「瞬目反射条件づけ」の版間の差分

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 60年代、[[wikipedia:Isidore Gormezano:|Isidore Gormezano]]によりウサギに対してこの連合学習が導入されて以降は、数多くの実験動物を用いた生理・心理学的研究が実施された<ref name=ref9><pubmed> 14168641 </pubmed></ref>。我が国においても、主にヒトを用いた瞬目反射条件づけの心理学的研究が盛んに行われていた時期がある<ref name=ref10>'''山田冨美雄'''<br>瞬目反射の先行刺激効果:その心理学的意義と応用<br>''多賀出版(東京)'':1993</ref>。1980年代後半になり、[[wikipedia:Ronald W. Skelton|Ronald W. Skelton]]によって、発達・加齢と学習との相関を調べる目的で、ラットに対して非拘束下での瞬目反射条件づけを可能とする手技が開発された('''図1''')<ref><pubmed> 3166733</pubmed></ref>。90年代に入ると、この方法論が[[ノックアウトマウス]]にそのまま適応され、瞬目反射条件づけの[[行動遺伝学]]が開始された<ref name=ref12><pubmed> 7954803 </pubmed></ref>。特に、小脳の[[シナプス可塑性]]である長期抑圧(Long-term depression; LTD)(後述)と[[瞬目反射条件づけ遅延課題]]との関係性が集中的に調べられることになる<ref name=ref12 />。こうした行動遺伝学的研究によって、[[代謝活性型グルタミン酸受容体1型]]([[mGluR1]])、[[PKCγ]]、[[GluRδ2]]、[[内在性カンナビノイド受容体CB1R]]など多くの分子が小脳LTDと瞬目反射条件づけ遅延課題の双方に必要であることが明らかとなり、前庭動眼反射と同様、瞬目反射条件づけにおいても、LTDが記憶形成の神経基盤であるとの「小脳LTD仮説(後述)」が90年代後半には説得力をもって醸成されていった。今世紀に入り、[[瞬目反射条件づけ痕跡課題]]も遺伝子改変マウスに適応され、[[海馬]]におけるシナプス可塑性との相関性が示唆されている<ref><pubmed> 11285019</pubmed></ref>。さらには、特定の時期かつ特定の神経細胞のみで機能を失活させたミュータントマウスに適用することにより、小脳や海馬における特定のシナプス回路が瞬目反射条件づけの記憶形成や保持に果たす役割も詳らかにされつつある<ref><pubmed> 12492436</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed> 17923666</pubmed></ref><ref name=ref16><pubmed> 16452679</pubmed></ref> 。
 60年代、[[wikipedia:Isidore Gormezano:|Isidore Gormezano]]によりウサギに対してこの連合学習が導入されて以降は、数多くの実験動物を用いた生理・心理学的研究が実施された<ref name=ref9><pubmed> 14168641 </pubmed></ref>。我が国においても、主にヒトを用いた瞬目反射条件づけの心理学的研究が盛んに行われていた時期がある<ref name=ref10>'''山田冨美雄'''<br>瞬目反射の先行刺激効果:その心理学的意義と応用<br>''多賀出版(東京)'':1993</ref>。1980年代後半になり、[[wikipedia:Ronald W. Skelton|Ronald W. Skelton]]によって、発達・加齢と学習との相関を調べる目的で、ラットに対して非拘束下での瞬目反射条件づけを可能とする手技が開発された('''図1''')<ref><pubmed> 3166733</pubmed></ref>。90年代に入ると、この方法論が[[ノックアウトマウス]]にそのまま適応され、瞬目反射条件づけの[[行動遺伝学]]が開始された<ref name=ref12><pubmed> 7954803 </pubmed></ref>。特に、小脳の[[シナプス可塑性]]である長期抑圧(Long-term depression; LTD)(後述)と[[瞬目反射条件づけ遅延課題]]との関係性が集中的に調べられることになる<ref name=ref12 />。こうした行動遺伝学的研究によって、[[代謝活性型グルタミン酸受容体1型]]([[mGluR1]])、[[PKCγ]]、[[GluRδ2]]、[[内在性カンナビノイド受容体CB1R]]など多くの分子が小脳LTDと瞬目反射条件づけ遅延課題の双方に必要であることが明らかとなり、前庭動眼反射と同様、瞬目反射条件づけにおいても、LTDが記憶形成の神経基盤であるとの「小脳LTD仮説(後述)」が90年代後半には説得力をもって醸成されていった。今世紀に入り、[[瞬目反射条件づけ痕跡課題]]も遺伝子改変マウスに適応され、[[海馬]]におけるシナプス可塑性との相関性が示唆されている<ref><pubmed> 11285019</pubmed></ref>。さらには、特定の時期かつ特定の神経細胞のみで機能を失活させたミュータントマウスに適用することにより、小脳や海馬における特定のシナプス回路が瞬目反射条件づけの記憶形成や保持に果たす役割も詳らかにされつつある<ref><pubmed> 12492436</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed> 17923666</pubmed></ref><ref name=ref16><pubmed> 16452679</pubmed></ref> 。


 [[マウス]]、[[ラット]]、[[モルモット]]、[[ネコ]]、[[サル]]、そしてヒトにいたるまで多様な[[ほ乳類]]種を実験動物種としてその学習メカニズムが研究されてきたことも本学習の特徴的な点である(歴史的に最も集中的に調べられてきた動物種はウサギである。また特殊な標本を利用して、[[カメ]]などの非ほ乳類での研究例も存在する) <ref>''' D S Woodruff-Pak, J E Steinmetz '''<br> Eyeblink Classical Conditioning, Volume 1: Applications in Human<br>'' Kluwer Academic Publishers(Boston)'':2000</ref><ref>''' D S Woodruff-Pak, J E Steinmetz '''<br> Eyeblink Classical Conditioning, Volume 2: Animal Models <br>'' Kluwer Academic Publishers(Boston)'':2000</ref><ref name=ref4><pubmed> 26068663 </pubmed></ref>。瞬目反射条件づけは、[[脊椎動物]]の記憶・学習系の中で、その責任神経回路がもっとも詳らかにされている行動パラダイムの一つである<ref name=ref6 />。また、実験動物とヒトの双方において、ほぼ同一の課題で学習能力を測定できる数少ない学習系としても独自性があり(例えば、[[げっ歯類]]で頻用される[[水迷路試験]]をそのままの課題でヒトに適用することは不可能である)、モデルマウスで得られた行動データを、ヒトを対象とした臨床的知見に照らし合わせて考察することも可能となる。また、パラダイムの使い分け(CSとUSの時間関係を変えること)により、小脳と海馬それぞれの機能を評価できることも本学習系がもつ優位性のひとつである。さらに、まばたき反射は仮に筋萎縮や麻痺といった四肢の障害がある場合でも、その出力が比較的最後まで保存されることから、例えば[[運動失調]]を持つモデル動物でも認知機能を評価しやすいと考えられる。
 [[マウス]]、[[ラット]]、[[モルモット]]、[[ネコ]]、[[サル]]、そしてヒトにいたるまで多様な[[ほ乳類]]種を実験動物種としてその学習メカニズムが研究されてきたことも本学習の特徴的な点である(歴史的に最も集中的に調べられてきた動物種はウサギである。また特殊な標本を利用して、[[カメ]]などの非ほ乳類での研究例も存在する) <ref>''' D S Woodruff-Pak, J E Steinmetz '''<br> Eyeblink Classical Conditioning, Volume 1: Applications in Human<br>'' Kluwer Academic Publishers(Boston)'':2000</ref><ref>''' D S Woodruff-Pak, J E Steinmetz '''<br> Eyeblink Classical Conditioning, Volume 2: Animal Models <br>'' Kluwer Academic Publishers(Boston)'':2000</ref><ref name=ref4><pubmed> 26068663 </pubmed></ref>。瞬目反射条件づけは、[[脊椎動物]]の記憶・学習系の中で、その責任神経回路がもっとも詳らかにされている行動パラダイムの一つである<ref name=ref6 />。また、実験動物とヒトの双方において、ほぼ同一の課題で学習能力を測定できる数少ない学習系としても独自性があり(例えば、[[げっ歯類]]で頻用される[[水迷路試験]]をそのままの課題でヒトに適用することは不可能である)、モデルマウスで得られた行動データを、ヒトを対象とした臨床的知見に照らし合わせて考察することも可能となる。また、パラダイムの使い分け(CSとUSの時間関係を変えること)により、小脳と海馬それぞれの機能を評価できることも本学習系がもつ優位性のひとつである。さらに、まばたき反射は仮に筋萎縮や麻痺といった四肢の障害がある場合でも、その出力が比較的最後まで保存されることから、例えば[[運動失調]]を持つ[[モデル動物]]でも認知機能を評価しやすいと考えられる。


 後述する遅延課題の場合、その学習の[[記憶痕跡]]の場が、主に[[小脳]]にあることから、とりわけ神経科学の分野で小脳依存性学習もしくは[[運動学習]]としてよく分類・記述される。小脳が記憶形成の場であるとの論拠は、主に実験動物の脳損傷実験と小脳疾患患者の臨床例よりもたらされた<ref name=ref5><pubmed> 6701513 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 8493536 </pubmed></ref>。また多くのニューラルネットワークモデルによっても瞬目反射条件づけの小脳理論が構築され、行動実験の結果との擦り合わせが図られている。
 後述する遅延課題の場合、その学習の[[記憶痕跡]]の場が、主に[[小脳]]にあることから、とりわけ神経科学の分野で小脳依存性学習もしくは[[運動学習]]としてよく分類・記述される。小脳が記憶形成の場であるとの論拠は、主に実験動物の脳損傷実験と小脳疾患患者の臨床例よりもたらされた<ref name=ref5><pubmed> 6701513 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 8493536 </pubmed></ref>。また多くのニューラルネットワークモデルによっても瞬目反射条件づけの小脳理論が構築され、行動実験の結果との擦り合わせが図られている。

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