「神経誘導」の版間の差分

編集の要約なし
22行目: 22行目:
 その後、この現象を制御する分泌性の因子(神経誘導因子(neural inducer))を特定する試みが長く行われてきたが、背側中胚葉はサイズ的に小さいために、そこに存在するタンパク質を生化学的に特定することは困難であった。しかし、分子生物学的手法が発達するにつれて遺伝子解析が可能となり、1990年代にはその分子実体が次々と明らかになった。
 その後、この現象を制御する分泌性の因子(神経誘導因子(neural inducer))を特定する試みが長く行われてきたが、背側中胚葉はサイズ的に小さいために、そこに存在するタンパク質を生化学的に特定することは困難であった。しかし、分子生物学的手法が発達するにつれて遺伝子解析が可能となり、1990年代にはその分子実体が次々と明らかになった。


 Richard M HarlandとWilliam C Smithは、[[発現スクリーニング]](背側中胚葉に発現する遺伝子の[[mRNA]]の中で神経誘導活性を持つ分画を細分化する方法)により[[ノギン]] ([[noggin]])を<ref name=ref5><pubmed>1339313</pubmed></ref>、[[w:Edward M De Robertis|Edward M De Robertis]]と笹井芳樹は、[[ディファレンシャルスクリーニング]](発現が背側中胚葉に限局する遺伝子を単離する方法)によって[[コーディン]] ([[chordin]])を<ref name=ref6><pubmed>8001117</pubmed></ref>それぞれ単離し、それらが神経誘導因子であることを証明した。また、Douglas A Meltonと Ali Hemmati-Brivanlou は、上野直人らがすでに単離していた[[卵胞刺激ホルモン]]の阻害因子[[フォリスタチン]] ([[follistatin]])に神経誘導活性があることを見いだした<ref name=ref7><pubmed>3120188 </pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed> 8168135</pubmed></ref>。
 Richard M HarlandとWilliam C Smithは、[[発現スクリーニング]](背側中胚葉に発現する遺伝子の[[mRNA]]の中で神経誘導活性を持つ分画を細分化する方法)により[[ノギン]] ([[noggin]])を<ref name=ref5><pubmed>1339313</pubmed></ref>、[[w:Edward M De Robertis|Edward M De Robertis]]と[http://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(14)01094-0 笹井芳樹]は、[[ディファレンシャルスクリーニング]](発現が背側中胚葉に限局する遺伝子を単離する方法)によって[[コーディン]] ([[chordin]])を<ref name=ref6><pubmed>8001117</pubmed></ref>それぞれ単離し、それらが神経誘導因子であることを証明した。また、Douglas A Meltonと Ali Hemmati-Brivanlou は、上野直人らがすでに単離していた[[卵胞刺激ホルモン]]の阻害因子[[フォリスタチン]] ([[follistatin]])に神経誘導活性があることを見いだした<ref name=ref7><pubmed>3120188 </pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed> 8168135</pubmed></ref>。


 さらなる研究の結果、これらの神経誘導因子はいずれも[[TGF&beta;]]スーパーファミリーの一種[[BMP4]]と結合し、BMP4と[[BMP受容体]]の相互作用を阻害することによって細胞を神経化することが明らかとなった('''図1''')<ref name=ref9><pubmed>7630399</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>8752214</pubmed></ref> <ref name=ref11 />。実際にBMPの強制発現により細胞は神経化が抑制されて[[wj:表皮|表皮]]に分化し<ref name=ref12><pubmed>7630398</pubmed></ref>、逆に[[ドミナントネガティブ]]BMP受容体を用いてBMPシグナルを遮断すると細胞が神経化する<ref name=ref13><pubmed>7937936 </pubmed></ref>。したがって、BMPシグナルの存在・非存在が未分化外胚葉の運命(表皮か神経か)の二者択一(binary decision)を行うと言える<ref name=ref9 />。
 さらなる研究の結果、これらの神経誘導因子はいずれも[[TGF&beta;]]スーパーファミリーの一種[[BMP4]]と結合し、BMP4と[[BMP受容体]]の相互作用を阻害することによって細胞を神経化することが明らかとなった('''図1''')<ref name=ref9><pubmed>7630399</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>8752214</pubmed></ref> <ref name=ref11 />。実際にBMPの強制発現により細胞は神経化が抑制されて[[wj:表皮|表皮]]に分化し<ref name=ref12><pubmed>7630398</pubmed></ref>、逆に[[ドミナントネガティブ]]BMP受容体を用いてBMPシグナルを遮断すると細胞が神経化する<ref name=ref13><pubmed>7937936 </pubmed></ref>。したがって、BMPシグナルの存在・非存在が未分化外胚葉の運命(表皮か神経か)の二者択一(binary decision)を行うと言える<ref name=ref9 />。