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Hirokazuyokokawa (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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==== 語彙の長期記憶への保存:語彙化 ==== | ==== 語彙の長期記憶への保存:語彙化 ==== | ||
外国語の語彙の記憶には,記憶容量,母語などの被験者要因,語の長さ<ref>'''Baddeley, A. D., Thomson, A., & Buchanan, M.'''<br>Word length and the structure of short-term memory<br>''Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 14, 575-589'': 1975</ref>,音韻親密度<ref>'''Kovács, G. &, Racsmány M.'''<br> Handling L2 input in phonological STM: The effect of non-L1 phonetics on nonword repetition<br>''Language Learning, 58, 597-624'': 2008</ref>など語の要因が影響を及ぼすことが知られている。 | |||
新規の語(未知語)がメンタルレキシコンに登録された状態を'''語彙化'''(lexicalization)と呼ぶが,その経時的変化は,'''語彙競合効果'''(lexical completion effect)を指標として捉えられる<ref>'''Gaskell, M. G., & Dumay, N.'''<br>Lexical competition and the acquisition of novel words<br>''Cognition, 89, 105-132'': 2003 </ref>。語彙競合効果とは,類似する語がある単語の認知に影響を与えるというもので,たとえば,新規語 wooz が語彙化した状態になれば,woof, wool, woodなどの類似した語が単語認知に影響を与え,'''語彙判断課題'''(lexical decision task; 当該語が実在後であるか否かを即座に判断する課題)において判断時間が遅延する。 | 新規の語(未知語)がメンタルレキシコンに登録された状態を'''語彙化'''(lexicalization)と呼ぶが,その経時的変化は,'''語彙競合効果'''(lexical completion effect)を指標として捉えられる<ref>'''Gaskell, M. G., & Dumay, N.'''<br>Lexical competition and the acquisition of novel words<br>''Cognition, 89, 105-132'': 2003 </ref>。語彙競合効果とは,類似する語がある単語の認知に影響を与えるというもので,たとえば,新規語 wooz が語彙化した状態になれば,woof, wool, woodなどの類似した語が単語認知に影響を与え,'''語彙判断課題'''(lexical decision task; 当該語が実在後であるか否かを即座に判断する課題)において判断時間が遅延する。 | ||
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==== 言語理解のプロセス ==== | ==== 言語理解のプロセス ==== | ||
音声言語による文理解のプロセスは,Friederici & Kotz (2003)の認知神経科学的モデルによれば,①入力音声の音響分析([[聴覚野]])にもとづく音素の同定(上側頭回中間部),音韻の[[分節化]]・音節化の処理(BA44上後部),②語の形態処理(上側頭回後部),統語範疇の同定(上側頭回前部)にもとづく局所的統語構造の構築(BA44下部),③語の統語・形態情報の同定(上・中側頭回後部)にもとづく意味情報と統語情報の統合(上・中側頭回後部),意味役割付与(BA44, 45, | 音声言語による文理解のプロセスは,Friederici & Kotz (2003)の認知神経科学的モデルによれば,①入力音声の音響分析([[聴覚野]])にもとづく音素の同定(上側頭回中間部),音韻の[[分節化]]・音節化の処理(BA44上後部),②語の形態処理(上側頭回後部),統語範疇の同定(上側頭回前部)にもとづく局所的統語構造の構築(BA44下部),③語の統語・形態情報の同定(上・中側頭回後部)にもとづく意味情報と統語情報の統合(上・中側頭回後部),意味役割付与(BA44, 45, 47),④さまざまな情報の統合(基底核)や再分析および修復(上側頭回後部)といった4つの段階に大別される<ref>'''Friederici, A. D., and Kotz, S. A.'''<br>The brain basis of syntactic processes: functional imaging and lesion studies<br>''NeuroImage, 20, s8-s17'': 2003</ref>。書き言葉の処理もこれに準じる。 | ||
外国語学習におけるリスニングの困難点は,①音声の連続体の中から単語を切り出すこと(分節化),②統語構造を構築すること,③話者の話すスピードで理解すること,などにある。また,リーディングの困難点は,①語彙知識の不足,②文法知識の不足,③母語と語順が異なる場合は,語順通りに理解すること,などにある。いずれの場合にも,話題についての背景知識が内容理解に影響を及ぼすことも知られている。 | |||
==== 母語話者の文理解 ==== | ==== 母語話者の文理解 ==== | ||
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==== 言語情報の脳内処理 ==== | ==== 言語情報の脳内処理 ==== | ||
Ojima, Nakata, & Kakigi (2005)は<ref>'''Ojima, S., Nakata, H., & Kakigi, R.'''<br>An ERP study of second language learning after childhood: Effects of proficiency<br>''Journal of Cognitive Neuroscience, 17, 1212-1228'': 2005</ref>,英語の母語話者と上級・中級程度の外国語学習者を対象に,[[事象関連電位]]の手法を用いて,言語情報に対する敏感さ(sensitivity)を調査した。たとえば,Mike listened to Max’s *orange about war.といった意味的に不適格な文(*は違反が起こっている箇所を示す)に対しては,N400という成分が出現することがわかっているが,外国語学習者の場合にも同様の現象が見られた。一方,Yesterday he *play a guitar.のような形態統語違反(正しくはplayed),Susan liked Jack’s *about joke the man.のような句構造違反(正しくはJack’s joke about the man)に対しては,LANと呼ばれる早期に行われる文法判断にかかわる成分とP600と呼ばれる後期における情報の統合や修正にかかわる成分が出現するはずであるが<ref>'''Friederici, A. D.'''<br>Towards a neural basis of auditory sentence processing<br>''TRENDS in Cognitive Sciences, 6, 78-84'': 2002</ref> | Ojima, Nakata, & Kakigi (2005)は<ref>'''Ojima, S., Nakata, H., & Kakigi, R.'''<br>An ERP study of second language learning after childhood: Effects of proficiency<br>''Journal of Cognitive Neuroscience, 17, 1212-1228'': 2005</ref>,英語の母語話者と上級・中級程度の外国語学習者を対象に,[[事象関連電位]]の手法を用いて,言語情報に対する敏感さ(sensitivity)を調査した。たとえば,Mike listened to Max’s *orange about war.といった意味的に不適格な文(*は違反が起こっている箇所を示す)に対しては,N400という成分が出現することがわかっているが,外国語学習者の場合にも同様の現象が見られた。一方,Yesterday he *play a guitar.のような形態統語違反(正しくはplayed),Susan liked Jack’s *about joke the man.のような句構造違反(正しくはJack’s joke about the man)に対しては,LANと呼ばれる早期に行われる文法判断にかかわる成分とP600と呼ばれる後期における情報の統合や修正にかかわる成分が出現するはずであるが<ref>'''Friederici, A. D.'''<br>Towards a neural basis of auditory sentence processing<br>''TRENDS in Cognitive Sciences, 6, 78-84'': 2002</ref>,外国語学習者では,上級熟達度のみにLANに近い成分の出現が観察されただけであったと報告している。これらの研究結果は,外国語学習者にとって,文法を操作することに関わる処理が困難であることを示唆しており,Shallow Structure Hypothesis (Felser & Clahsen, 2006) <ref name=ref2 />にも一致する。 | ||
==== 言語情報処理の熟達度依存性 ==== | ==== 言語情報処理の熟達度依存性 ==== | ||
動詞の形態統語情報の処理について,事象関連電位を用いた実験では,規則動詞違反文ではLAN(Left anterior negativity)に続いてP600成分が出現したが,不規則動詞違反文ではP600成分のみが出現したことから,英語母語話者には規則動詞・不規則動詞それぞれの処理による神経認知基盤が存在し,語彙的知識がそれぞれ影響していると結論づけられている。英語を外国語とする学習者の意味違反に対して出現するN400にも熟達度依存性が存在することを指摘した研究もあり,事象関連電位と熟達度の変化との関係性について検討した研究も少しずつ登場している<ref>'''Newman, A. J., Tremblay, A., Nichols, E. S., Neville, H. J., & Ullman, M. T.'''<br>The influence of language proficiency on lexical semantic processing in native and late learners of English<br>''Journal of Cognitive Neuroscience, 24, 1205-1223'': 2012</ref> <ref>'''Newman, A. J., Ullman, M. T., Pancheva, R., Waligura, D. L., & Neville, H. J.'''<br>An ERP study of regular and irregular English past tense inflection<br>''NeuroImage, 34, 435-445'': 2007</ref>。 | |||
=== 言語産出 === | === 言語産出 === |
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