「有毛細胞」の版間の差分

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 [[ヒト]]の[[蝸牛器官]]は機械振動を伝える[[アブミ骨]]に面した基部から蝸牛器官の中心部分である頂部までおよそ35 mmの長さがある。蝸牛器官には[[コルチ器官]]が全長に亘り存在する。断面は丁度金太郎あめのようにコルチ器官を中心とする構造が切り出される。コルチ器官は[[基底膜]]上に位置する内外の有毛細胞および複数の[[支持細胞]]および[[蓋膜]]で構成される。
 [[ヒト]]の[[蝸牛器官]]は機械振動を伝える[[アブミ骨]]に面した基部から蝸牛器官の中心部分である頂部までおよそ35 mmの長さがある。蝸牛器官には[[コルチ器官]]が全長に亘り存在する。断面は丁度金太郎あめのようにコルチ器官を中心とする構造が切り出される。コルチ器官は[[基底膜]]上に位置する内外の有毛細胞および複数の[[支持細胞]]および[[蓋膜]]で構成される。


 有毛細胞([[ほ乳類]])には[[内有毛細胞]]と[[外有毛細胞]]の2種類ある。およそ3,500個の内有毛細胞が蝸牛軸の近くに1列の細胞群として分布する。その外側にはおよそ20,000個の外有毛細胞が3ないし4列存在する。そしておよそ30,000本の求心性神経([[聴神経]])は蝸牛軸を通って蝸牛器官内に入り、内側(蝸牛軸側)から有毛細胞に分布する。聴神経線維の95%が内有毛細胞体に分布する。数10本の聴神経線維が1個の内有毛細胞体にシナプス形成する。これに対して聴神経線維全体の5%程度に相当する神経線維が分枝を繰り返して複数の外有毛細胞にシナプスを形成する'''(Spoendrin 1978)'''。遠心性神経線維([[オリーブ蝸牛束]])の多くは外有毛細胞体上にシナプス形成する。従って音を聞く細胞としての内有毛細胞に対して、外有毛細胞は蝸牛器官の感度を調節する役割が議論されている。これに関しては外有毛細胞が[[膜電位]]に応じて細胞体長を伸縮させる機能を持つ事との関連が議論されている<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>。音波による振動刺激に応じて基底膜の振動振幅を変動させることで内有毛細胞の感覚毛に加わる機械刺激量を調節し、結果として音刺激に対する受容器感度を上げる働きをしているものと考えられている<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>。
 有毛細胞([[ほ乳類]])には[[内有毛細胞]]と[[外有毛細胞]]の2種類ある。およそ3,500個の内有毛細胞が蝸牛軸の近くに1列の細胞群として分布する。その外側にはおよそ20,000個の外有毛細胞が3ないし4列存在する。そしておよそ30,000本の求心性神経([[聴神経]])は蝸牛軸を通って蝸牛器官内に入り、内側(蝸牛軸側)から有毛細胞に分布する。聴神経線維の95%が内有毛細胞体に分布する。数10本の聴神経線維が1個の内有毛細胞体にシナプス形成する。これに対して聴神経線維全体の5%程度に相当する神経線維が分枝を繰り返して複数の外有毛細胞にシナプスを形成する'''(Spoendrin 1978)'''。遠心性神経線維([[オリーブ蝸牛束]])の多くは外有毛細胞体上にシナプス形成する。従って音を聞く細胞としての内有毛細胞に対して、外有毛細胞は蝸牛器官の感度を調節する役割が議論されている。これに関しては外有毛細胞が[[膜電位]]に応じて細胞体長を伸縮させる機能を持つ事との関連が議論されている<ref name=ref15><pubmed>10821263</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>12239568</pubmed></ref>。音波による振動刺激に応じて基底膜の振動振幅を変動させることで内有毛細胞の感覚毛に加わる機械刺激量を調節し、結果として音刺激に対する受容器感度を上げる働きをしているものと考えられている<ref name=ref1><pubmed>18195086</pubmed></ref>。


 有毛細胞には[[リボンシナプス]]構造があり、音刺激に対応して安定して高い頻度の[[神経伝達物質|伝達物質]]放出が実現される<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>。有毛細胞からは[[グルタミン酸]]が神経伝達物質として放出される<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>。内有毛細胞体のリボンシナプスは大きさが蝸牛軸側(内側面)と支持細胞である柱細胞側(外側面)とで異なる。蝸牛軸側には構造の大きなリボンシナプスが形成され、柱細胞側には小さなリボンシナプスが形成される。シナプス構造の違いは聴神経の自発[[発火]]頻度および[[閾値]]の違いに対応する。発火特性の異なる数10本の聴神経が1個の内有毛細胞にシナプス形成する事により広い音圧域に対応した応答特性が実現される事が議論されている '''(Hickman et al. 2015)'''。
 有毛細胞には[[リボンシナプス]]構造があり、音刺激に対応して安定して高い頻度の[[神経伝達物質|伝達物質]]放出が実現される<ref name=ref9><pubmed>15829963</pubmed></ref>。有毛細胞からは[[グルタミン酸]]が神経伝達物質として放出される<ref name=ref8><pubmed>7932230</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>11802170</pubmed></ref>。内有毛細胞体のリボンシナプスは大きさが蝸牛軸側(内側面)と支持細胞である柱細胞側(外側面)とで異なる。蝸牛軸側には構造の大きなリボンシナプスが形成され、柱細胞側には小さなリボンシナプスが形成される。シナプス構造の違いは聴神経の自発[[発火]]頻度および[[閾値]]の違いに対応する。発火特性の異なる数10本の聴神経が1個の内有毛細胞にシナプス形成する事により広い音圧域に対応した応答特性が実現される事が議論されている '''(Hickman et al. 2015)'''。


 遠心性神経線維(オリーブ蝸牛束) は[[アセチルコリン]]を神経伝達物質とし、一部は内有毛細胞に到る聴神経[[軸索終末]]にシナプス形成するが、多くは外有毛細胞体上にシナプス形成する。外有毛細胞体には[[アセチルコリン受容体]](α9)があり、[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>イオン]]に対する透過性が高く、外有毛細胞では[[Ca<sup>2+</sup>イオン活性化カリウムチャネル]]を活性化することで膜[[過分極]]を起こし抑制的に働く<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>。
 遠心性神経線維(オリーブ蝸牛束) は[[アセチルコリン]]を神経伝達物質とし、一部は内有毛細胞に到る聴神経[[軸索終末]]にシナプス形成するが、多くは外有毛細胞体上にシナプス形成する。外有毛細胞体には[[アセチルコリン受容体]](α9)があり、[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>イオン]]に対する透過性が高く、外有毛細胞では[[Ca<sup>2+</sup>イオン活性化カリウムチャネル]]を活性化することで膜[[過分極]]を起こし抑制的に働く<ref name=ref5><pubmed>   13367873</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>7954834</pubmed></ref>。


 感覚毛に局在する[[機械受容器]]チャネルもCa<sup>2+</sup>に対する透過性が高く<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>[[TRPチャネル]]の1種と考えられているがクローニングには成功していない。[[内リンパ液]]の高いK<sup>+</sup>イオン濃度により生理的にはK<sup>+</sup>イオンが受容器電流を運ぶ。感覚毛の生えている有毛細胞体頂部の内外ではK<sup>+</sup>イオン濃度がほぼ等しいと考えられK<sup>+</sup>イオンの[[平衡電位]]は0 mVとされる。また[[内リンパ腔]]([[中心階]])は+80 mV程度の内リンパ腔電位をもつ。この電位と静止膜電位(-60 mV程度)の差(170 mV)が機械受容器チャンネルを通るK<sup>+</sup>イオンの駆動力となり、内向きK<sup>+</sup>電流を生ずる事で有毛細胞は機械刺激に応じて脱分極する<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>。脱分極は側壁膜の[[L型カルシウムチャネル]] ([[Cav1.3]])を活性化し<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>、流入するCa<sup>2+</sup>イオンが神経伝達物質であるグルタミン酸を放出する<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。
 感覚毛に局在する[[機械受容器]]チャネルもCa<sup>2+</sup>に対する透過性が高く<ref name=ref12><pubmed>2582113</pubmed></ref>[[TRPチャネル]]の1種と考えられているがクローニングには成功していない。[[内リンパ液]]の高いK<sup>+</sup>イオン濃度により生理的にはK<sup>+</sup>イオンが受容器電流を運ぶ。感覚毛の生えている有毛細胞体頂部の内外ではK<sup>+</sup>イオン濃度がほぼ等しいと考えられK<sup>+</sup>イオンの[[平衡電位]]は0 mVとされる。また[[内リンパ腔]]([[中心階]])は+80 mV程度の内リンパ腔電位をもつ。この電位と静止膜電位(-60 mV程度)の差(170 mV)が機械受容器チャンネルを通るK<sup>+</sup>イオンの駆動力となり、内向きK<sup>+</sup>電流を生ずる事で有毛細胞は機械刺激に応じて脱分極する<ref name=ref4><pubmed>5219471</pubmed></ref>。脱分極は側壁膜の[[L型カルシウムチャネル]] ([[Cav1.3]])を活性化し<ref name=ref13><pubmed>12037175</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>16354915</pubmed></ref>、流入するCa<sup>2+</sup>イオンが神経伝達物質であるグルタミン酸を放出する<ref name=ref10><pubmed>23459757</pubmed></ref>。


==関連項目==
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