「スフィンゴミエリン」の版間の差分

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 細胞膜外層のスフィンゴミエリンをフリップし、内層のスフィンゴミエリンプールを生じる[[PMP2]]をコードする遺伝子は、遺伝性の運動・感覚性神経障害、[[シャルコー・マリー・トゥース病]]([[Charcot-Marie-Tooth disease]]; [[CMT]])のうち、脱髄が顕著な[[CMT1]]の原因遺伝子の一つとして知られている。PMP2の点変異I43NはCMT1家系で[[常染色体顕性]]の病因性変異であることが示唆されている<ref name=Gonzaga-Jauregui2015><pubmed>26257172</pubmed></ref><ref name=Hong2016><pubmed>26828946</pubmed></ref>。PMP2 I43Nは野生型タンパク質に比べ、PI(4,5)P2へ高い親和性を示し、スフィンゴミエリンのフリップを亢進する、[[機能獲得]]型変異であることが示唆された<ref name=Abe2021><pubmed>34758297</pubmed></ref>。
 細胞膜外層のスフィンゴミエリンをフリップし、内層のスフィンゴミエリンプールを生じる[[PMP2]]をコードする遺伝子は、遺伝性の運動・感覚性神経障害、[[シャルコー・マリー・トゥース病]]([[Charcot-Marie-Tooth disease]]; [[CMT]])のうち、脱髄が顕著な[[CMT1]]の原因遺伝子の一つとして知られている。PMP2の点変異I43NはCMT1家系で[[常染色体顕性]]の病因性変異であることが示唆されている<ref name=Gonzaga-Jauregui2015><pubmed>26257172</pubmed></ref><ref name=Hong2016><pubmed>26828946</pubmed></ref>。PMP2 I43Nは野生型タンパク質に比べ、PI(4,5)P2へ高い親和性を示し、スフィンゴミエリンのフリップを亢進する、[[機能獲得]]型変異であることが示唆された<ref name=Abe2021><pubmed>34758297</pubmed></ref>。
==== アルツハイマー病 ====
==== アルツハイマー病 ====
 [[アルツハイマー病]]において、スフィンゴミエリンとコレステロールレベルが、γ―セクレターゼの活性制御を通して、[[アミロイド&beta;前駆体タンパク質]]([[APP]])の[[アミロイド&beta;]]([[A&beta;]])への切断をコントロールすること、また異なる切断産物が代謝酵素の制御を通じて、スフィンゴミエリンとコレステロールレベルを変化させることが報告されている<ref name=Grimm2005><pubmed>16227967</pubmed></ref>。
 [[アルツハイマー病]]において、スフィンゴミエリンとコレステロールレベルが、[[γ―セクレターゼ]]の活性制御を通して、[[アミロイド&beta;前駆体タンパク質]]([[APP]])の[[アミロイド&beta;]]([[A&beta;]])への切断をコントロールすること、また異なる切断産物が代謝酵素の制御を通じて、スフィンゴミエリンとコレステロールレベルを変化させることが報告されている<ref name=Grimm2005><pubmed>16227967</pubmed></ref>。
 
==== ニーマン・ピック病 ====
==== ニーマン・ピック病 ====
 [[aSMase]](遺伝子[[SMPD1]])はリソソームにおいて、スフィンゴミエリンの異化を担う[[スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ]]([[sphingomyelin phosphodiesterase]], E.C. 3.1.4.12)であるが、常染色体劣性リソソーム病である[[ニーマン・ピック病]]A型およびB型([[Niemann-Pick disease]] type A/B, NPA/B)の原因遺伝子でもある<ref name=Schuchman2017><pubmed>28164782</pubmed></ref>。A型患者細胞では、酵素活性欠損により<ref name=Brady1966><pubmed>5220952</pubmed></ref>、基質であるスフィンゴミエリンがエンドソーム/リソソームに蓄積する<ref name=Kiyokawa2005><pubmed>15840575</pubmed></ref><ref name=Kiyokawa2004><pubmed>15274631</pubmed></ref><ref name=Yamaji1998><pubmed>9478988</pubmed></ref>。A型の患者は、生後1年以内に[[肝脾腫]]や発育不良を示し、急速に進行する神経変性を伴い、発達遅延が著しく、3年以内に死亡する。B型の患者では、中枢神経系の異常は見られないが、重度の肝脾腫や[[肝不全]]が現れ、血中の中性脂肪や低密度リポタンパク質(LDL) コレステロールレベルが高くなる<ref name=Schuchman2017><pubmed>28164782</pubmed></ref>。当該疾患では、後期エンドソーム・リソソームに局在するコレステロールトランスポーターNPC1、NPC2欠損によるニーマンピック病C型と同様、コレステロールの蓄積が観察されるが、これはaSMase欠損により蓄積したスフィンゴミエリンがコレステロールと相互作用することにより、NPC2によるコレステロール輸送を阻害していると考えられる<ref name=Oninla2014><pubmed>25339683</pubmed></ref>。
 [[aSMase]](遺伝子[[SMPD1]])はリソソームにおいて、スフィンゴミエリンの異化を担う[[スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ]]([[sphingomyelin phosphodiesterase]], E.C. 3.1.4.12)であるが、常染色体劣性リソソーム病である[[ニーマン・ピック病]]A型およびB型([[Niemann-Pick disease]] type A/B, NPA/B)の原因遺伝子でもある<ref name=Schuchman2017><pubmed>28164782</pubmed></ref>。A型患者細胞では、酵素活性欠損により<ref name=Brady1966><pubmed>5220952</pubmed></ref>、基質であるスフィンゴミエリンがエンドソーム/リソソームに蓄積する<ref name=Kiyokawa2005><pubmed>15840575</pubmed></ref><ref name=Kiyokawa2004><pubmed>15274631</pubmed></ref><ref name=Yamaji1998><pubmed>9478988</pubmed></ref>。A型の患者は、生後1年以内に[[肝脾腫]]や発育不良を示し、急速に進行する神経変性を伴い、発達遅延が著しく、3年以内に死亡する。B型の患者では、中枢神経系の異常は見られないが、重度の肝脾腫や[[肝不全]]が現れ、血中の中性脂肪や低密度リポタンパク質(LDL) コレステロールレベルが高くなる<ref name=Schuchman2017><pubmed>28164782</pubmed></ref>。当該疾患では、後期エンドソーム・リソソームに局在するコレステロールトランスポーターNPC1、NPC2欠損によるニーマンピック病C型と同様、コレステロールの蓄積が観察されるが、これはaSMase欠損により蓄積したスフィンゴミエリンがコレステロールと相互作用することにより、NPC2によるコレステロール輸送を阻害していると考えられる<ref name=Oninla2014><pubmed>25339683</pubmed></ref>。
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==== インフルエンザA型ウイルス ====
==== インフルエンザA型ウイルス ====
 [[インフルエンザA型ウイルス]](IAV)もまた、感染細胞の細胞膜上の脂質マイクロドメイン“脂質ラフト”の感染と出芽への関与が報告されている<ref name=Eierhoff2010><pubmed>20844577</pubmed></ref><ref name=Verma2018><pubmed>30453689</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン特異的な関与については、遺伝的あるいは薬理的にスフィンゴミエリンS1を阻害した細胞では、新しいウイルス粒子の成熟と産生が遅れることが報告されている <ref name=Tafesse2013><pubmed>23576732</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、感染性を低下し、ウイルスの膜への付着と細胞内への取り込みを阻害した。また、細胞のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルス感染、取り込みを減少し、細胞への外来性のスフィンゴミエリン添加は感染を亢進した<ref name=Audi2020><pubmed>32425895</pubmed></ref>。またスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体に特異的に結合するタンパク質、[[Nakanori]]により[[MDCK細胞]]からのウイルスの出芽が抑えられた<ref name=Makino2017><pubmed>27492925</pubmed></ref>
 [[インフルエンザA型ウイルス]](IAV)もまた、感染細胞の細胞膜上の脂質マイクロドメイン“脂質ラフト”の感染と出芽への関与が報告されている<ref name=Eierhoff2010><pubmed>20844577</pubmed></ref><ref name=Verma2018><pubmed>30453689</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン特異的な関与については、遺伝的あるいは薬理的にSMS1を阻害した細胞では、新しいウイルス粒子の成熟と産生が遅れることが報告されている <ref name=Tafesse2013><pubmed>23576732</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、感染性を低下し、ウイルスの膜への付着と細胞内への取り込みを阻害した。また、細胞のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルス感染、取り込みを減少し、細胞への外来性のスフィンゴミエリン添加は感染を亢進した<ref name=Audi2020><pubmed>32425895</pubmed></ref>。またスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体に特異的に結合するタンパク質、[[Nakanori]]により[[MDCK細胞]]からのウイルスの出芽が抑えられた<ref name=Makino2017><pubmed>27492925</pubmed></ref>


=== その他 ===
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