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同義語:Protein phosphatase 2B (PP2B), Protein phosphatase 3 (ppp3), calcium-dependent serine-threonine phosphatase | 同義語:Protein phosphatase 2B (PP2B), Protein phosphatase 3 (ppp3), calcium-dependent serine-threonine phosphatase | ||
カルシニューリンは、脳神経系に豊富に発現する[[カルシウム・カルモジュリン依存的セリン-スレオニン脱リン酸化酵素]]である。[[PP1]]/[[PP2A]]/カルシニューリンスーパーファミリーに属する<ref><pubmed>11015619</pubmed></ref> 脳神経系においては、[[シナプス]]刺激などによる[[カルシウム]]により活性化され、[[NFAT]]、[[ダイナミンI]]、[[Inhibitor-1]]([[l-I]])/[[DARPP-32]]、[[tau]]、[[CRTC]]、[[GluA1]]、[[FMRP]]、[[Bcl-2]]、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]といった多様な基質を脱リン酸化する。[[長期抑制]]・[[長期増強]]などの[[シナプス可塑性]]、ひいては[[記憶]][[学習]]や、[[神経突起]]伸長・細胞内カルシウム・遺伝子発現調節・[[アポトーシス]]の制御に関わるとされている。 | |||
== カルシニューリンとは == | == カルシニューリンとは == | ||
1978年にKleeらが初めて精製し<ref><pubmed>201280</pubmed></ref>、[[ホスホジエステラーゼ]] | 1978年にKleeらが初めて精製し<ref><pubmed>201280</pubmed></ref>、[[ホスホジエステラーゼ]]の調節サブユニットとして報告し、カルシニューリン(calcineurin)と名付けられたが、その後1982年にCohenらによって[[脱リン酸化酵素]]であると同定された<ref><pubmed>6279434</pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]細胞においてCa<sup>2+</sup>により活性化される唯一の脱リン酸化酵素であり、脳神経系に豊富に発現する。進化的には、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]から[[ショウジョウバエ|ハエ]]・哺乳類に至るまで保存されている。 | ||
== ドメイン構造 == | == ドメイン構造 == | ||
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カルシニューリンは 触媒サブユニットであるCalcineurin A (57-59 kDa)と、修飾サブユニットであれるCalcineurin B (19-20 kDa)からなる。それぞれ、3種(PPP3CA、PPP3CB、and PPP3CC)と2種(PPP3R1、PPP3R2)の遺伝子にコードされる。PPP3R2は精巣特異的発現とされているが、その他はubiquitousに発現する。PPP3CCも精巣特異的とされていたが、脳における発現が確認されている。ラット脳内ではPPP3CAの方がPPP3CBよりも豊富に発現している。 | カルシニューリンは 触媒サブユニットであるCalcineurin A (57-59 kDa)と、修飾サブユニットであれるCalcineurin B (19-20 kDa)からなる。それぞれ、3種(PPP3CA、PPP3CB、and PPP3CC)と2種(PPP3R1、PPP3R2)の遺伝子にコードされる。PPP3R2は精巣特異的発現とされているが、その他はubiquitousに発現する。PPP3CCも精巣特異的とされていたが、脳における発現が確認されている。ラット脳内ではPPP3CAの方がPPP3CBよりも豊富に発現している。 | ||
Calcineurin A は、N末端より、触媒ドメイン・Calcineurin B | Calcineurin A は、N末端より、触媒ドメイン・Calcineurin B 結合ドメイン・[[カルモジュリン]]結合ドメイン・自己抑制ドメイン(AID)からなる。触媒ドメインはPP2Aと49%、PP1と39%という高い相同性を持つ。 | ||
Calcineurin B はカルモジュリンと相同性があり、4つのCa<sup>2+</sup>結合ドメインである[[EF-hand]]を有し、N末端に[[ミリストイル化]]を受ける。Calcineurin Bの1つのCa<sup>2+</sup>結合ドメインは高親和性で(Kd = 10<sup>-7</sup> M)、その他は低親和性(Kd = 0.5 ~ 1 uM)であるが、カルモジュリンと異なり、Calcineurin Bは[[wikipedia:EDTA|EDTA]]存在下でもCalcineurin A に結合する。 | Calcineurin B はカルモジュリンと相同性があり、4つのCa<sup>2+</sup>結合ドメインである[[EF-hand]]を有し、N末端に[[ミリストイル化]]を受ける。Calcineurin Bの1つのCa<sup>2+</sup>結合ドメインは高親和性で(Kd = 10<sup>-7</sup> M)、その他は低親和性(Kd = 0.5 ~ 1 uM)であるが、カルモジュリンと異なり、Calcineurin Bは[[wikipedia:EDTA|EDTA]]存在下でもCalcineurin A に結合する。 | ||
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== 阻害剤 == | == 阻害剤 == | ||
[[Cyclosporine A]]、[[FK506]]は、それぞれ [[cyclophilin]]、[[FKBP]] ([[FK506-binding protein]]) の[[immunophilin]]と結合し、カルシニューリン活性を阻害する。免疫系で[[抗原提示細胞]]から[[T細胞]]への活性化、特に[[IL-2]]、[[IL-4]]遺伝子発現調節を担う転写因子NFATを脱リン酸化して活性化することから<ref><pubmed>19596245</pubmed></ref>、cyclosporinA や FK506といったカルシニューリン阻害剤は免疫抑制剤として使用されてきた。その他、[[PP1]]、PP2Aの阻害剤である[[wikipedia:ja:オカダイン酸|オカダイン酸]]も高い濃度(~4 uM)では、カルシニューリン活性を阻害する。 | |||
== 脳神経系における役割 == | == 脳神経系における役割 == | ||
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=== 長期可塑性 === | === 長期可塑性 === | ||
カルモジュリン存在下で活性化に必要なCa<sup>2+</sup>濃度は 数百nM (CaM濃度に依存) の領域であり、[[αCaMKII]]などのCa<sup>2+</sup>依存性酵素よりも親和性が高いためにLismanらにより[[LTD]]への関与が示唆され<ref><pubmed>2556718</pubmed></ref>、それに合致する電気生理のデータも得られているが、必ずしもこの説を擁護する報告ばかりではない。以下は、LTDを引き起こすメカニズムの例である。<ref><pubmed>11433371</pubmed></ref> | |||
*PP1の活性を抑制する I-1/DARPP-32 の[[PKA]]によるリン酸化サイト(PP1の抑制作用に必須)を脱リン酸化することにより、間接的にPP1の活性を制御する。 | *PP1の活性を抑制する I-1/DARPP-32 の[[PKA]]によるリン酸化サイト(PP1の抑制作用に必須)を脱リン酸化することにより、間接的にPP1の活性を制御する。 | ||
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=== 転写制御 === | === 転写制御 === | ||
[[AKAP150]] (ヒト[[ | [[AKAP150]] (ヒト[[AKAP79]]ホモログ) により、[[カルシウムチャネル|Ca<sup>2+</sup>チャネル]]の近傍にアンカリングされ<ref><pubmed>7528941</pubmed></ref>、カルシウム上昇に伴い、転写因子[[NFATc]]の脱リン酸化による[[wikipedia:ja:核|核]]移行・転写活性化を促す。また、[[CREB]]のコファクターである[[CRTC]]を脱リン酸化し、CREBの活性を増強する。 | ||
=== 小胞の内在化 === | === 小胞の内在化 === | ||
カルシニューリンはダイナミン I と結合し、[[エンドサイトーシス]]小胞を構成するタンパク質であるダイナミン、[[アンフィフィジン]]、[[シナプトジャニン]]らを脱リン酸化することで[[シナプス小胞]]のエンドサイトーシスを促進する<ref><pubmed>9651678</pubmed></ref>。 また、NMDA型グルタミン酸受容体依存的な[[AMPA型グルタミン酸受容体]]の内在化を担う。 | |||
== 脳神経疾患とのかかわり == | == 脳神経疾患とのかかわり == | ||
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=== 統合失調症 === | === 統合失調症 === | ||
カルシニューリン[[前脳]]特異的ノックアウトマウスは、[[ワーキングメモリー]]異常を含む、 [[統合失調症]]様の[[中間表現型]]を呈することが報告されている。 | |||
=== ダウン症候群 === | === ダウン症候群 === | ||
カルシニューリンは[[regulator of Calcineurin 1]](RCAN1)、別名[[Down syndrome critical region gene 1]]([[DSCR1]])と結合する。 | |||
=== アルツハイマー病 === | === アルツハイマー病 === |