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 Dab1は[[wikipedia:ja:中枢神経系|中枢神経系]]において[[wikipedia:ja:神経細胞|神経細胞]]の正常な移動・配置に必須の細胞内シグナル伝達分子で、神経細胞の[[wikipedia:ja: 樹状突起|樹状突起]]の発達等にも関与していると考えられている<ref><pubmed>16512359</pubmed></ref><ref name="honda"><pubmed>21253854</pubmed></ref>。''dab1''遺伝子の欠損は層構造を形成する[[wikipedia:ja:大脳新皮質|大脳新皮質]]、[[海馬]]、[[wikipedia:ja:小脳|小脳]]、あるいは核構造を形成する[[wikipedia:ja:脳幹|脳幹]]、[[wikipedia:ja:脊髄|脊髄]]等の神経細胞の配置に異常を引き起こす。同様な表現型は、[[wikipedia:ja:リーリン|''reelin'']]遺伝子に変異のある[[wikipedia:Reeler|''reeler'']][[wikipedia:ja:ハツカネズミ|マウス]]と、[[wikipedia:Low density lipoprotein receptor-related protein 8|''low density lipoprotein receptor-related protein 8'' (''apoER2'')]]と[[wikipedia:VLDL receptor|''very-low-density-lipoprotein receptor'' (''vldlr'')]]のダブル[[wikipedia:ja:ノックアウトマウス|ノックアウトマウス]]でも観察されている。様々な実験結果により、細胞外のReelinがApoER2/VLDLRにより受容され、Dab1が細胞内でシグナルを伝達するシグナル伝達経路を形成していると考えられている。また、Reelin刺激によって[[wikipedia:ja:リン酸化|リン酸化]]を受けるDab1の[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]5カ所を[[wikipedia:ja:フェニルアラニン|フェニルアラニン]]に変異させたマウスでは、''dab1''遺伝子の変異と同じ神経細胞の配置異常が引き起こされることから、Dab1のチロシンリン酸化はこのシグナル伝達経路に必須であることが示されている。チロシンリン酸化されたDab1により活性化される経路が調べられ、中でも[[wikipedia:CRK (gene)|Crk]]/[[wikipedia:CRKL|CrkL]]-[[wikipedia:RAPGEF1|C3G]]-[[wikipedia:Rap1|Rap1]]経路が、[[カドヘリン|N-cadherin]]や[[wikipedia:Integrin|Integrin]] <span class="texhtml">α</span>5<span class="texhtml">β</span>1の制御を行うことで神経細胞の移動調節を行っている可能性が示唆されている。  
 Dab1は[[中枢神経系]]において[[神経細胞]]の正常な[[移動]]・配置に必須の細胞内[[シグナル伝達]]分子で、神経細胞の[[樹状突起]]の発達等にも関与していると考えられている<ref><pubmed>16512359</pubmed></ref><ref name="honda"><pubmed>21253854</pubmed></ref>。''dab1''遺伝子の欠損は層構造を形成する[[大脳新皮質]]、[[海馬]]、[[小脳]]、あるいは核構造を形成する[[脳幹]]、[[脊髄]]等の神経細胞の配置に異常を引き起こす。同様な表現型は、[[リーリン]]遺伝子に変異のある[[reeler'']][[wikipedia:ja:ハツカネズミ|マウス]]と、[[wikipedia:Low density lipoprotein receptor-related protein 8|''low density lipoprotein receptor-related protein 8'' (''apoER2'')]]と[[wikipedia:VLDL receptor|''very-low-density-lipoprotein receptor'' (''vldlr'')]]のダブル[[wikipedia:ja:ノックアウトマウス|ノックアウトマウス]]でも観察されている。様々な実験結果により、細胞外のリーリンがApoER2/VLDLRにより受容され、Dab1が細胞内でシグナルを伝達するシグナル伝達経路を形成していると考えられている。また、リーリン刺激によって[[wikipedia:ja:リン酸化|リン酸化]]を受けるDab1の[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]5カ所を[[wikipedia:ja:フェニルアラニン|フェニルアラニン]]に変異させたマウスでは、''dab1''遺伝子の変異と同じ神経細胞の配置異常が引き起こされることから、Dab1のチロシンリン酸化はこのシグナル伝達経路に必須であることが示されている。チロシンリン酸化されたDab1により活性化される経路が調べられ、中でも[[wikipedia:CRK (gene)|Crk]]/[[wikipedia:CRKL|CrkL]]-[[wikipedia:RAPGEF1|C3G]]-[[wikipedia:Rap1|Rap1]]経路が、[[カドヘリン|N-cadherin]]や[[wikipedia:Integrin|Integrin]] <span class="texhtml">α</span>5<span class="texhtml">β</span>1の制御を行うことで神経細胞の移動調節を行っている可能性が示唆されている。  
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== 歴史的推移  ==
== 歴史的推移  ==


 1997年、[[wikipedia:Tyrosine kinase|チロシンキナーゼ]][[wikipedia:Src|Src]]に結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、Disabled 1 (Dab1)([[wikipedia:ja:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]で同定されていた''disabled-1''遺伝子と相同性があった為命名)が同定された<ref name="ref1"><pubmed>9009273</pubmed></ref>。Dab1は N末端領域に[[wikipedia:Phosphotyrosine-binding domain|Phosphotyrosine-binding domain (PTB)ドメイン]]を持つアダプタータンパク質で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった<ref name="ref1" />。''dab1''ノックアウトマウスが作成された所、大脳新皮質、海馬、小脳において神経細胞の配置異常が観察された<ref><pubmed>9338785</pubmed></ref>。この表現型は1951年に報告され、その原因遺伝子''reelin''が1995年に明らかにされた、リーラー(''reeler'')マウスの表現型(リーラーフェノタイプ)<ref>'''Two new mutants trembler and reeler, with neurological actionss in the house mouse'''<br>J. Genet..: 1951, 51, 192-201[http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02996215 論文掲載サイト]</ref>と酷似していた。さらに、リーラーフェノタイプを示すことが知られていた[[wikipedia:Yotari|''yotari''マウス]]と[[wikipedia:Scrambler|''scrambler''マウス]]の原因遺伝子が''dab1''であることが明らかになり<ref><pubmed>9338784</pubmed></ref><ref><pubmed>9436647</pubmed></ref><ref><pubmed>9292716</pubmed></ref><ref><pubmed>10648895</pubmed></ref>、Dab1とReelinとの関連性が示唆された。実際、''reeler''マウスでは、(1)''dab1''のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、<ref name="rice"><pubmed>9716537</pubmed></ref>、(2)Reelinは脳表層に分布するカハールレチウス細胞に主に発現が観察されるが、Dab1はそれに隣接する神経細胞に発現が観察され、相補的な発現パターンになっていること<ref name="rice" />、(3)Reelin刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること<ref><pubmed>10090720</pubmed></ref>等から、Dab1は細胞内でReelinシグナルを伝達する役割を果たしているのではないかと推測された。
 1997年、[[wikipedia:Tyrosine kinase|チロシンキナーゼ]][[wikipedia:Src|Src]]に結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、Disabled 1 (Dab1)([[wikipedia:ja:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]で同定されていた''disabled-1''遺伝子と相同性があった為命名)が同定された<ref name="ref1"><pubmed>9009273</pubmed></ref>。Dab1は N末端領域に[[wikipedia:Phosphotyrosine-binding domain|Phosphotyrosine-binding domain (PTB)ドメイン]]を持つアダプタータンパク質で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった<ref name="ref1" />。''dab1''ノックアウトマウスが作成された所、大脳新皮質、海馬、小脳において神経細胞の配置異常が観察された<ref><pubmed>9338785</pubmed></ref>。この表現型は1951年に報告され、その原因遺伝子リーリンが1995年に明らかにされた、リーラー(''reeler'')マウスの表現型(リーラーフェノタイプ)<ref>'''Two new mutants trembler and reeler, with neurological actionss in the house mouse'''<br>J. Genet..: 1951, 51, 192-201[http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02996215 論文掲載サイト]</ref>と酷似していた。さらに、リーラーフェノタイプを示すことが知られていた[[wikipedia:Yotari|''yotari''マウス]]と[[wikipedia:Scrambler|''scrambler''マウス]]の原因遺伝子が''dab1''であることが明らかになり<ref><pubmed>9338784</pubmed></ref><ref><pubmed>9436647</pubmed></ref><ref><pubmed>9292716</pubmed></ref><ref><pubmed>10648895</pubmed></ref>、Dab1とリーリンとの関連性が示唆された。実際、''reeler''マウスでは、(1)''dab1''のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、<ref name="rice"><pubmed>9716537</pubmed></ref>、(2)リーリンは脳表層に分布するカハールレチウス細胞に主に発現が観察されるが、Dab1はそれに隣接する神経細胞に発現が観察され、相補的な発現パターンになっていること<ref name="rice" />、(3)リーリン刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること<ref><pubmed>10090720</pubmed></ref>等から、Dab1は細胞内でリーリンシグナルを伝達する役割を果たしているのではないかと推測された。




 2000年になり、ApoER2とVLDLRのダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになること<ref name="ref2"><pubmed>10380922</pubmed></ref>が明らかになり、さらに生化学的結合実験等により、ApoER2とVLDLRがReelinの[[wikipedia:ja:受容体|レセプター]]であることが示された<ref><pubmed>10571241</pubmed></ref><ref><pubmed>10571240</pubmed></ref>。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフには、Dab1がそのPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はApoER2、VLDLRを介してReelinシグナルを受け取る事が示唆された<ref name="ref2" />。また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させた[[wikipedia:Gene knockin|ノックインマウス]]が、リーラーフェノタイプになる事が示された<ref name="5F"><pubmed>10959835</pubmed></ref>。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はReelinシグナルにとって必須であることが示された。
 2000年になり、ApoER2とVLDLRのダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになること<ref name="ref2"><pubmed>10380922</pubmed></ref>が明らかになり、さらに生化学的結合実験等により、ApoER2とVLDLRがリーリンの[[wikipedia:ja:受容体|レセプター]]であることが示された<ref><pubmed>10571241</pubmed></ref><ref><pubmed>10571240</pubmed></ref>。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフには、Dab1がそのPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はApoER2、VLDLRを介してリーリンシグナルを受け取る事が示唆された<ref name="ref2" />。また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させた[[wikipedia:Gene knockin|ノックインマウス]]が、リーラーフェノタイプになる事が示された<ref name="5F"><pubmed>10959835</pubmed></ref>。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はリーリンシグナルにとって必須であることが示された。


 2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までに[[wikipedia:ja:PI3キナーゼ|Phosphoinositide 3-kinase (PI3K)]]<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、[[wikipedia:SOCS3|SOCS3]]<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、[[wikipedia:NCK2|Nck<math>\beta</math>]]<ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、[[wikipedia:PAFAH1B1|Lis1]]<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、[[wikipedia:Src family kinase|Src family kinase]]<ref name="ref1" /><ref><pubmed>18981215</pubmed></ref>、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)<ref name="crk"><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうち''crk''と''crkl''ダブルノックアウトマウス<ref name="crk"><pubmed>19074029</pubmed></ref>、''c3g''の[[wikipedia:ja:ジーントラップ法|ジーントラップ]]系統マウス<ref name="c3g"><pubmed>18506028</pubmed></ref>、及び''src''と[[wikipedia:FYN|''fyn'']]のダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じることが報告されている。  
 2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までに[[wikipedia:ja:PI3キナーゼ|Phosphoinositide 3-kinase (PI3K)]]<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、[[wikipedia:SOCS3|SOCS3]]<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、[[wikipedia:NCK2|Nck<math>\beta</math>]]<ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、[[wikipedia:PAFAH1B1|Lis1]]<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、[[wikipedia:Src family kinase|Src family kinase]]<ref name="ref1" /><ref><pubmed>18981215</pubmed></ref>、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)<ref name="crk"><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうち''crk''と''crkl''ダブルノックアウトマウス<ref name="crk"><pubmed>19074029</pubmed></ref>、''c3g''の[[wikipedia:ja:ジーントラップ法|ジーントラップ]]系統マウス<ref name="c3g"><pubmed>18506028</pubmed></ref>、及び''src''と[[wikipedia:FYN|''fyn'']]のダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じることが報告されている。  
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 2004年には、''dab1''欠損マウスの[[wikipedia:Dentate gyrus|海馬歯状回]]の[[wikipedia:Granule cell|顆粒細胞]]の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること<ref name="Niu"><pubmed>14715136</pubmed></ref>、''dab1''欠損マウス由来の海馬神経細胞を培養した場合でも、樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少すること<ref name="Niu" />が報告された。また、2006年、''dab1''のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること<ref name="dab1KD"><pubmed>16467525</pubmed></ref>、生後、時期特異的に''dab1''にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害される<ref name="matsuki"><pubmed>18477607</pubmed></ref>ことが報告され、Dab1は神経細胞の移動過程以外にも、樹状突起の発達にも関与することが示唆された。  
 2004年には、''dab1''欠損マウスの[[wikipedia:Dentate gyrus|海馬歯状回]]の[[wikipedia:Granule cell|顆粒細胞]]の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること<ref name="Niu"><pubmed>14715136</pubmed></ref>、''dab1''欠損マウス由来の海馬神経細胞を培養した場合でも、樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少すること<ref name="Niu" />が報告された。また、2006年、''dab1''のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること<ref name="dab1KD"><pubmed>16467525</pubmed></ref>、生後、時期特異的に''dab1''にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害される<ref name="matsuki"><pubmed>18477607</pubmed></ref>ことが報告され、Dab1は神経細胞の移動過程以外にも、樹状突起の発達にも関与することが示唆された。  


 2011年以降には、これまでの観察で培養神経細胞のReelin刺激が、Dab1のリン酸化を介してCrk-C3G-Rap1パスウェイを活性化すること<ref name="crc"><pubmed>21315259</pubmed></ref>が報告されていた為、Rap1のエフェクター分子が調べられた。その結果、Reelin-Dab1シグナルはN-cadherinを介して神経細胞の[[神経細胞移動|ロコモーション]]と呼ばれる移動過程<ref name="ncad1"><pubmed>1315259</pubmed></ref><ref name="ncad2"><pubmed>21516100</pubmed></ref>に、Integrin <span class="texhtml">α</span>5<span class="texhtml">β</span>1を介して[[神経細胞移動|ターミナルトランスロケーション]]と呼ばれる移動過程に関与している<ref name="sekine2"><pubmed>23083738</pubmed></ref>可能性が示唆された。  
 2011年以降には、これまでの観察で培養神経細胞のリーリン刺激が、Dab1のリン酸化を介してCrk-C3G-Rap1パスウェイを活性化すること<ref name="crc"><pubmed>21315259</pubmed></ref>が報告されていた為、Rap1のエフェクター分子が調べられた。その結果、リーリン-Dab1シグナルはN-cadherinを介して神経細胞の[[神経細胞移動|ロコモーション]]と呼ばれる移動過程<ref name="ncad1"><pubmed>1315259</pubmed></ref><ref name="ncad2"><pubmed>21516100</pubmed></ref>に、Integrin <span class="texhtml">α</span>5<span class="texhtml">β</span>1を介して[[神経細胞移動|ターミナルトランスロケーション]]と呼ばれる移動過程に関与している<ref name="sekine2"><pubmed>23083738</pubmed></ref>可能性が示唆された。  


== 分子構造  ==
== 分子構造  ==
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== 発現様式  ==
== 発現様式  ==


 [[wikipedia:ja:In situ ハイブリダイゼーション|''in situ''ハイブリダイゼーション]]により、''dab1'' [[wikipedia:ja: 伝令RNA|mRNA]]の発現分布を調べた報告<ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>によると、発生期のマウス大脳新皮質では、胎生11.5日目の[[神経上皮細胞]]に弱く発現が観察される。胎生12.5日目には[[wikipedia:Cerebral cortex|皮質板(cortical plate:CP)]]での強い発現が顕著になり、[[wikipedia:Cerebral cortex|脳室帯(ventricular zone:VZ)]]での弱い発現も引き続き観察される。その後、生後0日にかけて、強い皮質板での発現が維持されるが、脳室帯での発現は弱くなり、[[wikipedia:Intermediate zone of cortex|中間帯(intermediate zone:IMZ)]]の上部での弱い発現が観察されるようになる。成獣のマウスでも生後0日に比べて弱くはなるが、皮質板において発現が観察される。大脳新皮質では、Dab1の発現部位はReelinを発現しているCajal-Retzius細胞が存在する[[wikipedia:Cerebral cortex|辺縁帯(marginal zone:MZ)]]と相互排他的発現パターンになっている。  
 [[wikipedia:ja:In situ ハイブリダイゼーション|''in situ''ハイブリダイゼーション]]により、''dab1'' [[wikipedia:ja: 伝令RNA|mRNA]]の発現分布を調べた報告<ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>によると、発生期のマウス大脳新皮質では、胎生11.5日目の[[神経上皮細胞]]に弱く発現が観察される。胎生12.5日目には[[wikipedia:Cerebral cortex|皮質板(cortical plate:CP)]]での強い発現が顕著になり、[[wikipedia:Cerebral cortex|脳室帯(ventricular zone:VZ)]]での弱い発現も引き続き観察される。その後、生後0日にかけて、強い皮質板での発現が維持されるが、脳室帯での発現は弱くなり、[[wikipedia:Intermediate zone of cortex|中間帯(intermediate zone:IMZ)]]の上部での弱い発現が観察されるようになる。成獣のマウスでも生後0日に比べて弱くはなるが、皮質板において発現が観察される。大脳新皮質では、Dab1の発現部位はリーリンを発現しているCajal-Retzius細胞が存在する[[wikipedia:Cerebral cortex|辺縁帯(marginal zone:MZ)]]と相互排他的発現パターンになっている。  


 海馬では妊娠12.5日目には神経上皮細胞に弱く''dab1''のmRNAが観察され、妊娠14.5日目までに海馬の辺縁帯、[[錐体細胞層]]、脳室帯の三層が別れ、錐体細胞層に強い発現が観察されるようになる。また隣り合う歯状回の顆粒細胞層にも''dab1''の発現が観察される。海馬についても''dab1''の発現は生後3日でも維持される。また、大脳新皮質と同様、Dab1の発現領域は''reelin''を発現するCajal-Retzius細胞の存在する辺縁帯に隣接した領域で観察される。  
 海馬では妊娠12.5日目には神経上皮細胞に弱く''dab1''のmRNAが観察され、妊娠14.5日目までに海馬の辺縁帯、[[錐体細胞層]]、脳室帯の三層が別れ、錐体細胞層に強い発現が観察されるようになる。また隣り合う歯状回の顆粒細胞層にも''dab1''の発現が観察される。海馬についても''dab1''の発現は生後3日でも維持される。また、大脳新皮質と同様、Dab1の発現領域はリーリンを発現するCajal-Retzius細胞の存在する辺縁帯に隣接した領域で観察される。  


 小脳については、妊娠13.5日目の脳室帯、[[外顆粒層]]、[[分化帯]]に発現が見られ、妊娠18.5日目から生後3日では、[[wikipedia:ja:小脳|プルキンエ細胞層]]で発現が観察される。また妊娠18.5日目では、Reelinを強く発現する顆粒細胞が存在する外顆粒層に隣接してプルキンエ細胞層が存在し、小脳においても相補的な発現パターンを示す。
 小脳については、妊娠13.5日目の脳室帯、[[外顆粒層]]、[[分化帯]]に発現が見られ、妊娠18.5日目から生後3日では、[[wikipedia:ja:小脳|プルキンエ細胞層]]で発現が観察される。また妊娠18.5日目では、リーリンを強く発現する顆粒細胞が存在する外顆粒層に隣接してプルキンエ細胞層が存在し、小脳においても相補的な発現パターンを示す。


 Dab1のタンパク質がどの様な細胞に、どのような細胞内分布で発現しているのかは、免疫組織化学染色が難しく報告は少ないが、mRNAの発現分布と一致して大脳新皮質や海馬では神経細胞、小脳ではプルキンエ細胞に発現していることが報告されている<ref name="feng" />。また、生体内における詳細な細胞内分布については不明である。  
 Dab1のタンパク質がどの様な細胞に、どのような細胞内分布で発現しているのかは、免疫組織化学染色が難しく報告は少ないが、mRNAの発現分布と一致して大脳新皮質や海馬では神経細胞、小脳ではプルキンエ細胞に発現していることが報告されている<ref name="feng" />。また、生体内における詳細な細胞内分布については不明である。  
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=== 大脳新皮質発生で観察されるDab1欠損による発生異常  ===
=== 大脳新皮質発生で観察されるDab1欠損による発生異常  ===


[[Image:Migration.png|thumb|400px|<b>図2.大脳新皮質の正常発生と''reelin''、''dab1''変異マウス、''apoER2/vldlr'' ダブルノックアウトマウスの発生異常</b><br> (A) 発生期のマウス脳の模式図。下図は上図の点線部分で冠状断にした際の断面図。薄い赤色部分を拡大した図をBとCに示す。(B、C) 野生型(B)、または''reeler''、''yotari''、''scrambler''、''apoer2/vldlr''ダブルノックアウトマウス(C)の大脳新皮質の発生過程を示す。脳の表面は上方向、脳室側は下方向。数字は野生型マウスで配置される予定の層を示す。(B, i)野生型マウスで脳室帯(ventricular zone: VZ)に存在するラジアルグリア細胞(radial glia cell (RG)、 神経幹細胞)から誕生した神経細胞は、脳の表面方向に向かい移動する。CR:カハールレチウス(Cajal-Retzius)細胞。SP:サブプレート(subplate)神経細胞。PP:プレプレート(preplate)。(B, ii) 最初に誕生した将来6層になる神経細胞はサブプレート神経細胞を乗り越えて、辺縁帯 (MZ:marginal zone)の直下で樹状突起を形成して分化する。(B,iii) 遅生まれの神経細胞は次々に早生まれの神経細胞を追い越し、脳表層で分化を開始する。その結果、脳の深層側に早生まれの細胞、浅層側に遅生まれの細胞が配置される“インサイドアウト”形式で神経細胞が配置される。CP:皮質板(cortical plate)。(C, i,ii,iii) 一方、''reeler''、''yotari'', ''scrambler''マウス、及び ''apoer2/vldlr''ダブルノックアウトマウスでは脳室帯で誕生した神経細胞がサブプレート神経細胞を追い越すことが出来ずに脳の表面付近に異所性に配置される。後から誕生した神経細胞も移動障害により先行する神経細胞を追い越せずに配置され、全体的に見た場合、層構造が逆転した様な配置になる。また一部の神経細胞は樹状突起をインターナルプレキシフォームゾーン(IPZ:internal plexiform zone)と呼ばれる異常な構造に向けて展開する。SPP:スーパープレート(super plate)。]]  
[[Image:Migration.png|thumb|400px|<b>図2.大脳新皮質の正常発生とリーリン、''dab1''変異マウス、''apoER2/vldlr'' ダブルノックアウトマウスの発生異常</b><br> (A) 発生期のマウス脳の模式図。下図は上図の点線部分で冠状断にした際の断面図。薄い赤色部分を拡大した図をBとCに示す。(B、C) 野生型(B)、または''reeler''、''yotari''、''scrambler''、''apoer2/vldlr''ダブルノックアウトマウス(C)の大脳新皮質の発生過程を示す。脳の表面は上方向、脳室側は下方向。数字は野生型マウスで配置される予定の層を示す。(B, i)野生型マウスで脳室帯(ventricular zone: VZ)に存在するラジアルグリア細胞(radial glia cell (RG)、 神経幹細胞)から誕生した神経細胞は、脳の表面方向に向かい移動する。CR:カハールレチウス(Cajal-Retzius)細胞。SP:サブプレート(subplate)神経細胞。PP:プレプレート(preplate)。(B, ii) 最初に誕生した将来6層になる神経細胞はサブプレート神経細胞を乗り越えて、辺縁帯 (MZ:marginal zone)の直下で樹状突起を形成して分化する。(B,iii) 遅生まれの神経細胞は次々に早生まれの神経細胞を追い越し、脳表層で分化を開始する。その結果、脳の深層側に早生まれの細胞、浅層側に遅生まれの細胞が配置される“インサイドアウト”形式で神経細胞が配置される。CP:皮質板(cortical plate)。(C, i,ii,iii) 一方、''reeler''、''yotari'', ''scrambler''マウス、及び ''apoer2/vldlr''ダブルノックアウトマウスでは脳室帯で誕生した神経細胞がサブプレート神経細胞を追い越すことが出来ずに脳の表面付近に異所性に配置される。後から誕生した神経細胞も移動障害により先行する神経細胞を追い越せずに配置され、全体的に見た場合、層構造が逆転した様な配置になる。また一部の神経細胞は樹状突起をインターナルプレキシフォームゾーン(IPZ:internal plexiform zone)と呼ばれる異常な構造に向けて展開する。SPP:スーパープレート(super plate)。]]  


 大脳新皮質の神経細胞は脳室帯で誕生後、脳の表面方向に放射状に移動し、最初期に誕生した神経細胞で形成される[[プレプレート]]と呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これを[[カハールレチウス]](Cajal-Retzius)細胞を含む辺縁帯とサブプレートと呼ばれる二つの層に分離する(プレプレートスプリッティング)(図2B, iからii)。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終分化を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早い神経細胞を追い越し、より脳の表層側に配置されるようになる(図2B, iii)。この細胞配置の仕組みは“インサイドアウト”様式と呼ばれ、哺乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な組織構築様式である。  
 大脳新皮質の神経細胞は脳室帯で誕生後、脳の表面方向に放射状に移動し、最初期に誕生した神経細胞で形成される[[プレプレート]]と呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これを[[カハールレチウス]](Cajal-Retzius)細胞を含む辺縁帯とサブプレートと呼ばれる二つの層に分離する(プレプレートスプリッティング)(図2B, iからii)。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終分化を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早い神経細胞を追い越し、より脳の表層側に配置されるようになる(図2B, iii)。この細胞配置の仕組みは“インサイドアウト”様式と呼ばれ、哺乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な組織構築様式である。  
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 では、''dab1''の欠損により、何が一次的に障害されているのか?、この問題を解明する為に、周囲の細胞が正常な環境下で、一部の神経細胞でのみDab1の機能を阻害し、''dab1''の欠損によりどのような移動障害が引き起こされるのかが詳細に観察された。大脳新皮質の神経細胞は誕生時期の違いにより、異なる移動過程を経ることが知られている<ref><pubmed>20182622</pubmed></ref>。早生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、もともと脳の表層にアンカリングしてあった突起を用いて細胞体を引き上げる、ソーマルトランスロケーション(somal translocation)と呼ばれる形式で移動する<ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。一方、遅生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、[[脳室下帯(subventricular zone:SVZ)]]の直上で[[多極性の形態(多極性細胞)]]をとり、突起を出したり縮めたりしながら多極性移動([[Multipolar migration]])と呼ばれる移動を行い、その後、紡錘形の形態にトランスフォームして脳表面にロコモーション(locomotion)と呼ばれる方式で移動する<ref><pubmed>14602813</pubmed></ref>。さらに、脳表面付近では神経細胞の進行方向に長く伸びた[[先導突起(leading process)]]と呼ばれる突起を辺縁帯(marginal zone)付近まで伸ばし、核を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる移動様式により移動を行う<ref><pubmed>11175874</pubmed></ref>。''in utero''エレクトロポレーションによって''dab1''のノックダウンが行われた結果、神経細胞は脳の表層近くまで移動するが、移動の最終過程であるターミナルトランスロケーションが障害されているこ</ref><ref name="dab1KD" /><ref name="sekine1"><pubmed>21697392</pubmed></ref><ref><pubmed>20720102</pubmed></ref>。さらに、Dab1依存的に神経細胞がターミナルトランスロケーションを行う部位は、発達した神経細胞のマーカーであるNeuNが陰性の原始皮質帯 (primitive cortical zone:PCZ) に相当する部分であることが示されている<ref name="sekine1" />。また、''dab1''のコンディショナルノックアウトマウスを用い、''in utero''エレクトロポレーションにより一部の細胞でdab1をノックアウトした実験では、早生まれの細胞ではソーマルトランスロケーションが阻害され、遅生まれの細胞ではターミナルトランスロケーションが阻害されていることが示された<ref name="ncad2" />。一方、これらの実験では樹状突起形成にも異常が生じる結果が報告されているが、ターミナルトランスロケーションも阻害されていることから、これらの実験での樹状突起形成の発達障害は二次的な影響との可能性も考えられる。しかしながら、海馬において生後3日に時期特異的に''dab1''をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name="matsuki" />、''dab1''ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name="Niu" />等から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆されている。  
 では、''dab1''の欠損により、何が一次的に障害されているのか?、この問題を解明する為に、周囲の細胞が正常な環境下で、一部の神経細胞でのみDab1の機能を阻害し、''dab1''の欠損によりどのような移動障害が引き起こされるのかが詳細に観察された。大脳新皮質の神経細胞は誕生時期の違いにより、異なる移動過程を経ることが知られている<ref><pubmed>20182622</pubmed></ref>。早生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、もともと脳の表層にアンカリングしてあった突起を用いて細胞体を引き上げる、ソーマルトランスロケーション(somal translocation)と呼ばれる形式で移動する<ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。一方、遅生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、[[脳室下帯(subventricular zone:SVZ)]]の直上で[[多極性の形態(多極性細胞)]]をとり、突起を出したり縮めたりしながら多極性移動([[Multipolar migration]])と呼ばれる移動を行い、その後、紡錘形の形態にトランスフォームして脳表面にロコモーション(locomotion)と呼ばれる方式で移動する<ref><pubmed>14602813</pubmed></ref>。さらに、脳表面付近では神経細胞の進行方向に長く伸びた[[先導突起(leading process)]]と呼ばれる突起を辺縁帯(marginal zone)付近まで伸ばし、核を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる移動様式により移動を行う<ref><pubmed>11175874</pubmed></ref>。''in utero''エレクトロポレーションによって''dab1''のノックダウンが行われた結果、神経細胞は脳の表層近くまで移動するが、移動の最終過程であるターミナルトランスロケーションが障害されているこ</ref><ref name="dab1KD" /><ref name="sekine1"><pubmed>21697392</pubmed></ref><ref><pubmed>20720102</pubmed></ref>。さらに、Dab1依存的に神経細胞がターミナルトランスロケーションを行う部位は、発達した神経細胞のマーカーであるNeuNが陰性の原始皮質帯 (primitive cortical zone:PCZ) に相当する部分であることが示されている<ref name="sekine1" />。また、''dab1''のコンディショナルノックアウトマウスを用い、''in utero''エレクトロポレーションにより一部の細胞でdab1をノックアウトした実験では、早生まれの細胞ではソーマルトランスロケーションが阻害され、遅生まれの細胞ではターミナルトランスロケーションが阻害されていることが示された<ref name="ncad2" />。一方、これらの実験では樹状突起形成にも異常が生じる結果が報告されているが、ターミナルトランスロケーションも阻害されていることから、これらの実験での樹状突起形成の発達障害は二次的な影響との可能性も考えられる。しかしながら、海馬において生後3日に時期特異的に''dab1''をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name="matsuki" />、''dab1''ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name="Niu" />等から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆されている。  


[[Image:Dab1 signaling pathway2.png|thumb|400px|<b>図3.大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b><br>主にCajal-Retzius細胞から分泌されたReelinは移動神経細胞に発現するApoER2やVLDLRに結合し、FynあるいはSrc等のSrcファミリーチロシンキナーゼの活性化により、Dab1をリン酸化する。リン酸化されたDab1にはPI3K, SOCS3, Nck<math>\beta</math>, Crkが結合する。Crkの下流でC3GがRap1をGDP結合型からGTP結合型に変換し、活性化されたRap1はIntegrin<math>\alpha</math>5<math>\beta</math>1の活性を制御すると考えられている(青線で示された経路)。一方、N-cadherinについては、他のGEFを介したRap1の活性化によって機能制御を受けている可能性が示唆されている(緑線の経路)。NotchとDab1の結合にDab1のリン酸化が必要かは明らかになっていない。]]  
[[Image:Dab1 signaling pathway2.png|thumb|400px|<b>図3.大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b><br>主にCajal-Retzius細胞から分泌されたリーリンは移動神経細胞に発現するApoER2やVLDLRに結合し、FynあるいはSrc等のSrcファミリーチロシンキナーゼの活性化により、Dab1をリン酸化する。リン酸化されたDab1にはPI3K, SOCS3, Nck<math>\beta</math>, Crkが結合する。Crkの下流でC3GがRap1をGDP結合型からGTP結合型に変換し、活性化されたRap1はIntegrin<math>\alpha</math>5<math>\beta</math>1の活性を制御すると考えられている(青線で示された経路)。一方、N-cadherinについては、他のGEFを介したRap1の活性化によって機能制御を受けている可能性が示唆されている(緑線の経路)。NotchとDab1の結合にDab1のリン酸化が必要かは明らかになっていない。]]  


 Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについてはチロシンリン酸化Dab1に結合する分子を中心に解析が進められて来ている。特に''crk''と''crkl''のダブルノックアウトマウス<ref name="crk" />と''c3g''のジーントラップ系統マウス<ref name="c3g" />でリーラーフェノタイプが観察されることから、その下流分子としてRap1が注目された。 Rap1はRasスーパーファミリーに属する低分子量Gタンパク質で、CadherinやIntegrinを介して細胞接着を制御する重要な分子であり、Reelinにより活性化されることが以前に報告されている<ref name="crk" />。最近の報告により、Reelin-Dab1シグナルはCrk-C3G-Rap1経路を介して、ロコモーションの過程ではN-cadhrinを制御し<ref name="ncad1" /><ref name="ncad2" />、ターミナルトランスロケーションの過程ではIntegrin <span class="texhtml">α</span>5<span class="texhtml">β</span>1を介して神経細胞の移動過程をコントロールしていること<ref name="sekine2" />が示唆されているが、N-cadherinについてはRap1ではなく他のGDP-GTP交換因子 (Guanine Nucleotide Exchange Factor, GEF)を介して機能制御している可能性が示唆されている<ref name="sekine2" />。Integrinを介した神経細胞移動に関しては、Integrin <span class="texhtml">α</span>3の関与も指摘されている<ref name="sanada" />。しかしながら、N-cadhelinを''dab1''ノックアウトマウスに導入するのみでは、神経細胞の移動がレスキューされないこと<ref name="ncad1" />、また、Integrin <span class="texhtml">β</span>1のノックアウトマウスやコンディショナルノックアウトマウスではリーラーフェノタイプにはならない<ref><pubmed>11516395</pubmed></ref><ref><pubmed>18077697</pubmed></ref>ことから、これらの働きは部分的である可能性が示唆されている。  
 Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについてはチロシンリン酸化Dab1に結合する分子を中心に解析が進められて来ている。特に''crk''と''crkl''のダブルノックアウトマウス<ref name="crk" />と''c3g''のジーントラップ系統マウス<ref name="c3g" />でリーラーフェノタイプが観察されることから、その下流分子としてRap1が注目された。 Rap1はRasスーパーファミリーに属する低分子量Gタンパク質で、CadherinやIntegrinを介して細胞接着を制御する重要な分子であり、リーリンにより活性化されることが以前に報告されている<ref name="crk" />。最近の報告により、リーリン-Dab1シグナルはCrk-C3G-Rap1経路を介して、ロコモーションの過程ではN-cadhrinを制御し<ref name="ncad1" /><ref name="ncad2" />、ターミナルトランスロケーションの過程ではIntegrin <span class="texhtml">α</span>5<span class="texhtml">β</span>1を介して神経細胞の移動過程をコントロールしていること<ref name="sekine2" />が示唆されているが、N-cadherinについてはRap1ではなく他のGDP-GTP交換因子 (Guanine Nucleotide Exchange Factor, GEF)を介して機能制御している可能性が示唆されている<ref name="sekine2" />。Integrinを介した神経細胞移動に関しては、Integrin <span class="texhtml">α</span>3の関与も指摘されている<ref name="sanada" />。しかしながら、N-cadhelinを''dab1''ノックアウトマウスに導入するのみでは、神経細胞の移動がレスキューされないこと<ref name="ncad1" />、また、Integrin <span class="texhtml">β</span>1のノックアウトマウスやコンディショナルノックアウトマウスではリーラーフェノタイプにはならない<ref><pubmed>11516395</pubmed></ref><ref><pubmed>18077697</pubmed></ref>ことから、これらの働きは部分的である可能性が示唆されている。  


 また、Dab1のチロシンリン酸化非依存的にDab1に結合する分子として、[[wikipedia:Notch proteins|Notch]]<ref name="notch"><pubmed>18957219</pubmed></ref>、[[wikipedia:DAB2IP|Dab2IP]]<ref><pubmed>12877983</pubmed></ref>、[[wikipedia:WASL (gene)|N-WASP]]<ref><pubmed>15361067</pubmed></ref>が知られている。特にNotchについては、その活性化型フォームを''reeler''に導入した場合に神経細胞の移動をほぼ完全にレスキューすることから、Reelin-Dab1シグナルにおいて何らかの重要な役割を果たしていることが考えられるが、その作用メカニズムは不明である<ref name="notch" />。  
 また、Dab1のチロシンリン酸化非依存的にDab1に結合する分子として、[[wikipedia:Notch proteins|Notch]]<ref name="notch"><pubmed>18957219</pubmed></ref>、[[wikipedia:DAB2IP|Dab2IP]]<ref><pubmed>12877983</pubmed></ref>、[[wikipedia:WASL (gene)|N-WASP]]<ref><pubmed>15361067</pubmed></ref>が知られている。特にNotchについては、その活性化型フォームを''reeler''に導入した場合に神経細胞の移動をほぼ完全にレスキューすることから、リーリン-Dab1シグナルにおいて何らかの重要な役割を果たしていることが考えられるが、その作用メカニズムは不明である<ref name="notch" />。  


 制約上、全ての関連論文を掲載出来なかったことをお詫び致します。
 制約上、全ての関連論文を掲載出来なかったことをお詫び致します。


== 関連語  ==
== 関連語  ==
*[[Reelin]]
*[[リーリン]]
*[[ApoER2]]
*[[ApoER2]]
*[[VLDLR]]  
*[[VLDLR]]  

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