ニューレキシン
渡辺 拓也、二井 健介
マサチューセッツ州立大学 メディカルスクール
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年6月4日 原稿完成日:2013年6月xx日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所)
英語名:neurexin 英略称:NRXN
ニューレキシンはシナプス前末端(presynapse,presynaptic terminal)に存在する1回膜貫通型タンパク質であり、シナプス後部(postsynapse)の膜タンパク質であるニューロリギン(Neuroligin: NLGN)とシナプス間隙で結合し、シナプス構築や神経伝達物質の放出機構などに関わっている(PMID: 18923512)。多くのスプライス変異体が存在し、グルタミン酸作動性・GABA作動性神経シナプスの構築の選別に影響すると考えられている(PMID: 16624946, 18006501)。また、自閉症や統合失調症の発症に関与していると考えられている(PMID: 17034946, 21424692, 22405623, 21424692, 19880096, 21477380)。
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歴史
ニューレキシンが最初にクロゴケグモの毒成分であるα-latrotoxinの受容体として発見され、その後、他のニューレキシンが同定された[1]。
構造
ニューレキシンは哺乳類では3種類の遺伝子から成り、それぞれニューレキシン 1、2、3として発現している。さらに、それらの遺伝子から長鎖と短鎖の2つのアイソフォームが発現し、長鎖がα-ニューレキシン、短鎖がβ-ニューレキシンである。従って、3つのα-ニューレキシン(1α、2α、3α)と3つのβ-ニューレキシン(1β、2β、3β)がある。α-ニューレキシンは上流に、β-ニューレキシンは下流にプロモーターが存在している。
α-ニューレキシンは6つのLNSドメイン(laminin, Neurexin, sex-hormone binding protein ドメイン)とLNSドメインを隔てる3つのEGF様ドメイン(epidermal growth factor-like ドメイン)を有している。一方、β-ニューレキシンのLNSドメインは一つだけである。両ニューレキシンのC末領域はPDZドメインを有している[2] [3]。
分布
ニューレキシンはほとんどが脳に発現しているが、膵臓、肺、腎臓や血管にも発現している[4] [5] [6]。
機能
脳
ニューレキシンは哺乳類脳では、4つの細胞外結合パートナー(ニューロリギン、dystroglycan、neurexophilins、Leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins(LRRTMs))が存在している。ニューロリギンはα-ニューレキシン、β-ニューレキシンの両者とCa2+依存性に結合する[2]。ニューロリギンとの結合には、α-ニューレキシンでは6番目のLNSドメインが、β-ニューレキシンでは唯一のLNSドメインが関与している[7]。Dystroglycanは優先的にα-ニューレキシンとCa2+依存性に結合する。また、neurexophilinは特異的にα-ニューレキシンとCa2+非依存性に結合する[2]。Leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteinsは興奮性シナプスに局在しており、ニューレキシンと結合し、興奮性シナプスの形成に関与している[8]。
β-ニューレキシンを過剰発現させた非神経細胞は、共培養した神経細胞においてGABA作動性(抑制性)とグルタミン酸作動性(興奮性)神経ポストシナプスへの分化を誘導することから、β-ニューレキシンはシナプス形成の際の細胞と細胞の連結の調節因子として働いているようである[9]。
β-ニューレキシンノックアウトマウスは未だに確立されていない。一方、α-ニューレキシンノックアウトマウスは生存可能であるが、周産期に呼吸器病によって死亡する。α-ニューレキシンノックアウトマウスはGABA作動性神経終末の数を減少させるが、グルタミン酸作動性神経終末には変化を示さない。さらに、α-ニューレキシンノックアウトマウスはCa2+チャネルの機能低下が原因となり、神経伝達物質遊離の障害を示すことが報告されている。すなわち、α-ニューレキシンは抑制性シナプス構築に関与し、Ca2+チャネル機能を調節する役割を有している[9]。
ニューレキシンはCASKとMint、Veliから成る複合体を介して、シナプス小胞と結合している[9]。
血管
β-ニューレキシンに対する抗体の血管への付加は、ノルアドレナリン誘導血管収縮を減弱させており、血管平滑筋のβ-ニューレキシンはCa2+チャネル調節因子として血管緊張調整に関与しているようである。また、この抗β-ニューレキシン抗体はFGF-2誘導血管新生を減弱させている。 血管においてβ-ニューレキシンは、血管緊張や血管再構築に関与しているようである[9]。
腎臓
ニューレキシンは、糸球体足細胞によって得られるスリット膜に発現しており、スリット膜の構成タンパク質であるCD2APと結合している。スリット膜は、糸球体におけるタンパク質通過防止機能を有しており、ニューレキシンはタンパク尿のバリアー機能に関与すると考えられている[6]。
スプライシング変異体
α-ニューレキシンは選択的スプライシング部位を5つ、β-ニューレキシンは2つ有しており、1000以上のスプライス変異体が存在する[3]。
これらの様々なスプライシング変異体は、細胞―細胞間の認識や接着ならびにシナプス構築などの過程に重要な役割を有していることが議論されており、現在までにsplice site 4 insert (S4)が結合選択性やシナプス機能を調節していることが報告されている。例えば、S4を有していないβ-ニューレキシン(-S4 β-ニューレキシン)は、splicing site B(SB)の有無に関わらずニューロリギン1(+SB and –SBニューロリギン1)とニューロリギン2(SBを有さない)と高親和性に結合するが、β-ニューレキシンへのS4の付加は、+SBニューロリギン1との結合親和性を低下させる。
また、グルタミン酸作動性・GABA作動性神経シナプスの構築に関して、β-ニューレキシンへのsplice site 4 insertの付加(+S4 β-ニューレキシン)は、グルタミン酸作動性神経シナプス後部タンパク質であるニューロリギン1/3/4とPSD95のクラスタリング能を減少させるが、GABA作動性神経後シナプスタンパク質であるニューロリギン2とgephyrinのクラスタリング能には影響しない。また、ニューロリギン2(ほとんどがsplice site B insertを含んでいない:-Bニューロリギン)は+BニューロリギンよりもVGATのクラスタリングを促進する。このように、+S4 β-ニューレキシンと-Bニューロリギンは共にGABA作動性神経シナプスの分化を促進し、一方で、-S4 β-ニューレキシンと+Bニューロリギン1は共にグルタミン酸作動性神経シナプスの分化を促進している。
鶏交感神経では、+S4ニューレキシンと-S4ニューレキシンの転写産物の比率は、成長や培養実験における成長因子の付加に応じて変化する[2]。
ニューレキシン類似タンパク質(CASPRs)
CASPRs(contactin-associated proteins)はα-ニューレキシンと類似の構造を有するが、α-ニューレキシンが含んでいない細胞外ドメインを有している。ニューレキシンの様に細胞接着分子として機能しているが、主に、神経細胞とグリア細胞の接着に関与している[9]。
疾患との関連
ニューレキシン1遺伝子で7つの点変異と2つのdistinct translocation event、4つのdifferent large-scale deletionが自閉症患者において発見されている[7]。
ニューレキシン1遺伝子のニューレキシン1βではなく、ニューレキシン1αをコードしている配列における欠失が統合失調症患者において発見されている[7]。また、nニューレキシン1の遺伝子多型とニコチン依存症が関係していることが報告されている[10]。
また、ニューレキシン2の短縮型変異が自閉症患者において発見されている[11]。
ニューレキシン3は依存のしやすさと関係していると考えられており、薬物依存や肥満のリスクとニューレキシン3の遺伝子多型が関わっている。さらに、ニューレキシン3の遺伝子多型は衝動性と関係しており、男性にのみこの関係性があることが報告されている[12]。
参考文献
- ↑
Missler, M., & Südhof, T.C. (1998).
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