共同注意
浅田 晃佑
東京大学先端科学技術研究センター
板倉 昭二
京都大学大学院文学研究科
DOI:10.14931/bsd.4442 原稿受付日:2013年11月8日 原稿完成日:2013年11月19日
担当編集委員:入來 篤史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:joint attention 独:geteilte Aufmerksamkeit 仏:attention partagée
共同注意とは、他者の注意の所在を理解しその対象に対する他者の態度を共有することや、自分の注意の所在を他者に理解させその対象に対する自分の態度を他者に共有してもらう行動を指す。
共同注意とは
ヒトにおいて、狭義の共同注意に関する行動はだいたい生後9か月頃から出現すると言われている。それは、大人がいる時に乳児が見てほしいものを指さす(指さし行動)、大人がある対象物を見てそれを乳児も見る(視線追従)、乳児がある対象に対する評価を大人の表情などを見ることで参考にする(社会的参照)などである[1]。
この狭義の共同注意では、乳児は、大人の行動の意図をある程度理解し、注意対象に対する態度(例:それは危ないから近づいてはいけない)を共有していると考えられている。ただし、最近は、他者の意図理解の伴わない乳児の視線の移動など、3・4か月頃に見られる、より単純な行動も広義の共同注意とされ研究されている[2]。類似の概念として、自己と他者とその注意共有対象となるものの三者の関係を表す三項関係があり、三項関係において共同注意は達成されているとする。一方、三項関係以前の、注意共有対象を含まない自己と他者だけの1対1のやりとりは二項関係と呼ばれ、三項関係とは区別される。
発達
共同注意の発達段階は、いくつかの研究者によって分類されている。
ButterworthとJarrett[3]は、乳児の空間認識能力に重きを置いた発達段階を示している。
- 生態学的メカニズムの段階(生後6か月頃)
大人の視線の大まかな方向は特定できるが正確な場所を特定することはできない - 幾何学的メカニズムの段階(生後12か月頃)
乳児の視野内であれば大人の顔と視線の向きから対象のかなり正確な場所の特定が可能になる - 空間表象メカニズムの段階(生後18か月頃)
乳児の背後などの視野外に対しても対象の場所の特定が可能になる
Tomaselloら[4]は、乳児の他者理解に重きを置いた発達段階を示している。
- 感情と行動の共有の段階(生後3か月頃)
乳児は他者を生物的主体として理解し、他者と1対1で二項関係的に感情や行動を共有する - 目標と知覚の共有の段階(生後9か月頃)
乳児は他者を目標志向的な主体として理解し、目標や知覚を共有し、他者と目標物と自分という三者の関係を含んだ三項関係的に関わる - 意図と注意の共有の段階(生後14か月頃)
乳児は他者を意図的な主体として理解し、意図や注意を共有し、他者と協力的に関わる
他に、Baron-Cohen[5]は、心を読むシステム(他者理解)を形成する発達段階の1つとして共同注意を位置付けている。共同注意が可能になるためには、他者の意図と視線検出が必要で、共同注意が可能になることにより、後の心の理論(他者理解)が達成されるとする。
- 視線と意図の検出の段階(生後すぐから生後9か月頃)
他者の視線と意図を検出し、二項関係を築く。 - 共同注意の段階(生後9か月から生後18か月頃)
他者との注意の共有が可能になり、三項関係を築く。 - 心の理論の段階(生後18か月から生後48か月頃)
自分自身や他者の考えが理解できる
共同注意は、乳児が他者の発話時にその対象物を見ることで言語を学習できることから言語学習との関連、相手の心的状態の推測と関係することから心の理論(社会的認知)との関連が指摘されており、そのことを実証的に支持する研究がある[6][7][8]。
種類
共同注意は、その行為の受け手と出し手の観点から、共同注意への応答 (Responding to Joint Attention; RJA)と共同注意の開始(Initiating Joint Attention; IJA)に分けられる[9]。共同注意への応答は、受け手の行動、つまり、対象となるものを共有するために他者の視線やジェスチャーの方向を追従する能力を指し、共同注意の開始は、出し手の行動、つまり、他者の注意を物体・出来事・出し手本人へ注意を向けるためのジェスチャーやアイコンタクトの使用を指す。
また、共同注意は、その行動の動機づけに基づき、命令的共同注意(imperative joint attention)と叙述的共同注意(declarative joint attention)に分けられる[10]。
命令的共同注意は、自分が欲しいものを他者に伝えようとする要求の指差しなどの行動である(例:手の届かない食べ物を指差す)。
叙述的共同注意は、自分が他者に見てもらいたいものを他者に伝えようとする叙述の指差しなどの行動である(例:遠くを飛んでいる飛行機を指差す)。
Mundyら[11]によれば、叙述的共同注意は命令的共同注意に比べ、相手の心的状態の推測をより必要とすることから高度な社会的認知能力が関わると考えられている。乳児を対象とした実証研究では、社会的認知能力と叙述の指差しの行動頻度が関連するものの要求の指差しには関連が見られないということが報告されている[12]。最近では、同様の意味で、より分かりやすく、命令的に代わり要求(requestive)、叙述的に代わり共有(sharing)という用語も使われている[13]。
障害
社会性・コミュニケーションに困難を抱える自閉症スペクトラム障害を持つ者では、共同注意にも困難を抱えることが示されており、特に、命令的共同注意ではなく、叙述的共同注意の出現が遅れる、または、見られないということが報告されている[14][11]。また、最近では、共同注意の開始は自閉症スペクトラム障害の障害特性として明確に見られるものの、共同注意への応答の障害は自閉症スペクトラム障害固有の症状かどうか(他の発達障害でも見られる可能性)、また、自閉症スペクトラム障害を持つ者全般に見られるかどうかについて議論がある[15]。
神経基盤
RedcayとSaxe[2]によると、共同注意には以下のような脳部位が関与するとされている。背内側前頭前野は共同注意の相手の存在の知覚、右後部上側頭溝は他者の注意の移動の検出、右下前頭回・右中前頭回・側頭頭頂接合部の一領域を含む腹側前頭頭頂ネットワークは自身の反射的な注意の移動、前頭眼野と頭頂間溝を含む背外側前頭頭頂ネットワークは自身の随意的な注意の移動を担うとされる。特に、内側前頭前野と後部上側頭溝は、人が実際に他者とあるものに対して注意を共有している時に働くとされ、共同注意を担う中心領域であるとされている。
関連項目
参考文献
- ↑ M Tomasello
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Do you see what I see? The neural bases of joint attention.
In J Metcalfe, HS Terrace (Eds.), Agency and joint attention.
New York, NY: Oxford University Press:2013 - ↑ G Butterworth, N Jarrett
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