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一方で、p75はミエリンによる軸索伸長阻害にも関与することが報告されている。p75-/-マウスでは、通常は軸索の伸長が制限されるミエリンに富んだ領域であっても、異常な軸索伸長が観察されている <ref><pubmed> 10234043 </pubmed></ref>。ミエリンに含まれる軸索伸長阻害因子として、[[myelin associated glycoprotein]] ([[MAG]])、[[Nogo]]、[[oligodendrocyte glycoprotein]] ([[OMgp]]) などが存在する。これらの因子は構造は異なれど、全て[[Nogo受容体]] (NgR)に結合することが知られている。NgRは[[GPIアンカー型タンパク質]]で細胞内ドメインを持たない。そこで、p75がNgRと結合し、これらのミエリン由来軸索再生阻害因子のシグナルを細胞内に伝達する役割を担うことが明らかになった。この下流の分子機構には、p75を介したRhoの活性化が関与している。細胞内でRhoの活性は[[Rho guanine nucleotide dissociation inhibitor]] ([[Rho-GDI]])との結合により抑制されている。p75はRhoとRho-GDIの結合を解離することでRhoの活性化を誘導し、軸索伸長を阻害することが示されている <ref><pubmed> 12692556 </pubmed></ref>。 | 一方で、p75はミエリンによる軸索伸長阻害にも関与することが報告されている。p75-/-マウスでは、通常は軸索の伸長が制限されるミエリンに富んだ領域であっても、異常な軸索伸長が観察されている <ref><pubmed> 10234043 </pubmed></ref>。ミエリンに含まれる軸索伸長阻害因子として、[[myelin associated glycoprotein]] ([[MAG]])、[[Nogo]]、[[oligodendrocyte glycoprotein]] ([[OMgp]]) などが存在する。これらの因子は構造は異なれど、全て[[Nogo受容体]] (NgR)に結合することが知られている。NgRは[[GPIアンカー型タンパク質]]で細胞内ドメインを持たない。そこで、p75がNgRと結合し、これらのミエリン由来軸索再生阻害因子のシグナルを細胞内に伝達する役割を担うことが明らかになった。この下流の分子機構には、p75を介したRhoの活性化が関与している。細胞内でRhoの活性は[[Rho guanine nucleotide dissociation inhibitor]] ([[Rho-GDI]])との結合により抑制されている。p75はRhoとRho-GDIの結合を解離することでRhoの活性化を誘導し、軸索伸長を阻害することが示されている <ref><pubmed> 12692556 </pubmed></ref>。 | ||
== 動物モデル == | === 動物モデル === | ||
Leeらは[[ジーンターゲッティング]]によりp75のexon3を欠損したマウスを作成した <ref><pubmed> 1317267 </pubmed></ref>。このマウスでは、全長のp75の発現は欠損しているが、p75の細胞外ドメインを欠いたshort isoform (s-p75)の発現が残っている。s-p75はNGFと結合しないが、TrkAと結合しうる。表現型として、生存率や繁殖に異常は認められないが、[[wikipedia:ja:潰瘍|潰瘍]]などの皮膚の障害を生じることが知られている。また、[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]や[[サブスタンスP]]を発現する末梢性感覚神経の障害を伴い、熱刺激に対する反応性が弱いことが報告されている。 | Leeらは[[ジーンターゲッティング]]によりp75のexon3を欠損したマウスを作成した <ref><pubmed> 1317267 </pubmed></ref>。このマウスでは、全長のp75の発現は欠損しているが、p75の細胞外ドメインを欠いたshort isoform (s-p75)の発現が残っている。s-p75はNGFと結合しないが、TrkAと結合しうる。表現型として、生存率や繁殖に異常は認められないが、[[wikipedia:ja:潰瘍|潰瘍]]などの皮膚の障害を生じることが知られている。また、[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]や[[サブスタンスP]]を発現する末梢性感覚神経の障害を伴い、熱刺激に対する反応性が弱いことが報告されている。 | ||
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一方、von Schackらは、p75のexon4を欠損したマウスを作成した <ref><pubmed> 11559852 </pubmed></ref>。このマウスは、当初s-p75とFL-p75両方を欠損したものと考えられていたが、後に細胞膜貫通領域と細胞内ドメインを含む遺伝子産物が残存していることが判明した。この断片化されたタンパク質は、アポトーシスを誘導することが後に示された。それ故、exon4欠損マウスでは、血管障害などの原因で約40%のマウスが死亡する。また、これ以前にもp75の細胞内ドメインを発現するトランスジェニックマウスでは、交感神経や末梢感覚神経の細胞数の減少が認められている。これは、Trkの不活性化ではなく、p75の細胞内ドメイン自体が細胞死誘導経路の活性化因子として働くためと考えられている。 | 一方、von Schackらは、p75のexon4を欠損したマウスを作成した <ref><pubmed> 11559852 </pubmed></ref>。このマウスは、当初s-p75とFL-p75両方を欠損したものと考えられていたが、後に細胞膜貫通領域と細胞内ドメインを含む遺伝子産物が残存していることが判明した。この断片化されたタンパク質は、アポトーシスを誘導することが後に示された。それ故、exon4欠損マウスでは、血管障害などの原因で約40%のマウスが死亡する。また、これ以前にもp75の細胞内ドメインを発現するトランスジェニックマウスでは、交感神経や末梢感覚神経の細胞数の減少が認められている。これは、Trkの不活性化ではなく、p75の細胞内ドメイン自体が細胞死誘導経路の活性化因子として働くためと考えられている。 | ||
p75の細胞内ドメインを過剰発現するマウスでは、[[大脳皮質]]の細胞数の減少と、交感神経、感覚神経の細胞数の減少が確認されている。このマウスにおいて、Trk受容体の発現や活性状態には変化が無いのにもかかわらず、細胞数が減少することから、p75の細胞内ドメインが細胞死の誘導を決定する要因であると示唆される。 | p75の細胞内ドメインを過剰発現するマウスでは、[[大脳皮質]]の細胞数の減少と、交感神経、感覚神経の細胞数の減少が確認されている。このマウスにおいて、Trk受容体の発現や活性状態には変化が無いのにもかかわらず、細胞数が減少することから、p75の細胞内ドメインが細胞死の誘導を決定する要因であると示唆される。 | ||
== 疾患との関連 == | == 疾患との関連 == |