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== リーリンの構造 == | == リーリンの構造 == | ||
リーリンは、マウスでは全長3461アミノ酸残基(エキソン65個)からなり、分泌シグナルに続いてN末端領域、8回の繰り返し構造(リーリンリピート)、そして塩基性アミノ酸に富むC末端領域(CTR)からなる<ref><pubmed> 7715726 </pubmed></ref>。 | リーリンは、マウスでは全長3461アミノ酸残基(エキソン65個)からなり、分泌シグナルに続いてN末端領域、8回の繰り返し構造(リーリンリピート)、そして塩基性アミノ酸に富むC末端領域(CTR)からなる<ref><pubmed> 7715726 </pubmed></ref>。 | ||
N末端領域は、F-スポンジンとの相同性を弱く持つが、他の領域に関しては、相同性の高い蛋白質は存在しない。それぞれのリーリンリピートは、3つのドメインを持ち、中央に[[EGF]]様モチーフ、さらにこれを挟むようにサブリピートAとサブリピートBが存在する。3番目のリーリンリピートの構造解析の結果、サブリピート同士は互いに接し、馬蹄の様な構造をとる事が分かった<ref><pubmed> 18787202 </pubmed></ref> | N末端領域は、F-スポンジンとの相同性を弱く持つが、他の領域に関しては、相同性の高い蛋白質は存在しない。それぞれのリーリンリピートは、3つのドメインを持ち、中央に[[EGF]]様モチーフ、さらにこれを挟むようにサブリピートAとサブリピートBが存在する。3番目のリーリンリピートの構造解析の結果、サブリピート同士は互いに接し、馬蹄の様な構造をとる事が分かった<ref><pubmed> 18787202 </pubmed></ref>。CTRは、わずか32アミノ酸残基からなり塩基性に富み、その一次構造は種を超えて高度に保存されている<ref name=ref5><pubmed> 17504759 </pubmed></ref>。フレームシフト変異により8番目のリーリンリピートの一部とCTRを欠くリーリンを発現するリーラーオルレアンマウスでは、リーリンは細胞外に分泌されない<ref><pubmed> 11745613 </pubmed></ref>。そのため、リーリンのCTRはリーリンの分泌に必須であると考えられてきた。しかし、CTRのみを欠くリーリンは分泌効率が低いものの細胞外に分泌されること、CTRをFLAG-tagなどに置換した場合では効率的に分泌されることが判った。そのため、CTRは分泌には必須ではないことが明らかになった<ref name=ref5 />。 | ||
リーリンは、リーリンリピートの2番目と3番目の間付近(N-t site)と、6番目と7番目のリーリンリピートの間付近(C-t site)の2カ所で分解を受け、この分解を担うプロテアーゼが、2価金属イオンを必要とする[[メタロプロテアーゼ]]であることが示唆された | リーリンは、リーリンリピートの2番目と3番目の間付近(N-t site)と、6番目と7番目のリーリンリピートの間付近(C-t site)の2カ所で分解を受け、この分解を担うプロテアーゼが、2価金属イオンを必要とする[[メタロプロテアーゼ]]であることが示唆された<ref><pubmed> 10192793 </pubmed></ref>。最近[[ADAMTS]]-4、ADAMTS-5や[[tPA]]にリーリン分解活性があることが判った<ref><pubmed> 22819337 </pubmed></ref><ref><pubmed> 23082219 </pubmed></ref>。 | ||
リーリンはApoER2/VLDLRに結合したのち、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、取り込まれたリーリンはN-t siteで分解を受けること、これにより生じたN末断片は、Rab11依存的な経路により細胞外に再分泌されることが分かった | リーリンはApoER2/VLDLRに結合したのち、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、取り込まれたリーリンはN-t siteで分解を受けること、これにより生じたN末断片は、Rab11依存的な経路により細胞外に再分泌されることが分かった<ref><pubmed> 19303411 </pubmed></ref>。そのため、リーリンは細胞外、及び細胞内の両方で分解を受けることが示唆される。また、N末断片はApoER2やVLDLRを介さない経路により神経細胞に作用し、樹状突起の成熟を制御することが報告されている<ref><pubmed> 19366679 </pubmed></ref>。 | ||
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== リーリンの発現部位 == | == リーリンの発現部位 == | ||
胎生期では、大脳皮質の辺縁層に位置するカハール・レチウス細胞、[[海馬]] | 胎生期では、大脳皮質の辺縁層に位置するカハール・レチウス細胞、[[海馬]]の辺縁層の外側(将来の網状分子層)に強く発現する。 | ||
成体期になると、大脳皮質のカハール・レチウス細胞での発現が弱まり、[[GABA作動性]]神経細胞に発現が見られる。小脳では外顆粒細胞に発現する。 | |||
== リーリン受容体とその下流シグナル == | == リーリン受容体とその下流シグナル == | ||
リーリンは、リポ蛋白質受容体であるApoER2およびVLDLRに直接結合する<ref><pubmed> 10571241 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10571240 </pubmed></ref>。リーリンがこれら受容体に結合すると、FynなどのSrc family kinaseが活性化し<ref><pubmed> 12526739 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12526740 </pubmed></ref>、細胞内蛋白質Dab1の[[チロシンリン酸化]]が誘導される<ref><pubmed> 10090720 </pubmed></ref>。ApoER2とVLDLRを共に欠くマウス<ref><pubmed> 10380922 </pubmed></ref>、Dab1欠損マウス<ref><pubmed> 9338784 </pubmed></ref><ref><pubmed> 9338785 </pubmed></ref>、Dab1のチロシン残基に変異を導入したマウス<ref><pubmed> 10959835 </pubmed></ref>、FynとSrcを共に欠くマウス<ref><pubmed> 16162939 </pubmed></ref>はいずれもリーラーマウスに酷似した脳形成異常を示す。従って、ApoER2/VLDLRを介したリーリンによるDab1のチロシンリン酸化が正常な脳形成に必要であると言える。 | |||
リーリンの刺激により、Dab1はY185、Y198、Y220、Y232の4カ所でリン酸化を受ける(33)。 | |||
Y185とY198でリン酸化を受けたDab1はPI3Kのp85aサブユニットに結合し(36)、Aktのリン酸化及び[[GSK3β]]のリン酸化を誘導する。これによりTauのリン酸化が制御されると考えられている。また、リーリン-PI3K-Akt経路を介したmTorのリン酸化は、神経細胞の樹状突起の成長を促す(38)ことも報告されている。 | |||
Dab1のY220及びY232のリン酸化は、Crk/Crkl-C3G複合体をリクルートし、[[低分子量G蛋白質]]であるRap1のリン酸化を促す(39-42)。最近、大脳[[皮質形成]]の最終段階における、リーリン-Crk/CrkL-C3G-Rap1経路の重要性が明らかとなり、神経細胞が原皮質帯と呼ばれる領域へ進入する際に、この経路を介したインテグリンα5β1の活性化が必要であることが明らかになった(44)。また、Dab1を介したRap1の活性化は、[[カドヘリン]]の機能を調節し、早生まれの神経細胞の細胞体トランスロケーションや、遅生まれの神経細胞の多極性移動に重要な役割を担うことも明らかになった(45,46)。 | |||
Dab1の下流分子としては他にも数多くの候補分子が挙げられているが、どの分子が、どの現象でどの程度重要なのかについて、決定的な証拠がある例は少ない。おそらくは、細胞種や時期によって、複数の因子が関与しているものと推察される。 | |||
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発生初期の大脳皮質は、プレプレートと呼ばれる層と、神経細胞が新たに生まれる[[脳室]]帯からなる。脳室帯で生まれた神経細胞はプレプレートに侵入し、プレプレートは、[[辺縁帯]]とサブプレートに分離する(この現象はプレプレートスプリッティングと呼ばれる)。これに続いて、脳室帯で生まれた神経細胞は、サブプレートを越え放射状に移動し(この時、遅生まれの神経細胞は、早生まれの神経細胞を追い越すように移動する)、辺縁帯の直前で移動を停止する。このようにして、大脳皮質は、早生まれの神経細胞が脳室側に、遅生まれの神経細胞が表層側に配置される。 | 発生初期の大脳皮質は、プレプレートと呼ばれる層と、神経細胞が新たに生まれる[[脳室]]帯からなる。脳室帯で生まれた神経細胞はプレプレートに侵入し、プレプレートは、[[辺縁帯]]とサブプレートに分離する(この現象はプレプレートスプリッティングと呼ばれる)。これに続いて、脳室帯で生まれた神経細胞は、サブプレートを越え放射状に移動し(この時、遅生まれの神経細胞は、早生まれの神経細胞を追い越すように移動する)、辺縁帯の直前で移動を停止する。このようにして、大脳皮質は、早生まれの神経細胞が脳室側に、遅生まれの神経細胞が表層側に配置される。 | ||
リーリンを欠損するリーラーマウスでは、まずプレプレートスプリッティングが起きない。また、脳室帯で生まれた神経細胞は、早生まれの神経細胞を追い越すことができず、野生型の場合と比べて神経細胞の位置が概ね逆転する。このことから、まずリーリンはプレプレートスプリッティングを起こすために必要であると考えられる。またリーラーマウスにおける[[神経細胞移動]]の異常が、プレプレートスプリッティング異常による、二次的なものかであるか否かは明確な証拠は未だない。 | リーリンを欠損するリーラーマウスでは、まずプレプレートスプリッティングが起きない。また、脳室帯で生まれた神経細胞は、早生まれの神経細胞を追い越すことができず、野生型の場合と比べて神経細胞の位置が概ね逆転する。このことから、まずリーリンはプレプレートスプリッティングを起こすために必要であると考えられる。またリーラーマウスにおける[[神経細胞移動]]の異常が、プレプレートスプリッティング異常による、二次的なものかであるか否かは明確な証拠は未だない。 | ||
大脳皮質神経細胞移動におけるリーリンの機能については、いくつかの説が提唱されている。 | |||
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[[双極性障害]]やうつ病においてもリーリンの関与は研究されており、患者死後脳の研究ではリーリンはこれらの患者ではわずかではあるが減少している(78,79)。また、リーリンにはCTRをコードするエキソンの直前で選択的スプライシングが生じ、CTRの無いアイソフォームが生じることが知られている。双極性障害の患者では、このタイプのmRNAの割合が減少していることが報告されている(69)。CTRを欠損するアイソフォームはシグナル活性が弱い(8)ので、双極性障害患者では相対的にリーリン機能は亢進していることになる。しかしこれは、リーリンの機能低下を補う代償機構の結果である可能性も残されている。 | [[双極性障害]]やうつ病においてもリーリンの関与は研究されており、患者死後脳の研究ではリーリンはこれらの患者ではわずかではあるが減少している(78,79)。また、リーリンにはCTRをコードするエキソンの直前で選択的スプライシングが生じ、CTRの無いアイソフォームが生じることが知られている。双極性障害の患者では、このタイプのmRNAの割合が減少していることが報告されている(69)。CTRを欠損するアイソフォームはシグナル活性が弱い(8)ので、双極性障害患者では相対的にリーリン機能は亢進していることになる。しかしこれは、リーリンの機能低下を補う代償機構の結果である可能性も残されている。 | ||
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