[[wikipedia:ja:サンスクリット|サンスクリット]]語で「至福」を意味するanandaから取られた。2番目のエンドカンナビノイドとして1995年に[[wikipedia:ja:イヌ|イヌ]]の腸および[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]の脳から2-AGが同定された<ref><pubmed>7605349</pubmed></ref><ref><pubmed>7575630</pubmed></ref>。この他にも、[[ノラジンエーテル]]、[[N-アラキドノイルドーパミン|''N''-アラキドノイルドーパミン]]など数種類がエンドカンナビノイドとして報告されているが生理的に機能しているかどうか明らかでない。現在のところアナンダミドと2-AGが生理的に主要なエンドカンナビノイドと考えられている。脳内の含有量は2-AGがアナンダミドに対しておよそ数十から数百倍多い。アナンダミドはカンナビノイド受容体以外にも[[バニロイド受容体]]のアゴニストとしても働くため、[[エンドバニロイド]]としても知られる。
海馬歯状回、側座核、分界条床核の興奮性シナプスにおいてアナンダミドが仲介するLTDが報告されている(Chavez et al., 2010; Grueter et al., 2010; Puente et al., 2011)。シナプス後部で作られたアナンダミドが細胞外に放出されずに、細胞内でシナプス後部のTRPV1を活性化することで引き起こされる。TRPV1を介した細胞内へのカルシウム流入が引き金となってAMPA受容体のエンドサイトーシスが起こると考えられている。


2-AGかアナンダミドか
== 生合成と分解  ==
CB1受容体依存的に引き起こされる短期や長期のシナプス可塑性がどちらのエンドカンナビノイドによって仲介されるのかについては、以下のような判別法がある。
 (1)その現象がDGLを薬理的、遺伝子的に阻害して起こらなくなる。2)MGLを薬理的、遺伝子的に阻害してその現象が促進される。以上の場合、2-AGが仲介すると判断される。一方、アナンダミドの合成経路を特異的に阻害する薬剤や遺伝子欠損動物が存在しないことから、上記(1)か(2)が否定され、かつFAAHを阻害するとその現象が促進される場合、アナンダミドによって仲介されると判断される。


[[Image:Yukihashimotodani fig 2.jpg|thumb|right|300px|'''図 エンドカンナビノイドの生合成と分解経路'''<br>橋本谷祐輝 他:実験医学,Vol.28 No.20:3409-3414,2010より引用]]
図1 エンドカンナビノイドの構造
図2 エンドカンナビノイドの生合成と分解経路
橋本谷祐輝 他:実験医学,Vol.28 No.20:3409-3414,2010より引用


Bacci A, Huguenard JR, Prince DA (2004) Long-lasting self-inhibition of neocortical interneurons mediated by endocannabinoids. Nature 431:312-316.
 アナンダミドと2-AGの生合成には複数の経路が知られている。ここでは最も主要であると考えられている経路を示す<ref><pubmed>14595399</pubmed></ref><ref><pubmed>16678907</pubmed></ref>。アナンダミドと2-AGはどちらも膜の[[リン脂質]]から2つの酵素反応によって生成される。アナンダミドは[[N-アシル転移酵素|''N''-アシル転移酵素]]と[[ホスホリパーゼD]]、2-AGは[[ホスホリパーゼC]](PLC)と[[ジアシルグリセロールリパーゼ]](DGL)によって生成される(図)。[[中枢神経系]]においてエンドカンナビノイドはもっぱら[[ニューロン]]で作られる。しかし[[グリア細胞]]も作ることができるとの報告がある<ref><pubmed>15371507</pubmed></ref>。どちらのエンドカンナビノイドも[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]によって代謝される。アナンダミドは[[脂肪酸アミド加水分解酵素]](FAAH)、2-AGは[[モノアシルグリセロールリパーゼ]](MGL)によって分解される(図2)。これら主要経路以外にも[[シクロオキシゲナーゼー2]](COX-2)による[[酸化]]によってもアナンダミド、2-AGともに代謝される。また最近2-AGを選択的に分解する新たな酵素としてABHD6とABHD12が同定された<ref><pubmed>18096503</pubmed></ref>。
Blankman JL, Simon GM, Cravatt BF (2007) A Comprehensive Profile of Brain Enzymes that Hydrolyze the Endocannabinoid 2-Arachidonoylglycerol. Chem Biol 14:1347-1356.
 
Caiati MD, Sivakumaran S, Lanore F, Mulle C, Richard E, Verrier D, Marsicano G, Miles R, Cherubini E (2012) Developmental regulation of CB1-mediated spike-time dependent depression at immature mossy fiber-CA3 synapses. Sci Rep 2:285.
== カンナビノイド受容体  ==
Chavez AE, Chiu CQ, Castillo PE (2010) TRPV1 activation by endogenous anandamide triggers postsynaptic long-term depression in dentate gyrus. Nat Neurosci 13:1511-1518.
 
Devane WA, Hanus L, Breuer A, Pertwee RG, Stevenson LA, Griffin G, Gibson D, Mandelbaum A, Etinger A, Mechoulam R (1992) Isolation and structure of a brain constituent that binds to the cannabinoid receptor. Science 258:1946-1949.
 カンナビノイド受容体は7回膜貫通型の[[Gi/oタンパク質共役型受容体]]でCB1とCB2の2種類がある。CB1は[[中枢神経系]]に、CB2は[[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系に多く発現している。CB1受容体は脳内に広く分布しており、特に[[大脳皮質]]、[[海馬]]、[[扁桃体]]、[[大脳基底核]]、[[視床]]、[[小脳]]などに多い。興奮性、抑制性のどちらのニューロンにもCB1受容体は発現するが、その発現パターンは脳部位によって異なる。例えば海馬では、一部の抑制性ニューロンに強く発現しており、これに比べて興奮性ニューロンには一様に低く発現している。海馬の抑制性ニューロンのうちでも、[[パルブアルブミン]]陽性[[バスケット細胞]]にはCB1受容体が存在せず、[[コレシストキニン]]陽性バスケット細胞に強く発現するといった、極めて選択的な発現パターンを示す。ニューロン内では、[[神経終末]]及び[[軸索]]に豊富に局在し、[[細胞体]]や[[樹状突起]]の発現は極めて低い。
Fu J, Bottegoni G, Sasso O, Bertorelli R, Rocchia W, Masetti M, Guijarro A, Lodola A, Armirotti A, Garau G, Bandiera T, Reggiani A, Mor M, Cavalli A, Piomelli D (2012) A catalytically silent FAAH-1 variant drives anandamide transport in neurons. Nat Neurosci 15:64-69.
 
Grueter BA, Brasnjo G, Malenka RC (2010) Postsynaptic TRPV1 triggers cell type-specific long-term depression in the nucleus accumbens. Nat Neurosci 13:1519-1525.
== 脂質メディエーター  ==
Han J, Kesner P, Metna-Laurent M, Duan T, Xu L, Georges F, Koehl M, Abrous DN, Mendizabal-Zubiaga J, Grandes P, Liu Q, Bai G, Wang W, Xiong L, Ren W, Marsicano G, Zhang X (2012) Acute cannabinoids impair working memory through astroglial CB1 receptor modulation of hippocampal LTD. Cell 148:1039-1050.
 
Hashimotodani Y, Ohno-Shosaku T, Tsubokawa H, Ogata H, Emoto K, Maejima T, Araishi K, Shin HS, Kano M (2005) Phospholipase Cbeta serves as a coincidence detector through its Ca2+ dependency for triggering retrograde endocannabinoid signal. Neuron 45:257-268.
 エンドカンナビノイドは脂質メディエーターとして中枢神経系においてさまざまな[[神経伝達]]調節を行っている<ref name=ref8><pubmed> 19126760 </pubmed></ref>。主にCB1受容体の活性化を介してその効果を発揮する。CB1受容体は中枢神経系において[[Gタンパク質共役型受容体]]の中でも最も発現量の多い[[受容体]]として知られており、その発現領域も脳全体にわたっている。そのためエンドカンナビノイドの生理的作用は、[[記憶]]・[[認知]]、[[運動制御]]、[[鎮痛]]、[[食欲]]調節、[[報酬系]]の制御など多岐にわたる<ref name=ref8 />。エンドカンナビノイドは病理的な条件下でも重要な役割を担っており、海馬で[[てんかん]]発作時に神経保護的役割を果たすことが知られている<ref><pubmed>14526074</pubmed></ref><ref><pubmed>16908411</pubmed></ref>。以下にシナプス伝達におけるエンドカンナビノイドの役割に限定して述べる。
Heifets BD, Castillo PE (2009) Endocannabinoid signaling and long-term synaptic plasticity. Annu Rev Physiol 71:283-306.
 
Kano M, Ohno-Shosaku T, Hashimotodani Y, Uchigashima M, Watanabe M (2009) Endocannabinoid-mediated control of synaptic transmission. Physiol Rev 89:309-380.
=== 逆行性シナプス伝達抑制  ===
Kreitzer AC, Regehr WG (2001) Retrograde inhibition of presynaptic calcium influx by endogenous cannabinoids at excitatory synapses onto Purkinje cells. Neuron 29:717-727.
 
Lerner TN, Kreitzer AC (2012) RGS4 is required for dopaminergic control of striatal LTD and susceptibility to Parkinsonian motor deficits. Neuron 73:347-359.
 エンドカンナビノイドの[[脂質メディエーター]]としての働きで最も詳しく調べられているのは[[逆行性伝達物質]]としての役割である<ref><pubmed>11301031</pubmed></ref><ref><pubmed>11279497</pubmed></ref><ref><pubmed>11301030</pubmed></ref>。
Lourenco J, Matias I, Marsicano G, Mulle C (2011) Pharmacological activation of kainate receptors drives endocannabinoid mobilization. J Neurosci 31:3243-3248.
 
Maejima T, Hashimoto K, Yoshida T, Aiba A, Kano M (2001) Presynaptic inhibition caused by retrograde signal from metabotropic glutamate to cannabinoid receptors. Neuron 31:463-475.
 2-AGは[[シナプス後部]]から産生・放出されて逆行性に[[シナプス前終末]]に局在するCB1受容体を活性化する。活性化したCB1受容体は共役するGi/oタンパク質を介してシナプス前終末の[[電位依存性カルシウムチャネル]]の開口を抑制し、神経伝達物質の放出を抑制する。2-AGはシナプス後部のニューロンの脱分極による[[カルシウム]]イオン流入、あるいはGq/11タンパク質共役型受容体の活性化によって産生される。シナプス後ニューロンで強い脱分極が起きると電位依存性カルシウムチャネルが開いてカルシウムが流入する。細胞内カルシウム濃度がマイクロモーラー以上に達すると、2-AGが産生される。また、グループI[[代謝型グルタミン酸受容体]]やM1/M3[[ムスカリン受容体]]といった[[Gq/11タンパク質共役型受容体]]の活性化によってPLCβを介する経路で2-AG産生が引き起こされる。この場合、細胞内カルシウム上昇は必要ない<ref><pubmed>11516402</pubmed></ref>。上記受容体以外にも[[オレキシン]]受容体、[[セロトニン]]受容体、[[オキシトシン]]受容体、[[プロテアーゼ活性化受容体1型]]、[[エンドセリン]]受容体などによってもエンドカンナビノイド産生が引き起こされる。
Maejima T, Oka S, Hashimotodani Y, Ohno-Shosaku T, Aiba A, Wu D, Waku K, Sugiura T, Kano M (2005) Synaptically driven endocannabinoid release requires Ca2+-assisted metabotropic glutamate receptor subtype 1 to phospholipase Cbeta4 signaling cascade in the cerebellum. J Neurosci 25:6826-6835.
 
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 さらに、こういった受容体の活性化と脱分極による細胞内へのカルシウム流入が同時におこると、2-AG産生が相乗的に促進される。これは、PLCβがカルシウム感受性を持つため、受容体活性化と同時に細胞内カルシウム濃度が高まると、PLCβ活性が増強するためである<ref><pubmed>15664177</pubmed></ref><ref><pubmed>16033892</pubmed></ref>。エンドカンナビノイドは脂質であるため細胞外へ放出される際、受動的に細胞膜を通り抜けると考えられる。しかし[[トランスポーター]]を介する可能性も否定できない。最近アナンダミドのトランスポーターの候補と考えられる[[FLAT]]という分子が同定された<ref><pubmed>22101642</pubmed></ref>。2-AGに関してはトランスポーターの存在は現在報告されていない。
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 2-AGによる逆行性シナプス伝達抑制はこれまでに海馬、小脳、大脳基底核、大脳皮質、扁桃体、[[視床下部]]、[[脳幹]]などの様々な脳部位で報告されており普遍的な現象であることがわかる<ref name=ref8 />。一方、アナンダミドに関してはごく一部のシナプスでのみ逆行性伝達物質として働く<ref><pubmed>21368036</pubmed></ref><ref><pubmed>22368777</pubmed></ref><ref><pubmed>22284188</pubmed></ref>。   
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 2-AGによる逆行性シナプス伝達抑制は短期あるいは長期にシナプス伝達を抑制する。短期のシナプス伝達抑制として[[depolarization-induced suppression of inhibition]]/excitation (DSI/DSE)がよく知られている。2-AGによる長期のシナプス伝達抑制に関しては、多くのシナプスで[[長期抑圧]](long-term depression: LTD)の誘導にCB1受容体の活性化が必須であることが明らかになっている<ref name=ref20><pubmed>19575681</pubmed></ref>。多くの場合、LTD誘導刺激によって2-AGが逆行性シグナルとして働く。このようなLTDは海馬、小脳、線条体、大脳皮質などで詳しく調べられており、エンドカンナビノイドが記憶・学習、運動学習や運動制御、認知機能に重要な役割を果たしていることが示唆される<ref name=ref20 />。
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=== 自己抑制  ===
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 大脳皮質[[体性感覚野]]5層の低頻度発火型の抑制性ニューロンではエンドカンナビノイドが[[自己分泌]]によって作用する<ref><pubmed>15372034</pubmed></ref>。抑制性ニューロンに繰り返しの脱分極パルスを与えると、長時間に渡ってその細胞の[[膜電位]]が[[過分極]]する自己抑制が起こる。脱分極によって放出された2-AGが自身の細胞体のCB1受容体を活性化し、最終的に[[内向き整流性カリウムチャネル]]が活性化されることで引き起こされると考えられている。
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=== アストロサイトを介した経路  ===
Wilson RI, Nicoll RA (2001) Endogenous cannabinoids mediate retrograde signalling at hippocampal synapses. Nature 410:588-592.
 
 ニューロンから放出されたエンドカンナビノイドは直接ニューロンのCB1受容体に作用するだけでなく[[アストロサイト]]のCB1受容体にも作用し、[[シナプス伝達]]を調節することが最近明らかになってきた。アストロサイトのCB1受容体の活性化によってアストロサイトから[[グルタミン酸]]が放出されシナプス前終末、あるいはシナプス後部の[[グルタミン酸受容体]]([[NMDA型グルタミン酸受容体]]または代謝活性型グルタミン酸受容体)を活性化し[[シナプス可塑性]]を引き起こすことが海馬や大脳皮質で報告されている<ref><pubmed>20920795</pubmed></ref><ref><pubmed>22385967</pubmed></ref><ref><pubmed>22446881</pubmed></ref>。
 
=== TRPV1依存性LTD  ===
 
 海馬歯状回、[[側座核]]、[[分界条床核]]の興奮性シナプスにおいてアナンダミドが仲介するLTDが報告されている<ref><pubmed>21076423</pubmed></ref><ref><pubmed>21076424</pubmed></ref><ref><pubmed>22057189</pubmed></ref>。シナプス後部で作られたアナンダミドが細胞外に放出されずに、細胞内でシナプス後部の[[TRPV1]]を活性化することで引き起こされる。TRPV1を介した細胞内へのカルシウム流入が引き金となって[[AMPA型グルタミン酸受容体]]のエンドサイトーシスが起こると考えられている。
 
== 2-AGかアナンダミドか  ==
 
 CB1受容体依存的に引き起こされる短期や長期のシナプス可塑性がどちらのエンドカンナビノイドによって仲介されるのかについては、以下のような判別法がある。  
 
#その現象がDGLを薬理的、遺伝子的に阻害して起こらなくなる。
#MGLを薬理的、遺伝子的に阻害してその現象が促進される。
 
 以上の場合、2-AGが仲介すると判断される。一方、アナンダミドの合成経路を特異的に阻害する薬剤や[[遺伝子欠損動物]]が存在しないことから、上記(1)か(2)が否定され、かつFAAHを阻害するとその現象が促進される場合、アナンダミドによって仲介されると判断される。
 
==関連項目==
* [[ホスホリパーゼA2]]
*[[Depolarization-induced suppression of inhibition]]
 
== 参考文献  ==
 
<references />

2023年8月11日 (金) 12:47時点における最新版

橋本谷 祐輝
Albert Einstein College of Medicine, Department of Neuroscience
狩野 方伸
東京大学 大学院医学系研究科 医学部
DOI:10.14931/bsd.2192 原稿受付日:2012年7月16日 原稿完成日:2013年8月12日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

Anandamide
Identifiers
94421-68-8 N
ChEBI
ChEMBL ChEMBL15848 YesY
ChemSpider 4445241 YesY
737
Jmol-3D images Image
Image
MeSH Anandamide
PubChem 5281969
UNII UR5G69TJKH YesY
Properties
Molar mass 347.53 g/mol
特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。
2-Arachidonoylglycerol
Identifiers
53847-30-6
ChEBI
ChEMBL ChEMBL122972 YesY
ChemSpider 4445451 YesY
729
Jmol-3D images Image
PubChem 5282280
Properties
Molar mass 378.3 g/mol
特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。


英語名: endocannabinoid

同義語:内因性カンナビノイド

 エンドカンナビノイドとは生体内で作られるカンナビノイド受容体のリガンドの総称である。大麻草(学名:Cannabis sativa)に含まれる生理活性成分の総称名カンナビノイドに対して内因性のカンナビノイドであることから名付けられた。いわゆる脳内マリファナ類似物質である。主要なものとしてアナンダミド2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)があり、どちらもアラキドン酸を含む脂質性の物質である。

種類

 初めに発見されたエンドカンナビノイドはアナンダミド(またはN-アラキドノイルエタノールアミド)で1992年にブタの脳から抽出・同定された[1]。アナンダミド(anandamide)という名はサンスクリット語で「至福」を意味するanandaから取られた。2番目のエンドカンナビノイドとして1995年にイヌの腸およびラットの脳から2-AGが同定された[2][3]。この他にも、ノラジンエーテルN-アラキドノイルドーパミンなど数種類がエンドカンナビノイドとして報告されているが生理的に機能しているかどうか明らかでない。現在のところアナンダミドと2-AGが生理的に主要なエンドカンナビノイドと考えられている。脳内の含有量は2-AGがアナンダミドに対しておよそ数十から数百倍多い。アナンダミドはカンナビノイド受容体以外にもバニロイド受容体のアゴニストとしても働くため、エンドバニロイドとしても知られる。

生合成と分解

図 エンドカンナビノイドの生合成と分解経路
橋本谷祐輝 他:実験医学,Vol.28 No.20:3409-3414,2010より引用

 アナンダミドと2-AGの生合成には複数の経路が知られている。ここでは最も主要であると考えられている経路を示す[4][5]。アナンダミドと2-AGはどちらも膜のリン脂質から2つの酵素反応によって生成される。アナンダミドはN-アシル転移酵素ホスホリパーゼD、2-AGはホスホリパーゼC(PLC)とジアシルグリセロールリパーゼ(DGL)によって生成される(図)。中枢神経系においてエンドカンナビノイドはもっぱらニューロンで作られる。しかしグリア細胞も作ることができるとの報告がある[6]。どちらのエンドカンナビノイドも加水分解によって代謝される。アナンダミドは脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)、2-AGはモノアシルグリセロールリパーゼ(MGL)によって分解される(図2)。これら主要経路以外にもシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)による酸化によってもアナンダミド、2-AGともに代謝される。また最近2-AGを選択的に分解する新たな酵素としてABHD6とABHD12が同定された[7]

カンナビノイド受容体

 カンナビノイド受容体は7回膜貫通型のGi/oタンパク質共役型受容体でCB1とCB2の2種類がある。CB1は中枢神経系に、CB2は免疫系に多く発現している。CB1受容体は脳内に広く分布しており、特に大脳皮質海馬扁桃体大脳基底核視床小脳などに多い。興奮性、抑制性のどちらのニューロンにもCB1受容体は発現するが、その発現パターンは脳部位によって異なる。例えば海馬では、一部の抑制性ニューロンに強く発現しており、これに比べて興奮性ニューロンには一様に低く発現している。海馬の抑制性ニューロンのうちでも、パルブアルブミン陽性バスケット細胞にはCB1受容体が存在せず、コレシストキニン陽性バスケット細胞に強く発現するといった、極めて選択的な発現パターンを示す。ニューロン内では、神経終末及び軸索に豊富に局在し、細胞体樹状突起の発現は極めて低い。

脂質メディエーター

 エンドカンナビノイドは脂質メディエーターとして中枢神経系においてさまざまな神経伝達調節を行っている[8]。主にCB1受容体の活性化を介してその効果を発揮する。CB1受容体は中枢神経系においてGタンパク質共役型受容体の中でも最も発現量の多い受容体として知られており、その発現領域も脳全体にわたっている。そのためエンドカンナビノイドの生理的作用は、記憶認知運動制御鎮痛食欲調節、報酬系の制御など多岐にわたる[8]。エンドカンナビノイドは病理的な条件下でも重要な役割を担っており、海馬でてんかん発作時に神経保護的役割を果たすことが知られている[9][10]。以下にシナプス伝達におけるエンドカンナビノイドの役割に限定して述べる。

逆行性シナプス伝達抑制

 エンドカンナビノイドの脂質メディエーターとしての働きで最も詳しく調べられているのは逆行性伝達物質としての役割である[11][12][13]

 2-AGはシナプス後部から産生・放出されて逆行性にシナプス前終末に局在するCB1受容体を活性化する。活性化したCB1受容体は共役するGi/oタンパク質を介してシナプス前終末の電位依存性カルシウムチャネルの開口を抑制し、神経伝達物質の放出を抑制する。2-AGはシナプス後部のニューロンの脱分極によるカルシウムイオン流入、あるいはGq/11タンパク質共役型受容体の活性化によって産生される。シナプス後ニューロンで強い脱分極が起きると電位依存性カルシウムチャネルが開いてカルシウムが流入する。細胞内カルシウム濃度がマイクロモーラー以上に達すると、2-AGが産生される。また、グループI代謝型グルタミン酸受容体やM1/M3ムスカリン受容体といったGq/11タンパク質共役型受容体の活性化によってPLCβを介する経路で2-AG産生が引き起こされる。この場合、細胞内カルシウム上昇は必要ない[14]。上記受容体以外にもオレキシン受容体、セロトニン受容体、オキシトシン受容体、プロテアーゼ活性化受容体1型エンドセリン受容体などによってもエンドカンナビノイド産生が引き起こされる。

 さらに、こういった受容体の活性化と脱分極による細胞内へのカルシウム流入が同時におこると、2-AG産生が相乗的に促進される。これは、PLCβがカルシウム感受性を持つため、受容体活性化と同時に細胞内カルシウム濃度が高まると、PLCβ活性が増強するためである[15][16]。エンドカンナビノイドは脂質であるため細胞外へ放出される際、受動的に細胞膜を通り抜けると考えられる。しかしトランスポーターを介する可能性も否定できない。最近アナンダミドのトランスポーターの候補と考えられるFLATという分子が同定された[17]。2-AGに関してはトランスポーターの存在は現在報告されていない。

 2-AGによる逆行性シナプス伝達抑制はこれまでに海馬、小脳、大脳基底核、大脳皮質、扁桃体、視床下部脳幹などの様々な脳部位で報告されており普遍的な現象であることがわかる[8]。一方、アナンダミドに関してはごく一部のシナプスでのみ逆行性伝達物質として働く[18][19][20]。   

 2-AGによる逆行性シナプス伝達抑制は短期あるいは長期にシナプス伝達を抑制する。短期のシナプス伝達抑制としてdepolarization-induced suppression of inhibition/excitation (DSI/DSE)がよく知られている。2-AGによる長期のシナプス伝達抑制に関しては、多くのシナプスで長期抑圧(long-term depression: LTD)の誘導にCB1受容体の活性化が必須であることが明らかになっている[21]。多くの場合、LTD誘導刺激によって2-AGが逆行性シグナルとして働く。このようなLTDは海馬、小脳、線条体、大脳皮質などで詳しく調べられており、エンドカンナビノイドが記憶・学習、運動学習や運動制御、認知機能に重要な役割を果たしていることが示唆される[21]

自己抑制

 大脳皮質体性感覚野5層の低頻度発火型の抑制性ニューロンではエンドカンナビノイドが自己分泌によって作用する[22]。抑制性ニューロンに繰り返しの脱分極パルスを与えると、長時間に渡ってその細胞の膜電位過分極する自己抑制が起こる。脱分極によって放出された2-AGが自身の細胞体のCB1受容体を活性化し、最終的に内向き整流性カリウムチャネルが活性化されることで引き起こされると考えられている。

アストロサイトを介した経路

 ニューロンから放出されたエンドカンナビノイドは直接ニューロンのCB1受容体に作用するだけでなくアストロサイトのCB1受容体にも作用し、シナプス伝達を調節することが最近明らかになってきた。アストロサイトのCB1受容体の活性化によってアストロサイトからグルタミン酸が放出されシナプス前終末、あるいはシナプス後部のグルタミン酸受容体NMDA型グルタミン酸受容体または代謝活性型グルタミン酸受容体)を活性化しシナプス可塑性を引き起こすことが海馬や大脳皮質で報告されている[23][24][25]

TRPV1依存性LTD

 海馬歯状回、側座核分界条床核の興奮性シナプスにおいてアナンダミドが仲介するLTDが報告されている[26][27][28]。シナプス後部で作られたアナンダミドが細胞外に放出されずに、細胞内でシナプス後部のTRPV1を活性化することで引き起こされる。TRPV1を介した細胞内へのカルシウム流入が引き金となってAMPA型グルタミン酸受容体のエンドサイトーシスが起こると考えられている。

2-AGかアナンダミドか

 CB1受容体依存的に引き起こされる短期や長期のシナプス可塑性がどちらのエンドカンナビノイドによって仲介されるのかについては、以下のような判別法がある。  

  1. その現象がDGLを薬理的、遺伝子的に阻害して起こらなくなる。
  2. MGLを薬理的、遺伝子的に阻害してその現象が促進される。

 以上の場合、2-AGが仲介すると判断される。一方、アナンダミドの合成経路を特異的に阻害する薬剤や遺伝子欠損動物が存在しないことから、上記(1)か(2)が否定され、かつFAAHを阻害するとその現象が促進される場合、アナンダミドによって仲介されると判断される。

関連項目

参考文献

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