「前向性健忘」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0018628 玉岡 晃]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0018628 玉岡 晃]</font><br>
''筑波大学 医学医療系''<br>
''筑波大学大学院 人間総合科学研究科(臨床医学系) 疾患制御医学専攻 神経病態医学分野 神経内科''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年7月2日 原稿完成日:2013年XX月XX日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年7月2日 原稿完成日:2013年7月4日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ryosuketakahashi 高橋 良輔](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ryosuketakahashi 高橋 良輔](京都大学 大学院医学研究科)<br>
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英語名:anterograde amnesia 独:anterograde Amnesie 仏:amnésie antérograde


 記憶の心理過程は、記銘、保持、[[想起]]に分けられるが、記銘から想起までの時間によって、神経学領域では、1分程度以内までの記憶を[[即時記憶]]immediate memory、数分から数日程度までの間の記憶を[[近時記憶]]recent memory、数日間以上前の記憶を[[遠隔記憶]]remote memoryと分類してきた。心理学における[[短期記憶]]は即時記憶に、[[長期記憶]]は近時記憶と遠隔記憶をあわせたものにほぼ相当する。また、記憶の下位分類としては、[[陳述記憶]]declarative memoryと[[手続き記憶]]procedural memoryに大別され、陳述記憶はさらに[[エピソード記憶]]episodic memoryと[[意味記憶]]semantic memoryに分類される<ref name=ref1><pubmed>3925849</pubmed></ref>。
{{box|text= 記憶に関する神経機構の障害が発現した時点が明らかな場合、障害時点以降の情報の記憶障害を前向性健忘という。一方、障害以前の情報の記憶障害を逆行性健忘と呼ぶ。前向性健忘は近時記憶の記銘力障害であり、逆行性健忘は、遠隔記憶の想起障害であるが、障害時に近い出来事ほど忘却されやすく、遠いものほど保たれるという時間的勾配が認められる。健忘症候群では通常、前向性健忘と逆行性健忘の両者がみられる。}}


 健忘は一般に日々の出来事の記憶障害、即ちエピソード記憶障害に対して用いられ、即時記憶が保たれ、近時・遠隔記憶障害がみられる<ref name=ref2>'''山鳥重'''<br>記憶の神経心理学<br>''医学書院'' 2002、pp 145-150.</ref>。[[健忘症候群]]は、作話や記憶錯誤、失見当識を伴うことがあるが、他の認知機能は比較的保たれている<ref name=ref3>http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%81%A5%E5%BF%98%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4 '''佐藤正之、冨本秀和'''<br>健忘症候群.脳科学辞典</ref>。
 記憶の心理過程は、[[記銘]]、[[保持]]、[[想起]]に分けられるが、記銘から想起までの時間によって、神経学領域では、1分程度以内までの記憶を[[即時記憶]] (immediate memory)、数分から数日程度までの間の記憶を[[近時記憶]] (recent memory)、数日間以上前の記憶を[[遠隔記憶]] (remote memory)と分類してきた。心理学における[[短期記憶]]は即時記憶に、[[長期記憶]]は近時記憶と遠隔記憶をあわせたものにほぼ相当する。また、記憶の下位分類としては、[[陳述記憶]] (declarative memory)と[[手続き記憶]] (procedural memory)に大別され、陳述記憶はさらに[[エピソード記憶]] (episodic memory)と[[意味記憶]] (semantic memory)に分類される<ref name=ref1><pubmed>3925849</pubmed></ref>。
 
 [[健忘]]は一般に日々の出来事の[[記憶障害]]、即ちエピソード記憶障害に対して用いられ、即時記憶が保たれる一方、近時・遠隔記憶障害がみられる特徴がある<ref name=ref2>'''山鳥重'''<br>記憶の神経心理学<br>''医学書院'' 2002、pp 145-150.</ref>。[[健忘症候群]]は、[[作話]]や[[記憶錯誤]]、[[失見当識]]を伴うことがあるが、他の[[認知]]機能は比較的保たれている。


 記憶に関する神経機構の障害が発現した時点が明らかな場合、障害時点以降の情報の記憶障害を前向性健忘、障害以前の情報の記憶障害を[[逆行性健忘]]と呼ぶ。前向性健忘は近時記憶の記銘力障害であり、逆行性健忘は、遠隔記憶の想起障害であるが、障害時に近い出来事ほど[[忘却]]されやすく、遠いものほど保たれるという時間的勾配が認められる。健忘症候群では通常、前向性健忘と逆行性健忘の両者がみられる。
 記憶に関する神経機構の障害が発現した時点が明らかな場合、障害時点以降の情報の記憶障害を前向性健忘、障害以前の情報の記憶障害を[[逆行性健忘]]と呼ぶ。前向性健忘は近時記憶の記銘力障害であり、逆行性健忘は、遠隔記憶の想起障害であるが、障害時に近い出来事ほど[[忘却]]されやすく、遠いものほど保たれるという時間的勾配が認められる。健忘症候群では通常、前向性健忘と逆行性健忘の両者がみられる。


 ヒトのエピソード記憶障害の責任病巣は、①[[海馬]]を含む内側側頭葉、②間脳、③[[前脳基底部]]の3か所とされており、これらは2つの大脳辺縁系回路(内側辺縁系回路-Papez回路-と腹外側辺縁系回路-Yakovlev回路-)を構成している。これらの部位では、限局した病巣でも強い前向性健忘をきたす。また、[[前脳]]基底部の障害による健忘では、前向性・逆行性健忘の他に作話やその他の行動異常を伴うことが多い<ref name=re4><pubmed>3977657</pubmed></ref>。内側辺縁系回路は、エピソード記憶の記銘と固定化に作用し、腹外側辺縁系回路は[[情動]]性記憶に関与していると考えられており、最近では[[前頭前野]]が記銘戦略の選択などに関わっているという知見が増加してきた<ref name=ref5>'''森悦郎'''<br>記憶の神経機構と認知症<br>第25回老年期認知症研究会、2012、 pp 19-21.</ref>
 ヒトのエピソード記憶障害の責任病巣は、①[[海馬]]を含む内側[[側頭葉]]、②[[間脳]]、③[[前脳基底部]]の3か所とされており、これらは2つの[[大脳辺縁系]]回路([[内側辺縁系回路]]-[[Papez回路]]-と[[腹外側辺縁系回路]]-[[Yakovlev回路]]-)を構成している。これらの部位では、限局した病巣でも強い前向性健忘をきたす。また、[[前脳]]基底部の障害による健忘では、前向性・逆行性健忘の他に作話やその他の行動異常を伴うことが多い<ref name=re4><pubmed>3977657</pubmed></ref>。内側辺縁系回路は、エピソード記憶の記銘と固定化に作用し、腹外側辺縁系回路は[[情動]]性記憶に関与していると考えられており、最近では[[前頭前野]]が記銘戦略の選択などに関わっているという知見が増加してきた<ref name=ref5>'''森悦郎'''<br>記憶の神経機構と認知症<br>第25回老年期認知症研究会、2012、 pp 19-21.</ref>。なお
前向き健忘をきたす疾患・病態については関連項目「健忘症候群」を参照。


==関連項目==
*[[健忘症候群]]
*[[記憶の分類]]
*[[逆行性健忘]]
== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />

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