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==発現== | ==発現== | ||
p75は発生期には中枢神経系において広範囲に発現しているが、成体では発現が減少する<ref name=ref102><pubmed>12671646</pubmed></ref>。成体マウスにおいて、p75は脊髄後根神経節 (dorsal root ganglia; DRG)や網膜の一部の細胞で発現しているが、大脳皮質や小脳における発現はほとんど検出されていない<ref><pubmed>15694321</pubmed></ref>。また、p75の発現は病態下で上昇することが知られている([[低親和性神経成長因子受容体#疾患との関連|疾患との関連]]参照)<ref name=ref102 /> <ref name= | p75は発生期には中枢神経系において広範囲に発現しているが、成体では発現が減少する<ref name=ref102><pubmed>12671646</pubmed></ref>。成体マウスにおいて、p75は脊髄後根神経節 (dorsal root ganglia; DRG)や網膜の一部の細胞で発現しているが、大脳皮質や小脳における発現はほとんど検出されていない<ref><pubmed>15694321</pubmed></ref>。また、p75の発現は病態下で上昇することが知られている([[低親和性神経成長因子受容体#疾患との関連|疾患との関連]]参照)<ref name=ref102 /> <ref name=ref15721744><pubmed> 15721744 </pubmed></ref>。 | ||
==神経系での機能 == | ==神経系での機能 == | ||
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細胞死誘導機構として、p75の下流でJNK/p53/[[Bax]]経路の活性化が報告されている。JNKの下流で、[[c-jun]]の[[リン酸化]]、p53、[[Bad]]、[[Bim]]の活性化、[[ミトコンドリア]]へのBaxの移行と[[チトクロームc]]の放出、[[カスパーゼ]]の活性化を介して神経細胞死が誘導される。さらに、JNKは[[Fasリガンド]] の発現を誘導し、[[Fas受容体]]の活性化を介して神経細胞死を誘導する。 | 細胞死誘導機構として、p75の下流でJNK/p53/[[Bax]]経路の活性化が報告されている。JNKの下流で、[[c-jun]]の[[リン酸化]]、p53、[[Bad]]、[[Bim]]の活性化、[[ミトコンドリア]]へのBaxの移行と[[チトクロームc]]の放出、[[カスパーゼ]]の活性化を介して神経細胞死が誘導される。さらに、JNKは[[Fasリガンド]] の発現を誘導し、[[Fas受容体]]の活性化を介して神経細胞死を誘導する。 | ||
p75自体は触媒活性を持たないが、様々な[[アダプタータンパク質]]と結合し、下流シグナルを活性化する。p75のアダプタータンパク質である[[neurotrophin receptor interacting factor]] ([[NRIF]])、[[neurotrophin associated cell death executor]] ([[NADE]])、[[neurotrophin receptor interacting melanoma-associated antigen homolog|neurotrophin receptor interacting melanoma-associated antigen (MAGE) homolog]] ([[NRAGE]])、[[TNF receptor associated factors]] ([[TRAFs]])は、単独で或いは協調して、JNK経路を活性化することで、p75依存性の細胞死を促進する。NRIFは組織全体に発現する[[zinc fingerタンパク質]]である。NRIF-/-マウスでは、網膜神経細胞におけるプログラム細胞死が抑制される。細胞死抑制の程度がp75-/-マウスやNGF-/-マウスと同程度であることから、p75がNRIFを介して細胞死を誘導することが推察される<ref name=ref103><pubmed>11750124</pubmed></ref> <ref name= | p75自体は触媒活性を持たないが、様々な[[アダプタータンパク質]]と結合し、下流シグナルを活性化する。p75のアダプタータンパク質である[[neurotrophin receptor interacting factor]] ([[NRIF]])、[[neurotrophin associated cell death executor]] ([[NADE]])、[[neurotrophin receptor interacting melanoma-associated antigen homolog|neurotrophin receptor interacting melanoma-associated antigen (MAGE) homolog]] ([[NRAGE]])、[[TNF receptor associated factors]] ([[TRAFs]])は、単独で或いは協調して、JNK経路を活性化することで、p75依存性の細胞死を促進する。NRIFは組織全体に発現する[[zinc fingerタンパク質]]である。NRIF-/-マウスでは、網膜神経細胞におけるプログラム細胞死が抑制される。細胞死抑制の程度がp75-/-マウスやNGF-/-マウスと同程度であることから、p75がNRIFを介して細胞死を誘導することが推察される<ref name=ref103><pubmed>11750124</pubmed></ref> <ref name=ref10545116><pubmed>10545116</pubmed></ref>。 | ||
また、p75の活性化は、[[E3ユビキチンリガーゼ]]である[[TRAF6]]によるNRIF 63の[[ユビキチン化]]を引き起こし、NRIFの核内移行を可能にする<ref><pubmed>16252010</pubmed></ref>。加えて、NRIFの核内移行には、[[γ-セクレターゼ]]によるp75 ICDの切断が必要である。NRIFとTRAF6の相互作用を抑制すると、NRIFの核内移行や、細胞死が抑制される。TRAF6やNRIFを欠損した交感神経細胞では、JNKの活性化が抑制される。NADEはNGF刺激によるp75の活性化を介したアポトーシスの誘導に関与する<ref name=ref105><pubmed>10764727</pubmed></ref>。内在性にp75を発現するPC12細胞やnnr5細胞において、NADEはNGF存在下でp75と結合し、細胞死を誘導する。BDNF、NT-3、NT-4/5刺激ではp75/NADEによる細胞死は誘導されない。NADEのみを強制発現しても細胞死は誘導されない。 | また、p75の活性化は、[[E3ユビキチンリガーゼ]]である[[TRAF6]]によるNRIF 63の[[ユビキチン化]]を引き起こし、NRIFの核内移行を可能にする<ref><pubmed>16252010</pubmed></ref>。加えて、NRIFの核内移行には、[[γ-セクレターゼ]]によるp75 ICDの切断が必要である。NRIFとTRAF6の相互作用を抑制すると、NRIFの核内移行や、細胞死が抑制される。TRAF6やNRIFを欠損した交感神経細胞では、JNKの活性化が抑制される。NADEはNGF刺激によるp75の活性化を介したアポトーシスの誘導に関与する<ref name=ref105><pubmed>10764727</pubmed></ref>。内在性にp75を発現するPC12細胞やnnr5細胞において、NADEはNGF存在下でp75と結合し、細胞死を誘導する。BDNF、NT-3、NT-4/5刺激ではp75/NADEによる細胞死は誘導されない。NADEのみを強制発現しても細胞死は誘導されない。 | ||
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低分子量Gタンパク質であるRhoファミリー分子も、p75の下流で細胞死の誘導に関与するという報告がある。PC12細胞や交感神経細胞では、[[Cdc42]]の活性化がJNKの活性化に必要である。オリゴデンドロサイトでは、Racの活性化がp75を介した細胞死に必要である。 | 低分子量Gタンパク質であるRhoファミリー分子も、p75の下流で細胞死の誘導に関与するという報告がある。PC12細胞や交感神経細胞では、[[Cdc42]]の活性化がJNKの活性化に必要である。オリゴデンドロサイトでは、Racの活性化がp75を介した細胞死に必要である。 | ||
JNK経路の活性化以外によっても、p75を介した細胞死が誘導される。内在性にp75を発現する交感神経細胞において、NGF除去により、p75の活性化を介した細胞死が誘導される <ref><pubmed> 9852160 </pubmed></ref> | JNK経路の活性化以外によっても、p75を介した細胞死が誘導される。内在性にp75を発現する交感神経細胞において、NGF除去により、p75の活性化を介した細胞死が誘導される <ref><pubmed> 9852160 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 10894779 </pubmed></ref>。この系では、p53ファミリーに属する[[p73]]が主要な役割を果たすと考えられている。発生期の神経細胞ではp73のtruncated isoform([[deltaN-p73]])が発現しているが、NGF除去により細胞死が誘導されるときには、その発現が減少していることが示された。NGF除去やp53強制発現により、細胞死が誘導されるが、このとき、deltaN-p73を発現させることで細胞死が抑制される。また、p73の全てのisoformを欠損したp73-/-マウスでは、発生期における交感神経の細胞死が有為に増加する。以上から、deltaN-p73が発生期におけるp75を介した細胞死を抑制することが示唆される。 | ||
=== 細胞生存 === | === 細胞生存 === | ||
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| '''膜貫通タンパク質'''<br>Trks||細胞死誘導/細胞生存||<ref name=ref102><pubmed>9927421</pubmed></ref> | | '''膜貫通タンパク質'''<br>Trks||細胞死誘導/細胞生存||<ref name=ref102><pubmed>9927421</pubmed></ref> | ||
|- | |- | ||
| '''アダプタータンパク質'''<br>NRIF<br>NADE<br>NRAGE/MAGE-D1<br>TRAFs||細胞死||<ref name=ref103><pubmed>11750124</pubmed></ref> <ref name= | | '''アダプタータンパク質'''<br>NRIF<br>NADE<br>NRAGE/MAGE-D1<br>TRAFs||細胞死||<ref name=ref103><pubmed>11750124</pubmed></ref> <ref name=ref10545116><pubmed>10545116</pubmed></ref> <ref name=ref105><pubmed>10764727</pubmed></ref> <ref name=ref106><pubmed>10985348</pubmed></ref> <ref name=ref107><pubmed>10514511</pubmed></ref> | ||
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| '''アダプタータンパク質'''<br>TRAFs<br>IRAK||細胞生存||<ref name=ref107 /> <ref name=ref108><pubmed>11487608</pubmed></ref> <ref name=ref109><pubmed>12034707</pubmed></ref> | | '''アダプタータンパク質'''<br>TRAFs<br>IRAK||細胞生存||<ref name=ref107 /> <ref name=ref108><pubmed>11487608</pubmed></ref> <ref name=ref109><pubmed>12034707</pubmed></ref> | ||
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== 疾患との関連 == | == 疾患との関連 == | ||
p75の発現は胎生期に限局しており、生後は発現が減少する。しかし、成体でも損傷や[[虚血]]、[[てんかん]]発作後などの病理的な条件下では発現が上昇する <ref name= | p75の発現は胎生期に限局しており、生後は発現が減少する。しかし、成体でも損傷や[[虚血]]、[[てんかん]]発作後などの病理的な条件下では発現が上昇する <ref name=ref15721744><pubmed> 15721744 </pubmed></ref>。 | ||
[[アルツハイマー病]]は[[タウ]]タンパク質の異常リン酸化や、amyloid beta (Aβ) の凝集を特徴とする疾患である。アルツハイマー病の大脳皮質神経細胞では、p75の発現が確認されている <ref><pubmed> 1309947 </pubmed></ref>。Aβ がp75と結合すると、JNK経路が活性化され、アポトーシスが誘導される。内在性にp75を発現している[[神経堤]]由来の[[wikipedia:ja:メラニン細胞|メラニン細胞]]は、Aβの存在下、アポトーシスを起こす。 | [[アルツハイマー病]]は[[タウ]]タンパク質の異常リン酸化や、amyloid beta (Aβ) の凝集を特徴とする疾患である。アルツハイマー病の大脳皮質神経細胞では、p75の発現が確認されている <ref><pubmed> 1309947 </pubmed></ref>。Aβ がp75と結合すると、JNK経路が活性化され、アポトーシスが誘導される。内在性にp75を発現している[[神経堤]]由来の[[wikipedia:ja:メラニン細胞|メラニン細胞]]は、Aβの存在下、アポトーシスを起こす。 |