「Notchリガンド」の版間の差分

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==ファミリー==
==ファミリー==
 Notchリガンドは、Cysteine-richドメインの有無(Jagged/Serrateは有り、Deltaは無し)、DOSドメインの有無によって分類される。
 Notchリガンドは、Cysteine-richドメインの有無(Jagged/Serrateは有り、Deltaは無し)、DOSドメインの有無によって分類される。
(<u>編集部コメント:もし可能でしたら、哺乳類、ショウジョウバエ、線虫の遺伝子がどのように対応するか、表にまとめていただけないでしょうか?</u>)


=== 古典的なDSLリガンド ===
=== 古典的なDSLリガンド ===
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 哺乳類[[Dll3]]、[[Dll4]]はこのタイプ。また線虫の[[APX1]]、[[LAG2]]、[[ARG1]]、[[DSL1]]-[[DSL7|7]]はこのタイプに属する。DSLドメインとEGFリピートを共通して有する。
 哺乳類[[Dll3]]、[[Dll4]]はこのタイプ。また線虫の[[APX1]]、[[LAG2]]、[[ARG1]]、[[DSL1]]-[[DSL7|7]]はこのタイプに属する。DSLドメインとEGFリピートを共通して有する。
=== DOSリガンド ===
=== DOSリガンド ===
 哺乳類[[mDLK1]], [[mDLK2|2]]および線虫[[DOS1]]-[[DOS3|3]]、[[OSM-7]], [[OSM11|11]]はこのタイプ。DOSドメインを有する。
 哺乳類[[mDLK1]], [[mDLK2|2]]および線虫[[DOS1]]-[[DOS3|3]]、[[OSM-7]], [[OSM-11|11]]はこのタイプ。DOSドメインを有する。


==機能==
== 翻訳後修飾 ==
===''Trans''-activationと''cis''-inhibition===
 DLSリガンド(<u>編集部コメント:DLSリガンドに限るのでしょうか?その他のNotchリガンドは?</u>)はタンパク質の[[翻訳]]後、様々な修飾を受ける。この修飾過程によって、リガンドの活性が制御されていることが報告されている。
 Notchレセプターとリガンドとの相互作用は、隣接細胞間での相互作用で、シグナルを伝達する際に起こる''trans''-activationと、同一細胞内でのレセプターとリガンドの相互作用によって起こる''cis''-inhibitionとがある。


==== ''Trans''-activation ====
 隣接細胞間でおこるtrans-activationは非常によく研究されており、発生過程や成体における幹細胞の維持を制御している。隣接細胞が膜表面上に提示するNotchリガンド(Delta, Jagged)とNotchレセプターが相互作用することによって、Notchレセプターの分解が段階的に進行し、Notchの細胞内ドメインが細胞膜上から核内へと輸送され標的遺伝子の[[プロモーター]]上に結合することで、シグナルが伝達される(詳しくは[[Notch]]の頁参照)。
==== ''Cis''-inhibition====
 同一細胞内におけるNotchレセプターとリガンドとの相互作用は、隣接細胞間でおこる''trans''-activationとは異なり、Notchシグナルに対して抑制的に働くことから、''cis''-inhibitionと呼ばれる<ref name=ref5><pubmed>17761886</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>18344021</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed>17006545</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>9778511</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>9655817</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>9281342</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>16144902</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>9108365</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>12050162</pubmed></ref>。''Cis''-inhibitionの詳細な機序は不明な点が多いが、同一細胞内においてNotchとリガンドが相互作用することによって、Notchレセプターが細胞内にトラップされる。それによって膜表面上へと発現するNotchレセプターの数が減少することで、隣接細胞間におけるNotchシグナル伝達に抑制的に働くと考えられている。また、''cis''-inhibitionは一部のNotchシグナル依存的な発生過程に寄与していることが報告されている<ref name=ref4><pubmed>9310319</pubmed></ref> <ref name=ref7 /> <ref name=ref8 /> <ref name=ref9 />。
===Dll1タンパク質の発現振動===
 哺乳類の[[神経発生]]過程および[[体節]]形成過程においてDll1遺伝子は転写活性レベルおよびタンパク質レベルで[[発現振動]]している<ref name=ref26><pubmed>26728556</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>18400163</pubmed></ref>。Dll1の発現は[[bHLH]]型[[抑制性]][[転写因子]][[Hes]]([[Hes1]], [[Hes7]])によって制御されている。Hes遺伝子が自身のネガティブフィードバックにより発現振動を示すため、Hesによる抑制を受けるDll1の発現も振動する。Dll1の発現振動は、神経発生過程では[[神経幹細胞]]の維持に寄与しておりDll1の発現振動がなくなると幹細胞の維持が障害される<ref name=ref26 /> <ref name=ref27 />。体節形成過程ではDll1の発現振動がなくなると[[時計遺伝子]]Hesの発現振動がなくなり体節形成および[[体軸]]の骨格異常が引き起こされる27。
==DSLリガンドの活性を制御する修飾==
 DLSリガンドはタンパクの[[翻訳]]後、様々な修飾を受ける。この修飾過程によって、リガンドの活性が制御されていることが報告されている。
===糖鎖修飾===
===糖鎖修飾===
 Notchの[[糖鎖修飾]](glycosylation)はリガンドの結合能を改変することで、リガンド活性を制御する上で重要な修飾である<ref name=ref20><pubmed>18272537</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>17584081</pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed>17964136</pubmed></ref>。DSLリガンドおよびNotchレセプターのEGFリピート中には''O''-フコースや''O''-グルコースによって修飾される保存された配列があり、これらの糖タンパク質による修飾はNotchシグナルを調整することが報告されている。一方、FringeによるNotch修飾は、[[Delta-like]]リガンドの活性には影響するが、[[Serrate-like]]リガンドの活性には影響しない。
 Notchの[[糖鎖修飾]](glycosylation)はリガンドの結合能を改変することで、リガンド活性を制御する上で重要な修飾である<ref name=ref20><pubmed>18272537</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>17584081</pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed>17964136</pubmed></ref>。DSLリガンドおよびNotchレセプターのEGFリピート中には''O''-フコースや''O''-グルコースによって修飾される保存された配列があり、これらの糖タンパク質による修飾はNotchシグナルを調整することが報告されている。一方、FringeによるNotch修飾は、[[Delta-like]]リガンドの活性には影響するが、[[Serrate-like]]リガンドの活性には影響しない。


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
|+. Notchリガンドの糖転移酵素
|+表1. Notchリガンドの糖転移酵素
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! 名称||添加する糖
! 名称||添加する糖
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===ユビキチン修飾===
===ユビキチン修飾===
 DSLリガンドのユビキチン修飾(ubiquitination)は、リガンドのシグナル活性と細胞膜上の発現を制御する<ref name=ref3><pubmed>16425217</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>16488590</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>12676105</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>17547700</pubmed></ref>。これらのリガンドのE3 ligaseは、Neuralized(Neur)やMind bomb(Mib)である。DSLリガンドのユビキチン修飾は、リガンドのエンドサイトーシスを促進することで、Notchシグナルの活性化を制御する(哺乳類においてはMibのみがその活性を有する)。
 DSLリガンドの[[ユビキチン]]修飾(ubiquitination)は、リガンドのシグナル活性と細胞膜上の発現を制御する<ref name=ref3><pubmed>16425217</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>16488590</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>12676105</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>17547700</pubmed></ref>。これらのリガンドの[[E3リガーゼ]]は、[[Neuralized]]([[Neur]])や[[Mind bomb]]([[Mib]])である。DSLリガンドのユビキチン修飾は、リガンドの[[エンドサイトーシス]]を促進することで、Notchシグナルの活性化を制御する(哺乳類においては[[Mib]]のみがその活性を有する)。


 またエンドサイトーシスだけではなく、ユビキチン修飾によってDSLリガンドの細胞内輸送や分解も制御されている。
 またエンドサイトーシスだけではなく、ユビキチン修飾によってDSLリガンドの細胞内輸送や分解も制御されている。
==活性調節==
===''Trans''-activationと''cis''-inhibition===
 Notchレセプターとリガンドとの相互作用は、隣接細胞間での相互作用で、シグナルを伝達する際に起こる''trans''-activationと、同一細胞内でのレセプターとリガンドの相互作用によって起こる''cis''-inhibitionとがある。
==== ''Trans''-activation ====
 隣接細胞間でおこるtrans-activationは非常によく研究されており、発生過程や成体における幹細胞の維持を制御している。隣接細胞が膜表面上に提示するNotchリガンド(Delta, Jagged)とNotchレセプターが相互作用することによって、Notchレセプターの分解が段階的に進行し、Notchの細胞内ドメインが細胞膜上から核内へと輸送され標的遺伝子の[[プロモーター]]上に結合することで、シグナルが伝達される(詳しくは[[Notch]]の頁参照)。
==== ''Cis''-inhibition====
 同一細胞内におけるNotchレセプターとリガンドとの相互作用は、隣接細胞間でおこる''trans''-activationとは異なり、Notchシグナルに対して抑制的に働くことから、''cis''-inhibitionと呼ばれる<ref name=ref5><pubmed>17761886</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>18344021</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed>17006545</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>9778511</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>9655817</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>9281342</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>16144902</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>9108365</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>12050162</pubmed></ref>。''Cis''-inhibitionの詳細な機序は不明な点が多いが、同一細胞内においてNotchとリガンドが相互作用することによって、Notchレセプターが細胞内にトラップされる。それによって膜表面上へと発現するNotchレセプターの数が減少することで、隣接細胞間におけるNotchシグナル伝達に抑制的に働くと考えられている。また、''cis''-inhibitionは一部のNotchシグナル依存的な発生過程に寄与していることが報告されている<ref name=ref4><pubmed>9310319</pubmed></ref> <ref name=ref7 /> <ref name=ref8 /> <ref name=ref9 />。
===Dll1タンパク質の発現振動===
 哺乳類の[[神経発生]]過程および[[体節]]形成過程においてDll1遺伝子は転写活性レベルおよびタンパク質レベルで[[発現振動]]している<ref name=ref26><pubmed>26728556</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>18400163</pubmed></ref>。Dll1の発現は[[bHLH]]型[[抑制性]][[転写因子]][[Hes]]([[Hes1]], [[Hes7]])によって制御されている。Hes遺伝子が自身のネガティブフィードバックにより発現振動を示すため、Hesによる抑制を受けるDll1の発現も振動する。Dll1の発現振動は、神経発生過程では[[神経幹細胞]]の維持に寄与しておりDll1の発現振動がなくなると幹細胞の維持が障害される<ref name=ref26 /> <ref name=ref27 />。体節形成過程ではDll1の発現振動がなくなると[[時計遺伝子]]Hesの発現振動がなくなり体節形成および[[体軸]]の骨格異常が引き起こされる<ref name=ref27 />。


==Notchリガンド関連疾患==
==Notchリガンド関連疾患==
 DeltaやJaggedといったNotchリガンドはNotchシグナルを活性化させる役割を果たすため、これらの因子の欠損によって様々な疾患が引き起こされることが知られている。
 DeltaやJaggedといったNotchリガンドはNotchシグナルを活性化させる役割を果たすため、これらの因子の欠損によって様々な疾患が引き起こされることが知られている。


*Alagille syndrome(Jagged1遺伝子における変異)<ref name=ref14><pubmed>9207788</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>    9207787</pubmed></ref>
{| class="wikitable"
*Spondylocostal dysostosis(Dll3遺伝子における変異)<ref name=ref2><pubmed>10742114</pubmed></ref>
|+表2. Notchリガンドが関与する疾患
*Curb tumor angiogenesis(Dll4遺伝子における変異)<ref name=ref18><pubmed>17183313</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>17183323</pubmed></ref><br>
!疾患||原因遺伝子
など
|-
|[[wj:アラジール症候群|アラジール症候群]]||Jagged1<ref name=ref14><pubmed>9207788</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>    9207787</pubmed></ref>
|-
|[[wj:脊椎肋骨異骨症|脊椎肋骨異骨症]]||Dll3<ref name=ref2><pubmed>10742114</pubmed></ref>
|-
|[[wj:Curb tumor angiogenesis|Curb tumor angiogenesis]](<u>編集部コメント:日本語は何でしょうか?</u>)||Dll4<ref name=ref18><pubmed>17183313</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>17183323</pubmed></ref><br>
|}


==関連項目==
* [[Notch]]
==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />

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