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== アクチビンとは ==
== アクチビンとは ==
 アクチビンは、下垂体前葉細胞からの卵胞刺激ホルモン(FSH)分泌を抑制するインビビンをブタ卵胞液から精製する過程で、インヒビンとは逆にFSHの分泌を促進する分子として偶然に発見された<ref name=Ling1986><pubmed>3086749</pubmed></ref><ref name=Vale1986><pubmed>3012369</pubmed></ref>。
 アクチビンは、[[下垂体前葉]]細胞からの[[卵胞刺激ホルモン]]([[FSH]])分泌を抑制する[[インビビン]]を[[ブタ]][[卵胞]]液から精製する過程で、インヒビンとは逆にFSHの分泌を促進する分子として偶然に発見された<ref name=Ling1986><pubmed>3086749</pubmed></ref><ref name=Vale1986><pubmed>3012369</pubmed></ref>。
[[ファイル:Tsuchida Activin Fig1.png|サムネイル|'''図1. アクチビンとインヒビン''']]
[[ファイル:Tsuchida Activin Fig1.png|サムネイル|'''図1. アクチビンとインヒビン''']]
 内分泌の要である視床下部―下垂体―生殖腺系では、視床下部由来のGnRH(gonadotropin-releasing hormone)が下垂体前葉からのゴナドトロピン(FSH, LH(黄体形成ホルモン))の分泌を促進し、生殖腺でのステロイド産生と成熟を促す。生殖腺ではエストロゲンなどのステロイドホルモンやFSH, LHが視床下部へのネガティブ・フィードバック機構でGnRH産生を抑制している。生殖腺由来の非ステロイド性の分子が下垂体前葉からのFSHの産生や分泌を特異的に抑制する機構が提唱されていた。これが1932年に提唱されたインヒビン仮説である<ref name=McCullagh1932><pubmed>17815236</pubmed></ref>。1985年になるとインヒビンがブタ卵胞液からタンパク質として精製され、その存在が証明された<ref name=Makanji2014><pubmed>25051334</pubmed></ref>。インヒビンは18kDaのインヒビンα鎖と13kDaのアクチビンβ鎖(βAあるいはβB)のペプチドがS-S結合を介してヘテロ二量体の構造を有する。インヒビンA(αβA)とインヒビンB(αβB)である('''図1''')。このインヒビン精製の過程で、逆にFSHの分泌を促進するペプチドも発見されアクチビンと命名された。その際、精製されたのは、アクチビンA(βAβA:アクチビンβA鎖のホモ二量体)とアクチビンAB(βAβB:アクチビンはβA鎖とアクチビンβB鎖のヘテロ二量体)である。その後、卵巣、卵胞液、フォリスタチン/アクチビンを複合体として精製することで、アクチビンB(βBβB:アクチビンβB鎖のホモ二量体)も生体内で存在することが証明されている。なお、フォリスタチンは、細胞外でアクチビンに結合しその生理活性を強く阻害する。


 構造的には、アクチビンはTGF-βファミリーに属するポリペプチドであり、アクチビンβ鎖(インヒビンβ鎖とも称されるが、本稿ではアクチビンβ鎖と呼ぶ。)のホモ二量体またはヘテロ二量体として存在する。インヒビンはインヒビンα鎖とアクチビンβ鎖のヘテロ二量体であり、インヒビンとアクチビンは共通のβ鎖を持つことから部分的に類似した構造を有する。しかしながら、生理学的作用は正反対である。インヒビンのサブユニットのインヒビンα鎖は1種類のみであり、アクチビンβ鎖の違いによりインヒビンAとインヒビンBが存在する。アクチビンを構成するβ鎖サブユニットにはβA鎖とβB鎖が知られている。主要なサブファミリーとしては、アクチビンA(βAβA), B(βBβB), AB(βAβB)が生体に存在する('''図1''')。なお、肝臓特異的に発現するアクチビンC(βCβC)とアクチビンE(βEβE)も知られている。アクチビンは、神経内分泌系や細胞の分化誘導に関わるペプチドホルモンであるが、それ以外にも様々な生理作用を有する重要なシグナル分子である。生殖器系への作用が主に解析されてきたがその機能は極めて多彩で、細胞分化、アポトーシス、初期発生、細胞周期調節、創傷治癒、免疫調節など多岐に渡る。神経系でも興味深い作用を発揮する。
 内分泌の要である[[視床下部]]―下垂体―[[生殖腺]]系では、視床下部由来の[[性腺刺激ホルモン放出ホルモン]] ([[gonadotropin-releasing hormone]]; [[GnRH]])が下垂体前葉からの[[ゴナドトロピン]](FSH, [[黄体形成ホルモン]] ([[lutenizing hormone]]; LH))の分泌を促進し、<u>生殖腺での[[ステロイド]]産生と成熟</u>を促す。生殖腺では[[エストロゲン]]などのステロイドホルモンやFSH, LHが視床下部への[[ネガティブ・フィードバック]]機構でGnRH産生を抑制している。生殖腺由来の非ステロイド性の分子が下垂体前葉からのFSHの産生や分泌を特異的に抑制する機構が提唱されていた。これが1932年に提唱されたインヒビン仮説である<ref name=McCullagh1932><pubmed>17815236</pubmed></ref>。


 アクチビン/インヒビン/フォリスタチン系は神経内分泌系、下垂体制御系で重要な生理作用を持つ。生殖腺由来のインヒビンはフィードバック調節による下垂体での作用が主要であり低濃度でFSH産生を抑制する。これはFSHの基礎分泌がアクチビンにより維持されており、それをインヒビンがアンタゴニストとして作用し、それを阻害するためと考えられている。アクチビンの作用は産生組織周辺のオートクライン作用あるいはパラクリン作用が主体である。例えば、下垂体内ではオートクライン作用でFSHの転写や分泌を調節している。卵巣顆粒膜細胞では、アクチビンはプロゲステロン産生やLH受容体を増加させ黄体化を促進する。この作用は主としてパラクライン作用と考えられている。アクチビンは多くの組織で産生され、視床下部―下垂体―生殖腺以外の組織でも多彩な機能を発揮する。神経系でもアクチビンは極めてユニークな作用を発揮する。
 1985年になるとインヒビンがブタ卵胞液からタンパク質として精製され、その存在が証明された<ref name=Makanji2014><pubmed>25051334</pubmed></ref>。インヒビンは18kDaのインヒビンα鎖と13kDaのアクチビンβ鎖(βAあるいはβB)のペプチドが[[S-S結合]]を介してヘテロ二量体の構造を有する。[[インヒビンA]] (αβA)と[[インヒビンB]] (αβB)である('''図1''')。このインヒビン精製の過程で、逆にFSHの分泌を促進するペプチドも発見されアクチビンと命名された。その際、精製されたのは、アクチビンA(βAβA:アクチビンβA鎖のホモ二量体)と[[アクチビンAB]] (βAβB:アクチビンはβA鎖とアクチビンβB鎖のヘテロ二量体)である。その後、[[卵巣]]、卵胞液、[[フォリスタチン]]/アクチビンを複合体として精製することで、アクチビンB(βBβB:アクチビンβB鎖のホモ二量体)も生体内で存在することが証明されている。なお、フォリスタチンは、細胞外でアクチビンに結合しその生理活性を強く阻害する。
 
 構造的には、アクチビンは[[トランスフォーミング増殖因子β]] ([[transforming growth factor-β]]; [[TGF-β]])ファミリーに属する[[ポリペプチド]]であり、アクチビンβ鎖(インヒビンβ鎖とも称されるが、本稿ではアクチビンβ鎖と呼ぶ。)のホモ二量体またはヘテロ二量体として存在する。インヒビンはインヒビンα鎖とアクチビンβ鎖のヘテロ二量体であり、インヒビンとアクチビンは共通のβ鎖を持つことから部分的に類似した構造を有する。しかしながら、生理学的作用は正反対である。インヒビンのサブユニットのインヒビンα鎖は1種類のみであり、アクチビンβ鎖の違いによりインヒビンAとインヒビンBが存在する。アクチビンを構成するβ鎖サブユニットにはβA鎖とβB鎖が知られている。主要なサブファミリーとしては、[[アクチビンA]](βAβA), [[アクチビンB|B]](βBβB), AB(βAβB)が生体に存在する('''図1''')。なお、[[肝臓]]特異的に発現する[[アクチビンC]] (βCβC)と[[アクチビンE]] (βEβE)も知られている。アクチビンは、神経内分泌系や細胞の分化誘導に関わるペプチドホルモンであるが、それ以外にも様々な生理作用を有する重要なシグナル分子である。生殖器系への作用が主に解析されてきたがその機能は極めて多彩で、[[細胞分化]]、[[アポトーシス]]、初期[[発生]]、[[細胞周期]]調節、創傷治癒、免疫調節など多岐に渡る。
 
 アクチビン/インヒビン/フォリスタチン系は神経系でも興味深い作用を発揮し、特に[[神経内分泌]]系、[[下垂体]]制御系で重要な生理作用を持つ。生殖腺由来のインヒビンはフィードバック調節による下垂体での作用が主要であり低濃度でFSH産生を抑制する。これはFSHの基礎分泌がアクチビンにより維持されており、それをインヒビンがアンタゴニストとして作用し、それを阻害するためと考えられている。アクチビンの作用は産生組織周辺の[[オートクライン]]作用あるいは[[パラクリン]]作用が主体である。例えば、下垂体内ではオートクライン作用でFSHの[[転写]]や分泌を調節している。卵巣[[顆粒膜細胞]]では、アクチビンは[[プロゲステロン]]産生や[[黄体形成ホルモン受容体]]を増加させ[[黄体化]]を促進する。この作用は主としてパラクライン作用と考えられている。アクチビンは多くの組織で産生され、視床下部―下垂体―生殖腺以外の組織でも多彩な機能を発揮する。神経系でもアクチビンは極めてユニークな作用を発揮する。
[[ファイル:2arv.pdb|サムネイル|'''図2. アクチビンの立体構造'''<br>[https://www.rcsb.org/structure/2ARV PDB 2ARV]。]]
[[ファイル:2arv.pdb|サムネイル|'''図2. アクチビンの立体構造'''<br>[https://www.rcsb.org/structure/2ARV PDB 2ARV]。]]
[[ファイル:Tsuchida Activin Fig3.png|サムネイル|'''図3. アクチビンと受容体(ActRIIB-ECD)の結合'''<br>下部がアクチビン二量体、上部(緑、オレンジ)がActRIIBの細胞外領域。[https://www.rcsb.org/structure/1S4Y PDB 1S4Y]。]]
[[ファイル:Tsuchida Activin Fig3.png|サムネイル|'''図3. アクチビンと受容体(ActRIIB-ECD)の結合'''<br>下部がアクチビン二量体、上部(緑、オレンジ)がActRIIBの細胞外領域。[https://www.rcsb.org/structure/1S4Y PDB 1S4Y]。]]
== 構造 ==
== 構造 ==
 アクチビンは,アクチビンβA鎖あるいはアクチビンβB鎖のホモ二量体あるいはヘテロ二量体である。前駆体ペプチドがS-S結合で二量体を形成した後にプロセシングを受けて約26 kDaの二量体の成熟型が生成される。アクチビンはTGF-β(transforming growth factor-β)ファミリーに属する細胞増殖因子である(下記サブファミリーの項目を参照)。主要な二量体のアクチビンはアクチビンA,B,ABである('''図1''')。立体構造も解明されており、各サブユニットは、複数のβシート構造とαヘリックス構造からなり、全体として、二量体はバタフライ様の構造を取る('''図2''')。いわば両手を組合わせたような構造であり、リスト部分のα-ヘリックス構造、4本の指に相当する4つのβ-シート部分が逆並行に配置され、先端はシステイン・ノットと称される結び目構造を取る。アクチビンは他のTGF-βファミリーに比べて、受容体に結合していない状態では、比較的柔軟な構造を取りうる<ref name=Greenwald2004><pubmed>15304227</pubmed></ref><ref name=Thompson2003><pubmed>12660162</pubmed></ref><ref name=Thompson2005><pubmed>16198295</pubmed></ref>。バタフライ構造がより引き寄せられた構造やより開いた構造も取る。アクチビン・I型受容体・II型受容体複合体は、1:2:2の比率で複合体を形成する。I型受容体はアクチビン二量体のくぼみの部分に、II型受容体にはナックル領域に結合する<ref name=Greenwald2004><pubmed>15304227</pubmed></ref><ref name=Thompson2003><pubmed>12660162</pubmed></ref>。フォリスタチンとの結合はフォリスタチンの項を参照されたい。
 アクチビンは、アクチビンβA鎖あるいはアクチビンβB鎖のホモ二量体あるいはヘテロ二量体である。前駆体ペプチドがS-S結合で二量体を形成した後にプロセシングを受けて約26 kDaの二量体の成熟型が生成される。アクチビンはTGF-β(transforming growth factor-β)ファミリーに属する細胞増殖因子である(下記サブファミリーの項目を参照)。主要な二量体のアクチビンはアクチビンA、B、ABである('''図1''')。立体構造も解明されており、各サブユニットは、複数の[[βシート構造]]と[[αヘリックス構造]]からなり、全体として、二量体はバタフライ様の構造を取る('''図2''')。いわば両手を組合わせたような構造であり、リスト部分のα-ヘリックス構造、4本の指に相当する4つのβ-シート部分が逆並行に配置され、先端は[[システイン・ノット]]と称される結び目構造を取る。アクチビンは他のTGF-βファミリーに比べて、受容体に結合していない状態では、比較的柔軟な構造を取りうる<ref name=Greenwald2004><pubmed>15304227</pubmed></ref><ref name=Thompson2003><pubmed>12660162</pubmed></ref><ref name=Thompson2005><pubmed>16198295</pubmed></ref>。バタフライ構造がより引き寄せられた構造やより開いた構造も取る。
 
 アクチビン・I型受容体・II型受容体複合体は、1:2:2の比率で複合体を形成する。I型受容体はアクチビン二量体のくぼみの部分に、II型受容体にはナックル領域に結合する<ref name=Greenwald2004><pubmed>15304227</pubmed></ref><ref name=Thompson2003><pubmed>12660162</pubmed></ref>。フォリスタチンとの結合はフォリスタチンの項を参照されたい。


 インヒビンは,2種の異なった遺伝子由来のα鎖サブユニットとβ鎖サブユニットの前駆体が二量体を形成し,プロセシングを受けて,カルボキシル末端の成熟型の二量体として成熟体インヒビンが産生される.インヒビンAとインヒビンBが存在する('''図1''')。インヒビンもTGF-βファミリーに属する細胞増殖分化因子である。インヒビンAはアクチビンII型受容体に結合し、βグリカンを共受容体とすることでアクチビンのII型受容体への結合を抑制しアクチビンに拮抗する。インヒビンBのアクチビンII型受容体への結合は下垂体前葉の性線刺激ホルモン産生細胞(ゴナドトロフ)に特異的に発現するTGFBR3L(transforming growth factor beta receptor 3 like)を共受容体とすることで高まりアクチビンと拮抗する<ref name=Brule2021><pubmed>34910520</pubmed></ref><ref name=Lewis2000><pubmed>10746731</pubmed></ref>'''(表1)'''。
 インヒビンは、2種の異なった遺伝子由来のα鎖サブユニットとβ鎖サブユニットの前駆体が二量体を形成し、プロセシングを受けて、カルボキシル末端の成熟型の二量体として成熟体インヒビンが産生される.インヒビンAとインヒビンBが存在する('''図1''')。インヒビンもTGF-βファミリーに属する細胞増殖分化因子である。インヒビンAは[[アクチビンII型受容体]]に結合し、[[βグリカン]]を共受容体とすることでアクチビンのII型受容体への結合を抑制しアクチビンに拮抗する。インヒビンBのアクチビンII型受容体への結合は下垂体前葉の性線刺激ホルモン産生細胞([[ゴナドトロフ]])に特異的に発現する[[transforming growth factor beta receptor 3 like]] ([[TGFBR3L]])を[[共受容体]]とすることで高まりアクチビンと拮抗する<ref name=Brule2021><pubmed>34910520</pubmed></ref><ref name=Lewis2000><pubmed>10746731</pubmed></ref>'''(表1)'''。
{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
|+表1. アクチビンの受容体の構成
|+表1. アクチビンの受容体の構成
! リガンド !! タイプII受容体 !! タイプI受容体 !! コ・レセプター !! Smad
! リガンド !! タイプII受容体 !! タイプI受容体 !! 共受容体 !! Smad
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| アクチビン A || ACVR2A, ACVR2B || ACVR1B, (ACVR1C) || - || rowspan="3"|Smad 2,3 with Smad4
| アクチビンA || [[ACVR2A]], [[ACVR2B]] || [[ACVR1B]], ([[ACVR1C]]) || - || rowspan="3"|[[Smad2]],[[SMAD3|3]] with [[Smad4]]
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| アクチビン B || ACVR2A, ACVR2B || ACVR1C, ACVR1B || -  
| アクチビンB || ACVR2A, ACVR2B || ACVR1C, ACVR1B || -  
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| アクチビン AB || ACVR2A, ACVR2B || ACVR1B, (ACVR1C) || -  
| アクチビンAB || ACVR2A, ACVR2B || ACVR1B, (ACVR1C) || -  
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| インヒビン A || ACVR2A, ACVR2B || - || Betaglycan ||  
| インヒビンA || ACVR2A, ACVR2B || - || &beta;glycan ||  
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| インヒビン B || ACVR2A, ACVR2B || - || TGFBR3L ||  
| インヒビンB || ACVR2A, ACVR2B || - || TGFBR3L ||  
|}
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! 構造 !! PDB !! 参考文献
! 構造 !! PDB !! 参考文献
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| アクチビンA ||  2ARV ||<ref name=Harrington2006><pubmed>16482217</pubmed></ref>
| アクチビンA ||  [https://www.rcsb.org/structure/2ARV 2ARV] ||<ref name=Harrington2006><pubmed>16482217</pubmed></ref>
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| アクチビンAとアクチビンII型受容体 (ACVR2A, ActRIIA) 複合体 || 7U5P ||<ref name=Chu2022><pubmed>35643319</pubmed></ref>
| アクチビンAとアクチビンII型受容体 (ACVR2A, [[ActRIIA]]) 複合体 || [https://www.rcsb.org/structure/7U5P 7U5P] ||<ref name=Chu2022><pubmed>35643319</pubmed></ref>
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| アクチビンAとアクチビンII型受容体 (ACVR2B, ActRIIB) 複合体('''図3''') || 1NYU 1NYS ||<ref name=Thompson2003><pubmed>12660162</pubmed></ref>
| アクチビンAとアクチビンII型受容体 (ACVR2B, ActRIIB) 複合体('''図3''') || [https://www.rcsb.org/structure/1NYU 1NYU] [https://www.rcsb.org/structure/1NYS 1NYS] ||<ref name=Thompson2003><pubmed>12660162</pubmed></ref>
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| アクチビンAとフォリスタチン複合体 || 2B0U ||<ref name=Cash2009><pubmed>19644449</pubmed></ref><ref name=Thompson2005><pubmed>16198295</pubmed></ref>
| アクチビンAとフォリスタチン複合体 || [https://www.rcsb.org/structure/2B0U 2B0U] ||<ref name=Cash2009><pubmed>19644449</pubmed></ref><ref name=Thompson2005><pubmed>16198295</pubmed></ref>
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| アクチビンAとFSTL3(FLRG)複合体 || 3B4V ||<ref name=Stamler2008><pubmed>18768470</pubmed></ref>
| アクチビンAとFSTL3(FLRG)複合体 || [https://www.rcsb.org/structure/3B4V 3B4V] ||<ref name=Stamler2008><pubmed>18768470</pubmed></ref>
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|}


== サブファミリー ==
== サブファミリー ==
 一般的に単にアクチビンと表記される場合は、アクチビンAを示すことが多い。主要な二量体のアクチビンはアクチビンA,B,ABである。TGF-βスーパーファミリーに属する細胞増殖分化因子である。TGF-βスーパーファミリーには、多くのリガンドが知られており、TGF-βサブグループ、BMP(骨形成因子)サブグループ、アクチビン/nodalサブグループに大別される。構造上、アクチビンは、マイオスタチン、GDF11に類似している。アクチビンを構成するアクチビンβ鎖はそれぞれ9個のシステインを持つが、多くのTGF-βファミリーに属する分子で保存されている。そのうちの1つのシステインがアクチビンβ鎖の二量体形成に寄与し、他のシステインはサブユニット内のジスルフィド結合に関与し二量体の安定化を支持している。サブファミリーとして、アクチビンには、アクチビンβ鎖を共有した阻害因子のインヒビンが存在することがTGF-βスーパーファミリーの中でユニークである。肝臓特異的な発現をするアクチビンCとアクチビンEは代謝調節に関与している。すべてTGF-βスーパーファミリーに属するポリペプチド型の細胞増殖分化制御因子である。
 一般的に単にアクチビンと表記される場合は、アクチビンAを示すことが多い。主要な二量体のアクチビンはアクチビンA、B、ABである。TGF-βスーパーファミリーには、多くが知られており、TGF-βサブグループ、[[骨形成因子]] ([[bone morphogenetic protein]]; [[BMP]])サブグループ、アクチビン/[[ノーダル]]サブグループに大別される。構造上、アクチビンは、[[マイオスタチン]]、[[成長分化因子11]] ([[growth differentiation factor 11]]); [[GDF11]])に類似している。アクチビンを構成するアクチビンβ鎖はそれぞれ9個のシステインを持つが、多くのTGF-βファミリーに属する分子で保存されている。そのうちの1つのシステインがアクチビンβ鎖の二量体形成に寄与し、他のシステインはサブユニット内のジスルフィド結合に関与し二量体の安定化を支持している。サブファミリーとして、アクチビンには、アクチビンβ鎖を共有した阻害因子のインヒビンが存在することがTGF-βスーパーファミリーの中でユニークである。肝臓特異的な発現をするアクチビンCとアクチビンEは代謝調節に関与している。
[[ファイル:Tsuchida Activin Fig4.png|サムネイル|'''図4. アクチビンのII型およびI型受容体''']]
[[ファイル:Tsuchida Activin Fig4.png|サムネイル|'''図4. アクチビンのII型およびI型受容体''']]
[[ファイル:Tsuchida Activin Fig5.png|サムネイル|'''図5. アクチビンのシグナル伝達の概要''']]
[[ファイル:Tsuchida Activin Fig5.png|サムネイル|'''図5. アクチビンのシグナル伝達の概要''']]
== アクチビン受容体 ==
== アクチビン受容体 ==
 アクチビンを含めたTGF-βファミリーの受容体は、1回膜貫通型で細胞内にセリン/スレオニンキナーゼの構造を有する('''図4''')。I型受容体とII型受容体が存在する。アクチビンは、II型受容体の細胞外領域に結合する。II型受容体は恒常的にリン酸化されている。I型受容体は単独ではアクチビンへの結合は示さないが、アクチビン/II型受容体の複合体に会合する。アクチビンが結合すると、受容体各々の二量体が会合したヘテロ四量体として機能している。II型受容体としては、ActRIIA(ACVR2A)が発現クローニングの手法でTGF-βファミリーの受容体として最初に同定された。その後、ActRIIB(ACVR2B)が発見された<ref name=Mathews1991><pubmed>1646080</pubmed></ref><ref name=Attisano1992><pubmed>1310075</pubmed></ref><ref name=Tsuchida2008><pubmed>17878607</pubmed></ref>。ACVR2AとACVR2Bの両者はアクチビンのII型受容体として働く。I型受容体は、ALK(activin-receptor like kinase)と総称され、ALK1~7まで存在する。アクチビンのI型受容体は、主にALK4(ActRIB, ACVRIB)であり、アクチビンA, ABのシグナルを伝達する。アクチビンBに関しては、その生理活性がアクチビンAより弱いことが知られていたが、II型受容体への結合が弱いためと考えられている。そして、I型受容体として主としてALK7(ACVR1C、ActRIC)を活性化する<ref name=Bernard2006><pubmed>17040568</pubmed></ref><ref name=Tsuchida2004><pubmed>15196700</pubmed></ref>(Table 1)。ALK7(ACVR1C)は神経系と脂肪組織での発現が高く、アクチビンB以外に、GDF3 (growth differentiation factor 3), GDF1, nodalの受容体としても働く<ref name=Reissmann2001><pubmed>11485994</pubmed></ref><ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref>。GDF3, GDF1, Nodalの場合はEGF-CFCファミリーに属するcriptoまたはcrypticが補助因子として受容体の活性化に寄与する。
 1回膜貫通型で細胞内に[[セリン/スレオニンキナーゼ]]の構造を有する('''図4''')。I型受容体とII型受容体が存在する。
=== II型受容体 ===
 アクチビンは、II型受容体の細胞外領域に結合する。II型受容体は恒常的にリン酸化されている。I型受容体は単独ではアクチビンへの結合は示さないが、アクチビン/II型受容体の複合体に会合する。アクチビンが結合すると、受容体各々の二量体が会合したヘテロ四量体として機能している。II型受容体としては、[[ActRIIA]] (ACVR2A)が[[発現クローニング]]の手法で最初に同定された。その後、[[ActRIIB]] (ACVR2B)が発見された<ref name=Mathews1991><pubmed>1646080</pubmed></ref><ref name=Attisano1992><pubmed>1310075</pubmed></ref><ref name=Tsuchida2008><pubmed>17878607</pubmed></ref>。ACVR2AとACVR2Bの両者はアクチビンのII型受容体として働く。
=== I型受容体 ===
 I型受容体は、[[activin-receptor like kinase]] (ALK)と総称され、[[ALK1]]~[[ALK7|7]]まで存在する。アクチビンのI型受容体は、主に[[ALK4]]([[ActRIB]], ACVRIB)であり、アクチビンA, ABのシグナルを伝達する。アクチビンBに関しては、その生理活性がアクチビンAより弱いことが知られていたが、II型受容体への結合が弱いためと考えられている。そして、I型受容体として主としてALK7(ACVR1C、ActRIC)を活性化する<ref name=Bernard2006><pubmed>17040568</pubmed></ref><ref name=Tsuchida2004><pubmed>15196700</pubmed></ref>(Table 1)。ALK7(ACVR1C)は神経系と脂肪組織での発現が高く、アクチビンB以外に、[[成長分化因子3]] ([[GDF3]]), [[成長分化因子1]] ([[GDF1]]), ノーダルの受容体としても働く<ref name=Reissmann2001><pubmed>11485994</pubmed></ref><ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref>。GDF3, GDF1, ノーダルの場合はEGF-CFCファミリーに属する[[cripto]]または[[cryptic]]が補助因子として受容体の活性化に寄与する。
 
 アクチビンがII型受容体の細胞外領域と結合しI型受容体と複合体を形成すると、I型受容体の細胞内領域にある[[グリシン]]/[[セリン]]に富んだGS領域がII型受容体によりリン酸化を受ける。アクチビンの細胞内シグナルは、受容体の下流ではTGF-β型のSmadである[[Smad2]]/[[Smad3|3]]をリン酸化し、[[Smad4]]と共に[[核]]移行し様々な[[転写活性因子]]と相互作用し転写を調節している('''図5''')。フィードバックにより、抑制型Smadである[[Smad6]]/[[Smad7|7]]で阻害される。アクチビンのI型受容体(ACVR1BとACVR1C)はTGF-βのI型受容体である[[ALK5]]と構造及び機能面で類似しており、細胞内シグナルもTGF-βと共通点が多い<ref name=Tsuchida2008><pubmed>17878607</pubmed></ref>。


 アクチビンがII型受容体の細胞外領域と結合しI型受容体と複合体を形成すると、I型受容体の細胞内領域にあるグリシン/セリンに富んだGS領域がII型受容体によりリン酸化を受ける。アクチビンの細胞内シグナルは、受容体の下流ではTGF-β型のSmadであるSmad2/3をリン酸化し、Smad4と共に核移行し様々な転写活性因子と相互作用し転写を調節している('''図5''')。フィードバックにより、抑制型SmadであるSmad6/7で阻害される。アクチビンのI型受容体(ACVR1BとACVR1C)はTGF-βのI型受容体であるALK5と構造及び機能面で類似しており、細胞内シグナルもTGF-βと共通点が多い<ref name=Tsuchida2008><pubmed>17878607</pubmed></ref>。
 アクチビン受容体にはスプライシングの違いによるアイソフォームが存在する。ActRIIA (ACVR2A)には、神経系特異的なActRIIA-Nが知られている<ref name=Shoji1998><pubmed>9610356</pubmed></ref>。ActRIIB(ACVR2B)にも4種のスプライシングバリアントが報告されている<ref name=Attisano1992><pubmed>1310075</pubmed></ref>。ActRIB (ACVRIB)には[[下垂体腺腫]]特異的バリアントが存在する。カルボキシル末端欠損型が見られ、[[優勢阻害体]]として作用する<ref name=Alexander1996><pubmed>8636304</pubmed></ref>。ActRIC(ACVR1C)にもバリアントが知られている<ref name=Roberts2003><pubmed>12606401</pubmed></ref>。


 アクチビン受容体にはスプライシングの違いによるアイソフォームが存在する。ActRIIA(ACVR2A)には、神経系特異的なActRIIA-Nが知られている<ref name=Shoji1998><pubmed>9610356</pubmed></ref>。ActRIIB(ACVR2B)にも4種のスプライシングバリアントが報告されている<ref name=Attisano1992><pubmed>1310075</pubmed></ref>。ActRIB (ACVRIB)には下垂体腺腫特異的バリアントが存在する。カルボキシル末端欠損型が見られ、優性阻害体として作用する<ref name=Alexander1996><pubmed>8636304</pubmed></ref>。ActRIC(ACVR1C)にもバリアントが知られている<ref name=Roberts2003><pubmed>12606401</pubmed></ref>。
 細胞外では、アクチビンの結合タンパク質としてフォリスタチンが知られている。フォリスタチンは、細胞外でアクチビンと2:1(フォリスタチン2分子にアクチビン1分子)で結合しその機能を阻害する。
細胞外では、アクチビンの結合タンパク質としてフォリスタチンが知られている。フォリスタチンは、細胞外でアクチビンと2:1(フォリスタチン2分子にアクチビン1分子)で結合しその機能を阻害する。


== 発現 ==
== 発現 ==
 アクチビンAのmRNAやタンパク質は多くの組織で発現が確認される。神経系では、内在性アクチビンAは、海馬ではCA1, CA3, DGでの発現が確認されている。長期増強(LTP, long-term potentiation)誘導刺激で、海馬での発現が顕著に上昇する<ref name=Andreasson1995><pubmed>8596648</pubmed></ref><ref name=Inokuchi1996><pubmed>8612762</pubmed></ref><ref name=Tretter1996><pubmed>8905672</pubmed></ref>。神経系では、アクチビンBのmRNAやタンパク質は、皮質、海馬、嗅球、延髄、小脳、視床で発現する。ACVR2Aの神経系での発現は、皮質サブプレート、海馬、嗅球で多く見られる。ACVR1Bは、神経系で大脳皮質、海馬、嗅球、線状体など多くの組織で発現する。ACVR1Cは、前脳、海馬CA3、基底核、視床、小脳での発現が見られる<ref name=Tsuchida1996><pubmed>8875430</pubmed></ref>。ACVR1Cの神経系における機能は最近報告されている。
 アクチビンAの[[mRNA]]やタンパク質は多くの組織で発現が確認される。神経系では、海馬では[[CA1]], [[CA3]], [[歯状回]]での発現が確認されている。[[長期増強]]([[long-term potentiation]]; [[LTP]])誘導刺激で、海馬での発現が顕著に上昇する<ref name=Andreasson1995><pubmed>8596648</pubmed></ref><ref name=Inokuchi1996><pubmed>8612762</pubmed></ref><ref name=Tretter1996><pubmed>8905672</pubmed></ref>
 
 アクチビンBのmRNAやタンパク質は、神経系では、[[大脳皮質]]、海馬、[[嗅球]]、[[延髄]]、[[小脳]]、[[視床]]で発現する。ACVR2Aの神経系での発現は、[[皮質サブプレート]]、海馬、嗅球で多く見られる。ACVR1Bは、神経系で大脳皮質、海馬、嗅球、[[線状体]]など多くの組織で発現する。ACVR1Cは、[[前脳]]、海馬CA3、[[基底核]]、視床、小脳での発現が見られる<ref name=Tsuchida1996><pubmed>8875430</pubmed></ref>


== 機能 ==
== 機能 ==
 アクチビンは、作用も多彩である。生殖腺顆粒膜細胞や膵内分泌細胞の分化促進,赤芽球分化促進,肝細胞や免疫B細胞のアポトーシス誘導,神経細胞の保護作用を列挙することができる。神経細胞の生存因子としても精製されている<ref name=Schubert1990><pubmed>2330043</pubmed></ref>。アクチビンの存在する組織にはフォリスタチンが共存し作用を調節している。アクチビンのシグナルでフォリスタチンの発現は上昇する。
 アクチビンは、多彩な作用を持つ。生殖腺顆粒膜細胞や[[膵]]内分泌細胞の分化促進、[[赤芽球]]分化促進、[[肝細胞]]や免疫[[B細胞]]の[[アポトーシス]]誘導、神経細胞の保護作用を列挙することができる。神経細胞の生存因子としても精製されている<ref name=Schubert1990><pubmed>2330043</pubmed></ref>。アクチビンの存在する組織にはフォリスタチンが共存し作用を調節している。アクチビンのシグナルでフォリスタチンの発現は上昇する。


===内分泌系===
===内分泌系===
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=== 神経系===
=== 神経系===
 海馬などに見られる興奮性シナプスには、神経伝達物質の受け取り側のポストシナプスに樹状突起の棘(スパイン)と呼ばれる構造が存在し、記憶素子として重要である。アクチビンには、スパインのネック(首部分)を伸長させる効果と各スパインに接触するプレシナプス数を増加させる作用がある<ref name=Shoji-Kasai2007><pubmed>17940062</pubmed></ref>。この効果は、Erk1/2のリン酸化を介している。
 海馬などに見られる[[興奮性シナプス]]には、[[神経伝達物質]]の受け取り側の[[シナプス後部]]に[[樹状突起棘]]([[スパイン]])と呼ばれる構造が存在し、[[記憶素子]]として重要である。アクチビンには、スパイン頸部を伸長させる効果と各スパインに接触する[[シナプス前部]]数を増加させる作用がある<ref name=Shoji-Kasai2007><pubmed>17940062</pubmed></ref>。この効果は、[[Erk1]]/[[Erk2|2]]のリン酸化を介している。
 
 興奮性シナプス入力によりアクチビンβAのmRNAが急速かつ一過性に誘導される<ref name=Andreasson1995><pubmed>8596648</pubmed></ref><ref name=Inokuchi1996><pubmed>8612762</pubmed></ref>。長期増強を誘導するテタヌス刺激によって海馬の顆粒細胞ニューロンで誘導され、それは[[NMDA型グルタミン酸受容体]]依存性である。[[カイニン酸]]刺激による[[てんかん]]誘導や海馬損傷でも強く誘導される<ref name=Inokuchi1996><pubmed>8612762</pubmed></ref><ref name=Tretter1996><pubmed>8905672</pubmed></ref>。[[塩基性繊維芽細胞増殖因子]] ([[basic fibroblast growth factor]], [[bFGF]])には神経保護作用があるが、アクチビンが仲介している<ref name=Tretter2000><pubmed>10888932</pubmed></ref>。bFGFと協調し線状体ニューロンで[[チロシン水酸化酵素]]を誘導する<ref name=Bao2005><pubmed>15749808</pubmed></ref>。また、アクチビンAには[[パーキンソン病]]のモデル動物で[[中脳]]神経細胞の保護作用と抗炎症作用を持つことが報告されている<ref name=Stayte2015><pubmed>25902062</pubmed></ref><ref name=Stayte2017><pubmed>28121982</pubmed></ref>。脳[[虚血]]時に誘導され、[[p38]]や[[JNK]]を介して神経保護作用・神経細胞生存作用を持つ<ref name=Tretter2000><pubmed>10888932</pubmed></ref>。


 興奮性シナプス入力によりアクチビンβAのmRNAが急速かつ一過性に誘導される<ref name=Andreasson1995><pubmed>8596648</pubmed></ref><ref name=Inokuchi1996><pubmed>8612762</pubmed></ref>。長期増強をもたらす高周波シナプス刺激によって海馬の顆粒細胞ニューロンで誘導され、それはNMDA受容体依存性である。カイニン酸刺激によるてんかん誘導や海馬損傷でも強く誘導される<ref name=Inokuchi1996><pubmed>8612762</pubmed></ref><ref name=Tretter1996><pubmed>8905672</pubmed></ref>。塩基性繊維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor, bFGF)には神経保護作用があるがアクチビンが仲介している<ref name=Tretter2000><pubmed>10888932</pubmed></ref>。bFGFと協調して線状体ニューロンでチロシンヒドロキシラーゼを誘導する<ref name=Bao2005><pubmed>15749808</pubmed></ref>。また、アクチビンAにはパーキンソン病のモデル動物の中脳ニューロンの保護作用と抗炎症作用を持つことが報告されている<ref name=Stayte2015><pubmed>25902062</pubmed></ref><ref name=Stayte2017><pubmed>28121982</pubmed></ref>。脳虚血時に誘導され、p38やJNKを介して神経保護作用・神経細胞生存作用を持つ<ref name=Tretter2000><pubmed>10888932</pubmed></ref>。
 一方、アクチビンの発現レベルが[[神経新生]]に関与する。フォリスタチンによってアクチビン活性が抑制されると、神経新生が低下し、その結果、[[不安行動]]が増強される<ref name=Ageta2008><pubmed>18382659</pubmed></ref>。さらに、アクチビンは、海馬CA1での[[前期LTP]] ([[early-LTP]], [[E-LTP]])の持続期間を長くし、[[後期LTP]]([[late-LTP]], [[L-LTP]])の維持に関与する。脳内のアクチビンのレベルに依存して、記憶の強化あるいは記憶の[[再固定化]]や[[記憶消去]]に関与する<ref name=Ageta2010><pubmed>20332189</pubmed></ref>'''(図6)'''


 一方、神経新生においては、海馬などの神経系でのアクチビンの発現レベルが、神経形成に関与する。フォリスタチンによってアクチビン活性が抑制されると、神経新生が低下し、その結果、不安行動が増強される<ref name=Ageta2008><pubmed>18382659</pubmed></ref>。さらに、アクチビンは、海馬CA1での前期LTP (early-LTP, E-LTP)の持続期間を長くし、後期LTP(late-LTP, L-LTP)の維持に関与する。脳内のアクチビンのレベルに依存して、記憶の強化あるいは記憶の再固定化や記憶消去に関与する<ref name=Ageta2010><pubmed>20332189</pubmed></ref>'''(図6)'''。シナプス後ニューロンにNMDA受容体を介してカルシウムが流入すると、LTP誘導が惹起される。アクチビンは海馬ニューロンにおいて、持続的なNMDA受容体のリン酸化を引き起こすことでカルシウムを流入させる。アクチビンII型受容体は、カルボキシル末端で後シナプスの裏打ちタンパク質であるS-SCAM (ARIP1)やPSD95と結合する。アクチビン受容体、NMDA受容体、PSD95、S-SCAMが複合体を形成し、Fynを含むSrcファミリーのチロシンキナーゼを活性化することが持続的なNMDA受容体の活性化につながると想定されている<ref name=Kurisaki2008><pubmed>18201830</pubmed></ref>(図7)。
 アクチビンは海馬ニューロンにおいて、持続的なNMDA型グルタミン酸受容体の[[リン酸化]]を引き起こすことで[[カルシウム]]を流入させる。アクチビンII型受容体は、カルボキシル末端で後シナプスの裏打ちタンパク質である[[S-SCAM]] ([[ARIP1]])や[[PSD-95]]と結合する。アクチビン受容体、NMDA型グルタミン酸受容体、PSDー95、S-SCAMが複合体を形成し、[[Fyn]]を含む[[Srcファミリー]]の[[チロシンキナーゼ]]を活性化することが持続的なNMDA型グルタミン酸受容体の活性化につながると想定されている<ref name=Kurisaki2008><pubmed>18201830</pubmed></ref>(図7)。


 ACVR1C(ALK7)は、アクチビン特に、アクチビンB, ABのシグナルを仲介する受容体である。ACVR1Cは海馬を含めた中枢神経での発現が高い。運動負荷を与えると、CA1領域を含めた背側海馬での発現が上昇し、記憶に関与する分子として作用するとの報告がある<ref name=Keiser2024><pubmed>38714691</pubmed></ref><ref name=LaTour2024><pubmed>39137861</pubmed></ref>。主に記憶の固定化における空間的記憶と認知機能を評価する試験として、物体位置記憶(OLM, object location memory)がある。物体の位置を記憶させ、後で再認識する能力の評価法である。主に記憶の固定化における空間的記憶と認知機能を評価する試験である。増加したACVR1Cは、記憶の固定化、LTPに寄与すること、阻害剤でそれが抑制されることから記憶に深く関わる分子と考えられている。こうしたACVR1Cの発現挙動はBDNF(brain-derived neurotrophic factor)と類似している。自発的運動と長期増強やシナプス可塑性をつなぐ数少ない遺伝子である。アルツハイマーモデル動物や老化モデルの海馬ではACVR1Cが低下しており、強制発現させると記憶機能の回復が見られた<ref name=Keiser2024><pubmed>38714691</pubmed></ref>。
 ACVR1C (ALK7)は海馬を含めた中枢神経での発現が高い。運動負荷を与えると、CA1領域を含めた背側海馬での発現が上昇し、記憶に関与する分子として作用するとの報告がある<ref name=Keiser2024><pubmed>38714691</pubmed></ref><ref name=LaTour2024><pubmed>39137861</pubmed></ref>。主に記憶の固定化における[[空間記憶]]と[[認知]]機能を評価する試験として、[[物体位置記憶]] ([[object location memory]]; [[OLM]])がある。物体の位置を記憶させ、後で再認識することで、主に記憶の固定化における空間的記憶と認知機能を評価する試験である。増加したACVR1Cは、記憶の固定化、LTPに寄与すること、阻害剤でそれが抑制されることから記憶に深く関わる分子と考えられている。こうしたACVR1Cの発現挙動は[[脳由来神経成長因子]] ([[brain-derived neurotrophic factor]]; [[BDNF]])と類似している。自発的運動と長期増強やシナプス可塑性をつなぐ数少ない遺伝子である。[[アルツハイマー病]]や老化モデル動物の海馬ではACVR1Cが低下しており、強制発現させると記憶機能の回復が見られた<ref name=Keiser2024><pubmed>38714691</pubmed></ref>。


 シナプスタッギングは、特定のシナプスが可塑的変化を維持するために「タグ(標識)」を形成し、その後のタンパク質合成依存的なL-LTPを形成する過程である(シナプスタグ仮説は関連項目を参照。)。アクチビン受容体の一つであるACVR1Cが、シナプスタッギングによる可塑性と長期増強の両者に関与する機構が想定されている<ref name=Keiser2024><pubmed>38714691</pubmed></ref><ref name=Park2017><pubmed>28927503</pubmed></ref>。
 [[シナプスタギング]]は、特定のシナプスが可塑的変化を維持するために「タグ(標識)」を形成し、その後のタンパク質合成依存的なL-LTPを形成する過程である([[シナプスタグ仮説]]は関連項目を参照。)。アクチビン受容体の一つであるACVR1Cが、シナプスタギングによる可塑性と長期増強の両者に関与する機構が想定されている<ref name=Keiser2024><pubmed>38714691</pubmed></ref><ref name=Park2017><pubmed>28927503</pubmed></ref>。


=== 発生===
=== 発生===
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 アクチビンと関連する受容体については、遺伝子破壊ノックアウト(KO)マウスが作製され解析されている。
 アクチビンと関連する受容体については、遺伝子破壊ノックアウト(KO)マウスが作製され解析されている。


 アクチビンA(アクチビンβA遺伝子)のKOマウスは、生後24時間以内に死亡する。マウスの解析から,アクチビンAは口蓋,頬鬚,下顎切歯形成、頭蓋顔面形成に関与する<ref name=Matzuk1995><pubmed>7885474</pubmed></ref>。
 アクチビンA(アクチビンβA遺伝子)のKOマウスは、生後24時間以内に死亡する。マウスの解析から、アクチビンAは口蓋、頬鬚、下顎切歯形成、頭蓋顔面形成に関与する<ref name=Matzuk1995><pubmed>7885474</pubmed></ref>。


 アクチビンB(アクチビンβB遺伝子)のKOマウスは、胎生後期に眼瞼融合障害が見られる。胎児の発育不全を主とした生殖異常が見られる<ref name=Vassalli1994><pubmed>8125256</pubmed></ref>。
 アクチビンB(アクチビンβB遺伝子)のKOマウスは、胎生後期に眼瞼融合障害が見られる。胎児の発育不全を主とした生殖異常が見られる<ref name=Vassalli1994><pubmed>8125256</pubmed></ref>。
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 ActRIIBのKOマウスでは、左右軸発生異常、心房および心室中隔欠損、肺や脾臓の低形成が見られる<ref name=Oh1997><pubmed>9242489</pubmed></ref>。
 ActRIIBのKOマウスでは、左右軸発生異常、心房および心室中隔欠損、肺や脾臓の低形成が見られる<ref name=Oh1997><pubmed>9242489</pubmed></ref>。


 ActRIB(ALK4)のKOマウスでは、原始線条形成異常が見られ、胎生致死である<ref name=Gu1998><pubmed>9512518</pubmed></ref>。ACVR1B遺伝子の細胞内領域のフレームシフトや欠損による早期翻訳停止等の体性変異が、膵がん,胃がん、肝がんで見られる<ref name=Reissmann2001><pubmed>11485994</pubmed></ref>。
 ActRIB(ALK4)のKOマウスでは、原始線条形成異常が見られ、胎生致死である<ref name=Gu1998><pubmed>9512518</pubmed></ref>。ACVR1B遺伝子の細胞内領域のフレームシフトや欠損による早期翻訳停止等の体性変異が、膵がん、胃がん、肝がんで見られる<ref name=Reissmann2001><pubmed>11485994</pubmed></ref>。


 ActRIC(ALK7)は、神経系、分化脂肪細胞等に高発現する。ActRICのKOマウスは、生存や繁殖には問題がないが、脂肪沈着の低下と摂食性肥満に対して部分的な抵抗性を示す<ref name=Andersson2008><pubmed>18480259</pubmed></ref>。この表現型はGdf3-/-と類似している<ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref><ref name=Shen2009><pubmed>19008465</pubmed></ref>。また、加齢に伴う高インスリン血症と肝硬変が観察される。これはアクチビンβBのKOマウスの表現型と類似している<ref name=Tsuchida2004><pubmed>15196700</pubmed></ref><ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref>。GDF-3とアクチビンBの生体内でのI型受容体がActRIC(ALK7)であることを示している。さらに、ACVR1C(ALK7)はNodalの受容体としても作用する<ref name=Nadeem2011><pubmed>21356369</pubmed></ref>。
 ActRIC(ALK7)は、神経系、分化脂肪細胞等に高発現する。ActRICのKOマウスは、生存や繁殖には問題がないが、脂肪沈着の低下と摂食性肥満に対して部分的な抵抗性を示す<ref name=Andersson2008><pubmed>18480259</pubmed></ref>。この表現型はGdf3-/-と類似している<ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref><ref name=Shen2009><pubmed>19008465</pubmed></ref>。また、加齢に伴う高インスリン血症と肝硬変が観察される。これはアクチビンβBのKOマウスの表現型と類似している<ref name=Tsuchida2004><pubmed>15196700</pubmed></ref><ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref>。GDF-3とアクチビンBの生体内でのI型受容体がActRIC(ALK7)であることを示している。さらに、ACVR1C(ALK7)はNodalの受容体としても作用する<ref name=Nadeem2011><pubmed>21356369</pubmed></ref>。
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 サルコペニアや悪液質による筋萎縮、貧血や骨髄疾患、肺動脈性肺高血圧症 (PAH) への応用展開が行われている。マイオスタチンとアクチビンは筋肉量を負に制御するため、その阻害による筋萎縮性疾患への治療が期待されている<ref name=Lee2021><pubmed>33938454</pubmed></ref>。
 サルコペニアや悪液質による筋萎縮、貧血や骨髄疾患、肺動脈性肺高血圧症 (PAH) への応用展開が行われている。マイオスタチンとアクチビンは筋肉量を負に制御するため、その阻害による筋萎縮性疾患への治療が期待されている<ref name=Lee2021><pubmed>33938454</pubmed></ref>。


 ACVR2A(ActRIIA)やACVR2B(ActRIIB)の細胞外ドメインタンパク質によるリガンドトラップ法や抗体医薬は、貧血性骨髄疾患、筋萎縮性疾患,癌悪液質の治療薬候補として期待されている。実際に、ラスパテルセプトは、ヒトACVR2Bの細胞外領域とヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の融合分子であり、GDF11を阻害する。人工的に点変異を導入しており、アクチビン阻害は弱いとされる。エリスロポイエチンとは異なった機序で増血効果があり、最近、サラセミアや骨髄異形成症の治療薬となった<ref name=Fenaux2019><pubmed>30602619</pubmed></ref><ref name=Molica2024><pubmed>38555469</pubmed></ref>。また、ソタセルセプトは、ヒトACVR2Aの細胞外領域とヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の融合分子であり、肺動脈性肺高血圧症 (PAH) の新たな治療薬として承認された<ref name=Hoeper2023><pubmed>36877098</pubmed></ref><ref name=Madonna2024><pubmed>39571875</pubmed></ref>。この分子は、GDF11、マイオスタチン、アクチビンを阻害する。
 ACVR2A(ActRIIA)やACVR2B(ActRIIB)の細胞外ドメインタンパク質によるリガンドトラップ法や抗体医薬は、貧血性骨髄疾患、筋萎縮性疾患、癌悪液質の治療薬候補として期待されている。実際に、ラスパテルセプトは、ヒトACVR2Bの細胞外領域とヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の融合分子であり、GDF11を阻害する。人工的に点変異を導入しており、アクチビン阻害は弱いとされる。エリスロポイエチンとは異なった機序で増血効果があり、最近、サラセミアや骨髄異形成症の治療薬となった<ref name=Fenaux2019><pubmed>30602619</pubmed></ref><ref name=Molica2024><pubmed>38555469</pubmed></ref>。また、ソタセルセプトは、ヒトACVR2Aの細胞外領域とヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の融合分子であり、肺動脈性肺高血圧症 (PAH) の新たな治療薬として承認された<ref name=Hoeper2023><pubmed>36877098</pubmed></ref><ref name=Madonna2024><pubmed>39571875</pubmed></ref>。この分子は、GDF11、マイオスタチン、アクチビンを阻害する。


 FOP(fibrodysplasia ossicans progressive、進行性骨化性線維異形成症)は、骨格筋・腱・結合組織に進行性の異所性の骨化をきたす希少疾患である。通常、ACVR1A(ALK2)は、アクチビンの受容体ではなくBMPファミリーの受容体として作用する。ところが、FOPで見られるACVR1A(ALK2)機能獲得型遺伝子変異体 (GS領域のR206Hが典型例)では、アクチビンが変異受容体に過剰に反応することで、異所性に骨形成を誘導させる<ref name=Kaplan2009><pubmed>19085907</pubmed></ref><ref name=Hino2015><pubmed>26621707</pubmed></ref><ref name=Srinivasan2024><pubmed>38254701</pubmed></ref><ref name=Kaplan2025><pubmed>39299836</pubmed></ref>。そのため、アクチビンの阻害抗体やACVR2B-Fcタンパク質で阻害する方法論がFOPの治療薬候補となっている<ref name=Srinivasan2024><pubmed>38254701</pubmed></ref><ref name=Gao2024><pubmed>38500216</pubmed></ref>。興味深いことに、同じALK2変異が、希少小児がんであるdiffuse intrinsic pontine glioma (DIPG)の原因遺伝子と報告されている<ref name=Taylor2014><pubmed>24705252</pubmed></ref><ref name=Kresak2023><pubmed>36642816</pubmed></ref>。
 FOP(fibrodysplasia ossicans progressive、進行性骨化性線維異形成症)は、骨格筋・腱・結合組織に進行性の異所性の骨化をきたす希少疾患である。通常、ACVR1A(ALK2)は、アクチビンの受容体ではなくBMPファミリーの受容体として作用する。ところが、FOPで見られるACVR1A(ALK2)機能獲得型遺伝子変異体 (GS領域のR206Hが典型例)では、アクチビンが変異受容体に過剰に反応することで、異所性に骨形成を誘導させる<ref name=Kaplan2009><pubmed>19085907</pubmed></ref><ref name=Hino2015><pubmed>26621707</pubmed></ref><ref name=Srinivasan2024><pubmed>38254701</pubmed></ref><ref name=Kaplan2025><pubmed>39299836</pubmed></ref>。そのため、アクチビンの阻害抗体やACVR2B-Fcタンパク質で阻害する方法論がFOPの治療薬候補となっている<ref name=Srinivasan2024><pubmed>38254701</pubmed></ref><ref name=Gao2024><pubmed>38500216</pubmed></ref>。興味深いことに、同じALK2変異が、希少小児がんであるdiffuse intrinsic pontine glioma (DIPG)の原因遺伝子と報告されている<ref name=Taylor2014><pubmed>24705252</pubmed></ref><ref name=Kresak2023><pubmed>36642816</pubmed></ref>。

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