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上記の精神病性障害以外の病態でも、たとえば[[気分障害]]、[[強迫性障害]]、[[解離性障害]]、[[PTSD]]、身体醜形障害、[[パーソナリティ障害]](統合失調型、境界性、妄想性など)、[[精神遅滞]]、[[広汎性発達障害]] | |||
気分障害のエピソード中に妄想や幻覚などの精神病症状が見られる場合、DSM-5では気分エピソードなしに幻覚や妄想が存在する期間が2週間未満であれば気分障害と診断され、2週間以上であれば統合失調感情障害と診断される。一方、ICD-10 (DCR)<ref name=ref11 />では、気分障害に伴う精神病症状は、[[ | 気分障害のエピソード中に妄想や幻覚などの精神病症状が見られる場合、DSM-5では気分エピソードなしに幻覚や妄想が存在する期間が2週間未満であれば気分障害と診断され、2週間以上であれば統合失調感情障害と診断される。一方、ICD-10 (DCR)<ref name=ref11 />では、気分障害に伴う精神病症状は、[[妄想#妄想知覚|Schneiderの1級症状]]を含む典型的な統合失調症状ではないとされる。したがって、気分症状が統合失調症状(統合失調症の全般基準G1(1))と同時に存在する場合、気分障害ではなく、統合失調感情障害あるいは統合失調症と診断される。これは、統合失調症と気分障害の鑑別におけるDSM-5とICD-10の重大な相違点の1つである<ref name=ref8>'''針間博彦、岡田直大'''<br>シュナイダーの1級症状について.妄想の臨床<br>''新興医学出版社''、東京、p98-110,2013.</ref>。 | ||
また、身体醜形障害、強迫性障害などにおいては、妄想と[[優格観念]](overvalued idea)の区別が問題となる。たとえば、身体醜形障害では、外見の想像上の欠陥に対するとらわれが妄想的強度をもって保持されることがある。この場合、DSM-IV-TRでは身体醜形障害と妄想性障害身体型の並存と診断されたが、DSM-5では、「身体醜形障害、病識が欠如した/妄想的確認を伴うもの」と診断され、妄想性障害など精神病性障害の診断は与えられない。妄想を伴う強迫性障害の診断についても、同様の変更が行われている。 | また、身体醜形障害、強迫性障害などにおいては、妄想と[[優格観念]](overvalued idea)の区別が問題となる。たとえば、身体醜形障害では、外見の想像上の欠陥に対するとらわれが妄想的強度をもって保持されることがある。この場合、DSM-IV-TRでは身体醜形障害と妄想性障害身体型の並存と診断されたが、DSM-5では、「身体醜形障害、病識が欠如した/妄想的確認を伴うもの」と診断され、妄想性障害など精神病性障害の診断は与えられない。妄想を伴う強迫性障害の診断についても、同様の変更が行われている。 |
2014年2月16日 (日) 20:40時点における版
福島 貴子、針間 博彦
東京都立松沢病院精神科
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年12月10日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:psychotic disorder
同義語:精神病 (psychosis)
米国精神医学会(APA)による『精神障害の診断と統計の手引き』 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) の第3版(DSM-III)[1]以降、また世界保健機関(WHO)による『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』の第10版(ICD-10)[2]では、「精神病」という用語は「精神病性障害 (psychotic disorder) 」と言う言葉に置換されている。「精神病性 (psychotic) 」と言う形容詞は記述用語として用いられ、精神病症状 (psychotic symptom) とされる特定の症状が出現する病態に対して使用される。精神病性障害は、その成因によって、身体疾患によるもの、精神作用物質の使用によるもの、身体的基盤が明らかでないものに大別される。なお、精神病性障害以外の一部の障害も、精神病症状を伴いうる。
(用語の定義はイントロに移して、こちらでは内容全体に対する抄録をお願い致します)
精神病性障害とは
「精神病psychosis」という語は、DSM-II[3]では「生活の通常の要求を満たす能力に著しい支障を来すほど精神機能が障害されている」と広く定義されていたのに対し、DSM-III[1]と-III-R[4]ではこの語は用いられず、「精神病性psyhchotic」という語が「現実検討の著しい障害」というより狭い意味で用いられ、精神病症状psychotic symptomとして妄想、幻覚、滅裂な会話、解体した行動が挙げられた。DSM-IV-TR[5]においても、「精神病性」は妄想、幻覚、解体した会話、解体した行動および緊張病性行動を示す記述用語として用いられた。DSM-5[6]では、精神病性障害は妄想、幻覚、解体した会話のいずれかが必要とされる。ICD-10[2]の中でも、精神病性は「精神力動的機序に関する推測を含まない、便利な記述用語」として用いられ、「幻覚、妄想、および著しい興奮と過活動、著しい精神運動制止、緊張病性行動などいくつかの重度の行動異常」の存在を示す。
DSM-5では、せん妄と精神病症状を伴う気分障害などを除けば(後述)、精神病症状を認める障害は成因によらず「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」に含められる。ICD-10では、精神病症状を呈する障害は成因によってF0~F3のいずれのカテゴリーに分類される。すなわち、F0群のうち認知症、せん妄、器質性精神病性障害、F1群のうち精神作用物質使用による急性中毒、せん妄を伴う離脱状態、精神病性障害、残遺性及び遅発性精神病性障害、F2群のうち統合失調症、妄想性障害、急性一過性精神病性障害、感応精神病、統合失調感情障害、F3群のうち精神病症状を伴う気分障害(うつ病、躁病あるいは混合性エピソード)である。
一方、精神病症状を伴う病態が必ずしも精神病性障害とは限らない。たとえば、せん妄や気分障害においても精神病症状が生じるが、これらは精神病性障害に含まれない。また、強迫性障害、解離性障害、身体醜形障害、パーソナリティ障害、発達障害などでも精神病症状が出現することがある。DSM-5では、強迫性障害や身体醜形障害における思い込みが妄想的確信を伴うものである場合、「病識が欠如した/妄想的確認を伴うもの」という特定用語が付与される。ICD-10によれば、強迫性障害や解離性障害に精神病症状が伴う場合、何らかの精神病性障害の診断が与えられる(後述)。
精神病性障害の諸種
身体疾患に関連する精神病性障害
脳疾患や他の医学的病態によって精神病症状が出現することがある。頭部外傷、脳血管障害、脳腫瘍、脳炎、多発性硬化症など、原因が中枢神経の直接の障害による場合は器質性精神病性障害と呼ばれ、中枢神経以外の全身性疾患に関連して精神病症状が出現する場合は症状性精神病性障害と呼ばれる。これらはDSM-5では「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」のうち「他の医学的疾患による精神病性障害」に、ICDでは「F0 症状性を含む器質性精神障害」のうち「脳損傷、脳機能不全および身体疾患による他の精神障害(F06.x)」に分類される。
精神作用物質の使用による精神病性障害
これは旧来、中毒性精神病と呼ばれたものであり、原因薬剤によってアルコール精神病、覚せい剤精神病などと呼ばれることもある。これはDSM-IV-TRでは、「物質関連障害」群のうち「物質誘発性精神病性障害」に分類されたが、DSM-5では、「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」のうち「物質・医薬品誘発性精神病性障害」に分類される。ICD-10では、「F1 精神作用物質使用による精神及び行動の障害」のうち「F1x.5精神作用物質使用による精神病性障害」あるいは「精神作用物質使用による遅発性精神病性障害(F1x.75)」に分類される[7]。
精神病性障害を生じうる精神作用物質にはアルコール、オピオイド、大麻類、幻覚薬、吸入剤、精神刺激薬(コカイン、アンフェタミン型物質など)などがあり、医薬品には鎮静剤、睡眠薬、抗不安薬、抗てんかん薬、ステロイド、インターフェロン、ケタミンなどがある。
身体的基盤が明らかでない精神病性障害
精神病症状が精神作用物質の使用によるものではなく、また原因となりうる身体疾患も認められない場合、ここに分類される。これは旧来、内因性精神病と呼ばれた。これは症状とその持続期間に応じて、DSM-5では「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」のうち妄想性障害、短期精神病性障害、統合失調症、統合失調感情障害、ICD-10ではF2群「統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害」のうち統合失調症(F20.x)、持続性妄想性障害(F22.x)、急性一過性精神病性障害(F23.x)、感応性妄想性障害(F24)、統合失調感情障害(F25.x)に分類される。
精神病症状があっても精神病性障害に含まれないもの
上記の精神病性障害以外の病態でも、たとえば気分障害、強迫性障害、解離性障害、PTSD、身体醜形障害、パーソナリティ障害(統合失調型、境界性、妄想性など)、精神遅滞、広汎性発達障害などにおいて、精神病症状が出現することがある[8]。
気分障害のエピソード中に妄想や幻覚などの精神病症状が見られる場合、DSM-5では気分エピソードなしに幻覚や妄想が存在する期間が2週間未満であれば気分障害と診断され、2週間以上であれば統合失調感情障害と診断される。一方、ICD-10 (DCR)[7]では、気分障害に伴う精神病症状は、Schneiderの1級症状を含む典型的な統合失調症状ではないとされる。したがって、気分症状が統合失調症状(統合失調症の全般基準G1(1))と同時に存在する場合、気分障害ではなく、統合失調感情障害あるいは統合失調症と診断される。これは、統合失調症と気分障害の鑑別におけるDSM-5とICD-10の重大な相違点の1つである[9]。
また、身体醜形障害、強迫性障害などにおいては、妄想と優格観念(overvalued idea)の区別が問題となる。たとえば、身体醜形障害では、外見の想像上の欠陥に対するとらわれが妄想的強度をもって保持されることがある。この場合、DSM-IV-TRでは身体醜形障害と妄想性障害身体型の並存と診断されたが、DSM-5では、「身体醜形障害、病識が欠如した/妄想的確認を伴うもの」と診断され、妄想性障害など精神病性障害の診断は与えられない。妄想を伴う強迫性障害の診断についても、同様の変更が行われている。
死別後や重度のストレス状況下において、不安や恐怖などの情動に基づいて妄想様の体験が出現することがある。これは旧来、妄想反応 (paranoid reaction)と呼ばれ、Schneider, K[10]によれば精神病ではなく異常体験反応である。この反応性の妄想状態は、DSM-5では「短期精神病性障害、明らかなストレス因子があるもの」、ICD-10では「急性一過性精神病性障害、関連する急性ストレスを伴うもの」と診断され、精神病性障害から除外されることはない。
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 American Psychiatric Association
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd ed.
Washington DC, APA, 1980. - ↑ 2.0 2.1 World Health Organization
The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders;
Clinical descriptions and diagnostic guidelines. WHO, Geneva, 1992
(融道男,中根允文、小見山実ら訳
ICD-10精神および行動の障害—臨床記述と診断ガイドライン、新訂版. 医学書院、東京、2005.) - ↑ American Psychiatric Association
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 2nd ed.
Washington DC Association, APA, 1968. - ↑ American Psychiatric Association
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd Ed, Revised.
Washington DC, APA, 1987 - ↑ American Psychiatric Association
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 4th Ed, Text Revision
Washington DC, APA, 2000. - ↑ American Psychiatric Association
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed.
Washington DC, APA, 2013. - ↑ 7.0 7.1 World Health Organization
The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders
Diagnostic criteria for research.
WHO, Geneva, 1993
(中根允文、岡崎祐士、藤原妙子ら訳
ICD-10精神および行動の障害—DCR研究用診断基準、新訂版
医学書院、東京、2008.) - ↑ 針間博彦
妄想性障害とその周辺—DSM-IVとDSM-5
臨床精神医学、42(1);p13-20,2013. - ↑ 針間博彦、岡田直大
シュナイダーの1級症状について.妄想の臨床
新興医学出版社、東京、p98-110,2013. - ↑ Schneider K
Klinische Psychopathologie. 15. Aufl. Mit einem aktualisierten und erweiterten Kommentar von G. Huber und G. Gross
Thieme, Stuttgart, 2007
針間博彦訳、クルト・シュナイダー 新版 臨床精神病理学
文光堂、東京、2007.