「グルタミン酸」の版間の差分

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英語名:Glutamic acid 独:Glutaminsäure 仏:Acide glutamique 略称:Glu, E
英語名:Glutamic acid 独:Glutaminsäure 仏:Acide glutamique 略称:Glu, E


 タンパク質を構成する[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]の一つであり、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を初めとする動物においては[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]非必須アミノ酸、即ち他の[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]有機化合物から合成する事が出来るアミノ酸である。[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]脊椎動物[[中枢神経系]]での主要な[[神経伝達物質]]である。また、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]節足動物では、[[神経筋接合部]]に於ける神経伝達物質である。[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体|イオンチャネル型]]、[[代謝活性型グルタミン酸受容体|代謝活性型]]の2種類の[[グルタミン酸受容体]]を介して作用し、主要な[[興奮性伝達]]を担う。一方で、過剰な活性は[[神経細胞死]]を引き起こす。またグルタミン酸性シナプスの異常により[[統合失調症]]、[[自閉症]]が引き起こされるとも考えられている。
 タンパク質を構成する[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]の一つであり、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を初めとする動物においては[[wikipedia:ja:非必須アミノ酸|非必須アミノ酸]]、即ち他の[[wikipedia:ja:有機化合物|有機化合物]]から合成する事が出来るアミノ酸である。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]][[中枢神経系]]での主要な[[神経伝達物質]]である。また、[[wikipedia:ja:節足動物|節足動物]]では、[[神経筋接合部]]に於ける神経伝達物質である。[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体|イオンチャネル型]]、[[代謝活性型グルタミン酸受容体|代謝活性型]]の2種類の[[グルタミン酸受容体]]を介して作用し、主要な[[興奮性伝達]]を担う。一方で、過剰な活性は[[神経細胞死]]を引き起こす。またグルタミン酸性シナプスの異常により[[統合失調症]]、[[自閉症]]が引き起こされるとも考えられている。


==発見の歴史==
==発見の歴史==
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==グルタミン酸神経細胞の分布==
==グルタミン酸神経細胞の分布==
 グルタミン酸は[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]脊椎動物中枢神経系の殆どの早い興奮性伝達物質を担っている他、遅いシナプス伝達の一部も担う。そのため、上位中枢から[[脊髄]]に至るまで、グルタミン酸性神経細胞、並びにグルタミン酸性シナプスは広く分布している。この点、分布が限局しているカテコールアミン、アセチルコリンや[[神経ペプチド]]などとは異なっている。主なグルタミン酸性神経細胞には以下のようなものがある。
 グルタミン酸は脊椎動物中枢神経系の殆どの早い興奮性伝達物質を担っている他、遅いシナプス伝達の一部も担う。そのため、上位中枢から[[脊髄]]に至るまで、グルタミン酸性神経細胞、並びにグルタミン酸性シナプスは広く分布している。この点、分布が限局しているカテコールアミン、アセチルコリンや[[神経ペプチド]]などとは異なっている。主なグルタミン酸性神経細胞には以下のようなものがある。


*[[嗅球]]:[[僧帽細胞]]、[[房飾細胞]]
*[[嗅球]]:[[僧帽細胞]]、[[房飾細胞]]
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 シナプス前終末内部の[[シナプス顆粒]]に[[小胞型グルタミン酸輸送体]] (vesicular glutamate transporter, VGluT)によって濃縮される。VGluTは1-3のサブタイプが存在し、[[SLCファミリータンパク質|solute carrier (SLC)ファミリータンパク質]]に属する([[VGluT1]]=[[SLC17A7]]、[[VGluT2]]=[[SLC17A6]]、[[VGluT3]]=[[SLC17A8]])。また、[[小胞型興奮性アミノ酸輸送体]] ([[vesicular excitatory amino acid transporter]], [[VEAT]]=[[SLC17A5]])もグルタミン酸並びにアスパラギン酸をシナプス顆粒内に輸送する<ref><pubmed> 21612282</pubmed></ref>。  
 シナプス前終末内部の[[シナプス顆粒]]に[[小胞型グルタミン酸輸送体]] (vesicular glutamate transporter, VGluT)によって濃縮される。VGluTは1-3のサブタイプが存在し、[[SLCファミリータンパク質|solute carrier (SLC)ファミリータンパク質]]に属する([[VGluT1]]=[[SLC17A7]]、[[VGluT2]]=[[SLC17A6]]、[[VGluT3]]=[[SLC17A8]])。また、[[小胞型興奮性アミノ酸輸送体]] ([[vesicular excitatory amino acid transporter]], [[VEAT]]=[[SLC17A5]])もグルタミン酸並びにアスパラギン酸をシナプス顆粒内に輸送する<ref><pubmed> 21612282</pubmed></ref>。  


 いずれも同じく小胞上にある[[顆粒型F0F1-ATPase|顆粒型F<sub>0</sub>F<sub>1</sub>-ATPase]]によって作られる[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]プロトン濃度勾配とそれによって生じた電位勾配をを利用して[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]細胞質側から顆粒内へグルタミン酸を濃縮する。最終的な顆粒内グルタミン酸濃度は100 mMに及ぶ。
 いずれも同じく小胞上にある[[顆粒型F0F1-ATPase|顆粒型F<sub>0</sub>F<sub>1</sub>-ATPase]]によって作られる[[wikipedia:ja:プロトン|プロトン]]濃度勾配とそれによって生じた電位勾配をを利用して[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]側から顆粒内へグルタミン酸を濃縮する。最終的な顆粒内グルタミン酸濃度は100 mMに及ぶ。


===イオンチャネル型受容体===
===イオンチャネル型受容体===
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:AMPA型グルタミン酸受容体は、通常の場合、膜電位によらず機能する。そのため、静止膜電位付近のシナプス伝達を担っている。チャネルはNa<sup>+</sup>、K<sup>+</sup>に対して透過性が高い。
:AMPA型グルタミン酸受容体は、通常の場合、膜電位によらず機能する。そのため、静止膜電位付近のシナプス伝達を担っている。チャネルはNa<sup>+</sup>、K<sup>+</sup>に対して透過性が高い。


:GluA1-4(以前はGluR1-4と呼ばれていた)の4つのサブタイプがあり、リガンド結合領域がFLIP型、FLOP型の[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]選択的スプラインシング、またサブタイプによっては細胞内ドメインも選択的スプラインシングを受ける。
:GluA1-4(以前はGluR1-4と呼ばれていた)の4つのサブタイプがあり、リガンド結合領域がFLIP型、FLOP型の[[wikipedia:ja:選択的スプラインシング|選択的スプラインシング]]、またサブタイプによっては細胞内ドメインも選択的スプラインシングを受ける。


:GluA2サブユニットではチャネル壁を構成する一つのアミノ酸が[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]mRNAの編集によりグルタミンから[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]アルギニンに変化する。その他のサブユニットではグルタミンのままである。このため、GluA2を含む受容体と含まない受容体では[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]整流特性、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]イオン透過性がかわっている。
:GluA2サブユニットではチャネル壁を構成する一つのアミノ酸が[[wikipedia:ja:mRNA|mRNA]]の編集によりグルタミンから[[wikipedia:ja:アルギニン|アルギニン]]に変化する。その他のサブユニットではグルタミンのままである。このため、GluA2を含む受容体と含まない受容体では[[wikipedia:ja:整流|整流]]特性、[[wikipedia:ja:イオン|イオン]]透過性がかわっている。


''詳細は[[AMPA型グルタミン酸受容体]]の項目参照。''
''詳細は[[AMPA型グルタミン酸受容体]]の項目参照。''
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''詳細は、[[興奮毒性]]の項目参照。''
''詳細は、[[興奮毒性]]の項目参照。''


 また、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]ムラサキガイのもつ毒である[[ドウモイ酸]]は興奮性アミノ酸の一つであり、カイニン酸型受容体のアゴニストとして機能することにより、神経細胞死を引き起こす。これが[[wikipedia:ja:貝毒|貝毒]]による[[wikipedia:ja:食中毒|食中毒]]の病態機序と考えられている。1987年11~12月、カナダ東岸で中毒が発生し、[[記憶喪失性貝毒]]として知られるようになった。
 また、[[wikipedia:ja:ムラサキガイ|ムラサキガイ]のもつ毒である[[ドウモイ酸]]は興奮性アミノ酸の一つであり、カイニン酸型受容体のアゴニストとして機能することにより、神経細胞死を引き起こす。これが[[wikipedia:ja:貝毒|貝毒]]による[[wikipedia:ja:食中毒|食中毒]]の病態機序と考えられている。1987年11~12月、カナダ東岸で中毒が発生し、[[記憶喪失性貝毒]]として知られるようになった。


 一方、かつて[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]中華料理店症候群(Chinese restaurant syndrome)の原因としてグルタミン酸が疑われた事があったが、通常食物に含まれる程度のグルタミン酸はかなりの部分が、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]腸管での局所のエネルギー源として使用されてしまう<ref>'''鳥居邦夫、三村亨'''<br><small>L</small>-グルタミン酸塩類のラットにおける吸収と排泄について<br>''医薬品研究'' (1990)21: 242-256</ref>。また、血中へ入っても脳血液関門を越える事がないので、生理的条件下で中枢神経細胞に影響を与えるとは考えにくい。現在では日本国内外での公的機関による[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]食品添加物としての安全性評価を受け、摂取量には特に上限を設けられていない。
 一方、かつて[[wikipedia:ja:中華料理店症候群|中華料理店症候群]](Chinese restaurant syndrome)の原因としてグルタミン酸が疑われた事があったが、通常食物に含まれる程度のグルタミン酸はかなりの部分が、[[wikipedia:ja:腸管|腸管]]での局所のエネルギー源として使用されてしまう<ref>'''鳥居邦夫、三村亨'''<br><small>L</small>-グルタミン酸塩類のラットにおける吸収と排泄について<br>''医薬品研究'' (1990)21: 242-256</ref>。また、血中へ入っても脳血液関門を越える事がないので、生理的条件下で中枢神経細胞に影響を与えるとは考えにくい。日本国内外での公的機関による[[wikipedia:ja:食品添加物|食品添加物]]としての安全性評価の結果では毒性は否定され、現在では摂取量には特に上限を設けられていない。


===自閉症===
===自閉症===
 [[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]ゲノム解析の結果より、[[自閉症関連遺伝子]]が同定された。それの中に[[Shank]]、[[neuroligin]]、[[neurexin]]といった、グルタミン酸性シナプスの構成要素が見いだされている。Shankはシナプス後部で[[Homer]]と共に[[シナプス後膜肥厚]]のframeworkを形成する。Neuroliginは、[[GKAP]]と[[PSD-95]]を介し、Shankと結合し、一方、[[シナプス前部]]のneurexinと結合する(図2)。また、モデル動物においても、社会性の異常などが認められ、それは薬理学的なグルタミン酸伝達の増強によって是正される。この事は、中枢神経系におけるグルタミン酸性シナプス伝達の異常が[[自閉症]]を引き起こしている事を示唆する。ただし、これはごく一部の患者でしか認められず、自閉症全体を説明するものではない事に注意を要する。
 [[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]解析の結果より、[[自閉症関連遺伝子]]が同定された。それの中に[[Shank]]、[[neuroligin]]、[[neurexin]]といった、グルタミン酸性シナプスの構成要素が見いだされている。Shankはシナプス後部で[[Homer]]と共に[[シナプス後膜肥厚]]のframeworkを形成する。Neuroliginは、[[GKAP]]と[[PSD-95]]を介し、Shankと結合し、一方、[[シナプス前部]]のneurexinと結合する(図2)。また、モデル動物においても、社会性の異常などが認められ、それは薬理学的なグルタミン酸伝達の増強によって是正される。この事は、中枢神経系におけるグルタミン酸性シナプス伝達の異常が[[自閉症]]を引き起こしている事を示唆する。ただし、これはごく一部の患者でしか認められず、自閉症全体を説明するものではない事に注意を要する。


==関連項目==
==関連項目==

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