「アラキドン酸」の版間の差分

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 遊離アラキドン酸の大半は細胞膜のリン脂質に再度取り込まれるため、その濃度は低く維持されている<ref name=Chilton1996><pubmed>8555241</pubmed></ref> 。遊離アラキドン酸は[[プロスタノイド]]や[[ロイコトリエン]]など多様な[[生理活性脂質]]に変換され、[[摂食]]、[[睡眠]]・[[覚醒]]、脳血流など生理的な脳機能の他、疾病時の[[発熱]]や[[内分泌]]応答、[[疼痛]]、[[てんかん]]、[[脳虚血]]、[[ストレス]]、神経・[[精神疾患]]など様々な病態にも関与する<ref name=Bosetti2007><pubmed>17403135</pubmed></ref><ref name=Samuelsson2012><pubmed>22318727</pubmed></ref><ref name=Vane1998><pubmed>9597150</pubmed></ref><ref name=Narumiya2007><pubmed>24367153</pubmed></ref><ref name=Funk2001><pubmed>11729303</pubmed></ref><ref name=Furuyashiki2011><pubmed>21116297</pubmed></ref><ref name=Back2014><pubmed>24588652</pubmed></ref> 。
 遊離アラキドン酸の大半は細胞膜のリン脂質に再度取り込まれるため、その濃度は低く維持されている<ref name=Chilton1996><pubmed>8555241</pubmed></ref> 。遊離アラキドン酸は[[プロスタノイド]]や[[ロイコトリエン]]など多様な[[生理活性脂質]]に変換され、[[摂食]]、[[睡眠]]・[[覚醒]]、脳血流など生理的な脳機能の他、疾病時の[[発熱]]や[[内分泌]]応答、[[疼痛]]、[[てんかん]]、[[脳虚血]]、[[ストレス]]、神経・[[精神疾患]]など様々な病態にも関与する<ref name=Bosetti2007><pubmed>17403135</pubmed></ref><ref name=Samuelsson2012><pubmed>22318727</pubmed></ref><ref name=Vane1998><pubmed>9597150</pubmed></ref><ref name=Narumiya2007><pubmed>24367153</pubmed></ref><ref name=Funk2001><pubmed>11729303</pubmed></ref><ref name=Furuyashiki2011><pubmed>21116297</pubmed></ref><ref name=Back2014><pubmed>24588652</pubmed></ref> 。


[[ファイル:Furuyashiki Fig 1.png|サムネイル|'''図1 アラキドン酸のリノール酸からの生合成経路''']]
== 摂取・生合成・代謝 ==
== 摂取・生合成・代謝 ==
 アラキドン酸は、肉、卵、魚介類などの食品から得られ、細胞内のリン脂質に取り込まれ、様々な生体膜の合成に使用される<ref name=Abedi2014><pubmed>25473503</pubmed></ref> 。[[ラット]]を用いた実験では、離乳後3〜4カ月の間ω-6 多価不飽和脂肪酸を欠乏させると、脳内のアラキドン酸含有量が約30%減少することが示されている<ref name=Igarashi2009><pubmed>19073280</pubmed></ref> 。成人では、脳で代謝されるアラキドン酸は[[wj:血漿|血漿]]から補われ、脳内のアラキドン酸の含有量は一定に保たれている。ヒトの[[PETイメージング]]により、脳内へ取り込まれる血漿中のアラキドン酸は約18mg/日、脳内におけるアラキドン酸の半減期は約147日と推定されている<ref name=Rapoport2007><pubmed>18060754</pubmed></ref><ref name=Rapoport2008><pubmed>19022981</pubmed></ref> 。
 アラキドン酸は、肉、卵、魚介類などの食品から得られ、細胞内のリン脂質に取り込まれ、様々な生体膜の合成に使用される<ref name=Abedi2014><pubmed>25473503</pubmed></ref> 。[[ラット]]を用いた実験では、離乳後3〜4カ月の間ω-6 多価不飽和脂肪酸を欠乏させると、脳内のアラキドン酸含有量が約30%減少することが示されている<ref name=Igarashi2009><pubmed>19073280</pubmed></ref> 。成人では、脳で代謝されるアラキドン酸は[[wj:血漿|血漿]]から補われ、脳内のアラキドン酸の含有量は一定に保たれている。ヒトの[[PETイメージング]]により、脳内へ取り込まれる血漿中のアラキドン酸は約18mg/日、脳内におけるアラキドン酸の半減期は約147日と推定されている<ref name=Rapoport2007><pubmed>18060754</pubmed></ref><ref name=Rapoport2008><pubmed>19022981</pubmed></ref> 。


 アラキドン酸は、18個の炭素鎖からなり2つのcis二重結合を含むω-6多価不飽和脂肪酸の一種である[[リノール酸]](18:2ω-6)からも産生される(図1)。リノール酸は[[必須脂肪酸]]であり、ナッツなどの種実類や植物油に豊富に含まれる<ref name=Abedi2014><pubmed>25473503</pubmed></ref> 。体内に取り込まれたリノール酸は、段階的な不飽和化および脂肪鎖伸長によって、アラキドン酸や[[ドコサテトラエン酸]](22:4ω-6)などの脂肪酸に変換される。
 アラキドン酸は、18個の炭素鎖からなり2つのcis二重結合を含むω-6多価不飽和脂肪酸の一種である[[リノール酸]](18:2ω-6)からも産生される('''図1''')。リノール酸は[[必須脂肪酸]]であり、ナッツなどの種実類や植物油に豊富に含まれる<ref name=Abedi2014><pubmed>25473503</pubmed></ref> 。体内に取り込まれたリノール酸は、段階的な不飽和化および脂肪鎖伸長によって、アラキドン酸や[[ドコサテトラエン酸]](22:4ω-6)などの脂肪酸に変換される。


 まず、リノール酸は[[Δ6不飽和化酵素]](fatty acid desaturase 2; FADS2)による[[wj:脱水素化|脱水素化]]を介して二重結合が付与されて[[γ-リノレン酸]](18:3ω-6)になる。その後、γ-リノレン酸から[[Δ6脂肪酸伸長酵素]](Δ6 elongase)により脂肪酸が伸長されて[[ジホモ-γ-リノレン酸]](20:3ω-6)になる。[[Δ5不飽和化酵素]](fatty acid desaturase 1; FADS1)によりジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸が産生される<ref name=Guillou2010><pubmed>20018209</pubmed></ref><ref name=Wiktorowska-Owczarek2015><pubmed>26771963</pubmed></ref> 。Δ5不飽和化酵素やΔ6不飽和化酵素の活性は、栄養、喫煙、老化などの要因により変動し、肥満に関与することが示唆されている<ref name=Warensjö2006><pubmed>16487913</pubmed></ref> 。
 まず、リノール酸は[[Δ6不飽和化酵素]](fatty acid desaturase 2; FADS2)による[[wj:脱水素化|脱水素化]]を介して二重結合が付与されて[[γ-リノレン酸]](18:3ω-6)になる。その後、γ-リノレン酸から[[Δ6脂肪酸伸長酵素]](Δ6 elongase)により脂肪酸が伸長されて[[ジホモ-γ-リノレン酸]](20:3ω-6)になる。[[Δ5不飽和化酵素]](fatty acid desaturase 1; FADS1)によりジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸が産生される<ref name=Guillou2010><pubmed>20018209</pubmed></ref><ref name=Wiktorowska-Owczarek2015><pubmed>26771963</pubmed></ref> 。Δ5不飽和化酵素やΔ6不飽和化酵素の活性は、栄養、喫煙、老化などの要因により変動し、肥満に関与することが示唆されている<ref name=Warensjö2006><pubmed>16487913</pubmed></ref> 。