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Open filed test | Open filed test | ||
新奇環境下での自発的な活動性を測定するテスト。マウスにとって新奇で広く明るい環境であるオープンフィールドの中にマウスを入れ、一定時間自由に探索させる。オープンフィールドの形状は円形あるいは正方形であり、大きさは正方形の場合には一辺が1m を越えるものから30cm以下のものまでさまざまなものがある7。予備的な観察の場合は5分程度の実験時間が一般的であり、顕著な過活動や休止状態などはこのような短時間の観察で検出することができる。また、長時間にわたって記録することで、新奇環境下での動物の行動の時間経過による変化を観察することができる18。マウスは30分から2時間程度でオープンフィールドの環境に馴化するとされているため、30分から3時間の間で実験時間が設定されることが多い7。藤田保健衛生大学および生理学研究所では40 cm × 40 cm の正方形のオープンフィールドを用いており、実験時間は2時間としている。移動距離、立ち上がり回数、常同行動、中央区画滞在時間などを測定し、新奇環境における自発的活動性や不安様行動などを評価する。オープンフィールドテストは、薬物に対する反応性を検査するためにもよく用いられる。 | |||
====ホームケージ活動解析テスト==== | ====ホームケージ活動解析テスト==== | ||
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マウスが壁際を好み、高所を避けるという性質を利用した不安様行動のテスト。自発的交替課題を行うためのY字迷路を高架式にし、壁を持つアーム(クローズドアーム)と壁のないアーム(オープンアーム)を組み合わせ、それぞれのアームへの進入回数から不安様行動を評価した23ものが原型となっている。その後、装置や測定指標の改良を経て、1985 年にPellow らが高架式十字迷路テストとして発表した24。高架式十字迷路では、クローズドアームとオープンアームとを十字に組み合わせた迷路にマウスを置き自由に探索させ、それぞれのアームに滞在していた時間や入った回数、移動距離などを測定する 25。アームへの進入回数およびアーム上の滞在時間を絶対値のまま指標とするとこれらの値は活動性に影響を受けやすいので、オープンアームに対する数値とクローズドアームに対する数値とで比をとって指標にすることが多い。オープンアームに対する進入回数および滞在時間が増加していれば不安様行動の低下が、逆にそれらが低下していれば不安様行動の増加が示唆される。高架式十字迷路テストで測定される不安様行動は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬やアドレナリンα受容体関連薬物などの薬剤に対する反応性から妥当性が行動薬理学的に示されている24,26。その他にも、オープンアーム滞在中の血中コルチコステロン濃度の上昇24,27や脱糞の増加24などの生理学的指標の変化も報告されている。このため、高架式十字迷路テストは、ヒトにおける不安に類似した行動を評価していると考えられており、 抗不安薬のスクリーニングによく使われている28。 | マウスが壁際を好み、高所を避けるという性質を利用した不安様行動のテスト。自発的交替課題を行うためのY字迷路を高架式にし、壁を持つアーム(クローズドアーム)と壁のないアーム(オープンアーム)を組み合わせ、それぞれのアームへの進入回数から不安様行動を評価した23ものが原型となっている。その後、装置や測定指標の改良を経て、1985 年にPellow らが高架式十字迷路テストとして発表した24。高架式十字迷路では、クローズドアームとオープンアームとを十字に組み合わせた迷路にマウスを置き自由に探索させ、それぞれのアームに滞在していた時間や入った回数、移動距離などを測定する 25。アームへの進入回数およびアーム上の滞在時間を絶対値のまま指標とするとこれらの値は活動性に影響を受けやすいので、オープンアームに対する数値とクローズドアームに対する数値とで比をとって指標にすることが多い。オープンアームに対する進入回数および滞在時間が増加していれば不安様行動の低下が、逆にそれらが低下していれば不安様行動の増加が示唆される。高架式十字迷路テストで測定される不安様行動は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬やアドレナリンα受容体関連薬物などの薬剤に対する反応性から妥当性が行動薬理学的に示されている24,26。その他にも、オープンアーム滞在中の血中コルチコステロン濃度の上昇24,27や脱糞の増加24などの生理学的指標の変化も報告されている。このため、高架式十字迷路テストは、ヒトにおける不安に類似した行動を評価していると考えられており、 抗不安薬のスクリーニングによく使われている28。 | ||
明暗選択テスト (項目4.3.1) と高架式十字迷路テスト (項目4.3.2) | 明暗選択テスト (項目4.3.1) と高架式十字迷路テスト (項目4.3.2) はともに不安様行動を測定する代表的なテストである。それぞれのテストで測定される行動を引き起こしている要因には共通しているものがあるが、一方で異なる要因もあり、この2つのテストで得られる結果から推測される不安様行動の増減が常に同じ方向であるとは限らない。実際、遺伝子改変マウスの行動表現型では双方で不安様行動が低下あるいは亢進している場合もあるが、片方のテストでだけ不安様行動の増減が見られたり29,30、あるいは2つのテストで不安様行動について一方のテストでは低下し、他方では増加しているといった逆方向19,31の表現型が得られることもある。 | ||
===うつ様行動=== | ===うつ様行動=== | ||
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逆さ向きに吊されたマウスが学習性無力感によって動かなくなることを利用したうつ様行動のテスト。マウスを尻尾から逆さに吊るし、無動時間を測定する33。吊されたマウスは脱出しようと動き回るが、次第に動かない時間が増えてくる。このテストでも抗うつ薬を投与すると無動時間が減少する33ことから、無動時間の長さがうつ様行動の指標とされている。 | 逆さ向きに吊されたマウスが学習性無力感によって動かなくなることを利用したうつ様行動のテスト。マウスを尻尾から逆さに吊るし、無動時間を測定する33。吊されたマウスは脱出しようと動き回るが、次第に動かない時間が増えてくる。このテストでも抗うつ薬を投与すると無動時間が減少する33ことから、無動時間の長さがうつ様行動の指標とされている。 | ||
先述した不安様行動テストの場合と同様に、うつ様行動の代表的な2つのテストであるポーソルト強制水泳テスト (項目 4.4.1) と尾懸垂テスト (項目 4.4.2) でも、それぞれのテストで測定される行動の背景には共通の要因と個別に異なる要因とがある。そのため同じ遺伝子改変マウスに2つのテストを行った場合に、両方でうつ様行動の増減が同方向にみられる34こともあれば一方ではうつ様行動が増加、他方では減少というように逆方向になることもある31。ポーソルト強制水泳テストと尾懸垂テストは、ともに抗うつ剤の評価およびスクリーニングによく使われている。抗うつ薬の臨床における治療効果は、長期間の服用ではじめて得られるとされているが、げっ歯類を用いたこれらの実験では急性投与での効果のみが評価さていれるという問題が指摘されている35。 | |||
===学習・記憶=== | ===学習・記憶=== | ||
176行目: | 176行目: | ||
Eight-arm radial maze test | Eight-arm radial maze test | ||
食事制限したマウスに対して、迷路上の餌を探索させることで空間記憶を評価するテスト。プラットフォームから放射状に延びた8本のアームの先端に報酬となる餌を置き、食事制限によって空腹となったマウスに迷路内で餌を探索させる40。一度選択して餌を食べたアームには餌はないので、効率よく餌を食べて課題を終了させるためには、既に餌を食べたアームの空間的な位置を試行中に記憶しておかなければならない。一度訪れたアームを再度選択するとエラーとなり、このエラー数が増加すれば作業記憶 (認知過程の中で、情報を一時的に保持しつつ操作を行う記憶のシステム)の低下が示唆される。最初の8回選択中の正答数も作業記憶の指標となり、正答数が少なければ作業記憶が低下している可能性が高い。8方向放射状迷路は作業記憶の評価に使われることが多いが、一定のアームにだけ餌を置いてテストを行うことで作業記憶のように一時的ではなく長期に保持される参照記憶(一般的法則・事実についての情報を保存する記憶のシステム)を評価することも可能である。 | |||
====恐怖条件づけテスト==== | ====恐怖条件づけテスト==== | ||
183行目: | 183行目: | ||
マウスに場所(文脈)や音、光などの条件刺激と電気刺激などの無条件刺激を組み合わせて与えることで条件づけした後、条件刺激を再度提示した際にマウスがすくみ反応(フリージング) を示した時間を測定し、その割合を記憶能力の指標とするテスト41。条件づけした文脈や手がかり刺激を与えてもすくみ反応を示さなかったり、示している時間が短かったりすれば、記憶能力の異常が示唆される。このテストは古典的条件づけおよび文脈記憶のテストとして広く使われている。恐怖条件づけでは、マウスに電気ショックなどの非常に強い刺激を用いるため、このテストを経験させた動物はその後の行動特性が大きく変化する可能性がある。そのため、本テストはテストバッテリーの終盤に行うことが多い。逆に実験者による取り扱いに(ハンドリング)に全く慣れていない個体をテストの被験体として用いると、ケージから取り出しなどのハンドリングも含めて無条件刺激となってしまい、どんな文脈に対してもすくみ反応を示してしまうこともある。このような場合は、文脈や手がかりを記憶しているかどうかの評価ができなくなってしまうので、実験を計画する際には注意が必要である。 | マウスに場所(文脈)や音、光などの条件刺激と電気刺激などの無条件刺激を組み合わせて与えることで条件づけした後、条件刺激を再度提示した際にマウスがすくみ反応(フリージング) を示した時間を測定し、その割合を記憶能力の指標とするテスト41。条件づけした文脈や手がかり刺激を与えてもすくみ反応を示さなかったり、示している時間が短かったりすれば、記憶能力の異常が示唆される。このテストは古典的条件づけおよび文脈記憶のテストとして広く使われている。恐怖条件づけでは、マウスに電気ショックなどの非常に強い刺激を用いるため、このテストを経験させた動物はその後の行動特性が大きく変化する可能性がある。そのため、本テストはテストバッテリーの終盤に行うことが多い。逆に実験者による取り扱いに(ハンドリング)に全く慣れていない個体をテストの被験体として用いると、ケージから取り出しなどのハンドリングも含めて無条件刺激となってしまい、どんな文脈に対してもすくみ反応を示してしまうこともある。このような場合は、文脈や手がかりを記憶しているかどうかの評価ができなくなってしまうので、実験を計画する際には注意が必要である。 | ||
行動テストバッテリーを構成する際には、テストの順番とテスト間の間隔についても注意する必要がある。最初に行うテストを除き、全てのテストにおいてマウスは先行して経験した実験の影響を受けるので、全ての被験体について同じ順番でテストを実施するのが望ましい。行動テストバッテリーに含まれる各種テストは、被験体に与えるストレスが低いと考えられるテストから始め、徐々にストレスレベルが高いと考えられるテストを受けるような順番で構成されている。特に恐怖条件づけテスト(項目4.5.4 参照)のように電気ショックを与えるものは、その後の行動に影響を与える可能性が高く、テストバッテリーの中では終盤に実施するのが一般的である7。行動テストバッテリーにおけるテスト間の間隔については、Paylor | 行動テストバッテリーを構成する際には、テストの順番とテスト間の間隔についても注意する必要がある。最初に行うテストを除き、全てのテストにおいてマウスは先行して経験した実験の影響を受けるので、全ての被験体について同じ順番でテストを実施するのが望ましい。行動テストバッテリーに含まれる各種テストは、被験体に与えるストレスが低いと考えられるテストから始め、徐々にストレスレベルが高いと考えられるテストを受けるような順番で構成されている。特に恐怖条件づけテスト(項目4.5.4 参照)のように電気ショックを与えるものは、その後の行動に影響を与える可能性が高く、テストバッテリーの中では終盤に実施するのが一般的である7。行動テストバッテリーにおけるテスト間の間隔については、Paylor らがバッテリー内のテスト間隔を1週間にした場合と1-2日にした場合とを比較した研究を発表している42。この研究によるとテストの間隔が1-2日あれば1週間の間隔を空けた場合と比較して行動テストの結果に大きな違いは見られなかった42。この知見に基づき、Crawleyらの研究室をはじめ、藤田保健衛生大学、生理学研究所などでも行動テストバッテリーを実施する場合は、テスト間の間隔は1日以上空けることとしている。 | ||
==実施にあたって留意すべき事項== | ==実施にあたって留意すべき事項== | ||
198行目: | 198行目: | ||
行動テストバッテリーでの解析に必要な各群の被験体数は、検出しようとしている効果の大きさどの程度に想定するかによって異なる。例えば、2群比較においてそれぞれが正規分布に従うと仮定して効果量 が1の差、すなわち1標準偏差分の平均値の差、に対して十分な検出力 (statistic power > 0.80) を持つような被験体数は、各群について20匹程度となる53。 | 行動テストバッテリーでの解析に必要な各群の被験体数は、検出しようとしている効果の大きさどの程度に想定するかによって異なる。例えば、2群比較においてそれぞれが正規分布に従うと仮定して効果量 が1の差、すなわち1標準偏差分の平均値の差、に対して十分な検出力 (statistic power > 0.80) を持つような被験体数は、各群について20匹程度となる53。 | ||
遺伝子変異マウスの解析については Crusio | 遺伝子変異マウスの解析については Crusio らが論文化に際しての基準を提唱しており、順守するべき項目として以下に示す8項目を挙げている54。 | ||
#亜系統を含む完全な系統情報を正しい用語を使い記載すること。購入した系統は販売者情報を記載し、繁殖させて用いたものはその手続きを再現できるように十分に詳しく書くこと。 | #亜系統を含む完全な系統情報を正しい用語を使い記載すること。購入した系統は販売者情報を記載し、繁殖させて用いたものはその手続きを再現できるように十分に詳しく書くこと。 | ||
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===結果の解釈における注意事項=== | ===結果の解釈における注意事項=== | ||
ある特定の行動を測定する場合、遺伝的背景・実験環境・目的の行動領域以外の行動異常など、その行動の測定結果に影響を及ぼす「混交要因」が必ず存在する。例えば、空間記憶のテストとしてよく用いられるモリス水迷路(項目4.5.1)においては、水泳能力、視力、プラットフォームに登る動機づけの強さ、逃避戦略などが混交要因になり得る。例えばあるマウスの水泳能力が低い場合、モリス水迷路でそのマウスの成績が低下していても、その原因は記憶・学習の障害でなく水泳能力の低下である可能性がある。このような場合、モリス水迷路でそのマウスの空間記憶を評価することは困難であり、水泳能力を必要としないバーンズ迷路テスト(項目4.5. | ある特定の行動を測定する場合、遺伝的背景・実験環境・目的の行動領域以外の行動異常など、その行動の測定結果に影響を及ぼす「混交要因」が必ず存在する。例えば、空間記憶のテストとしてよく用いられるモリス水迷路(項目4.5.1)においては、水泳能力、視力、プラットフォームに登る動機づけの強さ、逃避戦略などが混交要因になり得る。例えばあるマウスの水泳能力が低い場合、モリス水迷路でそのマウスの成績が低下していても、その原因は記憶・学習の障害でなく水泳能力の低下である可能性がある。このような場合、モリス水迷路でそのマウスの空間記憶を評価することは困難であり、水泳能力を必要としないバーンズ迷路テスト(項目4.5.2)や8方向放射状迷路 (項目 4.5.3) など別の実験で評価する必要がある。例えば、Neurogranin ノックアウトマウスは、モリス水迷路のhidden platform task においてプラットフォームが存在した領域を学習することはできなかったが、バーンズ迷路では逃避箱の存在した穴の位置を学習し、プローブテストにおいてその記憶を想起することができた60。このマウスがモリス水迷路でプラットフォームの位置を学習することができなかった原因は、空間記憶の障害以外の要因である可能性が高い60。このように、ある特定の行動を評価するためには、異なる混交要因をもつ複数のテストで行動の指標を測定し、評価しようとしている行動以外の影響をできるだけ小さくして総合的に判断しなければならない。行動実験によって得られた結果を解釈する際は、Morganによって提唱された「低次の心的な能力によって説明可能なことは、高次の心的な能力によって解釈してはならない」とするモーガンの公準 (Morgan's Canon)61に従うことが推奨される。先の例で言えば、モリス水迷路で成績が悪かった場合において、水泳能力や視力の低下によって成績が低下していると解釈できるなら、空間記憶が障害されているという解釈には慎重になる必要がある。 | ||
==脳科学研究における行動テストバッテリーの役割== | ==脳科学研究における行動テストバッテリーの役割== | ||
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===精神・神経疾患モデルの作製・同定=== | ===精神・神経疾患モデルの作製・同定=== | ||
精神・神経疾患モデル動物を作製するにはいくつかのアプローチがある。ヒトで疾患の原因となる遺伝子変異が同定された場合には、その遺伝子変異をマウスに導入した疾患モデル動物の作製が多く試みられている。ここでは例として自閉症モデルマウスについて紹介する。ヒトの自閉症では、5% | 精神・神経疾患モデル動物を作製するにはいくつかのアプローチがある。ヒトで疾患の原因となる遺伝子変異が同定された場合には、その遺伝子変異をマウスに導入した疾患モデル動物の作製が多く試みられている。ここでは例として自閉症モデルマウスについて紹介する。ヒトの自閉症では、5%程度の症例に染色体異常が見られるが、その中でも頻度が高い異常に染色体15q11-q13の重複がある62。遺伝子工学により対応する染色体の重複を持つマウスが作製され、このマウスが自閉症様の行動異常を示すかどうか調べるため行動テストバッテリーによって解析が行われた。その結果、重複染色体をもつマウスは、社会的行動の異常、超音波によるコミュニケーションの障害、固執傾向の増加など、自閉症様の行動異常のパターンを示すことが明らかとなった63。現在このマウスは、自閉症のモデルマウスとして病態の解明や治療法の探索などに活用されている。 | ||
これとは別に、遺伝子改変マウスの行動表現型から疾患モデルマウスを同定するアプローチもある。ある遺伝子の遺伝子改変マウスを網羅的行動テストバッテリーにより解析し、精神疾患様の行動異常が見出されれば、その遺伝子と特定の疾患との関係を示唆する仮説がそれまでなかったとしても、そのマウスは精神疾患のモデルマウスとなる可能性がある。例えば、前脳特異的カルシニューリン (CN) 欠失マウス (CNマウス) の行動を網羅的行動テストバッテリーで解析したところ、作業記憶に顕著な障害があること、さらに活動量の亢進、社会的行動の低下、PPIの低下など一連の統合失調症様の行動異常をこのマウスが示すことが明らかになった19,64。もともとCNと精神疾患との関係を明示するような仮説はなかったが、CNマウスで得られた結果に基づき、統合失調症患者と健常者を対象に人類遺伝学的研究を行ったところ、CNのサブユニット・CNAγをコードする遺伝子PPP3CCが統合失調症と関連を示すことが分かった65,66。このように遺伝子改変マウスの行動表現型の発見が、疾患モデルマウスの同定に加え、ヒトでの疾患関連遺伝子の発見に繋がる例もある。 | これとは別に、遺伝子改変マウスの行動表現型から疾患モデルマウスを同定するアプローチもある。ある遺伝子の遺伝子改変マウスを網羅的行動テストバッテリーにより解析し、精神疾患様の行動異常が見出されれば、その遺伝子と特定の疾患との関係を示唆する仮説がそれまでなかったとしても、そのマウスは精神疾患のモデルマウスとなる可能性がある。例えば、前脳特異的カルシニューリン (CN) 欠失マウス (CNマウス) の行動を網羅的行動テストバッテリーで解析したところ、作業記憶に顕著な障害があること、さらに活動量の亢進、社会的行動の低下、PPIの低下など一連の統合失調症様の行動異常をこのマウスが示すことが明らかになった19,64。もともとCNと精神疾患との関係を明示するような仮説はなかったが、CNマウスで得られた結果に基づき、統合失調症患者と健常者を対象に人類遺伝学的研究を行ったところ、CNのサブユニット・CNAγをコードする遺伝子PPP3CCが統合失調症と関連を示すことが分かった65,66。このように遺伝子改変マウスの行動表現型の発見が、疾患モデルマウスの同定に加え、ヒトでの疾患関連遺伝子の発見に繋がる例もある。 |