「精神病性障害」の版間の差分

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==精神病性障害の診断基準==
==精神病性障害の診断基準==


 かつて「精神病psychosis」という語は、DSM-II(1968年)<ref name=ref1>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 2nd ed. <br>Washington DC Association, APA, 1968.</ref>では「生活の通常の要求を満たす能力に著しい支障を来すほど精神機能が障害されている」と広く定義されていたのに対し、[[DSM-III]](1980年)<ref name=ref2>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd ed. <br>Washington DC, APA, 1980. </ref>とDSM-III-R(1987年)<ref name=ref3>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd Ed, Revised. <br>Washington DC, APA, 1987</ref>への改訂を経て、「精神病」と言う語は用いられなくなった。「精神病性psyhchotic」という語も、従来の「精神病psychosis」の定義と同一ではなく、「現実検討の著しい障害」というより狭い意味で用いられた。<br> この背景として、精神障害の診断基準においては、本質的で重大な問題を生じうる疾患diseaseや疾病illnessなどと言った用語が避けられるようになったことが挙げられる。代わりに、決して正確な用語ではないが、機能上の苦痛や阻害に伴い、臨床的に認知可能な一連の症状や行動が存在しているという意味の「障害disorder」が統一して用いられることになった。精神病性障害と言う用語もまた、こうした趨勢の中で作成されたものである。<br> DSM-IIIでは、精神病症状psychotic symptomとして[[妄想]]、[[幻覚]]、滅裂な会話、解体した行動が挙げられた。[[DSM-IV-TR]](2000年)<ref name=ref4>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 4th Ed, Text Revision<br>Washington DC, APA, 2000.</ref>においても、「精神病性」の意味は概ね変わらず、妄想、幻覚、解体した会話、解体した行動および[[緊張病性行動]]を示す記述用語として用いられた。[[DSM-5]](2013年)<ref name=ref5>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. <br>Washington DC, APA, 2013. </ref>では、「精神病性」の意味はさらに狭められ、妄想、幻覚、解体した会話のいずれかの存在を意味するとされ、緊張病の非特異化がなされたことが特徴である(新たな意味でのpsychosisの復活)。参考までに、DSMにおけるpsychosis/psychoticの定義の変遷を表の通りに示す。<br> [[ICD-10]]<ref name=ref10 />の中でも、精神病性は「精神力動的機序に関する推測を含まない、便利な記述用語」として用いられ、「幻覚、妄想、および著しい興奮と過活動、著しい精神運動制止、緊張病性行動などいくつかの重度の行動異常」の存在を示す。
 かつて「精神病psychosis」という語は、DSM-II(1968年)<ref name=ref1>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 2nd ed. <br>Washington DC Association, APA, 1968.</ref>では「生活の通常の要求を満たす能力に著しい支障を来すほど精神機能が障害されている」と広く定義されていたのに対し、[[DSM-III]](1980年)<ref name=ref2>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd ed. <br>Washington DC, APA, 1980. </ref>とDSM-III-R(1987年)<ref name=ref3>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd Ed, Revised. <br>Washington DC, APA, 1987</ref>への改訂を経て、「精神病」と言う語は用いられなくなった。「精神病性psyhchotic」という語も、従来の「精神病psychosis」の定義と同一ではなく、「現実検討の著しい障害」というより狭い意味で用いられた。<br> この背景として、精神障害の診断基準においては、本質的で重大な問題を生じうる疾患diseaseや疾病illnessなどと言った用語が避けられるようになったことが挙げられる。代わりに、決して正確な用語ではないが、機能上の苦痛や阻害に伴い、臨床的に認知可能な一連の症状や行動が存在しているという意味の「障害disorder」が統一して用いられることになった。精神病性障害と言う用語もまた、こうした趨勢の中で作成されたものである。<br> DSM-IIIでは、精神病症状psychotic symptomとして[[妄想]]、[[幻覚]]、滅裂な会話、解体した行動が挙げられた。[[DSM-IV-TR]](2000年)<ref name=ref4>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 4th Ed, Text Revision<br>Washington DC, APA, 2000.</ref>においても、「精神病性」の意味は概ね変わらず、妄想、幻覚、解体した会話、解体した行動および[[緊張病性行動]]を示す記述用語として用いられた。[[DSM-5]](2013年)<ref name=ref5>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. <br>Washington DC, APA, 2013. </ref>では、「精神病性」の意味はさらに狭められ、妄想、幻覚、解体した会話のいずれかの存在を意味するとされ、緊張病の非特異化がなされたことが特徴である(新たな意味でのpsychosisの復活)。参考までに、DSMにおけるpsychosis/psychoticの定義の変遷を表の通りに示す。<br> [[ICD-10]](1992年)<ref name=ref10 />の中でも、精神病性は「精神力動的機序に関する推測を含まない、便利な記述用語」として用いられ、「幻覚、妄想、および著しい興奮と過活動、著しい精神運動制止、緊張病性行動などいくつかの重度の行動異常」の存在を示す。


 DSM-5では、[[せん妄]]と精神病症状を伴う[[気分障害]]などを除けば、精神病症状を認める障害は成因によらず「[[統合失調症スペクトラム障害]]および他の精神病性障害群」に含められる。ICD-10では、精神病症状を呈する障害は成因によってF0~F3のいずれのカテゴリーに分類される。すなわち、F0群のうち[[認知症]]、せん妄、[[器質性精神病性障害]]、F1群のうち[[精神作用物質]]使用による急性[[中毒]]、せん妄を伴う[[離脱状態]]、精神病性障害、[[残遺性及び遅発性精神病性障害]]、F2群のうち[[統合失調症]]、[[妄想性障害]]、[[急性一過性精神病性障害]]、[[感応精神病]]、[[統合失調感情障害]]、F3群のうち精神病症状を伴う気分障害([[うつ病]]、[[躁病]]あるいは[[混合性エピソード)]]である。
 DSM-5では、[[せん妄]]と精神病症状を伴う[[気分障害]]などを除けば、精神病症状を認める障害は成因によらず「[[統合失調症スペクトラム障害]]および他の精神病性障害群」に含められる。ICD-10では、精神病症状を呈する障害は成因によってF0~F3のいずれのカテゴリーに分類される。すなわち、F0群のうち[[認知症]]、せん妄、[[器質性精神病性障害]]、F1群のうち[[精神作用物質]]使用による急性[[中毒]]、せん妄を伴う[[離脱状態]]、精神病性障害、[[残遺性及び遅発性精神病性障害]]、F2群のうち[[統合失調症]]、[[妄想性障害]]、[[急性一過性精神病性障害]]、[[感応精神病]]、[[統合失調感情障害]]、F3群のうち精神病症状を伴う気分障害([[うつ病]]、[[躁病]]あるいは[[混合性エピソード)]]である。
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