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Yukihashimotodani (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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==2−アラキドノイルグリセロール== | ==2−アラキドノイルグリセロール== | ||
エンドカンナビノイドはカンナビノイド受容体に対するリガンドの総称で、複数存在する。その中でも2-AGがDSIおよびDSEを仲介する逆行性伝達物質として働く。2-AGは膜のリン脂質から2つの酵素反応によって生成される。ホスホリパーゼC(PLC)活性の産物であるジアシルグリセロール(DG)が前駆体となり、ジアシルグリセロールリパーゼ(DGL)による加水分解で2-AGが作られる。DGLを薬理的に阻害するとDSI/DSEがブロックされる。ただしDGLの薬理的阻害がDSI/DSEに影響しないという報告もある。しかし、αとβの2つのサブタイプを有するDGLのうちDGLαノックアウトマウスで海馬、小脳、線条体、扁桃体、前頭前野皮質という5つの異なった脳部位でDSIあるいはDSEが消失することが報告され | エンドカンナビノイドはカンナビノイド受容体に対するリガンドの総称で、複数存在する。その中でも2-AGがDSIおよびDSEを仲介する逆行性伝達物質として働く。2-AGは膜のリン脂質から2つの酵素反応によって生成される。ホスホリパーゼC(PLC)活性の産物であるジアシルグリセロール(DG)が前駆体となり、ジアシルグリセロールリパーゼ(DGL)による加水分解で2-AGが作られる。DGLを薬理的に阻害するとDSI/DSEがブロックされる。ただしDGLの薬理的阻害がDSI/DSEに影響しないという報告もある。しかし、αとβの2つのサブタイプを有するDGLのうちDGLαノックアウトマウスで海馬、小脳、線条体、扁桃体、前頭前野皮質という5つの異なった脳部位でDSIあるいはDSEが消失することが報告され<ref><pubmed> 20147530 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20159446 </pubmed></ref><ref><pubmed> | ||
21613483 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21282604 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21807615 </pubmed></ref>、DSIに DGLαが必須であることが確立した。さらに2-AGの分解酵素であるモノアシルグリセロールリパーゼを薬理的あるいは遺伝子欠損によって阻害するとDSI/DSEの持続時間が遷延する<ref><pubmed> 17267577 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21940435 </pubmed></ref>。これらの結果から2-AGが逆行性伝達物質であることは疑いの余地がなくなっている。 | |||
==メカニズム== | ==メカニズム== | ||
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==Gq/11共役型受容体活性化による、いわゆる「DSIの促進」== | ==Gq/11共役型受容体活性化による、いわゆる「DSIの促進」== | ||
グループI代謝型グルタミン酸受容体やM1/M3ムスカリン受容体のアゴニスト存在下でニューロンを脱分極させると、一見、DSI(あるいはDSE)が促進される | グループI代謝型グルタミン酸受容体やM1/M3ムスカリン受容体のアゴニスト存在下でニューロンを脱分極させると、一見、DSI(あるいはDSE)が促進される<ref name=ref6 />。すなわち弱い脱分極でも現象として、大きなDSIを引き起こすことができる。この現象のメカニズムとして、以下のことが明らかになっている。グループI代謝型グルタミン酸受容体やM1/M3ムスカリン受容体といったGq/11タンパク質共役型受容体はPLCβを活性化する。PLCβがカルシウム感受性を持つため、受容体活性化に加えて脱分極による細胞内カルシウム流入が生じると、PLCβ活性が増強し2-AGの前駆体であるDG産生が促進される。結果、2-AGが効率よく作られ、現象として、DSIが起きやすくなるように見える(Hashimotodani et al., 2005; Maejima et al., 2005)。 | ||
上記の「DSIの促進」という表現は、分子機構を考慮に入れると、正しい表現ではない。神経細胞の強い脱分極だけで生ずるDSI/DSEは、PLCβを欠損するマウスでも全く影響されないことが分かっており(Hashimotodani et al., 2005; Maejima et al., 2005)、PLCβ以外のPLCか、または別の分子を介するものと考えられている。厳密には、「DSIの促進」ではなく「Gq/11共役型受容体活性化による2-AGを介する逆行性シナプス伝達抑圧の、細胞内カルシウム上昇による促進」である。多くの論文において、このような重要な点を無視し、安易に「DSIの促進」という表現が使われているので、注意が必要である。 | 上記の「DSIの促進」という表現は、分子機構を考慮に入れると、正しい表現ではない。神経細胞の強い脱分極だけで生ずるDSI/DSEは、PLCβを欠損するマウスでも全く影響されないことが分かっており(Hashimotodani et al., 2005; Maejima et al., 2005)、PLCβ以外のPLCか、または別の分子を介するものと考えられている。厳密には、「DSIの促進」ではなく「Gq/11共役型受容体活性化による2-AGを介する逆行性シナプス伝達抑圧の、細胞内カルシウム上昇による促進」である。多くの論文において、このような重要な点を無視し、安易に「DSIの促進」という表現が使われているので、注意が必要である。 | ||
分子メカニズムは異なるとはいえ、現象としての「DSIの促進」は機能的に重要な役割を担っていると考えられる。例えば、線条体ではアセチルコリン作動性抑制性ニューロンの発火によって恒常的に細胞外にアセチルコリンが存在する。そのため中型有棘神経細胞のシナプスではM1ムスカリン受容体が慢性的に活性化されており弱い脱分極でもDSIが引き起こされる(Narushima et al., 2007)。 | 分子メカニズムは異なるとはいえ、現象としての「DSIの促進」は機能的に重要な役割を担っていると考えられる。例えば、線条体ではアセチルコリン作動性抑制性ニューロンの発火によって恒常的に細胞外にアセチルコリンが存在する。そのため中型有棘神経細胞のシナプスではM1ムスカリン受容体が慢性的に活性化されており弱い脱分極でもDSIが引き起こされる(Narushima et al., 2007)。 | ||
==DSIの伝播== | ==DSIの伝播== | ||
エンドカンナビノイドの細胞外での拡散範囲は非常に限られている。したがって、DSIは脱分極した細胞のごく近傍の細胞にしか及ばない。例えば海馬CA1錐体細胞のDSIでは脱分極した細胞からの距離が20 μm以内であれば脱分極していない細胞でもDSIが起こる | エンドカンナビノイドの細胞外での拡散範囲は非常に限られている。したがって、DSIは脱分極した細胞のごく近傍の細胞にしか及ばない。例えば海馬CA1錐体細胞のDSIでは脱分極した細胞からの距離が20 μm以内であれば脱分極していない細胞でもDSIが起こる<ref name=ref5 />。 | ||
小脳では間接的なメカニズムによって遠くまでDSIの伝播が起こりうる。脱分極によってプルキンエ細胞から放出されたエンドカンナビノイドが、近傍の抑制性ニューロンのCB1受容体を活性化する。内向き整流性カリウムチャネルがCB1受容体の下流にあり、このカリウムチャネルの活性化によって抑制性ニューロンの発火が抑えられる。その結果、発火が抑えられた抑制性ニューロンが投射している多くのプルキンエ細胞において入力が抑制される(Kreitzer et al., 2002)。 | 小脳では間接的なメカニズムによって遠くまでDSIの伝播が起こりうる。脱分極によってプルキンエ細胞から放出されたエンドカンナビノイドが、近傍の抑制性ニューロンのCB1受容体を活性化する。内向き整流性カリウムチャネルがCB1受容体の下流にあり、このカリウムチャネルの活性化によって抑制性ニューロンの発火が抑えられる。その結果、発火が抑えられた抑制性ニューロンが投射している多くのプルキンエ細胞において入力が抑制される(Kreitzer et al., 2002)。 | ||
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