「ウイルスベクター」の版間の差分

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 ITR間の[[Rep]]、[[Cap]]の2つの遺伝子を取り除き、そのスペースにプロモーターと目的の遺伝子を挿入したベクタープラスミドを作製する('''図2''')。Rep、Cap(ウイルス複製やカプシド形成に必要なタンパク質)は別のプラスミドで供給する。またアデノウイルスのヘルパー作用としてE1A、E1B、E2A、VA、E4遺伝子が必要となるが、このうちE1AとE1BはHEK293細胞(E1AとE1Bでトランスフォームしている)から、残りのE2A、E4、VAはヘルパープラスミドとして供給する。これら3つのプラスミドでHEK293細胞をトランスフェクションすると、Rep、Cap遺伝子はもたずITR間の外来遺伝子のみをもつウイルス粒子が産生される。粒子は核内に存在するため細胞を凍結融解し、[[wj:塩化セシウム|塩化セシウム]]を用いた密度勾配超遠心法を用いて精製する。
 ITR間の[[Rep]]、[[Cap]]の2つの遺伝子を取り除き、そのスペースにプロモーターと目的の遺伝子を挿入したベクタープラスミドを作製する('''図2''')。Rep、Cap(ウイルス複製やカプシド形成に必要なタンパク質)は別のプラスミドで供給する。またアデノウイルスのヘルパー作用としてE1A、E1B、E2A、VA、E4遺伝子が必要となるが、このうちE1AとE1BはHEK293細胞(E1AとE1Bでトランスフォームしている)から、残りのE2A、E4、VAはヘルパープラスミドとして供給する。これら3つのプラスミドでHEK293細胞をトランスフェクションすると、Rep、Cap遺伝子はもたずITR間の外来遺伝子のみをもつウイルス粒子が産生される。粒子は核内に存在するため細胞を凍結融解し、[[wj:塩化セシウム|塩化セシウム]]を用いた密度勾配超遠心法を用いて精製する。
=== 単純ヘルペスウイルスベクター ===
 単純ヘルペスウイルス(HSV)1型は宿主細胞に対する毒性が強く、病原性に関与するウイルス遺伝子の研究が進んでいることから、ウイルス療法(oncolytic virus therapy)として腫瘍の治療に用いられている。腫瘍治療用ウイルスは増殖型ウイルスであり腫瘍内で複製能を保持しているが、正常組織では病原性が最小限に抑えられるように遺伝子操作が加えられている。腫瘍細胞に感染したウイルスは細胞内で増殖し、感染細胞は死滅する。増殖したウイルスは周囲に散らばり、周囲の腫瘍細胞に感染、細胞死誘導を繰り返す。HSVは任意の遺伝子を搭載するベクターとして利用することも可能で、癌治療に効果のある外来遺伝子を発現させることで治療効果を増強することができる。
 非増殖型HSVベクターも開発されている。70以上あるHSV遺伝子の発現はカスケード状に制御されていることが知られているが、最初に発現する5つのα遺伝子のうちα4とα27遺伝子産物がウイルス増殖に必須である<ref><pubmed>10774195 </pubmed></ref>[20]。またウイルスゲノムが宿主細胞の核内に入るにはいくつかの最初期遺伝子の発現が不可欠である。α4、α22、α27遺伝子を欠損させたベクター(α4とα27遺伝子を発現する細胞でのみ増殖可能)や、核移行に必須な最初期遺伝子を欠損させた非増殖型HSVベクターが開発されている<ref name=Glorioso2009><pubmed>15487938 </pubmed></ref>[21, 22]<ref><pubmed>10023438 </pubmed></ref>。HSVは皮膚感染後に知覚神経終末から侵入し、逆行性軸索輸送を経て後根神経節に運ばれ潜伏する。潜伏中のHSVはLAT(Latency associated transcript)と呼ばれる転写物を恒常的に発現する。この性質を利用し、LATプロモーター制御下で侵害受容性神経伝達を修飾する分子を発現する非増殖型HSVベクターを後根神経節に持続感染させ、慢性痛を軽減させる遺伝子治療研究がなされている<ref name=Glorioso2009/>[21]。


==参考文献==
==参考文献==
<references/>
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