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: calcium
<font size="+1">大久保洋平</font><br>
''東京大学 / 医学(系)研究科(研究院)''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年6月14日 原稿完成日:2013年8月12日 更新日:2016年6月15日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語名: calcium 独:Calcium, Kalzium 仏:calcium
カルシウムは原子番号20の金属元素。元素記号はCa。周期表第2族アルカリ土類元素の一種で、ヒトを含む動物の代表的なミネラル(必須元素)である。骨や歯の形成のみならず、カルシウムイオン(Ca<sup>2+</sup>)は細胞内[[シグナル伝達]]を担う代表的な[[セカンドメッセンジャー]]の一つであり、広範な細胞機能の制御に関与している。


{{Infobox calcium}}
脳神経系においても、[[神経伝達物質]]放出、[[シナプス可塑性]]、神経[[細胞死]]のトリガーとなるものであり、また各種[[グリア細胞]]機能の制御に不可欠である。本稿では、このCa<sup>2+</sup>依存性シグナルの基本的性質について解説する。


{{box|text=
 カルシウムは原子番号20の金属元素。元素記号はCa。[[wikipedia:ja:周期表|周期表]]第2族[[wikipedia:ja:アルカリ土類|アルカリ土類]]元素の一種で、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を含む動物の代表的な[[wikipedia:ja:ミネラル|ミネラル]]([[wikipedia:ja:必須元素|必須元素]])である。[[wikipedia:ja:骨|骨]]や[[wikipedia:ja:歯|歯]]の形成のみならず、[[カルシウムイオン]](Ca<sup>2+</sup>)は細胞内[[シグナル伝達]]を担う代表的な[[セカンドメッセンジャー]]の一つであり、広範な細胞機能の制御に関与している。
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}}
== 発見の歴史  ==
== 発見の歴史  ==


 [[wikipedia:ja:江橋節郎|江橋節郎]]は1950年代後半からの先駆的研究により、細胞内カルシウムイオンが[[wikipedia:ja:骨格筋|骨格筋]]収縮を制御するという機構を提唱した。そして1965年に[[カルシウム結合タンパク質]]である[[トロポニン]]を発見し、カルシウムイオン依存性シグナルの存在を世界に先駆けて証明した<ref><pubmed>5857096</pubmed></ref>。次いで1970年には[[wikipedia:ja:垣内史郎|垣内史郎]]とWai Yiu Cheungにより[[カルモジュリン]]が発見され、カルシウムイオンが筋収縮のみならず広範な細胞機能を制御することが明確になった<ref><pubmed>4320714</pubmed></ref><ref><pubmed>4315350</pubmed></ref>。  
江橋節郎は1950年代後半からの先駆的研究により、細胞内Ca<sup>2+</sup>が骨格筋収縮を制御するという機構を提唱した。そして1965年に[[カルシウム結合蛋白質]]であるトロポニンを発見し、Ca<sup>2+</sup>依存性シグナルの存在を世界に先駆けて証明した<ref><pubmed>5857096</pubmed></ref>。次いで1970年には垣内史郎とWai Yiu Cheungにより[[カルモジュリン]]が発見され、Ca<sup>2+</sup>が筋収縮のみならず広範な細胞機能を制御することが明確になった<ref><pubmed>4320714</pubmed></ref><ref><pubmed>4315350</pubmed></ref>。  


 さらに[[wikipedia:ja:ロジャー・Y・チエン|Roger Y Tsien]]による[[カルシウム指示薬]]の開発<ref><pubmed>3838314</pubmed></ref>により、細胞内カルシウムイオン濃度を生細胞にて[[蛍光イメージング]]法で測定することが可能になり、カルシウムイオンウェーブやカルシウムイオンオシレーションといった、細胞内カルシウムイオン濃度の複雑な時空間動態が明らかとなった(動画)。
さらにRoger Y Tsienによる[[カルシウム指示薬]]の開発<ref><pubmed>3838314</pubmed></ref>により、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度を生細胞にて[[蛍光イメージング]]法で測定することが可能になり、Ca<sup>2+</sup>ウェーブやCa<sup>2+</sup>オシレーションといった、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の複雑な時空間動態が明らかとなった。
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| '''動画 培養アストロサイトのカルシウム反応'''<br>カルシウム感受性色素であるFura-2をロードした細胞に30 µMのATPを作用させている。
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== メカニズム  ==
== メカニズム  ==


 [[細胞膜]]および[[小胞体]]膜上に存在する各種のカルシウムイオン[[ポンプ]]により、細胞質のカルシウムイオン濃度は静止時には数十nM (10<sup>-8</sup>~10<sup>-7</sup> M)程度に保たれる。これは細胞外カルシウムイオン濃度(~10<sup>-3</sup> M)の一万分の一以下という非常に低い濃度であり、他の生体内無機イオンではこれほど大きな細胞内外の濃度差は見られない。以下に示すカルシウムイオンチャネルを経て[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]にカルシウムイオンが供給されることによりカルシウムイオン濃度が上昇し、カルシウム結合タンパク質を介して様々な細胞内シグナルが活性化される。
[[細胞膜]]および[[小胞体]]膜上に存在する各種のCa<sup>2+</sup>[[ポンプ]]により、細胞質のCa<sup>2+</sup>濃度は静止時には数十nM (10<sup>-8</sup>~10<sup>-7</sup> M)程度に保たれる。これは細胞外Ca<sup>2+</sup>濃度(~10<sup>-3</sup> M)の一万分の一以下という非常に低い濃度であり、他の生体内無機イオンではこれほど大きな細胞内外の濃度差は見られない。以下に示すCa<sup>2+</sup>チャネルを経て細胞質にCa<sup>2+</sup>が供給されることによりCa<sup>2+</sup>濃度が上昇し、[[カルシウム結合蛋白質]]を介して様々な細胞内シグナルが活性化される。


 細胞内カルシウムイオンシグナルの特筆すべき性質は、その局所性である。例えば単一の[[樹状突起スパイン]]に限局したカルシウムイオン濃度上昇が惹起され、これにより入力特異的なシナプス可塑性等の制御が実現されている。この局所性にはカルシウムイオンチャネルの限局やスパインの構造のみならず、カルシウムイオンポンプによる速やかな除去や、高濃度のカルシウム結合タンパク質によるカルシウムイオン[[wikipedia:ja:拡散|拡散]]の阻害、等が重要な寄与を果たしている。
細胞内Ca<sup>2+</sup>シグナルの特筆すべき性質は、その局所性である。例えば単一の[[樹状突起スパイン]]に限局したCa<sup>2+</sup>濃度上昇が惹起され、これにより入力特異的なシナプス可塑性等の制御が実現されている。この局所性はCa<sup>2+</sup>チャネルの限局やスパインの構造のみならず、Ca<sup>2+</sup>ポンプによる速やかな除去や、高濃度のカルシウム結合蛋白質によるCa<sup>2+</sup>拡散の阻害、等が重要な寄与を果たしている。


=== 細胞外からの流入  ===
=== 細胞外からの流入  ===


 カルシウムイオンに対して透過性をもつ[[イオンチャネル]]を介して、大きな[[電気化学的勾配]]に従いカルシウムイオンが細胞外から細胞質へ流入する。脳神経系においては主に以下に挙げるイオンチャネルが関与する。
Ca<sup>2+</sup>に対して透過性をもつ[[イオンチャネル]]を介して、大きな電気化学的勾配に従いCa<sup>2+</sup>が細胞外から細胞質へ流入する。脳神経系においては主に以下に挙げるイオンチャネルが関与する。


==== 電位依存性カルシウムイオンチャネル ====
==== 電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネル ====


 電位依存性カルシウムイオンチャネルはその開閉が[[膜電位]]に依存する[[カルシウムチャネル]]である。主に[[神経細胞]]において、細胞膜の[[脱分極]]により開口してカルシウムイオンを流入させる。電位依存性カルシウムイオンチャネルの各サブタイプは、それぞれ異なる特徴と生理機能を有する。詳細については [[カルシウムチャネル]]の項を参照のこと。  
電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネルはその開閉が[[膜電位]]に依存する[[カルシウムチャネル]]である。主に[[神経細胞]]において、細胞膜の脱分極により開口してCa<sup>2+</sup>を流入させる。電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネルの各サブタイプは、それぞれ異なる特徴と生理機能を有する。詳細については [[カルシウムチャネル]]の項を参照のこと。  


==== リガンド依存性カルシウムイオンチャネル ====
==== リガンド依存性Ca<sup>2+</sup>チャネル ====


 [[リガンド依存性チャネル]]のうちカルシウムイオン透過性を示すものは、神経細胞およびグリア細胞においてカルシウムイオン流入に関与する。特に[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体]]である[[NMDA型グルタミン酸受容体]]は、カルシウムイオン流入を介してシナプス可塑性に関与している。
[[リガンド依存性チャネル]]のうちCa<sup>2+</sup>透過性を示すものは、神経細胞およびグリア細胞においてCa<sup>2+</sup>流入に関与する。特に[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体]]である[[NMDA型グルタミン酸受容体]]は、Ca<sup>2+</sup>流入を介してシナプス可塑性に関与している。


==== その他のカルシウムイオンチャネル ====
==== その他のCa<sup>2+</sup>チャネル ====


 各種の[[感覚]]受容に関与する[[TRPチャネル]]はカルシウムイオン透過性を示す。各サブタイプが様々な開口制御機構を有しており、神経細胞およびグリア細胞においてカルシウムイオン流入を担う。
各種の感覚受容に関与する[[TRPチャネル]]はCa<sup>2+</sup>透過性を示す。各サブタイプが様々な開口制御機構を有しており、神経細胞およびグリア細胞においてCa<sup>2+</sup>流入を担う。


 また[[小胞体]]のカルシウムイオン枯渇により活性化される[[ストア作動性カルシウムイオンチャネル]]もカルシウムイオン流入を担う。このストア作動性カルシウムイオンチャネルについては長らく分子実体が不明であったが、近年[[Orai1]]が同定された<ref><pubmed>16921385</pubmed></ref><ref><pubmed>16921383</pubmed></ref>。  
また小胞体のCa<sup>2+</sup>枯渇により活性化されるストア作動性Ca<sup>2+</sup>チャネルもCa<sup>2+</sup>流入を担う。このストア作動性Ca<sup>2+</sup>チャネルについては長らく分子実体が不明であったが、近年Orai1が同定された<ref><pubmed>16921385</pubmed></ref><ref><pubmed>16921383</pubmed></ref>。  


=== 小胞体内腔からの放出  ===
=== 小胞体内腔からの放出  ===


 細胞内小器官である小胞体は、主要な[[細胞内カルシウムストア]]として機能している。小胞体膜上のカルシウムイオンポンプにより内腔のカルシウムイオン濃度は高く保たれており、以下に示す小胞体膜上カルシウムイオンチャネルを介して、細胞質へカルシウムイオンが放出される。 細胞外からの流入とならび、小胞体内腔からの放出は、細胞質への主要なカルシウムイオン供給経路である。そしてこの両者は密接な相互作用を示す。つまり小胞体からのカルシウムイオン放出は、細胞外から流入したカルシウムイオンにより促進または阻害され、放出に伴う小胞体のカルシウムイオン枯渇は、ストア作動性カルシウムイオンチャネルを介したカルシウムイオン流入を促す。
細胞内小器官である小胞体は、主要な[[細胞内カルシウムストア]]として機能している。小胞体膜上のCa<sup>2+</sup>ポンプにより内腔のCa<sup>2+</sup>濃度は高く保たれており、以下に示す小胞体膜上Ca<sup>2+</sup>チャネルを介して、細胞質へCa<sup>2+</sup>が放出される。 細胞外からの流入とならび、小胞体内腔からの放出は、細胞質への主要なCa<sup>2+</sup>供給経路である。そしてこの両者は密接な相互作用を示す。つまり小胞体からのCa<sup>2+</sup>放出は、細胞外から流入したCa<sup>2+</sup>により促進または阻害され、放出に伴う小胞体のCa<sup>2+</sup>枯渇は、ストア作動性Ca<sup>2+</sup>チャネルを介したCa<sup>2+</sup>流入を促す。


==== リアノジン受容体  ====
==== リアノジン受容体  ====


 [[リアノジン受容体]]は、細胞質カルシウムイオンにより開口が促進される小胞体膜上カルシウムイオンチャネルであり、カルシウム誘発性カルシウム放出と呼ばれる現象<ref><pubmed>5456208</pubmed></ref>を担っている。これはカルシウムイオンシグナルにおける重要なポジティブフィードバック機構である。骨格筋や心筋の収縮の制御が広く知られているが、脳神経系においても様々な機能を持つ。 詳細については [[リアノジン受容体]] の項を参照のこと。  
[[リアノジン受容体]]は、細胞質Ca<sup>2+</sup>により開口が促進される小胞体膜上Ca<sup>2+</sup>チャネルであり、カルシウム誘発性カルシウム放出と呼ばれる現象<ref><pubmed>5456208</pubmed></ref>を担っている。これはCa<sup>2+</sup>シグナルにおける重要なポジティブフィードバック機構である。骨格筋や心筋の収縮の制御が広く知られているが、脳神経系においても様々な機能を持つ。 詳細については [[リアノジン受容体]] の項を参照のこと。  


==== イノシトール3リン酸受容体 ====
==== イノシトール3リン酸受容体 ====


 [[イノシトール3リン酸受容体]]は、その活性化にセカンドメッセンジャーである[[イノシトール3リン酸]]と細胞質カルシウムイオンの両方を必要とする小胞体膜上カルシウムイオンチャネルである。特筆すべき点は、細胞質カルシウムイオン濃度に対して二相性の反応曲線を示すことである<ref><pubmed>2373998</pubmed></ref>。つまり低カルシウムイオン濃度域では濃度上昇に従い開口が促進されるが、ある濃度でそれがピークアウトし、それ以上の濃度域では濃度上昇に従い開口が阻害される。 グリア細胞のような電気的に非[[興奮性]]の細胞においては、主要なカルシウムイオン供給経路となる。また神経細胞においてもカルシウムイオンシグナルに関与する。 イノシトール3リン酸とカルシウムイオンの両方を必要とする性質により、二種類の入力を統合する機能を持ち得る。実際、小脳[[プルキンエ細胞]]における[[長期抑圧]]誘導時に、二種類のシナプス入力の[[同期検出]]を担っている<ref><pubmed>11100147</pubmed></ref>。<br>
イノシトール3リン酸受容体は、その活性化にセカンドメッセンジャーである[[イノシトール3リン酸]]と細胞質Ca<sup>2+</sup>の両方を必要とする小胞体膜上Ca<sup>2+</sup>チャネルである。さらに特筆すべき点は、細胞質Ca<sup>2+</sup>濃度に対して二相性の反応曲線を示すことである<ref><pubmed>2373998</pubmed></ref>。つまり低Ca<sup>2+</sup>濃度域では濃度上昇に従い開口が促進されるが、ある濃度でそれがピークアウトし、それ以上の濃度域では濃度上昇に従い開口が阻害される。 グリア細胞のような電気的に非興奮性の細胞においては、主要なCa<sup>2+</sup>供給経路となる。また神経細胞においてもCa<sup>2+</sup>シグナルに関与する。 イノシトール3リン酸とCa<sup>2+</sup>の両方を必要とする性質により、二種類の入力を統合する機能を持ち得る。実際、小脳[[プルキンエ細胞]]における[[長期抑圧]]誘導時に、二種類のシナプス入力の[[同期検出]]を担っている<ref><pubmed>11100147</pubmed></ref>。  


 小胞体以外の細胞内小器官では、[[ミトコンドリア]]が細胞内カルシウムストアとして重要な役割を果たしている。また小胞体-ミトコンドリア間の密接な接合構造が知られており、ここでカルシウムイオンのやり取りが行なわれていると考えられる。詳細については [[ミトコンドリア]] の項を参照のこと。  
==== ミトコンドリアの寄与  ====
 
小胞体以外の細胞内小器官では、[[ミトコンドリア]]が細胞内カルシウムストアとして重要な役割を果たしている。また小胞体-ミトコンドリア間の密接な接合構造が知られており、ここでCa<sup>2+</sup>のやり取りが行なわれていると考えられる。詳細については [[ミトコンドリア]] の項を参照のこと。  


== 応用  ==
== 応用  ==


 神経細胞では[[活動電位]]の発生に伴いカルシウムイオン流入が起こるので、カルシウム指示薬を用いて、神経細胞の活動を蛍光イメージングにより検出することが可能である。特に近年、[[2光子レーザー走査顕微鏡]]を用いることで、生体内の個々の神経細胞を解像して、その活動を可視化することが可能になった<ref><pubmed>15660108</pubmed></ref>。多数の神経細胞の位置情報と活動情報を一度にかつ正確に得るという、従来は非常に困難であったことを可能にした手法であり、近年活発な応用が進められている。  
神経細胞では[[活動電位]]の発生に伴いCa<sup>2+</sup>流入が起こるので、カルシウム指示薬を用いて、神経細胞の活動を蛍光イメージングにより検出することが可能である。特に近年、[[2光子レーザー走査顕微鏡]]を用いることで、生体内の個々の神経細胞を解像して、その活動を可視化することが可能になった<ref><pubmed>15660108</pubmed></ref>。多数の神経細胞の位置情報と活動情報を一度にかつ正確に得るという、従来は非常に困難であったことを可能にした手法であり、近年活発な応用が進められている。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==


*[[カルシウムカルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ]]  
[[カルシウムカルモジュリン依存性蛋白質キナーゼ]]
 
[[カルシウムカルモジュリン依存性蛋白質キナーゼ|カルシウムカルモジュリン依存性蛋白質キナーゼ]][[カルシウムキレート剤]]
 
[[カルシウムキレート剤|カルシウムキレート剤]][[カルシウムドメイン]]  


*[[カルシウムキレート剤]]  
[[カルシウムドメイン|カルシウムドメイン]][[カルシニューリン]]  


*[[カルシウムドメイン]]  
[[カルシニューリン|カルシニューリン]][[カルパイン]]  


*[[カルシニューリン]]  
[[カルパイン|カルパイン]][[代謝活性型グルタミン酸受容体]]  


*[[カルパイン]]  
[[代謝活性型グルタミン酸受容体|代謝活性型グルタミン酸受容体]]


*[[代謝活性型グルタミン酸受容体]]
[[代謝活性型グルタミン酸受容体|代謝活性型グルタミン酸受容体]][[フォスフォリパーゼC]]  


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />
<references />  
 
この用語にリダイレクトする同義語:カルシウムシグナル、カルシウムシグナリング、カルシウムイオン、Ca<sup>2+</sup>
 
(執筆者:大久保 洋平、担当編集委員:尾藤 晴彦)

2012年5月30日 (水) 14:21時点における版

英: calcium

カルシウムは原子番号20の金属元素。元素記号はCa。周期表第2族アルカリ土類元素の一種で、ヒトを含む動物の代表的なミネラル(必須元素)である。骨や歯の形成のみならず、カルシウムイオン(Ca2+)は細胞内シグナル伝達を担う代表的なセカンドメッセンジャーの一つであり、広範な細胞機能の制御に関与している。

脳神経系においても、神経伝達物質放出、シナプス可塑性、神経細胞死のトリガーとなるものであり、また各種グリア細胞機能の制御に不可欠である。本稿では、このCa2+依存性シグナルの基本的性質について解説する。

発見の歴史

江橋節郎は1950年代後半からの先駆的研究により、細胞内Ca2+が骨格筋収縮を制御するという機構を提唱した。そして1965年にカルシウム結合蛋白質であるトロポニンを発見し、Ca2+依存性シグナルの存在を世界に先駆けて証明した[1]。次いで1970年には垣内史郎とWai Yiu Cheungによりカルモジュリンが発見され、Ca2+が筋収縮のみならず広範な細胞機能を制御することが明確になった[2][3]

さらにRoger Y Tsienによるカルシウム指示薬の開発[4]により、細胞内Ca2+濃度を生細胞にて蛍光イメージング法で測定することが可能になり、Ca2+ウェーブやCa2+オシレーションといった、細胞内Ca2+濃度の複雑な時空間動態が明らかとなった。

メカニズム

細胞膜および小胞体膜上に存在する各種のCa2+ポンプにより、細胞質のCa2+濃度は静止時には数十nM (10-8~10-7 M)程度に保たれる。これは細胞外Ca2+濃度(~10-3 M)の一万分の一以下という非常に低い濃度であり、他の生体内無機イオンではこれほど大きな細胞内外の濃度差は見られない。以下に示すCa2+チャネルを経て細胞質にCa2+が供給されることによりCa2+濃度が上昇し、カルシウム結合蛋白質を介して様々な細胞内シグナルが活性化される。

細胞内Ca2+シグナルの特筆すべき性質は、その局所性である。例えば単一の樹状突起スパインに限局したCa2+濃度上昇が惹起され、これにより入力特異的なシナプス可塑性等の制御が実現されている。この局所性はCa2+チャネルの限局やスパインの構造のみならず、Ca2+ポンプによる速やかな除去や、高濃度のカルシウム結合蛋白質によるCa2+拡散の阻害、等が重要な寄与を果たしている。

細胞外からの流入

Ca2+に対して透過性をもつイオンチャネルを介して、大きな電気化学的勾配に従いCa2+が細胞外から細胞質へ流入する。脳神経系においては主に以下に挙げるイオンチャネルが関与する。

電位依存性Ca2+チャネル

電位依存性Ca2+チャネルはその開閉が膜電位に依存するカルシウムチャネルである。主に神経細胞において、細胞膜の脱分極により開口してCa2+を流入させる。電位依存性Ca2+チャネルの各サブタイプは、それぞれ異なる特徴と生理機能を有する。詳細については カルシウムチャネルの項を参照のこと。

リガンド依存性Ca2+チャネル

リガンド依存性チャネルのうちCa2+透過性を示すものは、神経細胞およびグリア細胞においてCa2+流入に関与する。特にイオンチャネル型グルタミン酸受容体であるNMDA型グルタミン酸受容体は、Ca2+流入を介してシナプス可塑性に関与している。

その他のCa2+チャネル

各種の感覚受容に関与するTRPチャネルはCa2+透過性を示す。各サブタイプが様々な開口制御機構を有しており、神経細胞およびグリア細胞においてCa2+流入を担う。

また小胞体のCa2+枯渇により活性化されるストア作動性Ca2+チャネルもCa2+流入を担う。このストア作動性Ca2+チャネルについては長らく分子実体が不明であったが、近年Orai1が同定された[5][6]

小胞体内腔からの放出

細胞内小器官である小胞体は、主要な細胞内カルシウムストアとして機能している。小胞体膜上のCa2+ポンプにより内腔のCa2+濃度は高く保たれており、以下に示す小胞体膜上Ca2+チャネルを介して、細胞質へCa2+が放出される。 細胞外からの流入とならび、小胞体内腔からの放出は、細胞質への主要なCa2+供給経路である。そしてこの両者は密接な相互作用を示す。つまり小胞体からのCa2+放出は、細胞外から流入したCa2+により促進または阻害され、放出に伴う小胞体のCa2+枯渇は、ストア作動性Ca2+チャネルを介したCa2+流入を促す。

リアノジン受容体

リアノジン受容体は、細胞質Ca2+により開口が促進される小胞体膜上Ca2+チャネルであり、カルシウム誘発性カルシウム放出と呼ばれる現象[7]を担っている。これはCa2+シグナルにおける重要なポジティブフィードバック機構である。骨格筋や心筋の収縮の制御が広く知られているが、脳神経系においても様々な機能を持つ。 詳細については リアノジン受容体 の項を参照のこと。

イノシトール3リン酸受容体

イノシトール3リン酸受容体は、その活性化にセカンドメッセンジャーであるイノシトール3リン酸と細胞質Ca2+の両方を必要とする小胞体膜上Ca2+チャネルである。さらに特筆すべき点は、細胞質Ca2+濃度に対して二相性の反応曲線を示すことである[8]。つまり低Ca2+濃度域では濃度上昇に従い開口が促進されるが、ある濃度でそれがピークアウトし、それ以上の濃度域では濃度上昇に従い開口が阻害される。 グリア細胞のような電気的に非興奮性の細胞においては、主要なCa2+供給経路となる。また神経細胞においてもCa2+シグナルに関与する。 イノシトール3リン酸とCa2+の両方を必要とする性質により、二種類の入力を統合する機能を持ち得る。実際、小脳プルキンエ細胞における長期抑圧誘導時に、二種類のシナプス入力の同期検出を担っている[9]

ミトコンドリアの寄与

小胞体以外の細胞内小器官では、ミトコンドリアが細胞内カルシウムストアとして重要な役割を果たしている。また小胞体-ミトコンドリア間の密接な接合構造が知られており、ここでCa2+のやり取りが行なわれていると考えられる。詳細については ミトコンドリア の項を参照のこと。

応用

神経細胞では活動電位の発生に伴いCa2+流入が起こるので、カルシウム指示薬を用いて、神経細胞の活動を蛍光イメージングにより検出することが可能である。特に近年、2光子レーザー走査顕微鏡を用いることで、生体内の個々の神経細胞を解像して、その活動を可視化することが可能になった[10]。多数の神経細胞の位置情報と活動情報を一度にかつ正確に得るという、従来は非常に困難であったことを可能にした手法であり、近年活発な応用が進められている。

関連項目

カルシウムカルモジュリン依存性蛋白質キナーゼ

カルシウムカルモジュリン依存性蛋白質キナーゼカルシウムキレート剤

カルシウムキレート剤カルシウムドメイン

カルシウムドメインカルシニューリン

カルシニューリンカルパイン

カルパイン代謝活性型グルタミン酸受容体

代謝活性型グルタミン酸受容体

代謝活性型グルタミン酸受容体フォスフォリパーゼC

参考文献

  1. Ebashi, S., & Kodama, A. (1965).
    A new protein factor promoting aggregation of tropomyosin. Journal of biochemistry, 58(1), 107-8. [PubMed:5857096] [WorldCat] [DOI]
  2. Kakiuchi, S., & Yamazaki, R. (1970).
    Calcium dependent phosphodiesterase activity and its activating factor (PAF) from brain studies on cyclic 3',5'-nucleotide phosphodiesterase (3). Biochemical and biophysical research communications, 41(5), 1104-10. [PubMed:4320714] [WorldCat] [DOI]
  3. Cheung, W.Y. (1970).
    Cyclic 3',5'-nucleotide phosphodiesterase. Demonstration of an activator. Biochemical and biophysical research communications, 38(3), 533-8. [PubMed:4315350] [WorldCat] [DOI]
  4. Grynkiewicz, G., Poenie, M., & Tsien, R.Y. (1985).
    A new generation of Ca2+ indicators with greatly improved fluorescence properties. The Journal of biological chemistry, 260(6), 3440-50. [PubMed:3838314] [WorldCat]
  5. Yeromin, A.V., Zhang, S.L., Jiang, W., Yu, Y., Safrina, O., & Cahalan, M.D. (2006).
    Molecular identification of the CRAC channel by altered ion selectivity in a mutant of Orai. Nature, 443(7108), 226-9. [PubMed:16921385] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  6. Prakriya, M., Feske, S., Gwack, Y., Srikanth, S., Rao, A., & Hogan, P.G. (2006).
    Orai1 is an essential pore subunit of the CRAC channel. Nature, 443(7108), 230-3. [PubMed:16921383] [WorldCat] [DOI]
  7. Endo, M., Tanaka, M., & Ogawa, Y. (1970).
    Calcium induced release of calcium from the sarcoplasmic reticulum of skinned skeletal muscle fibres. Nature, 228(5266), 34-6. [PubMed:5456208] [WorldCat] [DOI]
  8. Iino, M. (1990).
    Biphasic Ca2+ dependence of inositol 1,4,5-trisphosphate-induced Ca release in smooth muscle cells of the guinea pig taenia caeci. The Journal of general physiology, 95(6), 1103-22. [PubMed:2373998] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  9. Wang, S.S., Denk, W., & Häusser, M. (2000).
    Coincidence detection in single dendritic spines mediated by calcium release. Nature neuroscience, 3(12), 1266-73. [PubMed:11100147] [WorldCat] [DOI]
  10. Ohki, K., Chung, S., Ch'ng, Y.H., Kara, P., & Reid, R.C. (2005).
    Functional imaging with cellular resolution reveals precise micro-architecture in visual cortex. Nature, 433(7026), 597-603. [PubMed:15660108] [WorldCat] [DOI]

この用語にリダイレクトする同義語:カルシウムシグナル、カルシウムシグナリング、カルシウムイオン、Ca2+

(執筆者:大久保 洋平、担当編集委員:尾藤 晴彦)