「睡眠障害」の版間の差分

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  [[Image:Takaスライド3.PNG|thumb|300px|'''図3.不眠症における過覚醒発現の過程'''<br>(Riemann D et al 2010)]]  
  [[Image:Takaスライド3.PNG|thumb|300px|'''図3.不眠症における過覚醒発現の過程'''<br>(Riemann D et al 2010)]]  


 不眠症に対する薬物療法としては、[[ベンゾジアゼピン]](benzodiazepine&nbsp;:BZ)ないしそのアゴニストの薬剤が第一選択となっている。BZ系睡眠薬の作用機序は、脳内の[[BZ受容体]]へ結合して、C<sup>l</sup>-イオンの細胞内への流入を促進することにより細胞の興奮を起こりにくくすることにある。BZ受容体は[[γ-アミノ酪酸]](γ-aminobutyric&nbsp;:GABA)受容体とともにGABA‐BZ‐C<sup>l</sup>-イオンチャンネル複合体を形成し、GABA系の活性を高める。BZ受容体はω1~ω5の5つに分類されるが、BZ系の睡眠薬のほとんどはω1、ω2受容体に非選択的に結合する。ω1受容体は脳全体に分布するが、特に[[小脳]]、[[淡蒼球]]、[[大脳皮質]]に高密度で、一方ω2受容体は[[大脳辺縁系]]、[[脊髄]]に多く分布している。現時点ではω1受容体は主に[[催眠]]・[[鎮静]]作用に関係し、ω2受容体は主に[[抗不安作用]]、[[筋弛緩作用]]に関係していると考えられており、睡眠薬ではω1選択性の高い薬剤が治療薬として選択される機会が比較的多い。BZ系睡眠薬は、緊張‐不安水準の抑制とともに、睡眠恒常性機構への作用(アデノシン・プロスタグランジンD2などとともにVLPOからTMNにいたる[[睡眠促進細胞群]]を活性化)に関与している可能性が推定されている。
 不眠症に対する薬物療法としては、[[ベンゾジアゼピン]](benzodiazepine&nbsp;:BZ)ないしそのアゴニストの薬剤が第一選択となっている。BZ系睡眠薬の作用機序は、脳内の[[BZ受容体]]へ結合して、Cl-イオンの細胞内への流入を促進することにより細胞の興奮を起こりにくくすることにある。BZ受容体は[[γ-アミノ酪酸]](γ-aminobutyric&nbsp;:GABA)受容体とともにGABA‐BZ‐C<sup>l</sup>-イオンチャンネル複合体を形成し、GABA系の活性を高める。BZ受容体はω1~ω5の5つに分類されるが、BZ系の睡眠薬のほとんどはω1、ω2受容体に非選択的に結合する。ω1受容体は脳全体に分布するが、特に[[小脳]]、[[淡蒼球]]、[[大脳皮質]]に高密度で、一方ω2受容体は[[大脳辺縁系]]、[[脊髄]]に多く分布している。現時点ではω1受容体は主に[[催眠]]・[[鎮静]]作用に関係し、ω2受容体は主に[[抗不安作用]]、[[筋弛緩作用]]に関係していると考えられており、睡眠薬ではω1選択性の高い薬剤が治療薬として選択される機会が比較的多い。BZ系睡眠薬は、緊張‐不安水準の抑制とともに、睡眠恒常性機構への作用(アデノシン・プロスタグランジンD2などとともにVLPOからTMNにいたる[[睡眠促進細胞群]]を活性化)に関与している可能性が推定されている。


 不眠症の治療として、近年、[[認知行動療法]](cognitive behavioral therapy, CBT)の重要性が強調されている<ref><pubmed>17162986</pubmed></ref>。CBTは、不眠を遷延化させている悪循環の要因となっている生活習慣と認知パターンを修正させることで、問題の解決につなげるものである。不眠症患者の現在の症状・状況と行動パターンの関係についての機能分析を十分に行ったうえで、心理教育、睡眠衛生指導、リラクゼーション、刺激制御法(眠れなくなったら寝床を離れ、眠気がついてから寝床に戻るようにさせるもの)と睡眠制限療法(眠れなけば、寝床の上で過ごす時間を切り縮めるもの)を含めた睡眠スケジュール法、認知行動療法(睡眠に対する思い込みが行動・気分にどのような影響を及ぼしているかを明らかにし、悪循環から離れられるように気づかせていくもの)を組み合わせたパッケージを用いて治療を行う。CBTのプロセスは、患者自身に認知的過覚醒を理解させる方向に働くことは疑いのないところだが、これ以外の生理的な機構に直接働く可能性は乏しいと思われる。  
 不眠症の治療として、近年、[[認知行動療法]](cognitive behavioral therapy, CBT)の重要性が強調されている<ref><pubmed>17162986</pubmed></ref>。CBTは、不眠を遷延化させている悪循環の要因となっている生活習慣と認知パターンを修正させることで、問題の解決につなげるものである。不眠症患者の現在の症状・状況と行動パターンの関係についての機能分析を十分に行ったうえで、心理教育、睡眠衛生指導、リラクゼーション、刺激制御法(眠れなくなったら寝床を離れ、眠気がついてから寝床に戻るようにさせるもの)と睡眠制限療法(眠れなけば、寝床の上で過ごす時間を切り縮めるもの)を含めた睡眠スケジュール法、認知行動療法(睡眠に対する思い込みが行動・気分にどのような影響を及ぼしているかを明らかにし、悪循環から離れられるように気づかせていくもの)を組み合わせたパッケージを用いて治療を行う。CBTのプロセスは、患者自身に認知的過覚醒を理解させる方向に働くことは疑いのないところだが、これ以外の生理的な機構に直接働く可能性は乏しいと思われる。