「記憶想起」の版間の差分

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消去学習には前頭前野(Prefrontal cortex)と扁桃体(Amygdala)が深く関与する[16]。
消去学習には前頭前野(Prefrontal cortex)と扁桃体(Amygdala)が深く関与する[16]。
恐怖条件付け学習、消去学習、消去学習後の想起時において扁桃体基底外側核(BLA)領域から単一細胞記録により、条件付け刺激(CS)に対して示す神経発火パターンの解析から、すくみ反応が高い時に発火頻度が上昇する細胞(恐怖細胞;Fear neuron)と消去学習を経験してすくみ反応が低下した際に発火頻度が増加する細胞(消去細胞;Extinction neuron)が検出されており、恐怖反応と消去反応はそれぞれ異なる細胞が担っていることが示唆されている[17]。恐怖細胞は腹側海馬からの弱い入力を受け、前頭前野の一領域である前辺縁皮質(PL)に投射している。一方、消去細胞は外辺縁皮質(IL)との間に双方向性の投射を持っている。また、消去学習後のテスト時に、PLに投射するBLAニューロンを光抑制すると消去学習が促進する一方で、ILに投射するBLAニューロンを光抑制すると恐怖反応は促進する[18]。このように、BLAを基点とした前頭前野との接続により恐怖反応は正負に制御されている[15],[17]。
恐怖条件付け学習、消去学習、消去学習後の想起時において扁桃体基底外側核(BLA)領域から単一細胞記録により、条件付け刺激(CS)に対して示す神経発火パターンの解析から、すくみ反応が高い時に発火頻度が上昇する細胞(恐怖細胞;Fear neuron)と消去学習を経験してすくみ反応が低下した際に発火頻度が増加する細胞(消去細胞;Extinction neuron)が検出されており、恐怖反応と消去反応はそれぞれ異なる細胞が担っていることが示唆されている[17]。恐怖細胞は腹側海馬からの弱い入力を受け、前頭前野の一領域である前辺縁皮質(PL)に投射している。一方、消去細胞は外辺縁皮質(IL)との間に双方向性の投射を持っている。また、消去学習後のテスト時に、PLに投射するBLAニューロンを光抑制すると消去学習が促進する一方で、ILに投射するBLAニューロンを光抑制すると恐怖反応は促進する[18]。このように、BLAを基点とした前頭前野との接続により恐怖反応は正負に制御されている[15],[17]。
記憶の連合; Memory association
 別々に形成された関連のない記憶同士でも、連続して想起することで関連づけ(記憶の連合)されることがある[19]。また、それぞれの記憶に対応する記憶痕跡細胞(記憶エングラム細胞)を光遺伝学を用いて人為的に同時活動させ同時強制想起させると、両者の間に関連づけが生じて虚記憶が形成される[20]。これらは同時想起によりそれぞれの記憶に対応するエングラム細胞が同時活動し、その結果として記憶エングラム細胞の間のシナプス強化が起こり記憶エングラムを部分的に共有するためであると想定されている[19],[20]。個々の記憶同士が相互作用し合うことにより記憶間で新たな連合が生まれ、既存の記憶を更新していくことで、私たちは知識や概念を形成していくことから、想起に伴う記憶の連合メカニズムの理解はヒトの高次脳機能の解明につながると期待されている。
以上述べてきたように、想起によって誘導される再固定化、消去学習、記憶連合のプロセスは維持、強化、消去、記憶の書き換えなど、元の記憶を修飾する機能を有している。つまり記憶のアップデートと関連しており、想起は状況に応じて柔軟に対応する脳の活動に欠かせないプロセスである。想起についてはまだまだ不明な点が多く研究の途上である。今後、想起のメカニズムがより詳細に解明されることが期待される。
(参考文献)

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