富田 進
イェール大学
DOI:10.14931/bsd.6840 原稿受付日:2016年1月27日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:柚崎 通介(慶應義塾大学 医学部生理学)
英語名: Transmembrane AMPA receptor regulatory protein
英語略称:TARP
イントロダクション
自然発生変異マウスであるスターゲイザーは運動失調や欠伸発作を示す[5]。その原因遺伝子 はカルシウムチャネルγサブユニットと38%の相同性を示すことから Calcium channel gamma subunit 2 (CACNG2)/Stargazinと名付けられ[6]、その後8つのCACNG類似遺伝子群が報告された[7]。しかしながら、電気生理学的解析により、スターゲイザーマウスの小脳苔状繊維-小脳顆粒細胞シナプスにおけるAMPA受容体活性が特異的に消失していること[8]、カルシムチャネル活性に変化がないことが示され[9]。さらなる解析により、8つのCACNGファミリーのうちCACNG2/3/4/5/7/8の6つがAMPA 受容体に特異的に結合すること示され、これらはTransmembrane AMPA receptor Regulatory Protein (TARP) γ-2/3/4/5/7/8と名付けられた[10] [11] [12]。
ファミリー
6つのアイソフォームが同定されており、後述のようにAMPA 受容体修飾機能の違いにより、さらにサブクラスに分類されている(図1)。また、線虫において、その機能的相同体STG-1/2が示されている[13] [14]。
構造
4回膜貫通部位を有し、NとCの両末端が細胞内にある(図2)。1つ目の細胞外ドメインに、N結合型糖鎖修飾部位をもつ。この細胞外ドメインは、AMPA 受容体活性の調節に必須である[15] [16] [17]。
TARP type I (TARPγ-2/3/4/8)
C末端にはPDZドメイン結合配列を有し、PSD-95様MAGUKs や他のPDZドメイン含有タンパク質に結合し、シナプス局在を調節することが示されている[9] [18] [19] [20]。
C末端細胞内ドメインには、アルギニン酸残基クラスターリング部位があり、陽性に荷電している。この領域には、少なくとも9つのリン酸化セリン残基(P-Ser)がこれまでに同定されており、タンパク質-脂質結合、タンパク質-タンパク質結合を調整していると考えられている[21] [22] [23] [24]。
TARP type II (TARPγ-5/7)
Type Iと異なり、典型的なPDZドメイン結合配列およびアルギニン酸残基クラスターリング部位を有さない2。
分布
組織レベルでは、脳に強い発現を示し、それぞれのアイソフォームは脳内で特徴的な発現パターンを示す[10] [25]。例えば、γ-2は小脳顆粒細胞、γ-8は海馬、γ-3は大脳皮質、γ-4は発生過程において強く発現している。
TARPは、免疫染色、生化学分画によりAMPA受容体同様に、シナプス及び膜表面に強く検出される。 また、TARPはAMPA受容体と安定的複合体を形成することも、AMPA受容体との共局在を支持する[10] [26] [27] [28] [29]。
機能
TARPはAMPA受容体に結合し、AMPA受容体のタンパク質発現量、チャネル活性、および細胞表面とシナプス局在を調節する。
チャネル活性
TARP はAMPA 受容体のチャネル活性を制御する[15] [17] [30]。TARPの細胞外ドメインを介して、AMPA 受容体のチャネルの開口速度を速くすることにより、脱感作、脱活性の速度を遅くする[15]。さらに、脳において、AMPA 受容体由来のシナプス伝達の減衰速度を調節しており[15]、クラス1b型TARPは、クラス1a型TARPに比べて、定量的により効果的に減衰速度を遅延する[31] [32]。このとき、TARP はAMPA 受容体の開口確率を変えずに、サブコンダクタンスの支配率を変える[15]。
シナプス局在
TARP はAMPA 受容体のシナプス局在を制御する9 。小脳顆粒細胞および海馬において、TARPとそのPDZドメイン結合配列はAMPA 受容体のシナプス局在に必須である[9] [33]。PDZドメイン結合配列は、PSD-95を始めとするMAGUKsに結合する[9] [18] [19] [20]。また、TARP細胞質ドメインのリン酸化依存的に脂質結合が変化し、シナプス局在が調節されることが知られている[21] [22] [34]。
AMPA受容体のタンパク質発現量
TARPはAMPA受容体の発現を安定化する。海馬に多く発現するγ-8遺伝子欠損マウスにおいて、海馬におけるAMPA受容体の発現量が10%になる[28] [29]。このとき、N結合型糖鎖が成熟したAMPA受容体のみが減少し、ERに多く局在するN結合型糖鎖の未成熟なAMPA受容体に影響を及ぼさないことから、TARPは成熟したAMPA受容体を安定化していると考えられている[33]。また、小脳顆粒細胞に発現するγ-2の変異マウス、スターゲイザーにおいて、15%程度のAMPA受容体の発現量減少が小脳(全体)で観測される[10]。
細胞表面の発現
TARP はAMPA 受容体の細胞表面への発現を調節する。この機能に、PDZ結合ドメインは関与していない[9] [33]。また、TARP細胞質ドメインのリン酸化にともなって、AP4を介してエンドサイトーシスが調節される[23]。
個体レベルでの機能
TARP γ-2遺伝子欠損マウスでは、運動失調や欠伸発作が観測される[5]。
TARP γ-2を含むトリプルTARP typeI 遺伝子欠損マウスは致死となる[35]。
TARP γ-4遺伝子欠損マウスでは、けいれんが観測される[36]。
TARP γ-2/7の両TARP遺伝子欠損マウスにおいて、小脳プルキンエ細胞中のシナプスAMPA 受容体活性が消失する[37]。
関連項目
参考文献
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