「産褥期精神障害」の版間の差分

編集の要約なし
58行目: 58行目:
=== 卵巣ホルモン、モノアミン神経伝達物質 ===
=== 卵巣ホルモン、モノアミン神経伝達物質 ===


 [[卵巣ホルモン]]の一種、[[エストロゲン]](Estrogen)や[[プロゲステロン]](Progesterone)は妊娠中に多く産生され、妊娠経過とともに増加し、妊娠の維持や安全な出産のためだけでなく、水分と[[電解質]]バランス、[[ストレス応答]]など妊娠に有利に働くような生理的な変化を引き起こす<ref><pubmed>20869351</pubmed></ref>一方で、産後急激に減少することがストレス脆弱性に繋がると考えられている。エストロゲン受容体の1つ、ERβは、不安や抑うつ、[[記憶学習]]に関わる領域([[海馬]]、[[扁桃体]])や、[[背側縫線核]]の[[セロトニン作動性ニューロン]]に分布している<ref name=ref22><pubmed>20646931</pubmed></ref>こと、エストロゲンのうち、[[エストラジオール]](estradiol)(E2)は、[[セロトニン]]の放出、[[代謝]]、[[再取込み]]、[[生合成]]、[[受容体]]修飾などに影響を及ぼす<ref><pubmed>19900508</pubmed></ref>ことから、産褥期うつ病にも関係があると考えられる<ref name=ref22/>。
 [[卵巣ホルモン]]の一種、[[エストロゲン]](Estrogen)や[[プロゲステロン]](Progesterone)は妊娠中に多く産生され、妊娠経過とともに増加し、妊娠の維持や安全な出産のためだけでなく、水分と[[電解質]]バランス、[[ストレス応答]]など妊娠に有利に働くような生理的な変化を引き起こす<ref><pubmed>20869351</pubmed></ref>一方で、産後急激に減少することがストレス脆弱性に繋がると考えられている。エストロゲン受容体の1つ、ERβは、不安や抑うつ、[[記憶学習]]に関わる領域([[海馬]]、[[扁桃体]])や、[[背側縫線核]]の[[セロトニン神経|セロトニン作動性ニューロン]]に分布している<ref name=ref22><pubmed>20646931</pubmed></ref>こと、エストロゲンのうち、[[エストロゲン|エストラジオール]](estradiol)(E2)は、[[セロトニン]]の放出、[[代謝]]、[[セロトニン#セロトニントランスポーター|再取込み]]、[セロトニン#生合成[生合成]]、[[セロトニン#受容体|受容体]]修飾などに影響を及ぼす<ref><pubmed>19900508</pubmed></ref>ことから、産褥期うつ病にも関係があると考えられる<ref name=ref22/>。


 また、セロトニンや[[ドーパミン]]、[[ノルアドレナリン]]などの神経伝達物質によって、卵巣ホルモン系、ストレス応答、HPA軸、気分障害を関連づけることができる。これまでは、[[前頭前野]]、[[辺縁系]]、[[下垂体]]活性、性行動など多岐に渡って影響を及ぼすセロトニン系と気分変動との関連が主に注目されてきた。例えば、[[wikipedia:ja:トリプトファン|トリプトファン]]供給の低下に伴う、妊娠後期のセロトニン神経細胞の電気的活動の急激な低下は、出産後の気分低下に寄与することが示されている<ref><pubmed>16303256</pubmed></ref>。また、[[セロトニン受容体]](5HT1A)への結合が産褥期うつ病の女性で低下していること<ref><pubmed>17543959</pubmed></ref>、産後のセロトニン活性低下とallopregnanoloneの消失が合わさって、産褥期うつ病を引き起こすことが示唆されている。
 また、セロトニンや[[ドーパミン]]、[[ノルアドレナリン]]などの神経伝達物質によって、卵巣ホルモン系、ストレス応答、HPA軸、気分障害を関連づけることができる。これまでは、[[前頭前野]]、[[辺縁系]]、[[下垂体]]活性、性行動など多岐に渡って影響を及ぼすセロトニン系と気分変動との関連が主に注目されてきた。例えば、[[wikipedia:ja:トリプトファン|トリプトファン]]供給の低下に伴う、妊娠後期のセロトニン神経細胞の電気的活動の急激な低下は、出産後の気分低下に寄与することが示されている<ref><pubmed>16303256</pubmed></ref>。また、セロトニン受容体[[セロトニン受容体#5-HT1受容体|5HT<sub>1A</sub>]]への結合が産褥期うつ病の女性で低下していること<ref><pubmed>17543959</pubmed></ref>、産後のセロトニン活性低下とallopregnanoloneの消失が合わさって、産褥期うつ病を引き起こすことが示唆されている。


 一方で、卵巣ホルモンは[[黒質線条体]]や[[中脳辺縁系]]のドーパミン活性を変化させることが見いだされ、[[エストロゲン]]はドーパミン取り込みを阻害することが示されている<ref><pubmed>10407108</pubmed></ref><ref><pubmed>10936494</pubmed></ref>。また、エストロゲンは:CRH([[副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン]]:corticotropin-releasing hormone)の転写に影響を及ぼすこと、[[青斑核]]やノルアドレナリン系と相互作用することが示されている。以上から、性ホルモンの影響が産褥期うつ病の病態生理の核となり、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンやそれらの代謝物を介して、HPA軸を変化させ、産褥期気分障害の発症に関与すると考えられている<ref name=ref18/>。
 一方で、卵巣ホルモンは[[黒質線条体]]や[[中脳辺縁系]]のドーパミン活性を変化させることが見いだされ、エストロゲンはドーパミン取り込みを阻害することが示されている<ref><pubmed>10407108</pubmed></ref><ref><pubmed>10936494</pubmed></ref>。また、エストロゲンは[[副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン]](corticotropin-releasing hormone, CRH)の転写に影響を及ぼすこと、[[青斑核]]やノルアドレナリン系と相互作用することが示されている。以上から、性ホルモンの影響が産褥期うつ病の病態生理の核となり、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンやそれらの代謝物を介して、HPA軸を変化させ、産褥期気分障害の発症に関与すると考えられている<ref name=ref18/>。


=== 神経活性ステロイド===  
=== 神経活性ステロイド===